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しおりを挟む相手チームも今までは様子見だったのか、大技を使い始めた。
ボールがコートの中をジグザグに飛び交う。
大技を使うと、観覧席も沸き、歓声に包まれた。
「わたしたちも、そろそろ大技を使うわよ!クララ!」
わたしはボールを手に、クララに合図をする。
クララは真剣な表情で頷いた。
わたしは魔法でボールの速さと威力を増幅して投げる。
当然だが、ボールの方向にいる選手たちは防御を張ろうとする。
だが、ボールは突然急カーブし、逆方向に立つ選手を仕留めたのだった。
バン!!
「やったわ!クララ!成功よ!」
「はい!当たりました!」
わたしとクララはハイタッチをし、喜び合った。
「今の、クララが途中で、ボールの向きを変えたの?」
パトリックがそれに気付いた様で、驚いた顔をしていた。
わたしはクララの肩を抱いた。
「そうよ!わたしたちが編み出した、必殺フュージョンシュートC!
どう?凄いでしょう!」
「うん、力が強過ぎるとボールが壊れるし…
それに、あのスピードに合わせるなんて、中々出来ないよ、凄いよ、クララ」
「本当!?うれしい…初めて褒められたから」
「えぇ?そうだった?いつも褒めてない?」
また、甘い空気になっている。
いつもであれば、そっとしておく所だけど、この状況ではそうはいかない。
わたしはキッパリとした態度で、教育的指導をした。
「パトリック、クララ!次が来るわよ!」
「はい!!」
二人は慌てて、戦闘態勢に戻ったのだった。
皆の活躍で、前半は4対3、後半は3対0と圧勝し、
《百花繚乱美しき薔薇》チームは見事、二回戦進出を決めた。
二回戦まではかなり時間もあるので、わたしたちは思い思いに、体を休め、
試合の観戦をする事にした。
「観戦をして、二回戦の参考にしましょう!パトリック、あなたも来る?」
クララを引き連れてパトリックに声を掛けると、速攻で、「うん、行くよ!」と返って来た。
大変素直でよろしい!
観覧席では勿論、パトリックとクララを隣同士で座らせてあげた。
わたしって、気が利く友達よね?
二試合目の前半が終わろうとしていた時だ、
くぅ~…くぅぅぅ~~
「子犬かしら?」
振り向くと、クララが顔を真っ赤にし、お腹を押さえていた。
「す、すみません、私です!魔法を使ったので、お腹が空いてしまって…」
魔力を使い過ぎると、疲れたり空腹になったりする。
わたしは魔力が大きく、これまで然程使う事も無かったので、そんな経験は無かった。
「恥ずかしがる事は無いわよ、魔法を使えば当然だわ、
それに、頑張った証拠よ、ねぇ、パトリック?」
「そうだよ、恥ずかしがる事ないよ、僕、何か買って来るよ」
パトリックはクララを励ます様に言い、さっと席を立った。
流石、ゲームの攻略対象者、良い彼氏になるわ。
「パトリックって、気が利くし、優しいわよね?」
「はい、とても優しいです…
でも、私…聞かれるなんて、恥ずかしくて…」
クララは真っ赤な顔に、目を潤ませ、お腹を押さえていた。
そんなに気にする事でも無いと思うのだが、そこが可愛いとも言える。
きっと、パトリックも同じ気持ちだろう。
「気にする事無いわよ、パトリックも幻滅なんてしていなかったわよ。
寧ろ、『クララ可愛い!』って、顔に書いてあったわ」
「そ、そ、そんな!全然、可愛くないです!お腹が鳴るなんて…」
「可愛いわよ、子犬の鳴き声みたいだったし、
わたしなら、ぐーーーーーーー!とか、ゴオオオーーー!よ!」
わたしが大袈裟に言うと、クララは「くすくす」と笑った。
「ありがとうございます!アラベラ様のお陰で、気持ちが楽になりました」
「励ましたんじゃないわよ?本当の事よ!」
わたしたちが笑っていると、パトリックが大量に食料を抱えて戻って来た。
「沢山買って来たのね!」
「試合はまだ続くし、どうせ君も食べるよね?」
あら!わたしの分まで!?
本当に気が利くわ!『どうせ』は余計だけど!
パトリックはついでのわたしはさて置いて、クララに言った。
「クララ、好きなもの取っていいよ、卵のサンドイッチ好きだよね?」
「うん、好き…覚えていてくれてたのね…」
「クララは昔から変わらないからね」
「そうそう、好きなものはずっと好きなのよね?」
わたしが暗にパトリックの事を匂わすと、クララは真っ赤になった。
「う、うん、そうなの…ありがとう、パトリック」
クララは、いそいそとサンドイッチの包みと飲み物を取った。
クララはどぎまぎとしているが、当のパトリックは全く気付いておらず、
食料をわたしに向けた。
「ドレイパーも、好きなの取っていいよ」
わたしの扱いは、明らかに雑だけど、わたしは恋する男子の味方よ!
わたしは「ありがとう!」と遠慮なく、肉厚のサンドイッチ、スナック菓子の様なものと飲み物を取った。
サンドイッチを頬張りつつ、観戦していると、わたしの隣に誰かが座る気配がした。
「大活躍でしたね」
その声で、わたしは直ぐに相手が分かった。
サイファー・オッド先生だ。
わたしはサンドイッチから顔を上げた。
「先生!わたしの試合、見てくれたのね!ありがとう!
大活躍だなんて!自分でもそう思うわ!凄かったわよね、三人も倒したもの!」
「ええ、あなたは疲れ知らずですね、底知れません」
素質を褒められても…
必殺技を褒めて欲しかったわ…
「大変に面白かったですよ」
「それなら良かったわ!最後まで観て行ってね、絶対に優勝するから!」
「それは凄いですね、観させて頂きましょう」
「ああ、先生も食べる?」
わたしは気軽く、スナック菓子の入った紙の容器を、サイファーに向けた。
前世でも今世でも、教師と親しくした事は無かったが、
サイファーには何処か、お節介を焼きたくなる雰囲気がある。
尤も、教師なので断るかとも思ったが、意外にもあっさり、
「ありがとうございます」と、大きな手が容器を受け取った。
「美味しいですね、初めて食べました」
そう!こういう所が、わたしにお節介を焼かせるのだ!
わたしもだが、サイファーは物を知らな過ぎる。
何処か、浮世離れした雰囲気もあるし、放って置けないのよね…
「先生って、貴族なの?」
高位貴族なら、それにも説明がつくと思ったが、サイファーは「ふっ」と笑い、
「いいえ」と答えた。
『自分が貴族に見えるのか?』と、嘲笑う様に。
貴族じゃないなら、孤児とか?
それとも、薬学オタクかしら?
きっと、青春を勉強と研鑽に捧げたのね…
「先生、大丈夫よ、これからでも人生は楽しめるわ!
薬学教師だもの、きっと、長生き出来るわよ!」
病に掛かっても、自分で薬を調達出来るもの!
わたしは励ましたつもりだったが、サイファーは笑みを消し、銀縁の奥の目を遠くした。
「長生きですか…私には、あまり魅力的には思えませんね」
長生きしたくないのかしら?
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世の中は無情だわ…
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「普通の事よ」
わたしは笑い、肩を竦めた。
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