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しおりを挟む「結婚するなど、私は聞いていないぞ!オーウェン」
オーウェンの叔父、ハクスリー男爵とその夫人は、
わたしたちが突然結婚した事もあってか、来た時から機嫌が悪く、
パーラーの椅子に座ると、早速不満を言い出した。
わたしは、オーウェンは本当の事を話すだろうと思っていた。
だが、オーウェンははぐらかした。
「お伝えするのを忘れていました、何処で聞かれたのですか?」
「おまえは、我が国が誇る、騎士団長なんだぞ!
結婚すれば、直ぐに噂になり、王都中に広まると分かっているだろう!
それなのに、結婚式にも呼ばないとは…どういうつもりなんだ!」
「結婚は急でしたから、それに、初婚でもありませんし、
後継ぎはジャスティンと決めています、何も問題は無いでしょう」
「親族が知らなくて、問題が無い訳が無いだろう!
早急に、お披露目のパーティを開くんだ!これは譲れないからな!オーウェン!」
オーウェンは嘆息し、「親族だけですよ」と折れた。
すると、待っていたとばかりに、夫人が口を挟んだ。
「早い方がよろしいでしょう、来週のお休みに合わせてはいかが?」
「それがいい!オーウェン、そうしなさい!」
話は瞬く間に纏まってしまった。
わたしは、パーティなど、碌に出席した事も無いというのに…
ロザリーンが出るパーティに、わたしは付き添う事もあったが、
存在を消し、ただ、側に控えているだけだった。
周囲を眺め、音楽を楽しむ以外の事はした事が無い。
結婚披露パーティだなんて…
わたしは何をしたら良いのかしら?
想像が付かず、恐ろしかった。
だが、幸い、今のわたしには、相談出来る相手がいる___
男爵はオーウェンに話があると言い、二人は書斎へ行った。
夫人と二人きりとなり、わたしは緊張した。
何を聞かれるか分からない…
オーウェンははぐらかしていたけど…
訊かれたら、答えない訳にはいかないし…
ああ、お願いだから、何も訊かないで!
身構えていたが、夫人が口にしたのは、意外な事だった。
「あなた、上手くやったじゃない」
わたしは何の事かと、頭を巡らせたが、まるで見当が付かなかった。
「申し訳ありません、何の話ですか?」
「フン!とぼけても駄目よ、《カーライト伯爵夫人》の座を、
一体どれだけの女が狙っていたと思うの?
オーウェンは高名な騎士団長だし、いい漢よ、十分な財産も持ってるし、
それに、子が生まれたら、次期伯爵だもの!
それを、まさか、あなたみたいな娘がね…」
夫人は頭を振る。
わたしが相手では、納得出来ないのも当然だ。
申し訳ない気持ちになりつつ、わたしは訂正した。
「次期伯爵はジャスティンだと、オーウェンも言っておりました」
「フン!あんな子が、次期伯爵になんかなれる訳無いわよ!
8歳だってのに、碌に会話も出来ない、礼儀も知らない、あれじゃ、獣と一緒よ!
きっと、ジャスティンは、母親を目の前で殺されて、狂ったのね」
その酷い言い様に、わたしは驚いていた。
「いいえ!ジャスティンは狂ってなんていません!賢く、優しい子です!
ジャスティンはただ、傷ついているだけですわ…
子供の心は繊細なんです…」
そんな酷い目に遭えば、当然だ。
だが、夫人は鼻で笑った。
「オーウェンも内心ではそう思っているわよ、もっと、まともな後継ぎ息子が欲しいってね、
だから、あなたみたいな若い娘と結婚したんでしょう?」
「違います!ジャスティンはオーウェンの自慢の息子です!」
「そうだ、ジャスティンを侮辱する者は、私が許さない」
オーウェンの凛とした声に、わたしは怒りから目が覚めた。
つい、カッとしてしまった…
オーウェンは堂々と歩いて来ると、わたしに手を差し出し、立ち上がる様に促した。
「ハクスリー男爵と男爵夫人は、お帰りだ」
見ると、夫人の顔は真っ赤だった。
男爵は慌てて、夫人を嗜めていた。
「おまえは、何と馬鹿な事を!オーウェンに謝りなさい!」
「ジャスティンの代わりに聞きましょう」
オーウェンが硬い口調で言うと、夫人は顔を青くし、小声で謝罪を述べた。
それから直ぐに、男爵と夫人は、そそくさと館を出て行った。
余程気まずかったのだろう。
見送りを済ませ、館内に戻ろうとした時、オーウェンに呼び止められた。
「ロザリーン、先は、ジャスティンを庇ってくれてありがとう」
オーウェンに怒っている様子は見えない。
それ処か、喜んでいる様に見える。
その緑灰色の目は優しく、煌めいている。
口元も優しいわ…
わたしはつい見惚れてしまい、我に返って赤くなった。
胸が変にドキドキとしている。
「いえ、つい、言い過ぎました…」
「いや、君は立派だった、それに、私が言ってやりたかった事だ。
胸がスッとした」
珍しく砕けた様子で、わたしはつい笑いを零した。
「おかしいか?」
「いえ、あなたはいつも超然としていますから…
そんな事をおっしゃるなんて、驚きました」
オーウェンは渋い顔をし、首の後ろを擦った。
「私は完璧ではない、見せないだけだ」
そうかもしれない、誰にも不満を言わず、耐えているのだろう。
だけど、抱えてばかりでは、潰れてしまうわ…
「わたしには、見せて下さい」
あなたを知りたい…
あなたの苦しみを、吐き出させてあげたい…
わたしはそんな自分の想いに驚いた。
いやだわ…
これでは、まるで、彼を好きみたいだ___
戸惑うわたしに、オーウェンは皮肉な笑みを見せた。
「君も損な性分らしい。
だが、ありがとう、うれしいよ、ロザリーン」
◇
ロザリーン
オーウェンの声が、わたしの耳に虚しく響く。
ロザリーンに成りすましているのだから、仕方の無い事だ。
それに…
「わたしは、彼を騙しているのね…」
オーウェンはわたしを《聖女》だと思っている。
力を失ったのはショックからで、力が戻る事を期待している。
ジャスティンを助けたいのよ。
だから、花嫁を押し付けられても、反発しなかったのだ___
「違うわ!彼は優しい人よ…」
きっと、行き場の無いわたしを憐れんでくれたのだ。
彼はわたしを助けると言ってくれていた。
「どんな理由であれ、わたしは助けられたもの…」
あの恐ろしい王の妃にならずに済んだ。
その場で処罰される事も無かった。
放り出され、追放の身となる事も無かった。
全て、オーウェンのお陰だ___
「でも、彼はわたしを妻にする気は無い…」
わたしは嘆息した。
オーウェンが、わたしとベッドを共にする気は無く、王の怒りが冷めるのを待ち、
わたしを国に送り帰すと約束してくれた時、何故悲しい気持ちになったのか…
今なら、その理由が分かる。
わたしは、オーウェンに惹かれていたのだ。
わたしを助けてくれた。
わたしに優しくしてくれた。
わたしと向き合ってくれた。
彼との距離が近付く度に、わたしの胸は高鳴った。
彼が苦しんでいるなら、それを祓ってあげたいと思う。
愛おしくて、抱きしめてあげたくなる。
わたしはいつの間にか、オーウェンに恋をしてしまったのだ___!
でも、オーウェンがわたしの気持ちを知ったら…
オーウェンは優しい人だ。
きっと、彼は困るだろう…
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