1 / 3
空白のステータス
しおりを挟む
11月5日。
高校一年生の海外研修で、僕たち1年4組は成田空港に集まっていた。
「やっと海外だわ~」
「外国って可愛い子多いかな」
クラスのあちこちから浮ついた声が聞こえる。
輪の外に立ちながら、僕はスマホの画面を意味もなく眺めていた。
――僕の名前は、たけし。
自己紹介のときにうまく喋れなかったせいで、クラスでは「陰キャオタク」扱いだ。
自分ではそんなつもりはないのに、一度ついたレッテルは簡単には剥がれない。
「ねぇ、聞いてる?」
声をかけられて顔を上げると、同じ班の山崎さんが立っていた。
「海外研修先で行く予定だった博物館、急に入れなくなったらしいの。代わりに自由行動が増えるって」
少し間を置いて、彼女は続けた。
「……ねぇ、現地のアニメショップ、行ってみない?」
「……いいですね。行きたいです」
山崎さんは、このクラスで唯一、自然に会話できる相手だった。
最初の席が隣だっただけ。それだけの理由で、彼女は僕に話しかけ続けてくれた。
「搭乗手続き始まるみたい。行こう、たけしくん」
そう言われ、僕は重い腰を上げた。
どれくらい飛んでいただろう。
機内は静かで、眠気だけがじわじわと広がっていた。
「……集合早すぎだろ」
気付かないうちに、独り言が漏れていたらしい。
周囲の視線が一瞬だけ集まり、すぐに離れる。
その直後だった。
――ガタンッ!!
機体が大きく揺れ、天井から酸素マスクが一斉に落ちてきた。
悲鳴が重なり、機内は一気に地獄になる。
「ちょ、ちょっと何!?」
「嘘だろ……!」
胸が締めつけられる。
まだ、何も始まっていないのに。
(嫌だ……まだ死にたくない)
次の瞬間、衝撃が視界を白く塗り潰した。
……どれくらい経ったのか分からない。
目を開けると、機内は静まり返っていた。
身体が痛む。
だが、爆発した形跡はなく、機体は原形をとどめている。
「……ここ、どこだ?」
割れた窓の向こうを見て、言葉を失った。
見たこともないほど広大な草原と、石造りの道。
日本どころか、現代文明の匂いすらしない。
遠くから、人の集団がこちらへ向かってくる。
(救助……じゃないよな)
近づくにつれ、それは確信に変わった。
中世の甲冑。槍と剣。馬に乗った兵士たち。
先頭にいた男が馬を降り、こちらへ歩み寄る。
「――ようこそ、異界の若者たちよ」
重みのある声だった。
「私はヴェンデッタ・エラーレ。
この国――ブーチャ王国の王であり、元はお前たちと同じ“異世界の人間”だ」
ざわめきが起こる。
王は続けた。
「十年前、我が国は魔王軍により壊滅寸前まで追い込まれた。
この世界の力だけでは、もはや抗えぬ。
だからこそ――お前たちを召喚した」
クラスメイトの誰かが叫んだ。
「ふざけるな! 勝手に呼び出してどういうつもりだよ!」
「元の世界に帰せ!」
王は目を伏せ、静かに言った。
「帰還の方法は一つだけ。
魔王を討つことだ」
そして、こう付け加えた。
「代わりに、全員に一つずつ“能力”を与えてある」
指を下に払うと、半透明の板が空中に現れる。
ステータス――そう理解するのに時間はかからなかった。
「俺、ダメージ80%軽減だ!」
「私は回復能力……!」
歓声と安堵が混じる。
僕も指を下ろした。
……何も、表示されない。
「……あれ?」
何度試しても、空白のままだった。
その端に、一瞬だけ見慣れない文字が走った気がしたが、すぐに消えた。
「王様……能力が、表示されません」
王は少しだけ眉を寄せた。
「……そうか。
能力を持たぬ者も、稀に存在する」
空気が変わる。
「能力なき者は、魔王討伐の足手まといだ。
兵よ、彼らを城外へ案内せよ」
兵士たちが一歩前に出る。
「待ってください!」
思わず声を張り上げた。
「勝手に呼んでおいて、追い出すなんて……!」
王はしばらく僕を見つめ、やがて言った。
「……分かった。最低限、生きるための資金は渡そう」
手渡された袋は、ずしりと重かった。
能力なしは、僕を含めて数人。
そして――
「……山崎さん?」
彼女も、静かに首を振った。
その瞬間、僕ははっきり理解した。
――ここから先は、誰も助けてくれない。
高校一年生の海外研修で、僕たち1年4組は成田空港に集まっていた。
「やっと海外だわ~」
「外国って可愛い子多いかな」
クラスのあちこちから浮ついた声が聞こえる。
輪の外に立ちながら、僕はスマホの画面を意味もなく眺めていた。
――僕の名前は、たけし。
自己紹介のときにうまく喋れなかったせいで、クラスでは「陰キャオタク」扱いだ。
自分ではそんなつもりはないのに、一度ついたレッテルは簡単には剥がれない。
「ねぇ、聞いてる?」
声をかけられて顔を上げると、同じ班の山崎さんが立っていた。
「海外研修先で行く予定だった博物館、急に入れなくなったらしいの。代わりに自由行動が増えるって」
少し間を置いて、彼女は続けた。
「……ねぇ、現地のアニメショップ、行ってみない?」
「……いいですね。行きたいです」
山崎さんは、このクラスで唯一、自然に会話できる相手だった。
最初の席が隣だっただけ。それだけの理由で、彼女は僕に話しかけ続けてくれた。
「搭乗手続き始まるみたい。行こう、たけしくん」
そう言われ、僕は重い腰を上げた。
どれくらい飛んでいただろう。
機内は静かで、眠気だけがじわじわと広がっていた。
「……集合早すぎだろ」
気付かないうちに、独り言が漏れていたらしい。
周囲の視線が一瞬だけ集まり、すぐに離れる。
その直後だった。
――ガタンッ!!
機体が大きく揺れ、天井から酸素マスクが一斉に落ちてきた。
悲鳴が重なり、機内は一気に地獄になる。
「ちょ、ちょっと何!?」
「嘘だろ……!」
胸が締めつけられる。
まだ、何も始まっていないのに。
(嫌だ……まだ死にたくない)
次の瞬間、衝撃が視界を白く塗り潰した。
……どれくらい経ったのか分からない。
目を開けると、機内は静まり返っていた。
身体が痛む。
だが、爆発した形跡はなく、機体は原形をとどめている。
「……ここ、どこだ?」
割れた窓の向こうを見て、言葉を失った。
見たこともないほど広大な草原と、石造りの道。
日本どころか、現代文明の匂いすらしない。
遠くから、人の集団がこちらへ向かってくる。
(救助……じゃないよな)
近づくにつれ、それは確信に変わった。
中世の甲冑。槍と剣。馬に乗った兵士たち。
先頭にいた男が馬を降り、こちらへ歩み寄る。
「――ようこそ、異界の若者たちよ」
重みのある声だった。
「私はヴェンデッタ・エラーレ。
この国――ブーチャ王国の王であり、元はお前たちと同じ“異世界の人間”だ」
ざわめきが起こる。
王は続けた。
「十年前、我が国は魔王軍により壊滅寸前まで追い込まれた。
この世界の力だけでは、もはや抗えぬ。
だからこそ――お前たちを召喚した」
クラスメイトの誰かが叫んだ。
「ふざけるな! 勝手に呼び出してどういうつもりだよ!」
「元の世界に帰せ!」
王は目を伏せ、静かに言った。
「帰還の方法は一つだけ。
魔王を討つことだ」
そして、こう付け加えた。
「代わりに、全員に一つずつ“能力”を与えてある」
指を下に払うと、半透明の板が空中に現れる。
ステータス――そう理解するのに時間はかからなかった。
「俺、ダメージ80%軽減だ!」
「私は回復能力……!」
歓声と安堵が混じる。
僕も指を下ろした。
……何も、表示されない。
「……あれ?」
何度試しても、空白のままだった。
その端に、一瞬だけ見慣れない文字が走った気がしたが、すぐに消えた。
「王様……能力が、表示されません」
王は少しだけ眉を寄せた。
「……そうか。
能力を持たぬ者も、稀に存在する」
空気が変わる。
「能力なき者は、魔王討伐の足手まといだ。
兵よ、彼らを城外へ案内せよ」
兵士たちが一歩前に出る。
「待ってください!」
思わず声を張り上げた。
「勝手に呼んでおいて、追い出すなんて……!」
王はしばらく僕を見つめ、やがて言った。
「……分かった。最低限、生きるための資金は渡そう」
手渡された袋は、ずしりと重かった。
能力なしは、僕を含めて数人。
そして――
「……山崎さん?」
彼女も、静かに首を振った。
その瞬間、僕ははっきり理解した。
――ここから先は、誰も助けてくれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる