迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き

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チートのチの字も発揮できませんでした!

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 地下9001階へ下りる。目の前には日差しに照らされた森が広がる。振り返ると階段はすでに跡形もなく消滅していた。
「俺たちが下りると階段が消える。よく考えると、全王の腹の中だと実感できるな」
「私たちがどこに居るのか分かってないとできない。こんなの私でもできない」
 ローズたちと一緒に今更ながら、全王の力の片りんに背筋が凍る。

 ルシーの言葉を思い出す。
 全王の力を舐めてはいけない。
 だから全王の味方であるフロアマスターを侮ってはいけない。
 全王の僕であるタケルも、侮ってはいけない。

「少し、緊張感が足りなかったな」
 ローズたちと目配せして気合を入れなおす。

「どうしたんだ? 怖い顔して? 笑顔笑顔! お前たちはにっこり笑ってるほうが似合ってるぜ!」
 タケルが気さくな笑みで背中を叩く。

「気を使ってくれてありがとう。ただ単に、油断しすぎだと諫めていただけだ」
「油断? お前たちは強いんだ! 肩の力を抜けよ!」
「いや、全王は強い。だからその仲間たちもあり得ない力を隠し持っているはずだ」
「え? いや、確かに普通の人間じゃあり得ない力を持っているけどお前たちに勝てるような奴らじゃ」
 タケルの声が小さくなっていく。

「気遣いありがとよ」
「いや、少しは油断してくれないとあいつらがカワイソすぎるでしょ」
 タケルが焦ったように色々言っているが、さすがに無視する。

「あのね? 聞いて? マジで? あいつらはクトゥルフ神話の神性クラスには手も足も出ないの。気配を感じ取る前に死んじゃう虚弱体質なの。それを倒してきた君たちに勝てるはずないでしょ。慈悲の心ってものがあるならもう少し手心が欲しいんだけど」
「油断させようとしても無駄だぜ」
 タケルの思惑が分かったので表情が固くなる。

「油断させる?」
 タケルがパチパチと目を瞬かせて惚ける。全く、迫真の演技だ。

「私たちを油断させて、フロアマスターに寝首をかかせる魂胆なのでしょう。演技が上手いですね」
 チュリップがタケルを睨む。

「全く、たった一日でお前が敵であることを忘れてしまった」
 リリーが魔法の剣を作り出す。

「うーむ! 正直私はタケルが敵だと忘れていた! 凄い!」
 ローズが唸りながら力を両手に集める。

「ちょ! ちょ! 待った待った! 止めてくれ! 俺が悪かった! だから落ち着いてくれ!」
 タケルが両手を上げて降参する。

「お前は飯や服を奢ってくれた恩人だ。ただ、こうしてはっきり言っておかないと、お前に騙されちまう。それはさすがに嫌だからな」
 タケルに人差し指を向けてけん制する。それに合わせてローズたちが殺気を引っ込める。

 これで気持ちを引き締めることができた。タケルには悪いが、騙されてあげる訳にはいかない。こっちも命がかかっている。

「出発しよう。西の王宮にフロアマスターが居る」
「ちょっと待って! 何で分かったの!」
 タケルが大声を出すと、ローズたちは眉を顰める。

「私たちが来た瞬間、緊張した人が王宮に居たよ? 私たちが来て緊張するなんてフロアマスター以外居ないよ」
「え、あ……うん。でもよく分かったね。こっから100キロ、東京都から静岡県の熱海市くらい離れているのに」
 たとえはよく分からないし、なぜ驚いているのかも分からない。

「普通分かるだろ?」
 ローズたちと顔を見合わせる。

 タケルはポンと手を叩く。
「そっか。地下迷宮って地下3000階から地球の面積超える広さになるんだった。そこで敵の気配を探って進んでいたのならできないほうがおかしいな。というか地下1000階から日本列島の面積なんだよな……ヤバいな。そんな気配察知できるような奴なんて居ねえよ」

「ごちゃごちゃ言うと置いて行くぞ?」
 ブツブツ呟くタケルの肩を突く。
 その間にローズが呪文を唱える。
「じゃ行くよ。時間魔法、タイムストップ」

「何で時間停止! そんな使わなくても楽勝でしょ!」
「うるさいうるさーい!」
 先手必勝! 足に力を込めて地面を蹴る!

 地面が爆発した。

「何だ! 敵か!」
 顔に纏わりつく土煙を払いながら辺りを警戒する。

「君たち! 自然を労わりなさい! そんなロケットエンジンを点火させるような真似はしないで! あーあ! 山がはげ山になっちまった!」
 確かに森が消し飛んで、後ろにあった山々が消えていた。

「想像以上にもろいな」
 これでは全力が出せない。そう悩んでいるとタケルがなぜか涙を流していた。

「君たち! 昨日言ったよね! 異世界には罪のない大勢の市民が居るの! そういう人たちに迷惑をかけない! せめてそうやって進もう! ね!」
「油断すると寝首をかかれる」
 リリーたちは腕を組んでタケルを睨む。タケルは頭を抱えて蹲る。

「大丈夫か?」
 何だか可哀そうになったので背中を摩る。

「大丈夫……ただこれから起こる惨劇に眩暈がしただけだから」
 タケルは立ち上がると肩を落としたまま歩く。
 その姿はあまりにも哀れだった。

「お前ら、加減して進もう。タケルが可哀そうだし、人に迷惑がかかる」
 ローズたちはタケルの背中を見て頭を掻く。

「分かった……面倒だけど」
 とりあえず、加減して進むことになった。

「だが、敵と出会ったら加減はできないぞ」
 リリーは鋭い目つきで断言する。

「分かっている。相手は全王の手下だ。油断したら殺される」



 時を止めた状態でフロアマスターの前に立つ。
「止まってる!」
 ローズたちは玉座に座る青年をまじまじと見る。

「この人も時間軸に支配されてるみたい」
 ローズは気の毒そうに青年の頬を突く。

「敵に情けなど必要ない」
 リリーは腰を落として抜刀の構えに入る。

「ちょっと君たち加減して」
「タケル、さすがに怒るぞ? 俺たちは命がけだ」
「不老不死のくせに何が命がけだ!」
「不死身でも死ぬぞ?」
「普通の人間だと何言ってるのか分からないね」
 本当にうるさい奴だ。

「時間動かすよ! 時間魔法! タイムスタート!」
「ちょっと待って! 時間を動かすなら殺気を収めろ!」

 ローズが時間を動かした瞬間、ボン! とフロアマスターの胸から爆発音が鳴り、フロアマスターの全身の穴から血が噴き出た!

「何が起こった!」
 血の海に沈むフロアマスターに目が点になる。

「だから言ったのに!」
 タケルはフロアマスターの胸に耳を当てる。

「戦いが始まる前に! すでに! ご臨終です! チートのチの字も発揮できませんでした!」
 タケルは全身から汗を噴出させて、手を合わせた。



「君たちの殺気は即死級の猛毒なの。普通の人間なら恐怖で心臓が破裂するほど血圧が上昇しちゃうの。脳みそは恐怖で壊死しちゃうの。おまけに殺気だから殺戮範囲は目を覆うくらい広いの。海を超えた先の先、星の裏側まで。この星の生物が死滅したよ。化け物だね。メデューサは可愛い奴だってよく分かるね」
 地下9002階へ続く階段でタケルが怒る。

「気づいていないようだけど、君たちが戦った迷宮の化け物は並みのチートじゃ瞬殺されるくらい強い。だから君たちは自重すべきだ」
「何で怒ってんだよ?」
「怒るに決まってるだろ! あいつは色々と沢山のチートを駆使して世界を救った英雄だ! それが戦いもせず突然死なんて可哀そうでしょ!」

「時間を巻き戻したから生きてるよ?」
「ローズさん? 時間を巻き戻しても死んだことに変わりはありません。命は大切にしましょうね」

「敵に情けなど不要だ!」
「リリーさん? 弱い者いじめって言葉知ってますか? 手足がもげて半死半生のシロアリに核ミサイルを撃ち込むようなことをして酷いと思いませんか?」

「結局、あなたは何が言いたいのですか?」
 チュリップがめんどくさそうにため息を吐く。

「手加減してほしい。本当にそれだけだ! 蹂躙するのは良いが戦いもしないのは見ても詰まらない!」
 タケルは土下座して、額をレンガ造りの床にこすり付ける。

「まあ、俺自身、フロアマスターだけじゃなく、一般人も死なせてしまったのは不味いと思う」
「だよな!」
 立ち上がるとぐっとガッツポーズする。

「でも十分手は抜いた。これ以上は無理だ」
「そこは心配いらない! 力を抑える魔法を使えばいい!」
「そんなのがあるのか?」
「あるんですよ! さあ! 教えるから遠慮せず力を抑えろ!」
「それだと殺されるだろ」
「お前らは不老不死だろ。それだけでも十分チートだっつうの!」

 それからしばらく押し問答したが、結論として、被害を抑えることを優先することになった。
 だから仕方ないのでタケルに力を抑える魔法を教わる。もちろん解除の仕方も教わる。
 試したところ、力は抑えられたし、解除も簡単にできた。

「これでいいか?」
「十分十分! さあ次の階層に行こう!」

 タケルは上機嫌だが俺たちはげんなりしている。

「疲れる……俺たちが何をした?」



 レイたちから少しだけ視線を外し、地下9001階のフロアマスターへ視点を移す。
「あなた! どうしたの!」
「呪いだ!」
 フロアマスターが座る謁見の間は恐怖で混沌としていた。
 原因は王であるフロアマスターの姿だ。
 フロアマスターは元気はつらつの青年だった。
 それが突然、白髪の老人と化していた。

「ばけものだ……」

 地下9001階のフロアマスター、異世界の英雄にして、転生者として想像できるありったけのチートを得た若者は、レイたちと出会った瞬間、百歳近く歳を取った。
 それがなぜかは、対峙したフロアマスターにしか分からない。

「かてるはずない……あんなばけものに……」
 フロアマスターは玉座で体を丸めて何度も呟く。

「さいきょうだったはずなのに……」
 フロアマスターは涙を流し続ける。

「あなた……」
 王妃はフロアマスターを呆然と見つめる。

 誰が見ても分かる。
 異世界を救った英雄は、一瞬にして廃人となってしまった。

「かてない……あいつらにはかてない……」
 フロアマスターは何度も何度も呟く。

 悪夢を否定するように。
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