異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします

ねこねこ大好き

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3巻

3-1

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 第一章 平和で最強な魔界


 俺――新庄麗夜しんじょうれいやが魔界に来てから一月ひとつきが経った。
 今日も魔王城の大食堂で、スライムの少女ティアを含め、約六百人の魔王とその部下五千人と一緒に、朝ごはんを食べる。

「いただきます」

 東京ドーム五個分の広さを持つ大食堂も、皆が口をそろえて手を合わせれば揺れ動く。
 すさまじいスケールだ。圧倒的としか言えない。
 背もたれがある質素な椅子の上で、いとしいティアが作ってくれた朝ごはんの香りをぐ。
 白いごはん、カボチャの煮つけ、川魚の塩焼き、納豆、豆腐の味噌汁、なすと白菜の漬物が並んでいる。
 手始めに、味噌汁のお椀を持つ。亜人の国から輸入した、木彫りに漆を塗った代物しろもので、実に日本的だ。
 はしも木彫りでおそろいだ。亜人の国の、エルフ王家の紋章である、麦の模様が刻まれている。

「良いね」

 手に馴染なじむ。これを作った職人は手先が器用だ。

「嬉しそうだね」

 左隣に居るティアが箸を止めた。ティアの食器も俺とおそろいだ。

「生成チートで作った食器よりもずっと良い」

 軽くて持ちやすいし、すべらない。実用性も十分だ。

「亜人の国からプレゼントしてもらって、良かったね」
「実に良いものだ。ラルク王子は俺のことを分かってる」

 あまりにも綺麗だから、三日間、使うべきか飾っておくべきか迷ったけど、使って正解だった。

「麗夜が食器に夢中なんて珍しいね」

 ティアはもぐもぐと咀嚼そしゃくしながら言う。

「これを見ると目が休まるからな。ラルク王子、ありがとう」

 魔王城の壁、床、天井は、臓物をぶちまけたかのように赤黒く光っていて、正直目が痛い。
 初代魔王ゼラの趣味らしいが、悪趣味としか言えなかった。
 一月も居たらさすがに慣れてきたけど、それでも禍々まがまがしいことに変わりない。
 それを愚痴ぐちったら、すぐに家具や食器をプレゼントしてくれた。

「確かに優しい感じがするね」

 ティアは木造りのテーブル、椅子、羊の毛で作った絨毯じゅうたんに目を移す。

「今まで生成チートで作ったパイプ椅子とか使ってたけど、あれより全然いいな」
「ご機嫌だね」

 クスクスとティアが微笑むので、俺は少し恥ずかしくなった。

「食器も良いけど、ごはん冷めちゃうよ」
「分かってるさ」

 食器の批評は終わり。味噌汁をすする。

「うまい」

 出汁と味噌のほどよいしおからさ。ごはんによく合う。漬物の漬かり具合も良し。
 カボチャの煮つけは甘くて美味おいしい。川魚は身が締まっていて、納豆はしっかりねばねばしてる。
 理想の朝ごはんだ。

「ただでさえ美味しいのに、さらに美味しくなった」
「えへへへ」

 ティアははにかみながら、改めてお椀の模様を見た。

「うん! ティアもこれ好きになった」

 そしてさっきの一口よりも、多めにごはんを口に入れる。

「とっても美味しい」

 ティアは自分で作った朝ごはんに満足げにうなずいた。

「また腕を上げたな」
「にへへ。食器のせいかな?」
「食器はおまけ。確実に腕が上がってる」
「うへへ! やった」

 ティアはテレテレと頬を赤くして、カボチャの煮つけを箸でつまむ。

「麗夜、あーん」

 そして、ニコニコとそれを差し出してきた。

「あーん」

 気恥ずかしいけど、断ると悪いので食べる。
 口の中で、カボチャがホロホロと崩れた。自分で食べるより、美味しく感じるから不思議だ。

「お返し」

 俺もカボチャの煮つけを箸でつまんで、ティアに差し出す。

「ありがと」

 ティアがぱくりと食べて、ハムハムと口を動かした。

「へへへ。美味しい」

 そして、お返しにと、今度は川魚の塩焼きの身をほぐす。

「あーん」

 食べさせっこの始まり。一度始めたら、食べ終わるまで止まらない。
 行儀が悪いけど、楽しいからやめられない。

「うまうま」

 俺とティアが食べさせっこしている間に、右隣に座る銀狼の少女ハクちゃんは、元気にオムライスとハンバーグのお子様ランチを食べていた。
 このお子様ランチは、ハクちゃん専用の特別製だ。お母さんのギンちゃんが、わざわざハクちゃんのために作ったのだ。

「あぐあぐ」

 オムライスとハンバーグを口いっぱいに頬張ほおばる。口元がケチャップやソースで汚れてもお構いなしだ。
 夢中で食べるので、ガチャガチャと銀のスプーンと陶器の皿がぶつかり合う。

「美味しい?」

 幸せそうな笑顔に、俺は微笑みかける。

「うん!」

 桃のシャーベットをリンゴジュースで流し込みながら、ハクちゃんが慌ただしく頷いた。
 ラルク王子がくれた、ハクちゃん用の綺麗な刺繍ししゅう入りの前掛けが、ジュースとソースでベタベタになっている。

「ふふふ」

 ティアが、そんなハクちゃんを見て笑った。

「ハク、もうちょっと行儀よく食べろ」

 お母さんのギンちゃんは、ちょっと離れたティアの隣から、ため息交じりに注意する。

「分かってる分かってる」

 ハクちゃんは生返事だ。そして、ごはん粒を頬っぺたにくっつけたまま言う。

「おかわり!」

 ギンちゃんはそれを聞くと、ホカホカの鶏肉ゴロゴロシチューをすくう手を止めた。

まったく、仕方のない娘じゃ」

 ギンちゃんは元気いっぱいな娘のしつけに悩みながら、大食堂の奥にある厨房へ向かった。

「麗夜、あーん」
「あーん」

 マイペースにティアと食べさせっこをしながら、一緒に食べる魔王たちを見渡す俺。
 不死鳥の魔王朱雀すざく、リスの魔王ケイブル、吸血鬼の魔王カーミラ、バジリスクの魔王メデューサ、ゾンビの魔王マリアちゃん、オークの魔王ガイなど、魔軍まぐん所属の魔王がズラリと座っている。
 彼らは魔軍の最高司令官や最高幹部だ。
 魔軍を動かすには、彼らとのコミュニケーションが必須なので、仲良くなるため近くに座るようお願いしている。
 狙いは成功、みんな最初は緊張していたが、今ではリラックスして、美味しそうに食事をしてくれる。

「ガハハハ!」

 魔軍の切り込み隊長であるガイが楽しそうに、小樽のような鉄製の大ジョッキを掲げ、五度目の乾杯をした。
 魔王の中でも巨漢のガイは、ウィスキー並みに度数の高い酒をガブガブ飲みながら、皿いっぱいの骨付き肉を、生で骨ごと食べている。
 この酒も、亜人の国から輸入したものだ。
 度数が高すぎて、俺もティアもギンちゃんも飲めなかった。
 ガイが興味津々だったため試しにあげてみたら、とても気に入ってくれたのだ。

「ガハハハ」

 ガイは笑い上戸じょうごなのか、笑いながらジョッキで酒を一気飲みする。
 鎧ネズミの胸当てにボロボロのズボン、背中に大斧を背負っているから山賊みたいだ。
 もうちょっとちゃんとした服を着て欲しいけど、戦いが本能の彼にとって、小綺麗な服装は動きづらいらしい。
 ある意味、あの荒々しい姿こそ彼の正装だ。

「ガハハハ!」

 ガイの笑い声は大食堂に良く響く。うるさいが、皆を笑顔にする力があるので注意はしない。
 ハクちゃんがガイを真似して、ジュースを一気飲みした。

「ふむ。良い」

 魔軍副司令官のカーミラが静かに微笑む。
 彼女は黒くて軽い、血を魔力でこねた鎧をまとっている。赤い髪がサラサラと輝き、見た目通り礼儀正しく、物静かな女騎士。
 魔王の中でも美人なカーミラは、トマトと酒を混ぜたカクテルにご満悦。カクテルグラスも似合っていて、実に絵になる。おつまみは鳥や豚の血で作ったゼリーだ。
 丁寧ていねいにスプーンで掬い、小さく口を開けて食べる。そしてスッと喉にカクテルを通していた。
 本当に上品だ。

「ああ……こんなに美味しい果物を、好きなだけ食べられるなんて」

 魔軍最高司令官のケイブルは、たくさんの果物に感激していた。
 彼はトナカイのようなつのを持ち、腕や脚には、茶色のふさふさした毛が生えている。
 顔はリスをいかつくした感じで、ドラゴンにちょっと似ている。
 上半身に分厚い鉄鎧をつけていて下半身は裸。まるでゴリラとドラゴンのキメラのようだ。
 以前、俺は魔王たちに、人と同じ姿になるようにお願いした。
 魔王たちは了承し、人型となった。
 ある者の肌はへびのようなうろこ、ある者の肌はゾンビのように血色が悪い。変身しても種族の特徴が残るためだ。
 しかしケイブルは変身するのが苦手だった。だから彼は現在、魔王の中で唯一、人とはかけ離れた姿をしている。

「美味しい」

 そんな恐ろしい姿をした魔王が、桃やクルミ、リンゴに感動しているのだから微笑ましかった。
 ひまわりやリンゴなどのたねを、一粒ずつ爪先つまさきでつまんで食べているから、リスのように可愛らしくて仕方ない。
 おまけに笑うと目元が優しくなる。そう、性格は穏やかで優しいのだ。

「うふふふ」

 メデューサは生肉のかたまりを丸みしながら、日本酒を楽しんでいる。チロチロと蛇の舌が踊るように赤い唇からはみ出した。
 蛇だけに蟒蛇うわばみなのか、まだ朝なのに三樽も飲んでいる。
 そして、彼女はなぜ下着もつけずに、ローブを羽織っただけの姿で動き回るのだろう。チラチラと太ももや胸元が見えるから、こっちが恥ずかしくなる。
 魔王には羞恥心しゅうちしんが無いので、仕方ないのかもしれない。

「甘い」

 マリアちゃんは、ケーキをバクバク食べていた。これ、なんと彼女の手作りなのだ。
 亜人の国からもらったお菓子が美味しかったようで、自分で作ってみたいと言い出した。
 初めは不味まずかったがすぐに上達、今では俺やティアよりもお菓子作りが上手い。
 元人間だからか、マリアちゃんは手先が器用だ。よくハクちゃんに、手作りのお菓子を作ってあげている。
 レパートリーは広く、ケーキ、パイ、シュークリーム、饅頭まんじゅうなど色々作れる。味も、チーズ味だったりチョコ味だったりバナナ味だったり。
 そんな彼女はハクちゃんとおそろいの子供用ドレスを着ていた。

「マリアちゃん、私にも頂戴ちょうだい

 おかわりが来るまで退屈だったらしい。ハクちゃんがトトトッと、マリアちゃんの元まで走る。

「良いよ。その代わりなんか頂戴」

 マリアちゃんは苺のショートケーキを差し出して笑った。

「何が欲しいの?」

 ハクちゃんは内容を聞く前に、ケーキに口を付ける。なんというか子供らしい。

「じゃあ遊んで!」
「うん、じゃあ駆けっこしよ!」

 そうしてマリアちゃんとハクちゃんは、唐突に大食堂を飛び出していった。

「ご馳走ちそう様くらい言って欲しかったな」
「二人とも、後でギンちゃんに怒られるね」

 ティアと二人で、しかられるハクちゃんたちを想像して笑った。
 ふと、左手の長テーブルにいる、ドラゴン騎士団とワイバーン騎士団が目に入った。

「うん、うまい」

 ドラゴン騎士団隊長のダイ君は、ワイバーン騎士団隊長のキイちゃんが作ったクリームシチューを、白いパンに絡めて食べていた。
 こちらまで良い香りが漂ってくる。本当に美味しそうだ。

「ティア様に教えていただいたから、当然よ」

 キイちゃんは穏やかに口元を緩ませた。
 最近は魔軍にかかりっきりだけど、あの様子だと、楽しくやっているようで安心した。

「平和だな」

 朱雀が俺を見て微笑む。

「良いことだ」

 このまままったり暮らしたい。

「ハクの奴、どこに行った……?」

 おかわりを持ってきたギンちゃんが低い声でうなった。
 ハクちゃん親子は平和じゃなさそうだ。


「ご馳走様でした」

 朝ごはんをゆっくり楽しく食べて、二時間後、俺たちは手を合わせた。

「皆、食器はちゃんと厨房に持って行ってね」

 ティアが言うと、魔王たちは慌てず騒がず、食器を落とさないよう両手で持って、厨房まで行列を作る。
 一月前は慣れなかったためか、行列の周りで右往左往したり、早く進めと声を荒らげたり、食器を落としたりと大変だった。今は苦も無く片付けができている。
 それに以前は、食べ終わっても口や手をかなかったため、肉汁や血、果物の果汁などで口や手がベタベタだった。
 おかげで食器はもちろん、服やテーブルも汚れた。
 それが今では、しっかりとナプキンで拭いている。
 少しずつマナーが身につき、協調性や秩序ちつじょ、ルールを守る習慣も芽生えていた。

「良くなってきたね」

 ぼそぼそっとティアが耳元で言い、微笑んだ。

「おかげで、皆も仲良くなってる気がするよ」

 意識改革が上手くいっているのだろう。
 魔軍は好戦的な魔王の集まりで、非常にが強い。だから協調性が無かった。それが少しずつ改善されていると感じる。
 そんなことを思っていると、食器を戻し終わったガイが、ゴキゴキと首を鳴らしながらやって来た。

「終わった終わった!」

 乱暴に座ると丸椅子がギシギシきしむ。そして退屈だと言うように、大あくびをかました。
 マナーが悪い。椅子に座る時はそっと。巨体なんだから丁寧に扱わないと壊れてしまう。
 それに、堂々と大あくびするのもいただけない。

「まだまだ時間かかるね」

 隣でティアがあきれた声を出した。

「全くだ」

 俺は作り笑いで返すしかなかった。しかし、ここでがみがみ叱るのはダメだ。
 彼らは食事のマナーを習っているが、日常生活においてのマナーはまだ知らない。
 それなのに怒れば、彼らは何がなんだか分からず怖がってしまう。
 俺は恐怖で支配したいんじゃない。あくまでも仲良くしたいだけだ。
 今回は見なかったことにしよう。注意するのは、日常生活のマナーを教えてからでいい。
 あせる必要はない。少しずつ、一歩ずつ歩み寄る。
 それが俺流の接し方だ。

窮屈きゅうくつだった?」

 俺は笑顔でガイに話しかける。

「いやはや、椅子に座って服を汚さずに食うってのは、やっぱり慣れねえですね」

 ガイはやはり疲れたように、頬杖をついて足を組んだ。

「ババッて口に放り込みたいんだけどね。まどろっこしくてイライラしちゃうわ」

 メデューサもガイの隣に来て、テーブルの上に座った。
 さすがにテーブルの上に座るのは、はしたない。叱るべきか?

「ふむ。難しい」

 ティアも俺と同じことを思ったのか、テーブルに両肘をついて、頬杖をつく。

「俺たちもマナー悪いな」
「およ?」

 ティアは頬っぺたから手を離して、自分の体勢を確認した。

「マナーは難しい」

 ティアの仰々ぎょうぎょうしい顔が面白かった。
 まぁ、今はメデューサとガイには何も言わないでおこう。
 皆の様子を見る。
 他の魔王たちも食器を戻し終わると、ガイと同じように安堵あんどした顔をしていた。
 ガイと同じ考えの者が多いようだ。
 意識改革とは、今までの習慣を矯正きょうせいするということだ。想像以上のストレスだろう。
 ガイとメデューサの態度はそれがあらわになっただけ。

「無理させてごめんよ」

 この矯正は、強制に近い。そう思うと心苦しい。
 何せ俺自身、強制されるのが大っ嫌いだから! 誰が言うことなんて聞くか、と思ってしまう。

「そんな! 麗夜様が謝るなんて!」

 ガイが血相変えて、あたふたし始めた。メデューサもオロオロする。

「そうそう! 麗夜ちゃんには麗夜ちゃんの考えがあるんでしょ! 気にしないで」
「俺たちはバカばっかりですから! 無理した方が頭が良くなるってもんで!」

 他の魔王も大混乱になってしまった。

「お前たち! 麗夜様に口答えするとは何事だ!」

 騒ぎを聞きつけてやって来たカーミラは、顔を真っ赤にしてカンカンだ。

「麗夜様! 怒らないでください! 泣かないでください! 麗夜様は一ミリも悪くないんですから!」

 気の小さいケイブルなんて、全く悪くないのに土下座していた。
 皆の困惑する姿に、俺の方が困惑してしまう。

「落ち着いて。俺は怒ってない。むしろ皆に感謝してるくらいだ」

 世間話くらいの気持ちで謝ったのに、こんなに大騒ぎになるなんて思わなかった。

「感謝されたわ!」
「俺たちすごいな」
「むしろ麗夜様が凄い」

 良く分からない感動が広がっていく。

「麗夜様……なんとお優しい」

 カーミラは涙を流していた。初対面では冷たい印象だったけど、実のところとても感情が豊かだ。

「ありがとうございます!」

 ケイブルはペコペコお辞儀じぎしている。
 君って本当に、お辞儀と土下座が好きだね。魔王の中で一番忙しいんじゃないか?

「はは……まぁ、良いか」

 思わず、俺の口から苦笑がれた。
 この騒がしさは楽しい。魔王は個性的でが強い。直情的で短絡的だ。
 でも、だからこそ、子供のように素直だ。
 それがなんだか嬉しい。


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