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空白のステータス
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11月5日。
高校一年生の海外研修で、僕たち1年4組は成田空港に集まっていた。
「やっと海外だわ~」
「外国って可愛い子多いかな」
クラスのあちこちから浮ついた声が聞こえる。
輪の外に立ちながら、僕はスマホの画面を意味もなく眺めていた。
――僕の名前は、たけし。
自己紹介のときにうまく喋れなかったせいで、クラスでは「陰キャオタク」扱いだ。
自分ではそんなつもりはないのに、一度ついたレッテルは簡単には剥がれない。
「ねぇ、聞いてる?」
声をかけられて顔を上げると、同じ班の山崎さんが立っていた。
「海外研修先で行く予定だった博物館、急に入れなくなったらしいの。代わりに自由行動が増えるって」
少し間を置いて、彼女は続けた。
「……ねぇ、現地のアニメショップ、行ってみない?」
「……いいですね。行きたいです」
山崎さんは、このクラスで唯一、自然に会話できる相手だった。
最初の席が隣だっただけ。それだけの理由で、彼女は僕に話しかけ続けてくれた。
「搭乗手続き始まるみたい。行こう、たけしくん」
そう言われ、僕は重い腰を上げた。
どれくらい飛んでいただろう。
機内は静かで、眠気だけがじわじわと広がっていた。
「……集合早すぎだろ」
気付かないうちに、独り言が漏れていたらしい。
周囲の視線が一瞬だけ集まり、すぐに離れる。
その直後だった。
――ガタンッ!!
機体が大きく揺れ、天井から酸素マスクが一斉に落ちてきた。
悲鳴が重なり、機内は一気に地獄になる。
「ちょ、ちょっと何!?」
「嘘だろ……!」
胸が締めつけられる。
まだ、何も始まっていないのに。
(嫌だ……まだ死にたくない)
次の瞬間、衝撃が視界を白く塗り潰した。
……どれくらい経ったのか分からない。
目を開けると、機内は静まり返っていた。
身体が痛む。
だが、爆発した形跡はなく、機体は原形をとどめている。
「……ここ、どこだ?」
割れた窓の向こうを見て、言葉を失った。
見たこともないほど広大な草原と、石造りの道。
日本どころか、現代文明の匂いすらしない。
遠くから、人の集団がこちらへ向かってくる。
(救助……じゃないよな)
近づくにつれ、それは確信に変わった。
中世の甲冑。槍と剣。馬に乗った兵士たち。
先頭にいた男が馬を降り、こちらへ歩み寄る。
「――ようこそ、異界の若者たちよ」
重みのある声だった。
「私はヴェンデッタ・エラーレ。
この国――ブーチャ王国の王であり、元はお前たちと同じ“異世界の人間”だ」
ざわめきが起こる。
王は続けた。
「十年前、我が国は魔王軍により壊滅寸前まで追い込まれた。
この世界の力だけでは、もはや抗えぬ。
だからこそ――お前たちを召喚した」
クラスメイトの誰かが叫んだ。
「ふざけるな! 勝手に呼び出してどういうつもりだよ!」
「元の世界に帰せ!」
王は目を伏せ、静かに言った。
「帰還の方法は一つだけ。
魔王を討つことだ」
そして、こう付け加えた。
「代わりに、全員に一つずつ“能力”を与えてある」
指を下に払うと、半透明の板が空中に現れる。
ステータス――そう理解するのに時間はかからなかった。
「俺、ダメージ80%軽減だ!」
「私は回復能力……!」
歓声と安堵が混じる。
僕も指を下ろした。
……何も、表示されない。
「……あれ?」
何度試しても、空白のままだった。
その端に、一瞬だけ見慣れない文字が走った気がしたが、すぐに消えた。
「王様……能力が、表示されません」
王は少しだけ眉を寄せた。
「……そうか。
能力を持たぬ者も、稀に存在する」
空気が変わる。
「能力なき者は、魔王討伐の足手まといだ。
兵よ、彼らを城外へ案内せよ」
兵士たちが一歩前に出る。
「待ってください!」
思わず声を張り上げた。
「勝手に呼んでおいて、追い出すなんて……!」
王はしばらく僕を見つめ、やがて言った。
「……分かった。最低限、生きるための資金は渡そう」
手渡された袋は、ずしりと重かった。
能力なしは、僕を含めて数人。
そして――
「……山崎さん?」
彼女も、静かに首を振った。
その瞬間、僕ははっきり理解した。
――ここから先は、誰も助けてくれない。
高校一年生の海外研修で、僕たち1年4組は成田空港に集まっていた。
「やっと海外だわ~」
「外国って可愛い子多いかな」
クラスのあちこちから浮ついた声が聞こえる。
輪の外に立ちながら、僕はスマホの画面を意味もなく眺めていた。
――僕の名前は、たけし。
自己紹介のときにうまく喋れなかったせいで、クラスでは「陰キャオタク」扱いだ。
自分ではそんなつもりはないのに、一度ついたレッテルは簡単には剥がれない。
「ねぇ、聞いてる?」
声をかけられて顔を上げると、同じ班の山崎さんが立っていた。
「海外研修先で行く予定だった博物館、急に入れなくなったらしいの。代わりに自由行動が増えるって」
少し間を置いて、彼女は続けた。
「……ねぇ、現地のアニメショップ、行ってみない?」
「……いいですね。行きたいです」
山崎さんは、このクラスで唯一、自然に会話できる相手だった。
最初の席が隣だっただけ。それだけの理由で、彼女は僕に話しかけ続けてくれた。
「搭乗手続き始まるみたい。行こう、たけしくん」
そう言われ、僕は重い腰を上げた。
どれくらい飛んでいただろう。
機内は静かで、眠気だけがじわじわと広がっていた。
「……集合早すぎだろ」
気付かないうちに、独り言が漏れていたらしい。
周囲の視線が一瞬だけ集まり、すぐに離れる。
その直後だった。
――ガタンッ!!
機体が大きく揺れ、天井から酸素マスクが一斉に落ちてきた。
悲鳴が重なり、機内は一気に地獄になる。
「ちょ、ちょっと何!?」
「嘘だろ……!」
胸が締めつけられる。
まだ、何も始まっていないのに。
(嫌だ……まだ死にたくない)
次の瞬間、衝撃が視界を白く塗り潰した。
……どれくらい経ったのか分からない。
目を開けると、機内は静まり返っていた。
身体が痛む。
だが、爆発した形跡はなく、機体は原形をとどめている。
「……ここ、どこだ?」
割れた窓の向こうを見て、言葉を失った。
見たこともないほど広大な草原と、石造りの道。
日本どころか、現代文明の匂いすらしない。
遠くから、人の集団がこちらへ向かってくる。
(救助……じゃないよな)
近づくにつれ、それは確信に変わった。
中世の甲冑。槍と剣。馬に乗った兵士たち。
先頭にいた男が馬を降り、こちらへ歩み寄る。
「――ようこそ、異界の若者たちよ」
重みのある声だった。
「私はヴェンデッタ・エラーレ。
この国――ブーチャ王国の王であり、元はお前たちと同じ“異世界の人間”だ」
ざわめきが起こる。
王は続けた。
「十年前、我が国は魔王軍により壊滅寸前まで追い込まれた。
この世界の力だけでは、もはや抗えぬ。
だからこそ――お前たちを召喚した」
クラスメイトの誰かが叫んだ。
「ふざけるな! 勝手に呼び出してどういうつもりだよ!」
「元の世界に帰せ!」
王は目を伏せ、静かに言った。
「帰還の方法は一つだけ。
魔王を討つことだ」
そして、こう付け加えた。
「代わりに、全員に一つずつ“能力”を与えてある」
指を下に払うと、半透明の板が空中に現れる。
ステータス――そう理解するのに時間はかからなかった。
「俺、ダメージ80%軽減だ!」
「私は回復能力……!」
歓声と安堵が混じる。
僕も指を下ろした。
……何も、表示されない。
「……あれ?」
何度試しても、空白のままだった。
その端に、一瞬だけ見慣れない文字が走った気がしたが、すぐに消えた。
「王様……能力が、表示されません」
王は少しだけ眉を寄せた。
「……そうか。
能力を持たぬ者も、稀に存在する」
空気が変わる。
「能力なき者は、魔王討伐の足手まといだ。
兵よ、彼らを城外へ案内せよ」
兵士たちが一歩前に出る。
「待ってください!」
思わず声を張り上げた。
「勝手に呼んでおいて、追い出すなんて……!」
王はしばらく僕を見つめ、やがて言った。
「……分かった。最低限、生きるための資金は渡そう」
手渡された袋は、ずしりと重かった。
能力なしは、僕を含めて数人。
そして――
「……山崎さん?」
彼女も、静かに首を振った。
その瞬間、僕ははっきり理解した。
――ここから先は、誰も助けてくれない。
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