【完結】成りすましの花嫁に、祝福の鐘は鳴る?

白雨 音

文字の大きさ
11 / 27

11

しおりを挟む


オーウェンの休暇が終わり、ジャスティンはやはり寂しそうだった。

昼食とお茶、晩餐は一緒にする事にしたが、ジャスティンはわたしを見ない。
話し掛けても、何の反応も無かった。
ジャスティンが、お茶の時間に現れなかった為、
わたしはそれをジャスティンの部屋へ運ぶ事にした。

メイドは「奥様にその様な事はさせられません」と渋ったが、
わたしは「お願します」と頼み、お茶のワゴンを預かった。

「奥様はジャスティンに気に入られたくて必死なのよ!」
「旦那様の気を惹きたいんでしょうよ」
「ベッドは共にしていないみたいよ…」
「そりゃ、旦那様だって、手を出さないわよ…」
「あの傷、あなたも見てみなさいよ、恐ろしかったわ!」
「旦那様は何故あんな娘と結婚したのかしら?」
「貴族のご令嬢という訳でも無いでしょう?」
「裏があるのよ、そうじゃなきゃ、あんな娘と結婚なんか!」

メイドの一部は、わたしの事を良く思っていない様で、そんな会話が耳に入ってきた。
悪意に満ちているが、彼女たちの憶測は正しい。
わたしは押し付けられた花嫁で、オーウェンはわたしに手を出す気など無い。
それ処か、時期を見て、国に帰されるのだ…

わたしは「そんな事、考えては駄目!」と頭を振った。

わたしが落ち込んでいては、ジャスティンも不安になるだろう…
今は、ジャスティンの事を考えるのよ!

わたしはジャスティンの部屋の扉を叩いた。

「ジャスティン、入ってもいい?」

返事を待ったが、気配が無かったので、わたしは「入るわね」と声を掛け、中に入った。
ジャスティンはソファに座り、緑色のクッションを抱いていた。
俯いていて顔は見えないが、寂しがっている事は分かる。

「ジャスティン、お茶にしましょう、
温かい紅茶と、ハムとチーズのサンドイッチ、小さなケーキもあるわ。
ジャスティンはショコラのケーキが好きでしょう?」

わたしは紅茶を淹れ、ジャスティンの前に置いた。
それから、ショコラのケーキを皿に乗せ、前に置く。
だが、ジャスティンから反応は無かった。
わたしは向かいの椅子に座り、自分用に淹れた紅茶を飲んだ。

「美味しい!ジャスティンも飲んでみて」

「サンドイッチも食べる?」

「今日はどんな勉強をしたの?」

「本を読んであげましょうか?」

ジャスティンからの反応は無い。
わたしは椅子を立ち、本棚に向かった。
子供部屋だが、難しそうな本が並んでいる。

「難しい本が多いのね…」

本棚の下の段には、薄い本が並び、それは子供向けのものらしく、
挿絵が多く、文字も少なかった。
わたしは一冊を取り、椅子に戻った。

「ジャスティン、この本は知っている?
わたしは知らないから、読ませてね…」

わたしはそれを開き、声に出して読み始めた。
だが、悪い事に、冒頭で、小さな男の子の母親が亡くなってしまった。

「まぁ…」

この本は止めた方が良いかと迷ったが、きっと救いはあるだろうと、読み進めた。

母親を亡くした男の子は、母親を探しに行く。
森に入り、罠に掛かっていた子熊と出会う。
男の子は子熊を罠から助け出す。
男の子に感謝した子熊は、一緒に母親を探す事にする。

途中、男の子は、子熊にも母親がいない事を知る。
子熊の母親も探そうと言う男の子に、子熊は「あえない」と言う。

「ぼくのおかあさんは、てんごくにいったから。
きみはいいね、まだおかあさんとあえる」

「てんごくにいけばあえるよ」

「てんごくにはいけないよ、ぼくはまだいきているから」
「いきているものは、いきなきゃいけないんだって」
「そうしないと、おかあさんにはえいえんにあえなくなるんだ」

「どうしたら、おかあさんにあえるの?」

「まっていたら、じゅんばんがくるんだ。
そのとき、ぼくをみて、よろこんでくれたらいいな…」

そこまで読んだ時、ジャスティンがソファから勢いよく立ち上がり、
部屋を飛び出して行った。

「やっぱり、良く無かったわね…」

わたしは本を閉じ、元の場所に戻した。
ジャスティンに紅茶とケーキを残し、お茶のセットを片付けた。

二階の廊下の窓から、下を見る。
ブランコにはジャスティンの姿があった。
ジャスティンは、そこにただ座っているだけ…

わたしは部屋に戻り、クローゼットの奥からクマの人形を取り出すと、
ジャスティンの部屋の寝室に入り、ベッドの中に忍ばせた。

「あなたは、ジャスティンのお友達になってね」





ジャスティンは陽が落ちる頃まで、ブランコに座っていたが、
その後は部屋に戻り、晩餐にも現れた。
話し掛けても返事は無かったが、こうして、晩餐の席にいるのだから、良い方だろう。

母親を亡くしたのだ、新しい母親など、受け入れられないだろう。
父親の心が新しい妻に向かうのも、子供には嫌な筈だ。

尤も、わたしは、普通の妻ではないのだけど…


寝支度を終え、わたしはガウンを羽織り、ジャスティンの部屋へ行った。
寝室を覗くと、灯りは無く、ジャスティンは眠っている様だった。
足音を忍ばせ、ベッドに近付く…
ジャスティンはわたしの方に背を向けていた。
だが、クマの人形を抱いているのが分かり、わたしは安堵した。

「ジャスティン、わたしはあなたと仲良くなりたいわ。
わたしたち、似ていると思わない?
わたしたちはお互いに、お父様の事が好きだわ。
それに、お互いに、寂しい心を持っている…」

「お父様から愛されているあなたが羨ましいわ…」

「おやすみなさい、ジャスティン」

わたしはその柔らかい金色の髪をそっと撫で、キスを落とした。


◇◇


わたしは朝早くに目を覚ます。
神殿でロザリーンに仕えていたので、自然とそうなったのだ。
わたしは急いで身支度を済ませると、オーウェンの部屋を訪ねた。

「少し、お話し出来ますか?ジャスティンの様子をお伝えしておきたくて…」
「ああ、まだ時間はある、入ってくれ」

直ぐに扉は開き、中に促された。
オーウェンは夜遅くに帰って来たらしいが、既に起きていて、身支度を終えた所だった。

「お疲れの所、すみません」
「いや、来てくれて助かった、実は気になっていた…朝食を一緒にどう?」
「わたしは紅茶だけにします」

オーウェンがベルを鳴らすと、幾らも経たない内に、朝食が運ばれて来た。
わたしは二人分の紅茶を淹れ、彼の向かいの椅子に座る。

「ありがとう、それで、ジャスティンの様子は?」

オーウェンに緊張が見えた。

「朝食、昼食はいつも通り、食べていました。
午前中は部屋で過ごし、午後は家庭教師が来られ、勉強をしていました。
家庭教師は、ジャスティンは理解力が高く、真面目だとおっしゃっていました。
お茶の時間に、ジャスティンの部屋へ行き、本を読んであげたのですが…
あまり内容が良く無かったので…ジャスティンは部屋を出てしまいました」

「どんな本だ?」

「それが…母親を亡くした男の子の話で…内容を確認して読むべきでした」

「ああ…すまないが、その本は隠してくれ」

「はい…それで、ジャスティンは陽が落ちるまで、ブランコに座っていました。
可哀想な事をしました…
晩餐には現れ、いつも通り食べていました」

「そうか、だったら、問題は無い」

オーウェンは息を吐いた。
次に顔を上げた時、彼の目は優しく、その口元には微笑があった。

「私からも一つある。
昨夜、ジャスティンにおやすみのキスをしに行ったんだが、あの子の側には人形があった。
あれは、君か?」

「はい、彼にジャスティンの心を癒して貰おうと…
わたしでは今の所、力になれませんから…」

「君は十分に力になってくれている、ジャスティンを見ていてくれてありがとう」


この日から、わたしはオーウェンと一緒に朝食を摂り、
ジャスティンの事を報告するのが日課になった。
オーウェンもそれを聞きたがった。

オーウェンがジャスティンに会えるのは、夜だけだ。
だが、その頃には、ジャスティンは寝てしまっている。
寂しいのは、オーウェンも同じなのだ。

その分、休日は、ジャスティンの為に時間を使う事にしていた。

その休日、オーウェンの叔父夫婦が訪ねて来た。
オーウェンが結婚したと聞き、やって来たのだ___

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。 ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。 想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜

二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。 処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。 口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る… ※表紙はaiartで生成したものを使用しています。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます

よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」  婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。 「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」 「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」  両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。  お姉様からは用が済んだからと捨てられます。 「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」 「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」  ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。  唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。  ここから私の人生が大きく変わっていきます。

異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。 前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。 婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。 国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。 無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。

ヒロインに躱されて落ちていく途中で悪役令嬢に転生したのを思い出しました。時遅く断罪・追放されて、冒険者になろうとしたら護衛騎士に馬鹿にされ

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
第二回ドリコムメディア大賞一次選考通過作品。 ドジな公爵令嬢キャサリンは憎き聖女を王宮の大階段から突き落とそうとして、躱されて、死のダイブをしてしまった。そして、その瞬間、前世の記憶を取り戻したのだ。 そして、黒服の神様にこの異世界小説の世界の中に悪役令嬢として転移させられたことを思い出したのだ。でも、こんな時に思いしてもどうするのよ! しかし、キャサリンは何とか、チートスキルを見つけ出して命だけはなんとか助かるのだ。しかし、それから断罪が始まってはかない抵抗をするも隣国に追放させられてしまう。 「でも、良いわ。私はこのチートスキルで隣国で冒険者として生きて行くのよ」そのキャサリンを白い目で見る護衛騎士との冒険者生活が今始まる。 冒険者がどんなものか全く知らない公爵令嬢とそれに仕方なしに付き合わされる最強騎士の恋愛物語になるはずです。でも、その騎士も訳アリで…。ハッピーエンドはお約束。毎日更新目指して頑張ります。 皆様のお陰でHOTランキング第4位になりました。有難うございます。 小説家になろう、カクヨムでも連載中です。

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

処理中です...