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地下十三階から地下二十階、非常に順調

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 俺たちは激動の地下十二階を超えた。非常に厳しい階層だった。だからこそ、地下十三階に進んだ時は、地下十二階よりも手強い敵が居ると、緊張感を持って下りた。
 それはすぐに拍子抜けに変わった。

 地下十二階に比べて敵が弱すぎる。

「炎魔法、ファイヤーレーザー」
 ローズが呪文を唱えるとハイゴブリンたちは一瞬で蒸発する。奴らは魔術などの遠距離攻撃を持っているが、ローズの射程距離のほうが長い。結果、敵はせっかく飛び道具を持っているのに使えないまま消えていく。
「俺のやることがねえ」
 ローズの横に突っ立っていると勝手に敵が居なくなるので眠くなる。
「私も暇だ」
 リリーも剣と盾をブラブラさせて遊んでいる。
「暇なのは良いことでは?」
 チュリップに至っては立ったまま舟を漕いでやがる。
「なんか拍子抜け。つまんない」
 ローズも不満そうに口を尖らせる。

 もちろん敵が弱いのは良いことだ。ただここまで歯ごたえが無いと複雑な気分だ。

 そんな中でも、一応問題はあった。
 大自然に囲まれた地下十二階に比べると、レンガの壁で囲まれた地下十三階は自然の力を得ることができない。結果、あまりに強い魔法を使うと、足りない力を求めて仲間の力を吸収してしまう。
「でも、今は自然の力を使ってないよ? 威力も十二階の時の十分の一以下だよ?」
 問題はあったが、地下十三階を突破するのに支障は無かった。
「敵が弱いうちに、通路で戦う練習をするか」
 仕方ないので退屈しのぎに、冒険者手帳を片手に仲間との戦闘連係の練習をした。

 地下十四階は少しだけ面白かった。構造が入り組んでいたため、ローズの遠距離攻撃が当たらない死角が多数存在した。また罠も複数あったので緊張感があった。
「ふん!」
 しかし構造が入り組んでいて死角が多いということは、相手も遠距離攻撃ができないことに他ならない。結果、リリーの剣裁きでバラバラになる。
「弱いな。剣術魔法を使うまでもない」
 あまりにも緊迫感が無かったので、武器を無くしたことを想定して素手で戦ってみた。
 やはり弱かった。
「慢心は禁物だが……」
 リリーは必死に自制心で警戒心を保とうとしたが、欠伸は隠せなかった。

 ちなみに寝込みを襲ってきた時があったが、皆すぐに目を覚まして軽々と撃退した。野生の獣に比べて、気配の消し方が雑だ。呼吸くらい我慢して襲ってきてほしい。

 地下十五階は敵よりも厄介な問題に直面した。食料が尽きた。
「どうします?」
 悩んでいると、全員がハイゴブリンの死体を見つめる。
「あれ食えるんじゃね?」
 俺が切り出すと皆渋い顔をする。
「化け物とはいえ、さすがに人型は躊躇する」
 リリーは首を振る。
「ですが、食べないと死にます」
 リリーの苦言をよそに、チュリップは冷徹にハイゴブリンの死体を調理した。
「美味い!」
 食ってみると美味かった。ハイゴブリンは敵ではなく食料と認識した。
「何だか、私たちのほうがお化けみたいだね」
 ローズがさめざめと泣く。
「ここに来てゲテモノ料理に慣れてしまった。パンの味が思い出せない」
 リリーも深くため息を吐く。
「外に出たら、間違えて人間を食べないように、神様にお祈りしましょう」
 チュリップは恐ろしいことをしれっと言いやがった。

 地下十六階は、迷宮に慣れてしまったのか、さらに簡単に攻略できた。
 暗闇の中でも気配でどこに敵が居るか察知できる。それどころか罠の位置も分かる。

 地下十七階も地下十八階も地下十九階も楽だった。

「退屈だ」

 不謹慎だが、皆の共通の思いだった。代わり映えしない通路、代わり映えの無い敵、代わり映えの無い罠、嫌になる。

 しかし、地下二十階に到達すると、戦慄が走った。
「俺の家!」
 階段を下りると広場に出る。その中にポツンと、家族と住んでいた山小屋が建っていた。
「レイ!」
 皆が警戒心を取り戻して、扉の前に立つ。
「行くぞ!」
 扉をけ破って中に突入する!

「ドアを開けるときは、ノックしてから。お父さんとお母さんに教わらなかったのかい?」
 中には、弟と変わらないくらいのガキが、椅子に座って待っていた。服は生意気にも貴族風でムカつく。

 罠が無いか調べるために内装をざっと見る。
 実家と全く同じで、青筋が立った。

「お前は一体誰だ? 迷子って訳じゃないだろ?」
 剣の切っ先を向ける。ガキは小生意気な笑みを浮かべる。
「大陸クモを倒すだけのことはある。瞬時に僕が味方でないことを見抜いた。人間にしてはやるね」
 ガキがパチンと指を鳴らすと、四つの椅子が独りでに下がる。
「座ってくれ。僕は味方ではないが、今のところ敵でもない」
「嫌だね! 怪しい人には付いていくなって親父たちに教えられたんだ」
「この迷宮を脱出する方法を話そうと思っているんだ」
「何だと! ここから出られるのか!」
「聞きたいなら、座ってくれ」

 目をじっと見つめて殺気を探る。嘘は言っていないことが分かった。
「座ろう」
 俺が座ると、三人も続いて座る。
 ガキはにっこりと満面の笑みで笑う。

「僕の名はルシー。この迷宮を作った迷宮建築士であり、君たち人間が古代人と呼ぶ存在だ」
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