俺はこの小説が書かれている途中だと知っている

がみや

文字の大きさ
5 / 7
2章 物語を完成させるために

読者の席

しおりを挟む
作者である私は、物語を書くとき、いつも一つの光景を思い浮かべている。

 それは、読者がどこに座っているか、という光景だ。

 主人公の隣か。
 少し離れた場所か。
 それとも、私の背後か。

 物語は、誰かが座ることで成立する。
 空席のままでは、進まない。

 主人公は、まだ自分の内側にいる。

 思考は自分のもの。
 感情は自分のもの。
 選択も、自分のものだと信じている。

 それは当然だ。
 彼は、そう書かれてきた。

 だが、読者はもう違う場所に座っている。

 彼の沈黙を、
 「迷い」ではなく
 「演出」として見ている。

 ここに、取り返しのつかない断絶がある。

 主人公は、ある日ふと考える。

 > なぜ、
 > 何もしていない俺が
 > こんなに丁寧に描かれている?

 この問いは、正しい。

 行動していない人間は、
 普通、物語から外れる。

 だが彼は、外れない。

 むしろ、
 中心に留められている。

 理由は単純だ。

 彼の「何もしなさ」は、
 すでに意味を持っている。

 止まること。
 選ばないこと。
 語らないこと。

 それらすべてが、
 読者にとっては
 期待を裏切らない行為になっている

 私は、ここで少しだけ介入する。

 露骨な操作はしない。

 ただ、
 主人公に「視線」を感じさせる

 教室で。
 帰り道で。
 一人になった瞬間に。

 誰もいないはずなのに、
 何かが見ている。

 主人公は、その視線を
 悪意だとは思わない。

 むしろ、
 「理解されている」と感じてしまう。

 それが、致命的だった。

 理解と期待は、
 似ているが別物だ。

 理解は寄り添う。
 期待は消費する。

 読者は、
 主人公の味方ではない。

 敵でもない。

 ただ、
 結果を求めている。

 どうなるのか。
 どこまで行くのか。
 最後に、何を失うのか。

 主人公は、
 その視線を背負ったまま歩く。

 まだ、自分が主役だと
 疑っていない。

 だがすでに、
 読者の席は
 彼の隣にはない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

真面目な女性教師が眼鏡を掛けて誘惑してきた

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
仲良くしていた女性達が俺にだけ見せてくれた最も可愛い瞬間のほっこり実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...