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落とし穴
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「新入り! 遅いぞ!」
「す、すいません!」
重い荷物を持って、迷宮の階段をよたよた下る。足元が暗くて滑らせないか不安になる。だがここで滑らせると、先行する先輩たちにぶつかって迷惑になる。だから必死に、一歩一歩確実に、足元を確認しながら進む。
「冒険者を舐めていた」
冒険者ギルドに所属してわずか一日、それなのに何度呟いただろうか。目に入る汗を拭いながら、自分の甘さに唇を噛む。
迷宮に入ったのは、金のためだ。お宝を見つければ遊んで暮らせる。山暮らしの自分はそう楽観していた。
しかし迷宮に入るには、冒険者ギルドに所属しなければならなかった。
最初は渋った。規律は堅苦しいし、何より儲けが減る。見つけた宝は俺の物だ! そう意気込んでいたが、迷宮の噂を聞いていくうちに不安になった。
迷宮には、化け物が居る。イノシシのようなネズミが居る。罠がある。
山よりもずっと危険な場所かもしれない。
そんな臆病風に吹かれて、俺は冒険者ギルドに入った。
そして迷宮に入って分かった。
「冒険者を舐めていた!」
そこには確かに、イノシシのように大きく、オオカミよりも素早いネズミが居た。そいつは獰猛で、俺の足を食いちぎりやがった!
幸い、先輩冒険者のおかげでネズミは倒された。また食いちぎられた傷も、先輩冒険者の治癒魔法と治療薬で綺麗に治った。
「洗礼を受けたな。これでお前は立派な見習いだ!」
俺は大笑いしながら肩を叩く先輩に苦笑いを返すしかなかった。
「休憩だ!」
リーダーの声で前進が止まる。
「ようやく休める」
荷物を地面に下ろすと腰まで落ちる。立つのさえ辛い。
「疲れたか?」
リーダーが笑いながら傍に来る。
「ええ……この荷物何ですか?」
「傷薬や体力回復ポーション、毛布、食い物、その他迷宮探索に必要な物全部だ」
「迷宮を潜るのにこんなに必要なんですか!」
「これでも少ないくらいだ。今日は、新人歓迎会だからな!」
これで少ない? 勘弁してくれ。体力に自信はある。熊やイノシシの肉を持ったこともある。だがこれほど重くはなかった。これでは軍隊の行進だ。
「これに慣れないと大変だぞ」
リーダーは水筒を手渡してくれる。急いで飲むとむせ返った。
「迷宮探索は命がけだ。何があるのか分からない。だから何があってもいいように準備をする。しかし準備をすると荷物が増える。その荷物は、命の重さだと思え」
「命って重いんですね。改めて分かりました」
「良い答えだ!」
バシバシと背中を叩かれる。激励のつもりだろうが痛い。
「迷宮はチームで探索する。それは、チームで戦ったほうが安全であるのと、荷物持ちが必要だからだ。化け物と戦っている時に、荷物は持てないからな」
「荷物を管理する奴が必要ってことですね」
「そういうことだ。本来は交代制だが、今日は特別に、お前のその大役を任せた訳だ!」
「ただの雑用だと思うんですけど」
「新人の仕事だ! ありがたいと思え!」
そう言うとリーダーは俺の後ろで、同じく汗ダラダラの女騎士の前に行く。
「辛いか?」
「辛いですが、まだ動けます!」
女騎士はリーダーの声をかけられると素早く立ち上がり、敬礼する。
リーダーはうむうむと微笑む。
「元気がいい。王家護衛団のユリウスが、女だが見込みがあると言うだけのことはある」
「ありがとうございます!」
女騎士は背筋を伸ばしたまま答える。敬礼は崩さない。
「リリーだったな?」
「その通りです!」
「迷宮潜りが騎士団の入団試験だとは思わなかっただろ?」
リリーは口ごもる。
「騎士は基本、迷宮に潜ることは無い。だが、迷宮で学べることは多い」
「はい! 学ばせていただきます!」
「一か月間は荷物持ちだ。それに耐えられなかったら、お家に帰れ」
「帰りません! 推薦してくださったユリウス様のためにも耐えて見せます!」
「期間は半年、その間、泣いたり笑ったりできないと思え!」
「承知しました!」
「よし! 休んでよし!」
リーダーが背を向けると、リリーはその場でへたり込んだ。
「君は、ローズだったな?」
リーダーは壁に背中を預けて、肩で息をする女魔術師の前に立つ。
「は、はい」
ローズは座ったまま答える。立つ気力もないらしい。
リーダーは顔を曇らせる。
「君は、魔術の特訓で迷宮に潜る。そうだな」
「は、はい」
目が虚ろになっている。体は細く、背も小さいのに、これだけの荷物を背負って歩き回れば当然かもしれない。
「迷宮で実践を積めば、王宮魔術師のガウスが認めるだけの力がつく」
「はい」
生返事だ。話を聞いているのか分からない。リーダーは顔を曇らせたままため息を吐く。
「この程度で倒れるな。魔術師だって、ある程度の体力は必要だ。そうでなければ戦えない」
「はい」
「だが、無理だと思うなら止めはしない。夜、こっそり抜け出して、お屋敷に帰れ」
「はい」
リーダーは頭を掻く。ローズは今にも眠りそうだった。
「君は、チュリップだったな?」
リーダーは十字架を握りしめて祈る女僧侶の前に立つ。
「はい」
チュリップは目を開けてリーダーを見る。十字架は握りしめたままだ。
「君は教会の経営資金を集めるために、迷宮に入った」
「そうです」
「君の教会は孤児院も務めていたな。目的は、孤児たちに食べさせるために参加した」
「そうです。本来、お金のために活動するのは、奉仕の心から離れています。ですが、奉仕するためにはお金が必要です。そのため、特例として、参加させていただきました」
「どういう理由であろうと構わない。ただ、神様にお祈りをしたって、荷物は軽くならないし、化け物も居なくならない」
チュリップは俯いてリーダーから顔を外す。
「金を稼ぐなら他にも方法がある。無理だと思ったら、学校へ行って勉強したほうが、安全に稼げる」
「御忠告、ありがとうございます」
チュリップは俯きながらも、深々と頭を下げた。
リーダーはため息を吐いて、声を張った。
「休憩終わり! 新人は俺の前に並べ!」
「新人、冒険者手帳を出せ」
俺とリリー、ローズ、チュリップは冒険者手帳をポケットから取り出す。
「迷宮に入る前にも言ったが、それには今までの冒険者たちが経験した生きる知恵が刻まれている。分からないことがあれば、まずはそれを見ろ。返事は!」
「はい!」
俺とリリーは同時に返事をした。遅れてチュリップ、最後はローズだった。
「今日はここ地下三階を探索して終了となる。お前たちにやってもらうのは、マッピングだ」
「地図を描くんですか?」
「迷宮の最大の敵は迷うことだ。自分たちがどこに居るのか、分からなければ死につながる。分かったな!」
「はい!」
俺とリリーは同時に返事をする。やはりチュリップは遅れて返事をする。ローズに至っては返事すらしなかった。
「荷物を持ちながら、マッピングしろ。罠の場所や気になるところすべて記述しろ」
「その、俺らみたいな素人がやっていいんですか?」
不安になって質問する。リーダーは鼻で笑う。
「ここは初級迷宮、地下十階すべてマッピング済み。つまり練習だ。肩の力を抜いてやれ。もちろん、後でチェックする。無様な出来ならケツを蹴飛ばすから覚悟しろ」
こうして迷宮探索が始まった。
「レイ、少し待て」
荷物を担いで進もうとすると、リーダーに呼び止められる。
「一か月後、新人は練習としてチームを組みあう。その時はお前がリーダーだ。リリー、ローズ、チュリップを支えてやれ」
「俺ですか!」
「ローズとチュリップはお前が見たとおりだ。リリーも頭が固い。その点、お前は頭が柔らかい。迷宮探索じゃ、行き当たりばったりに対応できる奴がリーダーに適任だ」
「その、ローズとチュリップは逃げるかも?」
「逃げたらそれでいい。重要なのは、逃げなかった時の話だ」
「わ、分かりました」
「期待してるぜ! 金持ちになるために冒険者になる! 一番いい理由だ!」
釘を刺された気分だ。
「俺も逃げたいんだけどなぁ」
冒険者を舐めていた。つくづくそう思った。
マッピングしながら迷宮を進む。これが非常に辛い。
何せ荷物を担ぎながら地図を描くのだ。手先が震えて仕方ない。
しかしチュリップのように荷物を下ろしてから描くと、担ぎなおすロスが生まれる。時間なら未だしも、体力がロスする。何度も繰り返すと必ず腰を壊す。
「チュリップ、大丈夫か?」
「ええ、ご心配おかけして申し訳ありません」
チュリップは腰を摩りながら担ぎなおす。ぶっ倒れるんじゃないかと心配になる。
その点、リリーは立派だ。俺よりも体力がある。額に汗を描いて、歯を食いしばっているが、キッチリと地図を描いている。
ただ、キッチリ書きすぎな気もする。芸術品を発表する訳でもないのに、何度も書きおなしている。あれでは神経がやられてしまいそうだ。
「ローズ、大丈夫か?」
ローズは虚ろな目で何も言わない。マッピングもしていない。ただ足を動かしているだけだ。
「助けるなよ」
先輩が目を光らせる。洗礼だ。逃げるなら今夜のうちと警告している。
「冒険者を舐めていた」
何度目の言葉だろうか。
「ん?」
体感だが、半分くらい進んだところで、気になる壁を見つけた。
「色が違う箇所がある」
迷宮の壁は規則正しく、同色で並ぶレンガである。ところがその壁の一部のレンガが周りと色が違う。
「薄い色と濃い色がある」
試しに薄い色のレンガに触る。何も起こらない。
「薄い色順に色の違うレンガを触ったらどうなるんだ?」
ワクワクしだす! もしかするとお宝が眠っているかもしれない!
「濃い色順か、薄い色順か? 間違えたら罠が発動したりして!」
楽しくて仕方がない! 答え合わせだ!
「何をしている!」
十か所、色が違うレンガを触り終えたところでリリーに肩を掴まれる。かなり痛い。
「いや、ここの壁に色が違うレンガがあるんだ。もしかするとお宝かもしれないぜ!」
「リーダーの言葉を忘れたか! 何物にも不用意に触るな! 罠の可能性があるんだぞ!」
耳元で怒鳴られると耳が痛い。喧嘩腰のようで腹が立つ。
「そんな怒るなって! ほら! 何も無い! 俺の気のせいだ!」
「ふざけるな! 規律を守れない奴など要らない!」
本気で腹が立ってきた! そこまで怒るか! お前は俺の母ちゃんか!
「何があった!」
騒ぎを聞いてリーダーがすっ飛んできた。
「リーダー! この男! 不用意に壁を触りました! リーダーの教えを守りませんでした!」
「落ち着け!」
リーダーの一喝でリリーは黙る。不満たらたらの表情で俺を睨んでやがる!
「レイ、なぜ触った?」
「ここの壁に色が違う箇所があるんです。お宝があるかもしれないと思って」
「ここか。確かに、色が違うレンガを正しい順序で触ると隠し扉が開く。だが間違えると落とし穴が発動する! すぐに離れろ!」
言葉と同時に床が揺れる!
「な!」
「きゃ!」
リリーとチュリップが転ぶ! ローズは倒れる!
「やべ!」
荷物を置いて三人を引きずる! ダメだ! 力が足りねえ!
「レイ! お前だけでも来い!」
リーダーが手を伸ばす! 届かない!
「冒険者を舐めていた!」
床が開く。俺とリリー、ローズ、チュリップは奈落の底へ落ちた。
「す、すいません!」
重い荷物を持って、迷宮の階段をよたよた下る。足元が暗くて滑らせないか不安になる。だがここで滑らせると、先行する先輩たちにぶつかって迷惑になる。だから必死に、一歩一歩確実に、足元を確認しながら進む。
「冒険者を舐めていた」
冒険者ギルドに所属してわずか一日、それなのに何度呟いただろうか。目に入る汗を拭いながら、自分の甘さに唇を噛む。
迷宮に入ったのは、金のためだ。お宝を見つければ遊んで暮らせる。山暮らしの自分はそう楽観していた。
しかし迷宮に入るには、冒険者ギルドに所属しなければならなかった。
最初は渋った。規律は堅苦しいし、何より儲けが減る。見つけた宝は俺の物だ! そう意気込んでいたが、迷宮の噂を聞いていくうちに不安になった。
迷宮には、化け物が居る。イノシシのようなネズミが居る。罠がある。
山よりもずっと危険な場所かもしれない。
そんな臆病風に吹かれて、俺は冒険者ギルドに入った。
そして迷宮に入って分かった。
「冒険者を舐めていた!」
そこには確かに、イノシシのように大きく、オオカミよりも素早いネズミが居た。そいつは獰猛で、俺の足を食いちぎりやがった!
幸い、先輩冒険者のおかげでネズミは倒された。また食いちぎられた傷も、先輩冒険者の治癒魔法と治療薬で綺麗に治った。
「洗礼を受けたな。これでお前は立派な見習いだ!」
俺は大笑いしながら肩を叩く先輩に苦笑いを返すしかなかった。
「休憩だ!」
リーダーの声で前進が止まる。
「ようやく休める」
荷物を地面に下ろすと腰まで落ちる。立つのさえ辛い。
「疲れたか?」
リーダーが笑いながら傍に来る。
「ええ……この荷物何ですか?」
「傷薬や体力回復ポーション、毛布、食い物、その他迷宮探索に必要な物全部だ」
「迷宮を潜るのにこんなに必要なんですか!」
「これでも少ないくらいだ。今日は、新人歓迎会だからな!」
これで少ない? 勘弁してくれ。体力に自信はある。熊やイノシシの肉を持ったこともある。だがこれほど重くはなかった。これでは軍隊の行進だ。
「これに慣れないと大変だぞ」
リーダーは水筒を手渡してくれる。急いで飲むとむせ返った。
「迷宮探索は命がけだ。何があるのか分からない。だから何があってもいいように準備をする。しかし準備をすると荷物が増える。その荷物は、命の重さだと思え」
「命って重いんですね。改めて分かりました」
「良い答えだ!」
バシバシと背中を叩かれる。激励のつもりだろうが痛い。
「迷宮はチームで探索する。それは、チームで戦ったほうが安全であるのと、荷物持ちが必要だからだ。化け物と戦っている時に、荷物は持てないからな」
「荷物を管理する奴が必要ってことですね」
「そういうことだ。本来は交代制だが、今日は特別に、お前のその大役を任せた訳だ!」
「ただの雑用だと思うんですけど」
「新人の仕事だ! ありがたいと思え!」
そう言うとリーダーは俺の後ろで、同じく汗ダラダラの女騎士の前に行く。
「辛いか?」
「辛いですが、まだ動けます!」
女騎士はリーダーの声をかけられると素早く立ち上がり、敬礼する。
リーダーはうむうむと微笑む。
「元気がいい。王家護衛団のユリウスが、女だが見込みがあると言うだけのことはある」
「ありがとうございます!」
女騎士は背筋を伸ばしたまま答える。敬礼は崩さない。
「リリーだったな?」
「その通りです!」
「迷宮潜りが騎士団の入団試験だとは思わなかっただろ?」
リリーは口ごもる。
「騎士は基本、迷宮に潜ることは無い。だが、迷宮で学べることは多い」
「はい! 学ばせていただきます!」
「一か月間は荷物持ちだ。それに耐えられなかったら、お家に帰れ」
「帰りません! 推薦してくださったユリウス様のためにも耐えて見せます!」
「期間は半年、その間、泣いたり笑ったりできないと思え!」
「承知しました!」
「よし! 休んでよし!」
リーダーが背を向けると、リリーはその場でへたり込んだ。
「君は、ローズだったな?」
リーダーは壁に背中を預けて、肩で息をする女魔術師の前に立つ。
「は、はい」
ローズは座ったまま答える。立つ気力もないらしい。
リーダーは顔を曇らせる。
「君は、魔術の特訓で迷宮に潜る。そうだな」
「は、はい」
目が虚ろになっている。体は細く、背も小さいのに、これだけの荷物を背負って歩き回れば当然かもしれない。
「迷宮で実践を積めば、王宮魔術師のガウスが認めるだけの力がつく」
「はい」
生返事だ。話を聞いているのか分からない。リーダーは顔を曇らせたままため息を吐く。
「この程度で倒れるな。魔術師だって、ある程度の体力は必要だ。そうでなければ戦えない」
「はい」
「だが、無理だと思うなら止めはしない。夜、こっそり抜け出して、お屋敷に帰れ」
「はい」
リーダーは頭を掻く。ローズは今にも眠りそうだった。
「君は、チュリップだったな?」
リーダーは十字架を握りしめて祈る女僧侶の前に立つ。
「はい」
チュリップは目を開けてリーダーを見る。十字架は握りしめたままだ。
「君は教会の経営資金を集めるために、迷宮に入った」
「そうです」
「君の教会は孤児院も務めていたな。目的は、孤児たちに食べさせるために参加した」
「そうです。本来、お金のために活動するのは、奉仕の心から離れています。ですが、奉仕するためにはお金が必要です。そのため、特例として、参加させていただきました」
「どういう理由であろうと構わない。ただ、神様にお祈りをしたって、荷物は軽くならないし、化け物も居なくならない」
チュリップは俯いてリーダーから顔を外す。
「金を稼ぐなら他にも方法がある。無理だと思ったら、学校へ行って勉強したほうが、安全に稼げる」
「御忠告、ありがとうございます」
チュリップは俯きながらも、深々と頭を下げた。
リーダーはため息を吐いて、声を張った。
「休憩終わり! 新人は俺の前に並べ!」
「新人、冒険者手帳を出せ」
俺とリリー、ローズ、チュリップは冒険者手帳をポケットから取り出す。
「迷宮に入る前にも言ったが、それには今までの冒険者たちが経験した生きる知恵が刻まれている。分からないことがあれば、まずはそれを見ろ。返事は!」
「はい!」
俺とリリーは同時に返事をした。遅れてチュリップ、最後はローズだった。
「今日はここ地下三階を探索して終了となる。お前たちにやってもらうのは、マッピングだ」
「地図を描くんですか?」
「迷宮の最大の敵は迷うことだ。自分たちがどこに居るのか、分からなければ死につながる。分かったな!」
「はい!」
俺とリリーは同時に返事をする。やはりチュリップは遅れて返事をする。ローズに至っては返事すらしなかった。
「荷物を持ちながら、マッピングしろ。罠の場所や気になるところすべて記述しろ」
「その、俺らみたいな素人がやっていいんですか?」
不安になって質問する。リーダーは鼻で笑う。
「ここは初級迷宮、地下十階すべてマッピング済み。つまり練習だ。肩の力を抜いてやれ。もちろん、後でチェックする。無様な出来ならケツを蹴飛ばすから覚悟しろ」
こうして迷宮探索が始まった。
「レイ、少し待て」
荷物を担いで進もうとすると、リーダーに呼び止められる。
「一か月後、新人は練習としてチームを組みあう。その時はお前がリーダーだ。リリー、ローズ、チュリップを支えてやれ」
「俺ですか!」
「ローズとチュリップはお前が見たとおりだ。リリーも頭が固い。その点、お前は頭が柔らかい。迷宮探索じゃ、行き当たりばったりに対応できる奴がリーダーに適任だ」
「その、ローズとチュリップは逃げるかも?」
「逃げたらそれでいい。重要なのは、逃げなかった時の話だ」
「わ、分かりました」
「期待してるぜ! 金持ちになるために冒険者になる! 一番いい理由だ!」
釘を刺された気分だ。
「俺も逃げたいんだけどなぁ」
冒険者を舐めていた。つくづくそう思った。
マッピングしながら迷宮を進む。これが非常に辛い。
何せ荷物を担ぎながら地図を描くのだ。手先が震えて仕方ない。
しかしチュリップのように荷物を下ろしてから描くと、担ぎなおすロスが生まれる。時間なら未だしも、体力がロスする。何度も繰り返すと必ず腰を壊す。
「チュリップ、大丈夫か?」
「ええ、ご心配おかけして申し訳ありません」
チュリップは腰を摩りながら担ぎなおす。ぶっ倒れるんじゃないかと心配になる。
その点、リリーは立派だ。俺よりも体力がある。額に汗を描いて、歯を食いしばっているが、キッチリと地図を描いている。
ただ、キッチリ書きすぎな気もする。芸術品を発表する訳でもないのに、何度も書きおなしている。あれでは神経がやられてしまいそうだ。
「ローズ、大丈夫か?」
ローズは虚ろな目で何も言わない。マッピングもしていない。ただ足を動かしているだけだ。
「助けるなよ」
先輩が目を光らせる。洗礼だ。逃げるなら今夜のうちと警告している。
「冒険者を舐めていた」
何度目の言葉だろうか。
「ん?」
体感だが、半分くらい進んだところで、気になる壁を見つけた。
「色が違う箇所がある」
迷宮の壁は規則正しく、同色で並ぶレンガである。ところがその壁の一部のレンガが周りと色が違う。
「薄い色と濃い色がある」
試しに薄い色のレンガに触る。何も起こらない。
「薄い色順に色の違うレンガを触ったらどうなるんだ?」
ワクワクしだす! もしかするとお宝が眠っているかもしれない!
「濃い色順か、薄い色順か? 間違えたら罠が発動したりして!」
楽しくて仕方がない! 答え合わせだ!
「何をしている!」
十か所、色が違うレンガを触り終えたところでリリーに肩を掴まれる。かなり痛い。
「いや、ここの壁に色が違うレンガがあるんだ。もしかするとお宝かもしれないぜ!」
「リーダーの言葉を忘れたか! 何物にも不用意に触るな! 罠の可能性があるんだぞ!」
耳元で怒鳴られると耳が痛い。喧嘩腰のようで腹が立つ。
「そんな怒るなって! ほら! 何も無い! 俺の気のせいだ!」
「ふざけるな! 規律を守れない奴など要らない!」
本気で腹が立ってきた! そこまで怒るか! お前は俺の母ちゃんか!
「何があった!」
騒ぎを聞いてリーダーがすっ飛んできた。
「リーダー! この男! 不用意に壁を触りました! リーダーの教えを守りませんでした!」
「落ち着け!」
リーダーの一喝でリリーは黙る。不満たらたらの表情で俺を睨んでやがる!
「レイ、なぜ触った?」
「ここの壁に色が違う箇所があるんです。お宝があるかもしれないと思って」
「ここか。確かに、色が違うレンガを正しい順序で触ると隠し扉が開く。だが間違えると落とし穴が発動する! すぐに離れろ!」
言葉と同時に床が揺れる!
「な!」
「きゃ!」
リリーとチュリップが転ぶ! ローズは倒れる!
「やべ!」
荷物を置いて三人を引きずる! ダメだ! 力が足りねえ!
「レイ! お前だけでも来い!」
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