迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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救助を待つか、動くか

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 地下三階から落ちる! 落とし穴で落ちる! 暗闇を落ちる! 地獄に落ちる!
「死んでたまるか!」
 空気の音が変わる! 地面が近い! 掴んだ三人を抱きしめて衝撃に備える!
 ドカリと体中に激痛が走る。体の骨がバラバラになった気がした。

「いてえ」
 幸いなことに生きていた。感触からして打撲と切り傷で済んだ。奇跡だ。
「何か、クッションが?」
 真っ暗闇で何も見えない。携帯用の松明があったはずだと、ポケットをまさぐる。幸運なことに、しっかりと収まっていた。
「人骨!」
 携帯用の松明を灯すと叫び声が出る。俺は朽ち果て、風化寸前の人骨の山の上に居た。
「これが、クッションになったのか」
 運が悪い冒険者のおかげで助かった。強運だ。
「三人は!」
 三人はすぐに見つかった。落ち着いた呼吸をしていて、血も流れておらず、手足も正常な方向を向いている。命に関わる怪我はしてない。安心してため息が出る。
 次に一緒に落ちてきた荷物を、中身が壊れていないか確認する。
 袋は破れておらず、中身も無事だ。
「助かった」
 心底ほっとすると、腰の力が抜けて、体中が軋む。
「冒険者を舐めていた」
 ここを出たら、家に帰ろう。喧嘩した親父と母さんに頭を下げよう。そうすれば、あの厳しくも優しい山へ戻れる。荷物から毛布を取り出し、その上に三人を寝かせると、そう誓った。

「う!」
 しばらくするとリリーが目を覚ます。
「起きたか! 大丈夫か!」
 リリーは頭を押さえながら呻く。
「ここはどこだ?」
 言葉に詰まる。俺はいったいどこに居る?
「い、痛いところは無いか! 骨折とか!」
 不安にさせないように誤魔化す。
「な、なぜか、だ、大丈夫だ」
「あれがクッションになったんだ」
 辺りを伺うリリーに人骨の山を見せる。
「ひぃ!」
 リリーが小さな悲鳴を上げた。
「だ、大丈夫か!」
 聞いたが、リリーは何も答えなかった。人骨をじっと見て、震えていた。
 誤魔化しきれなかった。俺自身、パニックになっていると実感する。

「いた……」
「うぅうう」
 リリーの様子が心配だったっが、ローズとチュリップが起きたのでそちらへ行く。
「大丈夫か? 骨折とかしてないか?」
「あ、あれ! 骨!」
 ローズは俺の問いに答えなかった。人骨を凝視していた。
「神よ、私を救いたまえ!」
 チュリップは十字架を握りしめて、うずくまってしまった。
「と、とにかく全員無事で良かった! 本当に良かった!」
 三人の様子を見る限り、大事は無い。不幸中の幸いだ!
「飯食おうか! ほら、腹減ってるだろ! 俺はもうペコペコだ!」
 人骨が見えないように、荷物で影を作り、人骨を遮る。
「えーと! 何がいいかな!」
 リーダー、荷物を勝手に漁ってすいません。家に帰ったら熊の肉を御馳走します。
「あったあった! 携帯食料だ!」
「うるさい!」
 リリーに睨まれる。
「お前のせいで落ちたんだ! 少しは黙ってろ!」
 リリーの指摘が当たっているので何も言えなくなる。リリーは固まる俺を無視して冒険者手帳のページをめくる。
「落とし穴には二種類あるらしい。一階層下に落ちるタイプと、即死するタイプだ。私たちは不幸中の幸いに助かった。つまり一階層下、地下四階に居る。ならばすぐに助けが来るはずだ」
 リリーはさらにページをめくる。
「初級迷宮の地図が記載されている。だから地下四階の地図も載っている。しかし私たち今、どこに居るのか分からない。つまりこれは遭難だ」
 リリーは夢中でページをめくる。気になるのだが、リリーは俺たちに話しているのだろうか? 独り言を呟いているように見えて仕方がない。
「遭難した場合は、動かず、救援を待つこと。つまり、私たちはここに止まればいい」
 リリーは読み終えるとふっと息を吐く。
「止まる? 嫌! あれと一緒に居るなんて嫌!」
 ローズがガタガタと、暗闇の中の人骨を指さす。
「ここに居たら死んじゃう! すぐに逃げよう!」
 リリーの目が険しくなる。
「冒険者手帳に動くなと書いてある! それに逆らうのか!」
「だから逃げよう!」
「動いたほうが危険だ!」
「化け物が襲ってくるかも!」
 リリーが口ごもる。
「あの、動いても化け物に出会ってしまうかもしれません」
 チュリップが手を挙げて発言する。ローズはひぃと悲鳴を上げる。
「そうだ! だから動かずに待つ!」
 リリーはチュリップの発言に便乗する。
「しかしそうなると、いつ救助が来るのでしょうか? 見捨てられたかもしれません」
 チュリップは淡々と残酷なことを言う。
「何! そんな訳あるか!」
 リリーが顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。チュリップは疲れ切った顔で言う。
「冒険者手帳には、二重遭難の危険がある場合は捜索しないこと、死んでいる可能性がある場合は何もしないこととあります。それにギルドに所属したとき、契約書にサインしました。何があっても責任は自分で取ると。つまり、この場合彼らは私たちを見捨てても罪に問われません。神はお許しになります」
「そんなこと言っても仕方ないだろ! 信じて救助を待つしかない!」
 リリーが立ち上がって喚き散らす。
「お母さん助けて!」
 ローズは泣きわめく。
「神よ、私を救いたまえ」
 チュリップは神に祈る。
 場が混乱している。
「どうするべきか?」
 リリーの案は安全性が高い。しかし時間がかかる。その間に化け物に出会ってしまうかもしれない。また、口に出さないが、水と食料の問題がある。水と食料が底をつけば、結局動かなくてはならない。
 ローズの案は危険だ。化け物はもちろん、罠に鉢合わせる可能性が高い。しかし脱出の時間の短縮につながる。方法はマッピングだ。マッピングをある程度進めて、既存の地図と照らし合わせれば、どこで遭難しているのか見当がつく。また既存の地図には目印になる物も記されている。これを見つければ、三階へ上がる道筋が分かる。
 どっちの案も正しく、どっちの案も間違っている。そんな言葉にできない違和感があった。
「俺が動いてみる」
 俺はどっちの案も採用することにした。

「お前が動く?」
 リリーが不愉快そうにしわを作る。
 それに臆している場合ではない。
「俺たちは四階の地図を持っている。だから」
「動くなと冒険者手帳に書いてある!」
 言葉の途中でリリーに胸倉を掴まれる。
「こうなったのはお前のせいだ! お前がリーダーの命令を無視したからこうなった!」
「どういうこと?」
 ローズが俺とリリーを睨む。
「こいつはリーダーの教えに背いて、みだりに壁を触った! 気になるから! 宝があるかもしれないから! そんな軽薄な理由で規律を破った! その結果罠が作動した!」
「じゃあ私たちは巻き添えになったの!」
 ローズがぎゃんぎゃん喚く。
「そ、それは済まなかった! 反省している!」
「反省だと! お前など信じられるか!」
「お家に返して! もうこんなところ嫌!」
 場が沸騰する。
「本当に済まなかった! 頼む! 許してくれ! この通りだ!」
 謝り続けるしかない。
「お家に帰りたい!」
「脱出したらその首切り落としてやる!」
「済まない!」
 この状況で脱出計画やら何やらを話しても無駄だ。親父と母さんの夫婦喧嘩を見て学んだ。最後は親父が土下座する。母さんの怒りが収まるまで怒られ続ける。
「済まない!」
 それで最後は丸く収まる。

「はあ、はあ」
「お母さん……」
 二人の罵倒が収まる。これを逃したら次は無い。
「済まない!」
 リリーの手が緩んだすきに土下座する。地面に額をこすり付ける。
「くそ」
 リリーは吐き捨てると、毛布の上に座る。
「お前が動いてどうする? 規律も守れないお前が動いたら、また私たちに迷惑をかけるかもしれない」
 相当根に持っている。下手なこと言うと火に油を注ぐことになる。
「マッピングする。そうして地下四階の地図と照らし合わせれば、どこに居るのか分かるかもしれない。それに、目印になる物が見つけられるかもしれない」
「お前は信用できない」
 ばっさり切り捨てられる。
「救助が来るまでここで待機だ。方針は変わらない」
 リリーは言い捨てると、再び冒険者手帳を開く。
「お母さん……お父さん……」
 ローズは毛布の上で横になっている。
「分かった」
 ここで騒いでも仕方がない。それに、場が収まった。今はそれを喜ぼう。

「レイさん、でしたっけ?」
 まどろみに落ちかけたところでチュリップが突然、神の祈り止めてこちらに近づく。
「レイだ。どうした?」
「少しお話があります」
 リリーとローズを見る。二人は眠っていた。
「どんな?」
 二人を起こさないように囁き声で話す。
「あなた、どうして一人で動こうと思ったのですか?」
 チュリップも囁き声で返す。
「……違和感があった」
「違和感ですか?」
 チュリップに問われて違和感の正体に気づく。
「一階層下に落ちたにしては、落ちる時間が長かった」
 感覚だが、間違いなく二階層以上下へ落下した。
「どのくらい落ちたのか分かりますか?」
 チュリップが耳元まで近づく。耳がこそばゆく、ゾクゾクするが、今はそれどころではない。
「多分、八階下に落ちた気がする」
「八階ですか? 落ちたのは三階で、八階だと地下十一階まで落ちたことになりますよ?」
「何かおかしいか?」
「リーダーが言っていましたが、ここは十階が最深部です」
 チュリップの指摘に、己の本当の不安が理解できた。
「あれ? 計算間違えたかな? はは!」
 笑って誤魔化す。しかし自分は誤魔化せない。
 俺たちは、あるはずの無い階層、地下十一階に居る!
「迷宮に関してこんな話を聞いたことがあります」
 チュリップは俺の作り笑いを無視して話し出す。

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