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放課後、ジェロームが確保してくれたコートに集まったのは、
わたし、パトリック、クララ、ジェローム、ドロシア、ジャネット、
それから、ファンダムからの選抜五名の、計11名だった。
補欠も欲しかったので丁度良かった。

わたしとクララはパトリックに習い、ファンダムの子たち数名は、
ジェロームから手解きを受けた。

わたしは防御魔法を練習していたので、防御にはそこそこ自信があったが、
授業を受けた記憶が無いので、まずは、ルールを覚える必要があった。

クララは魔法の特訓だ。

ファンダムの子たちは、意外にも真面目に取り組んでいた。
もっと、キャアキャア言って、練習にならないかと思っていたが、黄色い声は聞こえて来なかった。

「皆真面目なのね」

わたしが感心する隣で、ドロシアとジャネットが胸を張った。

「不真面目な姿を見せたら、即、選手交代と言っておりますの!」

成程ね…
ドロシアとジャネットは、上手くファンダムを運営している様だ。

「能力を見て、それぞれの得意分野を把握しておいてね。
試合に出られなくても、練習を頑張った仲間よ、
大会では近くで応援をさせてあげるといいわ。
但し、あまり煩くしないでね、ジェローム以外にもいるんだから」

「はい!皆、喜びますわ!」

防御や攻撃を練習し、後は試合形式でやる中で、覚えていく…
二日目には、それなりに形になっていた。


三日目の最終日は、パトリックとジェロームが作戦を練り、
わたしたちは、各自、魔法の訓練をした。

「何か秀でた技があれば、試合に出られる可能性も高くなるわよ!」

ファンダムの子たちは、ジェロームと一緒に試合に出る事を目標にしているので、
嬉々として技を磨いた。

人数が揃った事もあり、クララは「補欠で良い」と言い出すのでは?と思っていたが、
パトリックから教わった事を無駄にしたくないのか、真剣な顔でわたしに聞いて来た。

「私にも、何か出来るでしょうか?」

練習を見ていて気付いたが、クララの魔力は然程強くはないものの、
小さな魔法は完璧に使えるし、器用だった。
つまり、小技は一級品だ。
足りないのは威力なのよね…

「わたしと合わせ技なんてどうかしら?」

「合わせ技?」

わたしが思い付いた事をクララに耳打ちすると、彼女は目を輝かせ、手を打った。

「出来たら素敵ですね!」

「出来るわよ!練習しましょう!」


◇◇


《ラピッドシュート》の大会は、生徒主催の催しなので、休日を使って行われる。
観覧も自由となっていた為、わたしは当然、観覧にすら行った事は無かった。
わたしには、どの程度の規模の大会か、予想も出来なかった。

当日、学園の小闘技場へ行くと、階段状の観覧席は、
学園の生徒たちでほぼ埋まっていた。

「凄いわ!《ラピッドシュート》って、人気なのね!」

わたしは観覧席を見渡し、歓声を上げた。
これ程の観客の見守る中、試合をするなんて!
前世では考えられない事だ。

「こ、こんなに人がいるなんて…き、緊張します…」

人から注目される事が苦手なのか、クララの顔は青く、小刻みに震えていた。

「大丈夫よ、皆、わたしを見ているんだから!」

わたしが胸を張ってポーズを決めると、クララは目を丸くし、それから笑った。

「はい!そうですね!」

納得されてしまったわ。

「さぁ!皆、集まって!
試合で髪型が崩れない様に、魔法を掛けてあげるわ!」

ドロシアとジャネット、それからファンダムの子たちは歓喜の声を上げた。
わたしは並んだ女子たちに魔法を掛けていったのだが、ジェロームも紛れていた。

「あなたも掛けて欲しいの?薔薇の香り付きよ?」

パトリックには激怒され、半ば泣かれたが、
ジェロームは輝く様な笑顔を見せ、金色の長めの髪を靡かせた。

「素晴らしい魔法だね、僕の為にあるのかな?」

いいえ、違います。

わたしは作った笑みを返し、ジェロームに魔法を掛けた。
ジェロームはうっとりとし、その香りに満足していた。

「組み合わせを決めるので、チームの代表者は集まって下さーい!」

声が掛かり、皆の目がわたしに向けられた。
代表者といえば、当然、発起人のわたしよね!
わたしは「行って来るわね」と、堂々とした歩みで、そちらに向かった。

登録チームは8チームで、集まった八人の代表者の中に、ブランドンの姿があった。
代表はブランドンなのね…全く意外性が無いわ!
ブランドンの方もわたしに気付き、「負けねーからな!」とニヤリと笑った。
わたしも「遊んであげるわ」と、不敵な笑みを返した。

組み合わせを決める方法は、登録の早かったチームから、
箱の中に入っている、カラーボールを引いていくもので、同じ色のチーム同士が戦う事になる。
試合の順番は既に決まっていて、ボードのトーナメント表に書き込まれているが、
今は隠されていた。

代表者がボールを引く度に、大きな歓声が上がる。
ブランドンは赤色のボールを引いた。

「いきなり、ブランドンのチームとは当たりたくないわね…」

まずは、実力を見たい所だ。

「最後は、《百花繚乱美しき薔薇》チーム!」

わたしたちは登録が一番遅かったので、わたしが引くのは余りものだ。
チーム名は、候補が幾つかある中、厳選なる多数決により、
ジェロームの考えたものに決まった。
パトリックただ一人が、肩を落としていたけど、スルーさせて貰ったわ!

「残り物には福があるっていうわよね!」

わたしは意気揚々と箱に手を入れ、それを掴んだ。

「青ですわ!」

わたしは箱から引いた青色のボールを、高らかに掲げた。
尤も、残っているボールが何色かなど、既に分かっていた事なので、
全く盛り上がりはしなかったけど。

再び会場が盛り上がりを見せたのは、
トーナメント表の、隠された部分が剥がされた時だった。

青組の順番は、一試合目だ。
ブランドンの赤組は、四試合目。
順当に行けば、決勝で当たる事になるが…

「一試合目は不利ね…」

試合経験が無いチームなので、何試合かは見学したかった。
皆も緊張で顔を強張らせていた。
何と声を掛けようかと頭を悩ませていた所、
代わって声掛けをしてくれたのは、ジェロームだった。

「一試合目なんて、最高の舞台だね、僕たち《百花繚乱美しき薔薇》に相応しい…」

ジェロームがキラキラとしたオーラを振り撒いた。
この状況を舞台と捉えているのは、わたしだけだと思っていたけど…
彼はわたし以上かもしれない。
わたしも、負けていられないわね!

「その通りですわ、ジェローム様!
わたくしたちの美しき舞を、皆の目に焼き付けて差し上げてよ!おーほほほ!」

皆の顔も輝きに変わった。

「そうですわ!私たち《百花繚乱美しき薔薇》の名を、皆に知らしめましょう!」
「ファンダムの名を汚さぬ様、頑張りますわ!」
「度肝を抜いて差し上げましょう!」

皆が「わー!」と盛り上がる中、パトリックだけは引き攣った顔をしていた。
見なかった事にするわ!

【第一試合は、《七頭の神獣》チーム対《百花繚乱美しき薔薇》チーム!】
【試合は前半十分、ハーフタイム五分、後半十分となります!】
【前半戦の選手はコートに入って下さい!】

前半戦のメンバーは、わたし、パトリック、ジェローム、クララ、
ファンダムからは、ドロシア、マーサ、ソフィで七名だ。

皆、学園のローブを羽織り、コートに入る。
ボールが当たったとしても、ローブがあれば衝撃を少し和らげる事が出来る為、
《ラピッドシュート》では着用が義務付けられていた。

「フォーメーションA!」

ジェロームが言い、わたしたちは位置に着く。
相手に悟られない様に、合図を決めていた。
フォーメーションAは、後方三名、前方四名の布陣だ。

要となるアタッカー、ジェロームを前列真ん中に置き、
両脇のドロシアとソフィが防御、フォローをする。
後方は、防御、フォローをしつつ、速攻ではアタッカーもする。
わたしは投げたいので、後方の右中央だ。
右端にはクララ、左中央はパトリック、左端にマーサ。

双方のチームに、一つずつボールが渡される。
経験豊富で実力もあるジェロームがボールを持ち、狙いを探る。

【それでは、試合、開始!!】

ピーーー!と、笛の音が鳴った瞬間、凄い勢いでボールが飛んで来た。

バン!!

「きゃ!!」

一瞬にして、ソフィが当てられてしまった。
だが、その隙を狙い、ジェロームが相手チームの一人を倒していた。

ピーーーー!!

ボールが当たると笛が鳴り、一旦中断し、当てられた者たちはコートを出される。

「あなたの仇はジェロームが取ったわよ!応援お願いね!」

ソフィは肩を落としていたが、顔を上げ、「はい!」と返事をし、
チームのベンチに駆けて行った。

「皆!気を抜かないで!練習通りにやれば出来るわ!
来ると思ったら、迷わず防御を張りなさい!」

防御魔法を使い過ぎると、魔力が切れるので、
ボールが自分の所に飛んで来た時にだけ、防御を張るのが普通だが、
わたしは魔力量も多く、力も強いので、気兼ね無く使える。

ソフィが当てられた時に取ったボールは、アタッカーのジェロームに運ばれた。
ソフィの居た場所に、マーサが移動する。
相手チームもボールを持っているので、緊迫感が張り詰めた。

ピーーーー!!

相手チームがボールを投げた瞬間の隙を狙い、ジェロームがボールを投げる。
投球する者は、防御を張る暇が無いので狙い目なのだ。
だが、読まれていた。
仲間の防御により、ボールは阻まれた。

相手が投げたボールも、マーサが防御していて、それはパトリックの手に渡された。

「パトリック!揺さぶってやりなさい!」

パトリックは小柄ながら、大きなモーションでそれを投げた。
ボールはふわりと浮いたかに見えたが、高く上がると、凄い勢いで斜めに落ちてきた。

バン!!

見事に命中した。
これは、落ちる瞬間まで、狙いが分かり難いので、相手の隙を付く事が出来る。

その間に相手から飛んで来たボールは、ドロシアが防御した。

「パトリック!やったわね!」

パトリックもうれしそうな顔を見せた。

「さぁ!この調子で、ぶっ潰すわよ!!」

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