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アルカトラズの崩壊
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罪の墓場は、罪を犯したもののみが存在する異世界である。その世界には神の代行者を名乗る神が居て、その下に百人程度の管理者が居る。
管理者は都市国家の運営、および国民の教育を命じられる。神を敬うようにすることを命じられる。
これは代行者が罪の墓場に罪びとを送る際に言った言葉と反することである。
だが管理者はその疑問を問いただすことは許されない。
神を問いただすなど、神を敬っていない証拠である。
それが管理者の弁である。
なお、管理者はすべて、この世界に送られた罪びとである。
なのになぜ管理者と選ばれたのか、それは分からない。
代行者は神である。質問は許されない。
ただ任務を遂行するだけである。
それはそれとして、代行者が任命するだけあり、管理者は非常に強力な能力を持つ。
アルカトラズの王、ヘクタールは時を支配する能力を持っている。
別の都市国家の管理者であるサニーは風を支配する能力を持っている。
別の都市国家の管理者であるラーグは雷を支配する能力を持っている。
このように、管理者は神のごとき力を持つ。
世界最恐にして最強の犯罪者、狂太郎はその能力を我が物にする能力を持つ。
神の能力さえも物にする。
まさに、神の冒涜者であった。
「行くぜ!」
狂太郎がラーグに突撃する。
「雷神! 光速移動!」
瞬きする間もなく、ラーグが狂太郎の背後に回る。
「雷神剣! ボルトマックス!」
狂太郎の胸をラーグの雷神剣が貫く。さらに閃光が迸り、狂太郎の体が電圧で焼きただれる。
しかし狂太郎は唱える。
「雷神! 降臨!」
突如狂太郎の体が雷と化し、ラーグの攻撃を吸収する。
「こいつ! 俺ができないことをたやすく!」
「食らいな!」
雷と化した拳がラーグの頬を叩く。
「ぐはっ!」
ラーグの体が電気で痙攣しながら吹っ飛び、壁にめり込む。
「きょうちゃん凄い! さすがきょうちゃんだよね! 皆もそう思うでしょ!」
ハーレムの一員である静流が手を叩いて喜ぶ。
「あの三人の慌てよう。どうやら狂太郎は三人の能力を模倣したのではなく、使いこなせるようになったってことか」
ハーレムの中で一番戦闘に詳しい薫が唇を噛む。
「使いこなせるようになった? どういうこと?」
不安げに見ていた、狂太郎の恋人、サテラが聞く。
「能力を奪い取る能力とか、真似る能力は見たことある。だがすべて盗んだ相手、真似た相手を超える能力は使えない。だが狂太郎は明らかにあの三人を超える能力を使っている。あれは、持ち主以上に、完璧に能力を使いこなせている証拠だ」
「盗んだんじゃなくて、真似たわけでもなく、ただ、使いこなせるようになった?」
「もともと使えた能力に気づいたのか、区別は難しい。ただ、一つだけ確かなのは、狂太郎は戦えば戦うほど、犯せば犯すほど強くなる能力を持っている。戦った相手、犯した相手の能力を使いこなせるようになる」
「もうあいつらに勝ち目はないね! やった! きょうちゃんの大勝利!」
薫が深刻な表情で居るのに、静流は暢気に応援していた。
「風神! エアアーマー! 風速100!」
突如大嵐が会場を襲い、サニーの体を覆う。
「なんとまあ、会場の人間を皆殺しにするつもりか? 息が合うな!」
狂太郎は唱える。
「時よ止まれ!」
時間が停止する。
「サニー! 右をガードーしろ!」
唯一時が止まった世界で狂太郎の動きを認識できるヘクタールが叫ぶ。
だがサニーはなす術なく吹っ飛ばされる。
「こんなもんか? こんなもんじゃねえよな!」
「空間神! ゲートオープン!」
会場に誰かの声が響くと、ヘクタール、サニー、ラーグの周囲が歪む。
「逃げる気か!」
狂太郎が叫んだ頃には、三人の姿は消えていた。
「くそったれ!」
一人残された狂太郎は歯ぎしりする。
「何やってんだあいつら! 三人でしっかり殺しにくれば勝ち目はあった! なのになぜ逃げる!」
狂太郎は歯ぎしりを止めるとくつくつと突然笑いだす。気が狂っている。
「そうかそうか! 特訓か! あの三人! いや、何人居るか知らねえが、仲間とともに俺を殺すための特訓をするつもりだ! より良いコンビネーション! さすがの俺もその時は死ぬ! 最高に楽しみだ!」
雷の鎧が狂太郎を包む。
「とはいえ、やる気が無くなるかもしれない。ならば、強制的にやる気が出るようにするしかない」
狂太郎が観客席を睨む。雷鳴が激しくなる。
「お、おい! 狂太郎の奴、なんでこっちを睨んでいるんだ!」
「ま、まさか! 私たちを殺す気じゃ!」
観客たちが怯える。
「あいつらは管理者。代行者に国民の管理を任されている。ならば、国民の半分も殺されれば、黙ってはいられないよな!」
狂太郎の右手に雷が集中する。狂太郎はそれを観客席に向ける。
「殺す気だ!」
観客が逃げ惑う。
「止めろ!」
サテラが狂太郎を抱きしめる。
「もう終わったんだ! お前の勝ちだ! だからこれ以上自分を痛めつけるな! 誰もお前を傷つけない! だから安心してくれ! もう終わったんだ」
サテラの体は狂太郎が発する雷で焼けている。それでもサテラは狂太郎を離さない。
「冗談だよ、サテラ」
狂太郎の体が脱力し、雷が止む。
「ただ……今日は疲れた」
「ああ、ゆっくり休め」
狂太郎が崩れ落ちると、サテラが支える。
「狂……私はお前が好きだ。だから、絶対に、間違いを犯させない。今度こそ!」
サテラは眠る狂太郎を抱きしめて、泣いた。
「ヘクタール様が負けた」
「この国は終わりだ」
観客の危機は去った。だが観客は逃げる。狂太郎から逃げる。
この日、アルカトラズの王、ヘクタールは敗北し、姿を消した。
「誰がこの国を纏めるんだ?」
誰かが絶望に嘆いた。
この日、罪の墓場の中に存在する都市国家、アルカトラズが崩壊した。
管理者は都市国家の運営、および国民の教育を命じられる。神を敬うようにすることを命じられる。
これは代行者が罪の墓場に罪びとを送る際に言った言葉と反することである。
だが管理者はその疑問を問いただすことは許されない。
神を問いただすなど、神を敬っていない証拠である。
それが管理者の弁である。
なお、管理者はすべて、この世界に送られた罪びとである。
なのになぜ管理者と選ばれたのか、それは分からない。
代行者は神である。質問は許されない。
ただ任務を遂行するだけである。
それはそれとして、代行者が任命するだけあり、管理者は非常に強力な能力を持つ。
アルカトラズの王、ヘクタールは時を支配する能力を持っている。
別の都市国家の管理者であるサニーは風を支配する能力を持っている。
別の都市国家の管理者であるラーグは雷を支配する能力を持っている。
このように、管理者は神のごとき力を持つ。
世界最恐にして最強の犯罪者、狂太郎はその能力を我が物にする能力を持つ。
神の能力さえも物にする。
まさに、神の冒涜者であった。
「行くぜ!」
狂太郎がラーグに突撃する。
「雷神! 光速移動!」
瞬きする間もなく、ラーグが狂太郎の背後に回る。
「雷神剣! ボルトマックス!」
狂太郎の胸をラーグの雷神剣が貫く。さらに閃光が迸り、狂太郎の体が電圧で焼きただれる。
しかし狂太郎は唱える。
「雷神! 降臨!」
突如狂太郎の体が雷と化し、ラーグの攻撃を吸収する。
「こいつ! 俺ができないことをたやすく!」
「食らいな!」
雷と化した拳がラーグの頬を叩く。
「ぐはっ!」
ラーグの体が電気で痙攣しながら吹っ飛び、壁にめり込む。
「きょうちゃん凄い! さすがきょうちゃんだよね! 皆もそう思うでしょ!」
ハーレムの一員である静流が手を叩いて喜ぶ。
「あの三人の慌てよう。どうやら狂太郎は三人の能力を模倣したのではなく、使いこなせるようになったってことか」
ハーレムの中で一番戦闘に詳しい薫が唇を噛む。
「使いこなせるようになった? どういうこと?」
不安げに見ていた、狂太郎の恋人、サテラが聞く。
「能力を奪い取る能力とか、真似る能力は見たことある。だがすべて盗んだ相手、真似た相手を超える能力は使えない。だが狂太郎は明らかにあの三人を超える能力を使っている。あれは、持ち主以上に、完璧に能力を使いこなせている証拠だ」
「盗んだんじゃなくて、真似たわけでもなく、ただ、使いこなせるようになった?」
「もともと使えた能力に気づいたのか、区別は難しい。ただ、一つだけ確かなのは、狂太郎は戦えば戦うほど、犯せば犯すほど強くなる能力を持っている。戦った相手、犯した相手の能力を使いこなせるようになる」
「もうあいつらに勝ち目はないね! やった! きょうちゃんの大勝利!」
薫が深刻な表情で居るのに、静流は暢気に応援していた。
「風神! エアアーマー! 風速100!」
突如大嵐が会場を襲い、サニーの体を覆う。
「なんとまあ、会場の人間を皆殺しにするつもりか? 息が合うな!」
狂太郎は唱える。
「時よ止まれ!」
時間が停止する。
「サニー! 右をガードーしろ!」
唯一時が止まった世界で狂太郎の動きを認識できるヘクタールが叫ぶ。
だがサニーはなす術なく吹っ飛ばされる。
「こんなもんか? こんなもんじゃねえよな!」
「空間神! ゲートオープン!」
会場に誰かの声が響くと、ヘクタール、サニー、ラーグの周囲が歪む。
「逃げる気か!」
狂太郎が叫んだ頃には、三人の姿は消えていた。
「くそったれ!」
一人残された狂太郎は歯ぎしりする。
「何やってんだあいつら! 三人でしっかり殺しにくれば勝ち目はあった! なのになぜ逃げる!」
狂太郎は歯ぎしりを止めるとくつくつと突然笑いだす。気が狂っている。
「そうかそうか! 特訓か! あの三人! いや、何人居るか知らねえが、仲間とともに俺を殺すための特訓をするつもりだ! より良いコンビネーション! さすがの俺もその時は死ぬ! 最高に楽しみだ!」
雷の鎧が狂太郎を包む。
「とはいえ、やる気が無くなるかもしれない。ならば、強制的にやる気が出るようにするしかない」
狂太郎が観客席を睨む。雷鳴が激しくなる。
「お、おい! 狂太郎の奴、なんでこっちを睨んでいるんだ!」
「ま、まさか! 私たちを殺す気じゃ!」
観客たちが怯える。
「あいつらは管理者。代行者に国民の管理を任されている。ならば、国民の半分も殺されれば、黙ってはいられないよな!」
狂太郎の右手に雷が集中する。狂太郎はそれを観客席に向ける。
「殺す気だ!」
観客が逃げ惑う。
「止めろ!」
サテラが狂太郎を抱きしめる。
「もう終わったんだ! お前の勝ちだ! だからこれ以上自分を痛めつけるな! 誰もお前を傷つけない! だから安心してくれ! もう終わったんだ」
サテラの体は狂太郎が発する雷で焼けている。それでもサテラは狂太郎を離さない。
「冗談だよ、サテラ」
狂太郎の体が脱力し、雷が止む。
「ただ……今日は疲れた」
「ああ、ゆっくり休め」
狂太郎が崩れ落ちると、サテラが支える。
「狂……私はお前が好きだ。だから、絶対に、間違いを犯させない。今度こそ!」
サテラは眠る狂太郎を抱きしめて、泣いた。
「ヘクタール様が負けた」
「この国は終わりだ」
観客の危機は去った。だが観客は逃げる。狂太郎から逃げる。
この日、アルカトラズの王、ヘクタールは敗北し、姿を消した。
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