迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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迷宮王ルシーとお話

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「食った食った……ごちそうさまでした!」
 ルシーに出された食事を完食すると、自然に頭が下がる。これを食べられただけでも、迷宮に迷い込んだ価値があると言える。
「お粗末様でした」
 ルシーは指を鳴らすと、食器は闇に包まれて消えた。

「あの、ルシーさんが使っている魔法って、もしかして空間魔法ですか?」
 満腹で腹を摩っていると、ローズが興味津々に前のめりになって質問する。

「良く知っているね。人間には知られていない魔法のはずなんだけど?」
「ここで手に入れた本で知りました! あの、良ければ教えてくれませんか? 名前しか載って無くて。ぜひ勉強したいんです!」
「おっとっと。まさか空間魔法について質問されるとは思わなかった」
「あ、迷惑でした?」
「いやいや。仲間でも難しすぎて理解されなかったから、嬉しくてね。それで空間を作り出す工程なんだけど、まずは重力を作り出す必要がある。その重力で無理やり空間を捻じ曲げる、または空間を無理やり作り出す。だからまずは重力を作り出す魔法を学ぶと良い」
「重力ですか? すみません、それって何属性ですか?」
「そっか。どれもこれも理論が難しいって言って、本にしてくれなかったんだった。そうだ! これをあげる!」
 ルシーは本をどこからともなく取り出すと、喜んでローズに手渡す。
「僕が執筆した教科書なんだけど、誰も受け取ってくれなかった! 君が初めての読者だ!」
「い、良いんですか!」
「良いって! それより、ガッツリ勉強して、僕を超えてくれよ!」
「ありがとうございます! 一生懸命勉強します!」
 ローズは夢中になって本を読みだした。

「その、ルシーさん。少しばかり質問させて貰っていいだろうか?」
 リリーが手をあげると、ルシーはそちらに目を向ける。
「どうぞ」
「なぜ私たちにここまで? 私たちとあなたは敵同士、これは敵に塩を送ることに他ならない」
「そう言えば、話が途中で終わってたね」
 ルシーはにっこりと優しく微笑む。

「その前に、ここの脱出方法は理解してくれたかな?」
「地下1000階に行って、ルシーの上司って奴に会えばいいんだろ? んで出してくれってお願いする」
「その通り。面倒なことをさせて済まない。全王は気難しいから、最低でも1000階に来れるくらいの実力者じゃないと会いたがらないんだ。それに気まぐれだから、出してくれるかも気分次第」
「気にするなって! ルシーの言う通り、俺たちは迷宮に入り込んだ泥棒だ。お願いするのはむしろこっちなんだ。それで出してくれないってんなら、そん時はそん時で考えるさ」
「良い答えだ」
 ルシーは微笑むと、俺たち四人の顔をじっくりと眺めた。

「それで、なぜ君たちを持て成すのかだけど、理由は簡単。僕は君たちが来てくれて嬉しいのさ」
「嬉しい、ですか?」
 リリーが眉を顰める。

「この迷宮は、神が住む天界に攻め込むために作った。しかし残念ながら攻め込む前に、土の雨で埋められた。結果僕の渾身の力作が使われる前にダメになった! 分かるかな? 迷宮は攻め込まれるから価値がある! 攻め込まれなかったら住みにくい家でしかない!」
 ルシーは悔しそうに拳を握りしめる。

「僕は一生懸命考えたんだよ? 攻め込むための指示室はどこにするか? 攻め込まれた場合に効果的な罠は何か? 戦いで疲れた心を癒すための憩いの場はどんな感じにするか? 一生懸命考えたんだ! だから本当は人間にもっと攻め込んでほしい! 人間は神が作りし最後の存在! 天使よりも弱い? いや! もしかするとそれは見かけだけでもっともっと強いかもしれない! だからこそ攻め込んでほしい! 僕の正しさを証明したい! この迷宮で僕の頭の良さを示したい! なのに!」
 ルシーはガツガツと鉄槌をテーブルに叩き込む。

「僕の仲間はそれに反対するんだ! 攻め込まれるなんてダメだって! 何のための迷宮だよ! 畜生! 隔壁で通せんぼするなんてダメだろ! おかげで人間たちは勘違いしている! 迷宮は初級中級上級があって、場所によって階層が違うって! 違うんだよ! どの迷宮も出入口は違うけど、最終的には五十階付近で合流するんだ! なのに最も深い場所は四十階だと思ってしまった! 四十階? もっと奥に来てくれよ! 探せば隔壁を超えて進むことができるんだ! 君たちみたいに!」
 ルシーは布を取り出すと鼻水をかむ。

「ううう……人間たちもどうしてもっと気合を入れて攻め込まないのかな? 僕の作りが悪かったのかな? 一応定期的に宝を配置すれば来てくれるけど、それで満足しちゃうし。障害物だって、ちょっとでも強いと撤退するから、限りなく弱くしたのに、それで満足しちゃうなんて。注意深く見れば隔壁を超える方法が分かるのに! 隔壁を超えればもっと強い敵と戦えるのに! 世界を滅ぼす敵と山ほど戦えるのに! そりゃたまには隔壁を超えてくる奴も居るけど、皆皆やる気をなくして自殺しちゃうし! 何で何で何で! やっぱり僕って才能無いの!」
 ルシーはもはや泣きすぎて座っているのも辛い様子だった。

「だからこそ僕は君たちが来てくれて嬉しい!」
 ルシーは俺たちをぐしゃぐしゃな顔で見ると笑う。

「君たちは僕が作った迷宮に挑む最強の敵だ! 君たちが来て初めて迷宮に意味が出た! 命が吹き込まれた! だからもっともっと楽しんでほしい! 頑張ってほしい!」
 ルシーは言葉を終えると、疲れ切った表情で項垂れた。

「俺は生き残るために進むぜ」
 ルシーが顔を上げる。
「お前がどんだけ難しい迷宮を作ろうと、俺は進む。そして全部攻略する! 最後は俺が勝つ!」
 ルシーが涙を拭うと元気に笑う。

「ふふ! 良いね! 最高だ!」
 ルシーは椅子から立ち上がる。
「地下1000階で待っている。正直、地下9999階の最深部まで挑んでほしいけど、君たちにも事情があるからね。全王に気に入られることを祈っている」
 手を差し出してきたので、立ち上がって握手をする。
「地上に出たら、迷宮はもっとすげえっとことを伝えるよ」

「ああ! もしも地上に出たら、迷宮のことをジャンジャン宣伝してくれ!」
 ルシーは最高の笑みで応えた。

「そうだ。せっかく元気に攻略してもらうんだ! 外に出すわけにはいかないけど、外の様子は知りたいだろ。特別に、今日一日だけ見られるようにしてあげる」
 ルシーが良いことを思いついたという感じにパチンと指を鳴らすと、鉄の箱が現れた。
「これは異世界にあるテレビって奴だ。この黒い板はリモコン。この突起物、ボタンって言うんだけど、これを押せば、外の様子が見られる」
「ボタンって奴に、何か書いてあるな」
「王宮ってボタンを押せばその様子が見られる。レイの実家って奴を押せばその様子が見られる。試しに押してみてごらん」
 試しに、アルカトラズ国というボタンを押してみる。
「ほら、画面にアルカトラズ国が移った。どうやら王様が三十歳になった誕生日をやっているようだね。時間は朝の九時くらいかな」

「三十歳? 馬鹿な? 私たちがここに来て、一年以上経っているはず。私たちがここに迷い込んだ時、王の年齢は三十歳目前。時期が合わない」
 リリーがテレビを食い入るように見つめる。

「そうだね。君たちは一年くらいここで生活している。でも外の世界では一週間も経っていない。時間経過が違うんだ」
「何だと!」
 リリーの目が点になる。ルシーは肩を竦める。
「老衰で死ぬなんて興ざめだろ? だから時間を操作していたのさ。ただし、今日一日だけ、外と同じ時間の流れにする。今日一日だけだから、家族の様子でも見てくれ。そして元気に地下1000階を目指してくれ」
 ルシーはぐっと親指を立てると、笑いながら影になって消えた。

「可愛い奴だ。できれば、戦いたくないな」
 笑いながら三人に顔を移す。三人は複雑そうな表情で、テレビを見つめていた。
「せっかくだ。外の様子を見てみよう」
 適当にボタンを押す。

「あ! 私が行ってた学校だ!」
 ローズはテレビを穴が開くほど凝視した。
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