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都市国家プリズムへ

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 四輪駆動のジープの中でインスタントコーヒーを飲む。
「狂兄どうしたの? もう一時間も休憩してるよ?」
 助手席に座る舞が退屈そうに、頭を膝の上に乗せてきた。
「まだ十キロも走っていない。地図によるとこの先険しい山道や荒野を走る。そろそろ出発したほうがいいんじゃないか?」
 気の長いサテラもさすがに苛立つ。
「分かった。もうこれ以上待っても仕方ないだろうし、出発しよう」
 エンジンをかけるとジープはブルブルと退屈さを振り払うように振動する。クラッチとギアを操作してアクセルを踏む。鋼鉄の心臓が鼓動し、勢いよく草原をかける。
「きょうちゃん? さっきは何があったの?」
 後部座席の静流が首に手を回してきて、耳元でつぶやく。くすぐったい。
「お前らには言わなかったが、今朝、出発前にワープ能力者がアルカトラズに来ていた。だから一波乱あるかと待ち構えていたんだが、杞憂だったようだ」
「え!」
 もちろん全員驚く。
「な、なんで言ってくれなかったんだ!」
 サテラが耳元で叫ぶ。うるさい。
「そう喚くな」
 ギアをローに落とす。草に覆われた草原の大地は予想以上にタイヤを滑らせる。
「お前らに伝えたら大騒ぎだ。そうなったら気づかれて逃げられる」
「そ、それはそうだが」
「でも、狂兄だったら一瞬で捕まえられたんじゃない?」
「俺の能力ならな。だが、奴には殺気が無かった。警戒心も薄かった。非常に奇妙だ。観光に来たみたいな雰囲気だった。だからしばらく泳がせた。そして俺が出発した瞬間、気配を消した」
 うねる大地は想像以上にタイヤと相性が悪い。到着は夜になるだろう。
「正直何のために来たのかさっぱり分からん。だがアルカトラズに来て、俺を監視していた以上、管理者のためだろう。そう思って、あそこで網を張っていた。だが網にはかからなかった。管理者や軍隊はもちろん、ゴロツキも騒いでいない」
「ふーん。それは気になるね」
 舞がゴロゴロと猫のように股間にすり寄る。
「んふ。エッチな臭い」
 舞がさわさわと股間を触る。
「運転中だ。あとにしろ」
「もう我慢できなーい」
 舞は口でジッパーを開けるとチロチロと鈴口を舐める。
「全く、こらえ性のない雌ガキだ」
 仕方ないのでチンポを引っ張り出す。舞は大きく口を開けてフェラチオを始める。アクセルワークの難易度が上がった。衝撃で噛みつかれては興ざめだ。
「でも、逃がしてよかったの? ワープ能力者を捕まえるのが現状の目的じゃない?」
 静流が最もなことを言う。
「そうだ。俺の力を使えば難なく捕まえられただろう。だが大きな問題があった」
「問題?」
 静流が首をひねる。
「ワープ能力者は幼女だった!」
「お前は何を言っているんだ?」
 サテラがひきつった笑いを浮かべる。
「重要な問題だ! 幼い子供を殺しても面白くない! 幼女なんてもってのほか! ならば犯すのは? それもダメ! 見たところあいつの食い頃は五年後! おまけにあのクリクリのお目目! 社会を知らねえって証拠だ! もう少し世界を見なくちゃいけねえ年頃よ」
「全く意味が分からないな? 目的はワープ能力者を捉えることだろ! どうして犯すとかそっちの話になる!」
「女は犯す。それが俺の流儀だ」
「もういい。勝手にしてくれ」
 サテラが不貞腐れて足を組み、外の景色を眺める。
「舞、そろそろうっとおしくなったから、ささっと終わらすぞ」
「ぐも!」
 舞の頭を掴んでオナホールのようにチンポを扱く。
「出るぞ。飲め」
 ドクっと喉の奥に放出する。
「これで満足しただろ」
 全部出し終えると邪魔になった舞を助手席に押しのける。
「いひ! おいひい」
 舞は満足そうに口の中の精液を味わう。いい感じのアホ面だ。出したのにまたやりたくなった。しかしやりだすと到着が明日になるので我慢する。
「飛ばすか」
 アクセルを踏み込む。タイヤが滑るが腕でカバーする。
 まだ十五キロも進んでいない。夜になる前に着かないと、面倒ごとに巻き込まれそうだ。

「荒野だ!」
 二時間ほど運転すると、サテラが興奮したように言う。
「いよいよ半分だ」
 地図を見直す。ここからさらに道が険しくなる。
「舌を噛むなよ」
 ガタンと草原から荒野に降りると地震のように車体が揺れる。
「こ、これはキツイ!」
 サテラが口を押える。
「エチケット袋はあるから心配しないでね」
 静流がエチケット袋をサテラに手渡す。サテラは何も言わず、エチケット袋に顔を突っ込む。
「でも、不思議だね。草原と荒野があんなにくっきり別れてるなんて」
 舞は窓から首を出して言う。砂埃が車内に入ってきてムカつく。
「舞、窓を閉めろ。俺を窒息させるつもりか」
「うーん。閉めてもいいんだけど、たぶんまた開けることになると思うよ?」
 バックミラーとサイドミラーを見る。ヘッドライトの光が見えた。
「ほう? 俺の監視をかいくぐるとは、小癪な奴らめ。褒めてやろう」
 土の中か、洞窟に身を潜めていたか。いずれにしろ、能力に頼りすぎた。
 電気を駆使した探知能力は集中すれば百キロ先の囁き声も見逃さない。だが、絶縁体に包まれると無駄なようだ。勉強になった。これからは以前のように殺意も感じ取るように集中しよう。
「きょうちゃん、あいつら、象用のハンティングライフルやガトリングガン持ってるよ」
 過剰火力だ。こんなジープなんぞ一分で廃車確定だ。
「まさか、管理者の刺客か?」
 サテラが不安げに聞く。
「それは無い。もしそうなら、先制攻撃されている」
「じゃあただのヒャッハーな連中? その割には凄い装備ね」
「プリズムに近づいた証拠だ。ヘクタールが警戒するのも分かる」
 速度を上げてみるが、タイヤが土に取られてほとんど効果はない。半面、奴らの車は特別性なのだろう。ぐんぐんと迫ってくる。
「乗り換えるか」
 車を止める。
「サテラ、静流、舞、俺から離れるな。奴らの装備を奪うから、無茶をするな」
「わ、分かった!」
 サテラが腕に絡みつく。
「それだと動けないだろ」
「す、すまない」
「サテラちゃん! 私たちと抱き合おう!」
「ぎゅー!」
 静流と舞がサテラを抱きしめる。いい女だ。悲鳴を上げられるよりずっといい。
「さてさて。殺気は十分! どんな挨拶をしてくれるのかな?」
 胸が高鳴る! やはり殺しは、殺気を持った奴とやりあうのが一番だ!

 二台の装甲車と三台のバイクから十人の男が現れ、インタビューマイクのごとく銃を突きつける。
 獲物はマシンガン、アサルトライフル。アルカトラズでは作れない代物ばかりだ。
「潔い奴らだ」
 大柄で体中に銃創を刻む男が前に出る。こいつらのボスだ。
「要件は何だ?」
「荷物と車を寄越せ。そうすれば命だけは助けてやる」
 ぺろりとボスはサテラたちに舌なめずりする。
「あと女も置いていけ」
「断ったら?」
「鉛玉でお前の体重が増えることになる」
「そいつは困るな。これでもダイエットには気を使っていてね」
「口の減らねえ奴だ」
 ボスは俺の足元にマシンガンを連射する。連射したら反動でブレが生じるはずなのに、狙ったところに当てやがった。腕がいい証拠だ。
「次は当てるぜ」
「こいつは怖い。心臓がドキドキしてきたぜ」
 ポケットに手を入れる。男たちが指先に力を込める。
「動くな。言われなくちゃ分からねえほど頭が悪いのか?」
 ボスが苛立つ。無視する。
「ゲームをしないか?」
「ゲームだと?」
「ああ。西部劇みたいに、早打ち勝負。このコインが地面に落ちるのが合図だ」
 ポケットからコインを取り出し、男たちに見せる。
「正気か?」
「大まじめだ」
「は! たまには余興も必要か」
 ボスは男たちを見る。男たちは指をトリガーにかけたまま下がる。
「お前が勝ったら、褒めてやるよ」
 ボスは余裕の笑みを浮かべて、ホルダーのハンドガンに手をかける。
「できれば景品が欲しいね」
 同じようにホルダーのハンドガンに手をかける。
「行くぜ」
 コインを投げる。その瞬間ボスが銃を抜く。狙いが定まる前にこちらも銃を抜き、引き金を引く。
 ドン! 一発の銃声でボスの銃を弾き飛ばす。
 ドン! 二発目の銃声でボスの額を打ち抜く。
「ルール無視! 大好きだぜ、そういうの」
 誉め言葉を投げかけると、ボスの体が荒野に倒れた。
「やるな! 眩暈がしたぜ!」
 そしてすぐ起き上がる。銃弾は頭蓋骨で止まっていた。
「身体能力の強化がお前の能力か? 単純だが、強力だ」
「そいつは違う。俺の能力は銃弾を操る能力だ」
「ほう! となるとその体の傷は、能力を鍛えるための特訓の成果か」
「そうだ。そしてさよならだ」
 ボスがマシンガンを向けたので、サイコキネシスを発動する。
 ボスの体は擦りつぶされ、血煙を上げて荒野のシミになった。
「ボス!」
「サイコキネシスだ!」
「撃て!」
 男たちが一斉射撃してきたので、銃弾を操作する能力を使ってみる。
「な!」
「銃弾が、空中で、止まった?」
 男たちが放った銃弾は、空気の壁にぶつかったかのように、空中で制止する。
「全部返すぜ」
 銃弾を操作し、男たちに発射する。
「ぎゃああ!」
 男たちは自ら放った弾丸で、ハチの巣となった。
「面白い能力を手に入れたね」
 様子を見ていた静流が笑う。
「面白いだけの曲芸だ」
 つられて笑う。
「でも、戦うか、犯すかしないと相手の能力が使えないのって、考えると不便だね」
 舞が唸る。
「だから楽しい。いい能力だよ」

 荷物をヒャッハーな連中の車に乗せて、ドアを開ける。
「うわ! なにこれ! 全然掃除してないじゃん!」
 舞が顔をしかめる。埃とアルコールと小便のシミで座席は汚れている。サイドボードには薬と注射器が転がっている。
「我慢しろ。これからの道のりはこいつじゃないと不便だ」
「こんなんじゃエッチできない!」
 静流がぶうぶうと文句を垂れる。
「プリズムに着いたらすぐに風呂に入ろう!」
 サテラは汚物に足を突っ込むかのような表情で乗り込む。
「我慢しろ。装備はもらったし、精巧な地図も手に入れた」
「分かったから早く出発しよ!」
 舞は歯を食いしばって助手席に座る。
「文句の多い連中だ。俺はワクワクしてるのに」
「何でだよ」
 サテラが不機嫌に言う。
「これを見れば治安の悪さなど一目瞭然。どんな殺しができるか、想像するだけで勃起する!」
「言っておくけど! いくらきょうちゃんでもこの中じゃやらないからね!」
「どうしてもやるなら舌噛んで死ぬから!」
「もしレイプしたら恋人は解消させてもらうぞ!」
「やかましい奴らだ!」
 アクセルを吹かす。
「待ってろよプリズム! 皆殺しにしてやるからな!」
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