迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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迷宮王ルシーと食事

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「迷宮建築士ルシー? もしやあなた、迷宮王ルシーですか?」
 地下二十階、俺の山小屋を模した建物の中で、チュリップが息を飲む。
「君たちの昔話だと、僕は迷宮王と呼ばれていたね。だけど迷宮王って肩書は好きじゃない。迷宮建築士ルシーと呼んで欲しい」
 ルシーはチッチッチッときざったらしく人差し指を振る。

「まさか、おとぎ話の中で全王に匹敵する力を持つお方と出会えるとは思いませんでした。私たちに会いに来てくださり、大変感謝いたします」
 チュリップは深々とお辞儀をする。

「礼儀正しいね」
 ルシーが指を鳴らすと、突然テーブルに食事と飲み物が出現する。

「せっかくのお客さんだ。持て成しも何もなしじゃ、この迷宮を管理する者として立つ瀬がない。遠慮せずに食べてくれ」
「そんなことより、どうやったら脱出できる」
 慇懃な態度に腹が立つ。こっちはそんな場合じゃない。飯を食わせるくらいなら、この息が詰まる迷宮から出してほしい。
 ルシーは鼻で笑う。この余裕そうな態度、ぶん殴ってやりたい。

「せっかちだね。だけど、君たちの立場を考えると、まずはそれを知らないと落ち着かないだろう。丹精込めた料理を味わってもらうためにも、嘘偽りなく教えよう」
 ルシーは人差し指を真下に向ける。

「地下1000階に来ることだ。そうすることで全王と謁見する機会を与える」
「全王?」
「君たち人間で言えば、古代人の王であり、僕の上司だ。僕はこの迷宮の管理者だが、最終的な決定権は全王にある。謁見の結果、全王が出してよしと言えば、君たちを地上に返す。ダメだと言ったら、その時は諦めて、この迷宮の住人となることだ」
「ふざけるな! 迷宮の住人だと! 俺たちを外に出せ!」

「ふざけてんのはこっちのセリフだ!」
 ルシーの怒気で全身の毛が一気に逆立つ!

「良いか? お前らは人の家に勝手に押し入った泥棒だ? そうだと思わねえか? 宝を勝手に持ち出す姿を想像して見ろ? それにお前ら、地下十二階を散々荒らしたな? あそこは僕が考えに考えて作った動物園だ! あの可愛い子犬や大きなクモ、猿を見ただろ? お前たちはそれを無慈悲に殺した! 本来なら殺されても文句が言えないと考えないか!」
 ルシーの怒気が止むと、何も言えなくなる。

「確かにその通りだ。済まない」
 ルシーの言い分を聞くと、確かに俺たちは人の家に土足で踏み入った悪党だ。本来なら殺されても仕方がない。それをこうして会いに来てくれて、さらに食事まで用意してくれた。また脱出の機会まで与えてくれた。
 それに文句を言うなど、無礼にもほどがある。

「はははは! まさか謝るとは思わなかった! さすがレイだ! 他の人間とは肝の座り方が違う!」
 ルシーはなぜか大笑いをして、手を差し出してきた。
「仲直りの握手をしよう」
「あ? ああ」
 とりあえず握手をする。
「これで仲直りだ」
 ルシーは子供らしく満面の笑みで言った。

「一緒にご飯を食べよう。遠慮しないでくれ」
 ルシーは手のひらを見せて、どうぞと食事を勧める。
「良いのか? 俺たちは敵だろ?」
「うーん。確かにそうなんだ。でも僕にとっては大切なお客さんでもある」
「お客さん?」
「質問ばっかじゃお腹が空くだろ。まずは食事を始めよう」
 真っ白な食器に乗った飯の香りを嗅ぐ。腹が鳴った。
「遠慮せずに、いただこう」
「どうぞどうぞ」

「レイ! 本当に食べる気か?」
 ナイフとフォークを持つと、横に座るチュリップが心配そうに見つめる。
「心配するな。こいつは俺たちよりはるかに強い。殺す気ならすでに俺たちは死んでいる」
「な! 何だと!」
「怯えるなって。だからこそ、食べても安全だと断言できる。だいたい、せっかく用意してもらったんだ。食べないと食材に失礼だろ」
 ナイフで肉汁の滴るステーキ肉を切り、フォークを突き刺す。突き刺した隙間から透明な汁がサラサラと溢れる。汁は鉄板に落ちると、香しくパチパチと音を鳴らす。
「美味そうだ」
 口を満たす涎に、肉を放り込む。

「涙が出る!」
 肉が舌の上で溶ける! 筋は無くそれでいて適度な歯ごたえ!
 悪魔的だ!
「ど、どうしたレイ?」
 リリーが背中を摩ってくれた。
「食え! とにかく食ってみろ! こんな美味い料理初めてだ!」
「そ、そうか」
 リリーはじっと料理を見つめる。
「では、いただく!」
 リリーはパンを一口頬張った。

「や、柔らかい!」
 涙を滝のように流した。
「熱々の濃厚なバターと甘いパンのハーモニー! こんなものが食べられるとは!」
 バクバクと目の色を変えて食べる。

「私も食べる!」
 ローズがサラダに手を伸ばす。
「いただきます!」
 恐る恐る、フォークを赤い葉物野菜に突き刺すと、口に入れた。

「美味しい……」
 シャキシャキとサラダを口に入れる。
「凄い新鮮! 瑞々しい! 本当に美味しい!」
 パッと顔を明るくさせると恍惚の表情を浮かべる。

「私も失礼して」
 チュリップはコップに入った酒をチビリと飲む。
「なんと素晴らしい……この甘さ、この苦み、それでいて口に残らず、胃を刺激する。頭がクラッとするほど良い度数……今まで散々お酒を口にしましたが、これほどの物は飲んだことがありません!」
 ボトルを引っ掴むと迷いなくラッパ飲みする。
「はぁあー! 幸せ!」
 顔をほんのりと赤く染めて笑う。

「喜んでくれて嬉しいよ」
 ルシーが指を鳴らすと続々と素晴らしい料理が現れる!
「沢山ある。遠慮せず、腹がはち切れるほど食べてくれ」
「ありがとう! さすが俺のマブダチだ!」
 とにかく料理を食べまくる!
 美味い!
 食べれば食べるほど幸せな気分になる

「ルシー! この肉はなんだ!」
「ヒュドラというドラゴンの心臓だ」
「なるほどなるほど! この野菜は!」
「マンドラゴラって雑草だ。雑草だけど一応食べられる」
「聞いたことも無い食材ばかりだ!」
「今食べているパンは、エデンで育てられた小麦で作った。エデンって場所なら知っているんじゃないか?」
「悪いな! 学が無くて知らねえ! それよりこの酒はなんだ!」
「知恵の実で作った果実酒だ」
「全く分からねえが、美味いってことは分かった!」
「それは良かった。ちなみに、ヒュドラの肉が気に入ったのなら、300階に行くと良い。そこで沢山ウロウロしているから、適当に食べていいよ。マンドラゴラは200階の雑草だから、草むしりを兼ねて食べてほしいな。まあ、僕は立場上、君たちをそこに連れて行くことはできないから、自力で行ってもらうしかないんだけど。ごめんよ」
「良いってことよ! 友達だろ! 食いたくなったら頑張っていくさ!」
「そうだね。ぜひ頑張ってほしい」

 俺たちは笑いながら食事を楽しんだ。こんなに笑ったのは、この迷宮に来て初めてだった。
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