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万年樹の森のモンスターと仲よくしよう!
蜂人、ハチ子
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万年都の建設は怖いほどに順調だった。
パンは嫌というほど食べられるし、近くの水源から水を引いたので紅茶も飲み放題だ。洗濯もちゃんとできるし、家も簡易的な小屋がいくつも立っている。
立派な町だ。
万年樹の育成も順調で、挿し木はすくすくと育っている。
一番成長の良い樹は高層ビルくらいの高さになった。
挿し木は続けていて、ザックさんとバードさんの見立てでは一年ほどで第二の万年樹の森が完成する。
皆の頑張りが実る様子を見るのはとても楽しい。
何より皆の笑顔が嬉しい。
町の人たちは毎日笑顔で暮らしている。
他の村や町から、有り余る小麦を調味料や野菜、肉と交換して貰っている。
だから小麦のお酒やケーキ、パイが毎日町に並ぶ。
小麦を家畜の餌にしたら、家畜はすくすく育っているようで、毎日美味しそうなお肉が広場で焼かれる。
ザックさん、バードさん、アマンダさん、シスターはこの様子を見て、天国みたいだと言った。
飢えに怯えない暮らしほどありがたいものは無いという。
皆がお腹いっぱい食べている様子は見ているだけで楽しく、笑顔になる。
だけど良いことばかりではない。
万年樹の森の支配者の一種、虫人の蜂人が姿を見せるようになった。
始めはネズミやトカゲだった。彼らは畑の作物を食べに来た。
それは問題なかった。きな子がお腹いっぱい食べられる。
「ようやく食事にありつけた」
きな子は熊よりも大きなネズミやトカゲを頭からガリガリ食べる。よほどお腹が空いていたのか、始めの数日で数百匹も食べた。
きな子のお腹が膨れたのは良いことだ。
しかし、しばらくすると、きな子も恐れる虫人の一種、蜂人が現れた。
彼らは配下に大小の蜂を連れて町を襲った。
それはきな子の咆哮と、赤子さん、スラ子の一睨みで撃退した。
「また来るぞ」
赤子さんは不愉快そうに逃げる蜂人の背中に吐き捨てる。
赤子さんの予想通り、蜂人は次の日に再び姿を見せた。
最初と違って、遠目から観察する。
ブンブンと配下の蜂たちに羽音を鳴らせるだけで近づかない。
赤子さんとスラ子が苛立って一歩進むと一歩下がる。
それだけだ。
「ムカつく……」
スラ子が頬っぺたを膨らませても事態は変わらない。
蜂人は付かず離れずという具合に万年都を取り囲む。
「ゼロ……どうにかできないか?」
数日も経てば、町の人は羽音で眠れないほどの騒ぎとなった。
「不味いな……」
今もなお鼓膜が羽音で震える。万年都は巨大蜂に包囲されている。
「殺してしまおう」
「ウザい……」
赤子さんとスラ子は蜂人が近づかないように町の中心となる樹の天辺でけん制する。
「あいつらは数の暴力で攻める。本気を出したら私でも守り切れない」
きな子とオオカミたちは瞳を細めて、昼夜問わず万年都を見回る。
「話し合いたいけど、肝心の蜂人が近づかない。取り囲むのは配下の巨大蜂だけ。あいつらは蜂人の言いなりだ」
赤子さんとスラ子の隣で、自動車と同じ大きさのスズメバチを睨む。
「テキ、テキ」
巨大スズメバチは羽音と歯音を奏でながらけん制する。ブンブン、バチバチと嵐のような騒音で耳が痛い。
「話がしたい! だから返事をしてくれ!」
何度も呼びかけるが返事は無い。羽音と歯音の暴風にかき消される。
「巨大スズメバチを退かす必要があるなぁ……」
数度呼びかけた後、うんうんと赤子さんとスラ子の隣で、月明かりの下で悩む。
「……そうか。僕はモンスターの言葉が話せる。なら退くように命じればいい」
そう考えると、必死に巨大スズメバチに命令する蜂人の言葉を聞く。
「命じる前にガチガチと歯音を立てている」
これが巨大スズメバチに命令する合図と分かったので、それに類似する音を探す。
「ちょっと不格好だけど、これで良いか」
出来上がったのは特製の鉄製こん棒だ。中は空洞で、叩くと耳が痛いほど音が響く。
「良し!」
ガチガチ! と特製のドラムを叩いてお腹が痛くなるほど叫ぶ。
「退け!」
巨大スズメバチが一歩下がる。
「ススメ!」
ガチガチと音がした後の命令で、巨大スズメバチは一歩出る。
そこから退け、進めの応酬が始まる。
「退け!」
「ススメ!」
巨大スズメバチは僕と蜂人の声に踊る。
「……来た!」
朝になってお昼になるころ、ついに蜂人の一匹がブンブンと姿を現す!
「……ナカマ?」
お尻は蜂と同じく黄色い縞々の尻尾で毒針が見える。目はギョロギョロと複眼である。頭には触覚がある。手は四本あり、足は二本ある。胸が露になっていて膨らんでいることから女性と分かる。
「友達だよ」
アマンダさんに作って貰った樹液入りの特製肉団子を投げる。
蜂人は目に見えないほどの速さで投げた肉団子を掴むとバクリと食べる。
人のように口があるが、それは飾りだった。
獲物を捕食する時、顎が縦に割れてスズメバチと同じ構造の口となった。
「……オイシイ」
ベロベロと手に付いた汁を舐める。
「もっとあるよ」
今度は小麦粉と樹液を練り合わせた団子を放り投げる。
「オイシイ」
パクリと一口で食べる。
「これ上げる」
十樽はある団子を蜂人の前に広げる。
蜂人は羽音を止めると、屈んで団子の臭いを嗅ぐ。
「ナカマ?」
ギョロギョロと万華鏡のような瞳を輝かせて首を傾げる。
「仲間だよ」
笑顔でそれに答える。
「……ニオイ、ヘン」
首を傾げつつ、団子を一つ一つ拾う。
「ナカマ? テキ?」
そう言って蜂人は万年都から去っていった。
「上手く行ったな!」
様子を見ていたバードさんたちはホッと胸を撫でおろす。
「まだです。彼女は僕たちが敵かどうか判断している最中です」
バードさんたちに首を振る。
「なら、どうすれば?」
「話し続けるしかありません。今はとにかくご飯を用意してください。ご飯を用意すれば、敵とは思わなくなります」
「でも……あいつらのご飯を用意するのも大変なのよ」
「分かります。でも今は我慢してください。ここでご飯を用意できないと、今度は町の人々に狙いを定めます」
「怖いこと言うなお前は!」
バードさんたちは震えながらも沢山のご飯を用意する。幸い材料は捨てるほどある。後は作るのを頑張るだけだ。
次の日のお昼、同じ蜂人が姿を見せる。
「ナカマ?」
今度は巨大スズメバチで威嚇をしない。蜂人自らが現れる。
もちろん背後には数百数千の巨大スズメバチが羽音を鳴らしている。
「友達だよ」
同じようにご飯を差し出す。
「オイシイ」
一つ食べると配下の蜂を呼び寄せて、ご飯を持たせる。
「ナカマ?」
再び顔を傾げて去る。
「うっとおしい下等生物だ!」
「嫌い……」
赤子さんとスラ子が隣でギリギリと足を鳴らす。陥没するから止めて欲しい。
次の日も蜂人は来る。
「ナカマ」
地面に足を付けて現れる。羽音はしない。
「仲間で友達」
「トモダチ?」
首を傾げているがとりあえずご飯を与える。
「トモダチッテナニ?」
ついに向こうから質問が来た!
「仲間よりもっと凄い仲間!」
「ナカマヨリナカマ?」
団子をパクパク食べる。
「カゾク?」
一しきり食べて満腹になると傍に近寄る。
「家族だよ」
手を差し出す。
「テキ」
バクンと手を失う前に腕を引く。ガチンと歯音が虚しく響く。
「家族だよ」
さらに団子を蜂人の前に置く。
「カゾク」
蜂人は団子を無視して僕の周りをウロウロする。赤子さんとスラ子が苛立っているので振り向いて宥める。
「カゾク」
蜂人は安心したのか団子を拾うと、万年樹に張り付く。
「カゾク」
そして突然巨大スズメバチが集まり巣を作る!
「これは予想外だ」
どうやらこの蜂人は新たなる安住の地を探す女王蜂だったようだ。僕が家族と言ったため、それを真に受けて万年都のど真ん中に巣を作るつもりだ!
「ゼロ! どうなっている!」
虫よけの網を被るバードさんたちが姿を現す。
「どうやら万年都に巣を作るようです」
「ちょっと待て! それはヤバいだろ!」
バードさんたちは顔を青くして、樹に張り付く蜂たちを見つめる。
「彼らを追い払うことはできません。覚悟を決めて一緒に暮らしましょう」
「おい! 俺らが餌になるぞ!」
「数日猶予をください。その間に万年都の住人を食べないように教育します。その間はダンジョンに隠れてください。あそこなら蜂人は入ってきません」
「前途多難だ!」
「心配は分かります。しかし何とかして見ます。それに、彼らを仲間にすれば心強い。他の蜂人は入って来れませんから」
「ここで暮らす以上、あいつらと関わるしか選択肢は無いか」
バードさんたちはため息を吐いて引き上げる。
「仲良くなるか」
皆が去った後、一生懸命巣を作る女王蜂人を見る。
「名前はハチ子で良いか」
安直な名前だと思うけど、許して欲しい。
「ハチ子! こっち向いて」
赤子さんの力を借りて樹に上ると、巣作り中のハチ子に話しかける。
「ハチコ?」
クルリとこちらを見る。
「君の名前!」
「キミノナマエ?」
「僕はムカイ・ゼロ! よろしく!」
「ムカイ・ゼロ? ヨロシク?」
首を傾げるばかりだ。
「ハチ子」
名前を呼んでから餌を差し出す。
「ハチコ」
パクリと食べると黙々と巣を作る。
「ハチ子」
もう一度呼んで餌を与える。
「ハチコ」
再びパクリと食べる。
「ハチ子」
今度は餌を与えない。
「ハチコ」
クルリと振り向く。餌を探してキョロキョロする。
「ハチ子」
名前を呼びながら餌を差し出す。
「ハチコ」
餌を食べると巣を作る。
「また来るね」
「マタクル」
振り向いたので手を振って別れる。
ハチ子はずっと僕を見てくれた。
「しばらく続けるしかないか」
手ごたえはあるが、理解し合うのは先は長そうだ。
そう思っていたが、一日で話が変わる。
「巨大スズメバチが死んでる!」
巣の近くで仮眠を取っていると、バタバタと喧しい音で目が覚める。
辺りを見渡すと、巨大スズメバチが力なく地面に墜落していた。
「どうやら、兵隊蜂は女王が安住の地を築いたため用済みになったようだ」
きな子が唸ったので急いでハチ子の巣に入る。
「ゼロ」
ハチ子は卵を六角形の穴に一つずつ入れながら振り向く。
「ハチ子? 大丈夫?」
ハチ子は答えず、僕の周りに来ると触覚を動かす。
「ゼロ」
そう言うと黙々と卵を巣穴に収める。
こちらに警戒心を持っていない。
「ご飯、持ってくるね」
一生懸命卵の世話をするハチ子を後に、バードさんたちのところへ戻る。
「ハチ子は俺たちを受け入れたようだ」
ザックさんとバードさんが唸る。
「受け入れた?」
「あれほど居た巨大蜂が全滅した。これは俺たちがその代わりになると安心したからだろう」
ダンジョンの奥の湿った場所で紅茶を飲む。
「おそらく今育てている卵はハチ子の子供である蜂人だ。兵隊蜂は作っていない」
「ハチ子は子育てに専念している?」
「だろうな。餌付けできるかもしれない。ハチ子と卵だけなら私たちでも用意できる」
「餌付けと言うのは止めてください。彼女はペットではないです」
ニッコリと言い切る。
「お前には負けるよ」
苦笑して皆はダンジョンから万年都に戻る。
もう羽音はしない。
「ハチ子、頑張れ」
スヤスヤと巣の奥で包まるハチ子に笑いかける。
ハチ子は触覚を動かして答えてくれた。
パンは嫌というほど食べられるし、近くの水源から水を引いたので紅茶も飲み放題だ。洗濯もちゃんとできるし、家も簡易的な小屋がいくつも立っている。
立派な町だ。
万年樹の育成も順調で、挿し木はすくすくと育っている。
一番成長の良い樹は高層ビルくらいの高さになった。
挿し木は続けていて、ザックさんとバードさんの見立てでは一年ほどで第二の万年樹の森が完成する。
皆の頑張りが実る様子を見るのはとても楽しい。
何より皆の笑顔が嬉しい。
町の人たちは毎日笑顔で暮らしている。
他の村や町から、有り余る小麦を調味料や野菜、肉と交換して貰っている。
だから小麦のお酒やケーキ、パイが毎日町に並ぶ。
小麦を家畜の餌にしたら、家畜はすくすく育っているようで、毎日美味しそうなお肉が広場で焼かれる。
ザックさん、バードさん、アマンダさん、シスターはこの様子を見て、天国みたいだと言った。
飢えに怯えない暮らしほどありがたいものは無いという。
皆がお腹いっぱい食べている様子は見ているだけで楽しく、笑顔になる。
だけど良いことばかりではない。
万年樹の森の支配者の一種、虫人の蜂人が姿を見せるようになった。
始めはネズミやトカゲだった。彼らは畑の作物を食べに来た。
それは問題なかった。きな子がお腹いっぱい食べられる。
「ようやく食事にありつけた」
きな子は熊よりも大きなネズミやトカゲを頭からガリガリ食べる。よほどお腹が空いていたのか、始めの数日で数百匹も食べた。
きな子のお腹が膨れたのは良いことだ。
しかし、しばらくすると、きな子も恐れる虫人の一種、蜂人が現れた。
彼らは配下に大小の蜂を連れて町を襲った。
それはきな子の咆哮と、赤子さん、スラ子の一睨みで撃退した。
「また来るぞ」
赤子さんは不愉快そうに逃げる蜂人の背中に吐き捨てる。
赤子さんの予想通り、蜂人は次の日に再び姿を見せた。
最初と違って、遠目から観察する。
ブンブンと配下の蜂たちに羽音を鳴らせるだけで近づかない。
赤子さんとスラ子が苛立って一歩進むと一歩下がる。
それだけだ。
「ムカつく……」
スラ子が頬っぺたを膨らませても事態は変わらない。
蜂人は付かず離れずという具合に万年都を取り囲む。
「ゼロ……どうにかできないか?」
数日も経てば、町の人は羽音で眠れないほどの騒ぎとなった。
「不味いな……」
今もなお鼓膜が羽音で震える。万年都は巨大蜂に包囲されている。
「殺してしまおう」
「ウザい……」
赤子さんとスラ子は蜂人が近づかないように町の中心となる樹の天辺でけん制する。
「あいつらは数の暴力で攻める。本気を出したら私でも守り切れない」
きな子とオオカミたちは瞳を細めて、昼夜問わず万年都を見回る。
「話し合いたいけど、肝心の蜂人が近づかない。取り囲むのは配下の巨大蜂だけ。あいつらは蜂人の言いなりだ」
赤子さんとスラ子の隣で、自動車と同じ大きさのスズメバチを睨む。
「テキ、テキ」
巨大スズメバチは羽音と歯音を奏でながらけん制する。ブンブン、バチバチと嵐のような騒音で耳が痛い。
「話がしたい! だから返事をしてくれ!」
何度も呼びかけるが返事は無い。羽音と歯音の暴風にかき消される。
「巨大スズメバチを退かす必要があるなぁ……」
数度呼びかけた後、うんうんと赤子さんとスラ子の隣で、月明かりの下で悩む。
「……そうか。僕はモンスターの言葉が話せる。なら退くように命じればいい」
そう考えると、必死に巨大スズメバチに命令する蜂人の言葉を聞く。
「命じる前にガチガチと歯音を立てている」
これが巨大スズメバチに命令する合図と分かったので、それに類似する音を探す。
「ちょっと不格好だけど、これで良いか」
出来上がったのは特製の鉄製こん棒だ。中は空洞で、叩くと耳が痛いほど音が響く。
「良し!」
ガチガチ! と特製のドラムを叩いてお腹が痛くなるほど叫ぶ。
「退け!」
巨大スズメバチが一歩下がる。
「ススメ!」
ガチガチと音がした後の命令で、巨大スズメバチは一歩出る。
そこから退け、進めの応酬が始まる。
「退け!」
「ススメ!」
巨大スズメバチは僕と蜂人の声に踊る。
「……来た!」
朝になってお昼になるころ、ついに蜂人の一匹がブンブンと姿を現す!
「……ナカマ?」
お尻は蜂と同じく黄色い縞々の尻尾で毒針が見える。目はギョロギョロと複眼である。頭には触覚がある。手は四本あり、足は二本ある。胸が露になっていて膨らんでいることから女性と分かる。
「友達だよ」
アマンダさんに作って貰った樹液入りの特製肉団子を投げる。
蜂人は目に見えないほどの速さで投げた肉団子を掴むとバクリと食べる。
人のように口があるが、それは飾りだった。
獲物を捕食する時、顎が縦に割れてスズメバチと同じ構造の口となった。
「……オイシイ」
ベロベロと手に付いた汁を舐める。
「もっとあるよ」
今度は小麦粉と樹液を練り合わせた団子を放り投げる。
「オイシイ」
パクリと一口で食べる。
「これ上げる」
十樽はある団子を蜂人の前に広げる。
蜂人は羽音を止めると、屈んで団子の臭いを嗅ぐ。
「ナカマ?」
ギョロギョロと万華鏡のような瞳を輝かせて首を傾げる。
「仲間だよ」
笑顔でそれに答える。
「……ニオイ、ヘン」
首を傾げつつ、団子を一つ一つ拾う。
「ナカマ? テキ?」
そう言って蜂人は万年都から去っていった。
「上手く行ったな!」
様子を見ていたバードさんたちはホッと胸を撫でおろす。
「まだです。彼女は僕たちが敵かどうか判断している最中です」
バードさんたちに首を振る。
「なら、どうすれば?」
「話し続けるしかありません。今はとにかくご飯を用意してください。ご飯を用意すれば、敵とは思わなくなります」
「でも……あいつらのご飯を用意するのも大変なのよ」
「分かります。でも今は我慢してください。ここでご飯を用意できないと、今度は町の人々に狙いを定めます」
「怖いこと言うなお前は!」
バードさんたちは震えながらも沢山のご飯を用意する。幸い材料は捨てるほどある。後は作るのを頑張るだけだ。
次の日のお昼、同じ蜂人が姿を見せる。
「ナカマ?」
今度は巨大スズメバチで威嚇をしない。蜂人自らが現れる。
もちろん背後には数百数千の巨大スズメバチが羽音を鳴らしている。
「友達だよ」
同じようにご飯を差し出す。
「オイシイ」
一つ食べると配下の蜂を呼び寄せて、ご飯を持たせる。
「ナカマ?」
再び顔を傾げて去る。
「うっとおしい下等生物だ!」
「嫌い……」
赤子さんとスラ子が隣でギリギリと足を鳴らす。陥没するから止めて欲しい。
次の日も蜂人は来る。
「ナカマ」
地面に足を付けて現れる。羽音はしない。
「仲間で友達」
「トモダチ?」
首を傾げているがとりあえずご飯を与える。
「トモダチッテナニ?」
ついに向こうから質問が来た!
「仲間よりもっと凄い仲間!」
「ナカマヨリナカマ?」
団子をパクパク食べる。
「カゾク?」
一しきり食べて満腹になると傍に近寄る。
「家族だよ」
手を差し出す。
「テキ」
バクンと手を失う前に腕を引く。ガチンと歯音が虚しく響く。
「家族だよ」
さらに団子を蜂人の前に置く。
「カゾク」
蜂人は団子を無視して僕の周りをウロウロする。赤子さんとスラ子が苛立っているので振り向いて宥める。
「カゾク」
蜂人は安心したのか団子を拾うと、万年樹に張り付く。
「カゾク」
そして突然巨大スズメバチが集まり巣を作る!
「これは予想外だ」
どうやらこの蜂人は新たなる安住の地を探す女王蜂だったようだ。僕が家族と言ったため、それを真に受けて万年都のど真ん中に巣を作るつもりだ!
「ゼロ! どうなっている!」
虫よけの網を被るバードさんたちが姿を現す。
「どうやら万年都に巣を作るようです」
「ちょっと待て! それはヤバいだろ!」
バードさんたちは顔を青くして、樹に張り付く蜂たちを見つめる。
「彼らを追い払うことはできません。覚悟を決めて一緒に暮らしましょう」
「おい! 俺らが餌になるぞ!」
「数日猶予をください。その間に万年都の住人を食べないように教育します。その間はダンジョンに隠れてください。あそこなら蜂人は入ってきません」
「前途多難だ!」
「心配は分かります。しかし何とかして見ます。それに、彼らを仲間にすれば心強い。他の蜂人は入って来れませんから」
「ここで暮らす以上、あいつらと関わるしか選択肢は無いか」
バードさんたちはため息を吐いて引き上げる。
「仲良くなるか」
皆が去った後、一生懸命巣を作る女王蜂人を見る。
「名前はハチ子で良いか」
安直な名前だと思うけど、許して欲しい。
「ハチ子! こっち向いて」
赤子さんの力を借りて樹に上ると、巣作り中のハチ子に話しかける。
「ハチコ?」
クルリとこちらを見る。
「君の名前!」
「キミノナマエ?」
「僕はムカイ・ゼロ! よろしく!」
「ムカイ・ゼロ? ヨロシク?」
首を傾げるばかりだ。
「ハチ子」
名前を呼んでから餌を差し出す。
「ハチコ」
パクリと食べると黙々と巣を作る。
「ハチ子」
もう一度呼んで餌を与える。
「ハチコ」
再びパクリと食べる。
「ハチ子」
今度は餌を与えない。
「ハチコ」
クルリと振り向く。餌を探してキョロキョロする。
「ハチ子」
名前を呼びながら餌を差し出す。
「ハチコ」
餌を食べると巣を作る。
「また来るね」
「マタクル」
振り向いたので手を振って別れる。
ハチ子はずっと僕を見てくれた。
「しばらく続けるしかないか」
手ごたえはあるが、理解し合うのは先は長そうだ。
そう思っていたが、一日で話が変わる。
「巨大スズメバチが死んでる!」
巣の近くで仮眠を取っていると、バタバタと喧しい音で目が覚める。
辺りを見渡すと、巨大スズメバチが力なく地面に墜落していた。
「どうやら、兵隊蜂は女王が安住の地を築いたため用済みになったようだ」
きな子が唸ったので急いでハチ子の巣に入る。
「ゼロ」
ハチ子は卵を六角形の穴に一つずつ入れながら振り向く。
「ハチ子? 大丈夫?」
ハチ子は答えず、僕の周りに来ると触覚を動かす。
「ゼロ」
そう言うと黙々と卵を巣穴に収める。
こちらに警戒心を持っていない。
「ご飯、持ってくるね」
一生懸命卵の世話をするハチ子を後に、バードさんたちのところへ戻る。
「ハチ子は俺たちを受け入れたようだ」
ザックさんとバードさんが唸る。
「受け入れた?」
「あれほど居た巨大蜂が全滅した。これは俺たちがその代わりになると安心したからだろう」
ダンジョンの奥の湿った場所で紅茶を飲む。
「おそらく今育てている卵はハチ子の子供である蜂人だ。兵隊蜂は作っていない」
「ハチ子は子育てに専念している?」
「だろうな。餌付けできるかもしれない。ハチ子と卵だけなら私たちでも用意できる」
「餌付けと言うのは止めてください。彼女はペットではないです」
ニッコリと言い切る。
「お前には負けるよ」
苦笑して皆はダンジョンから万年都に戻る。
もう羽音はしない。
「ハチ子、頑張れ」
スヤスヤと巣の奥で包まるハチ子に笑いかける。
ハチ子は触覚を動かして答えてくれた。
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