【完結】婚約者はお譲りします!転生悪役令嬢は世界を救いたい!

白雨 音

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最終話

白竜は、王に視線を向けた。

《オースウッド国王よ、聖女の兆しは間違いであった事を、広く知らせよ》
《聖女の兆しが出たと知る全ての者たち》
《聖女の披露に立ち会った者たち全てにだ》

「で、ですが、聖女が間違いであったと知れば、他国が我が国を嘲り、攻めるのでは…」

《無用の心配だ》

《我は、アラベラと契約した》
《この国は、アラベラが生きている限り、白竜の加護を受ける》
《だが、おまえたちが他国に戦を仕掛けるのであれば》
《我は契約を破棄し、アラベラを連れ、国を去る》

《今後、アラベラを陥れる者は、我が許さぬ、覚えておけ》

「は、はい、心得ました」

《アラベラの名誉回復の後、エリーを始め、皆の罪を許す》
《決して、命を奪ってはならぬぞ!》

《最後に、アンドリューに言っておく》
《二度と、アラベラに近付く事は許さぬ!》
《その命が尽きるまでだ》

アンドリューは項垂れた。
白竜は翼を羽ばたかせ、夜空に飛び立った。

「上手くいったわね!」

わたしは白竜の背中から起き上がる。
白竜の話した事は、ほとんどが、わたしが頭の中で考え、それを彼が読んだものだった。
エリーの魔力を奪ったり、アンドリューへの苦言等は、白竜の判断だけど。

《これで、あなたの気も晴れましたか?》

「終わってみればね!」

喉元過ぎれば熱さを忘れる、だ。
悔しい思いをしたし、辛い思いもした。
絶望し、泣きたい日もあった。
だけど、明るい未来が見えた時、全てを消し去ってくれた___

「あなたのお陰よ、先生!」

《それは良かったです、これで結婚出来ますね》

「結婚?」

《忘れましたか?私の花嫁になる約束です》

ああ…と、それを思い出す。

「あれって、本気だったの?」

《こういった事を、人間は冗談で言うのですか?》

真面目に聞いている?
それとも、嫌味かしら?

《私は真剣に、あなたと番になりたいと思っていますよ、アラベラ》

「でも、どうして、わたしと結婚したいの?わたしは人間よ?」

姿形だけ見ても、とても、白竜の好みとは思えない。

《私は三千年生きています、私にとって、この世界は酷く退屈なんですよ》
《人間の姿になり、生活してみましたが、人間の考えなど容易く読めますので、
やはり、退屈を味わいました》
《絶望していた私の前に、あなたが現れた》
《あなたの思考は複雑で、私の知識を凌駕していました》

それは…
わたしの前世の記憶の事ね…
この世界とは全く違うから、想像出来ないだろうし、理解が難しいかも…

《そうなんです》

「また、考えを読んだわね?」

《こんな事は初めてです、あなたといると退屈しません》
《あなたがいるなら、もう少しだけ生きても良いと思いました》

「それだけなら、何も結婚する必要は無いんじゃない?友達でもいいわよ?」

結婚するには足りないわ…

《それでは、これはどうでしょう?》
《あなたは大恋愛をしたいと言っていたでしょう?私もしてみたいと思いました》

「わたしと、あなたとで?」

《ええ、難しいですか?でも、幸い、私には時間があります》

「わたしにはそれ程時間は無いわよ!人間だもの」

《番になれば、一緒に生きられますよ》
《あなたがしたいと言っていた事、全てが出来る位に》

それは魅力的だわ…
それに、先生なら、甲斐性もありそうだし…

白竜がニヤリと笑った気がした。
実際は分からないけど、そんな気がしたのだ。

「一つ教えてあげるけど、考えを読まなければ、退屈しないわよ」

《ああ、成程!》
《ですが、不思議とあなたの考えは知りたくなります》

困った人(竜)ね!

《あなたの望みを叶えたくなる、これは、恋ではありませんか?》

恋!

その言葉に胸がドキリとした。
顔がカッと熱くなる。
真夜中に、空の上で、二人きり、月の明かりを受けているから?
変にロマンチックだわ…

「恋かどうかは、分からないけど…」

でも、初めてみてもいいかも…

アンドリュー、パトリック、ブランドン、ジェローム…
皆、ゲームで攻略してきたけど、サイファールートなど存在しなかった。
経験した事の無い、ロマンスが待ち受けている筈___
ゲームを始める時の様に、わくわくしてきた。

「決めたわ!わたし、あなたを攻略するわ!」

《一度聞いてみたかったのですが、【攻略】とは何ですか?》

「自分に惚れさせて、骨抜きにしてやる事かしら?」

《面白そうですね、それでは、私もあなたを【攻略】する事にします》

「いいわよ!出来るものならね!」


◇◇


あれからわたしは、白竜に乗り、ハンナとクララ、パトリック、ブランドンに会いに行った。
散々心配させてしまったので、早く無事と事の顛末を知らせたかったのだ。

ハンナとクララは、驚きと喜びで、大号泣していた。
パトリックとブランドンは泣かなかったが、心から喜んでくれた。

わたしが居ない間、パトリックとクララは婚約していて、驚かされた。
だが、もっと驚かされたのは、ブランドンとハンナの婚約だった。

「クララとパトリックは分かるけど、どうして、ブランドンがハンナと婚約してるの?」

「俺が落ち込んでた時、ハンナがクッキーを焼いて持って来てくれてさー、
こいつを嫁にしたい!って、思ったんだよ…で、その場でプロポーズしてた。
まぁ、正直、最初から、惹かれてたんだけどさ」

ブランドンは照れ隠しに、赤い髪を掻き混ぜた。
デレデレとした顔をしている。
思い返せば、確かに、良くハンナを褒めていたわね…

「ハンナは、相手がブランドンでいいの?」

「彼、私が焼いたクッキーを、泣きながら食べていたんです。
それを見て、心の温かい人だと…素敵だと思いました。
アラベラ様が作って下さったご縁です…」

ハンナが頬を染め、幸せそうに微笑んだ。
素敵かは分からないけど、確かに、熱い男だわ…

「アラベラ様、良かったでしょうか?」

「ハンナが幸せなら、文句なんて無いわ!
それに、ブランドンには、ハンナ位しっかりした人が丁度いいわ」


夏中は、ハンナとクララの家に泊めて貰う事にした。
わたしの両親は、手の平を返し喜んでいるだろうから、帰る気になれなかった。
愛想笑いなんて、とても出来そうにないもの!

白竜は直ぐに帰って行ったが、代わりに黒猫がやって来た。

ドロシア、ジャネット、ジェローム、ファンダムの皆にも声を掛け、集まって貰い、
《アラベラ帰還祝い》と称し、キャンプをした。


白竜との約束で、王家が各方面に働き掛け、
わたしの名誉は、夏が終わるまでには無事回復された。


そうして、楽しい夏が終わり、わたしたちは学園に戻った___

新学期、最高学年になったわたしの側には、クララ、パトリック、ブランドンがいる。
ジェロームは卒業したが、ファンダムは続行中で、
ドロシアとジャネットは活き活きと活動をしている。

エリーの姿は無い。
彼女は魔力の大半を失い、学園生の資格を失ったのだ。
彼女の名を出す事は禁止されている。
白竜が許す様に言った事で、悪口を言い、白竜を怒らせるのを恐れているからだ。


◇◇


授業終了の鐘が鳴り、わたしは手早く机の上を片付け、席を立った。

「いつも早いね、アラベラ」
「それが取り得よ!パトリック」
「おい、教師より早く教室出るなよ!減点されっぞ」
「ブランドン相手なら、良いハンデになるわ!」
「へっ!見てろよ、アラベラ!次こそは勝ってやるからな!」
「アラベラ!もう行くの?」
「ええ、邪魔者は消えるわ!これから、パトリックとデートでしょう?」

わたしがウインクをすると、クララとパトリックは真っ赤になった。

「皆、また明日ね!」

わたしは紫色のリボンを結んだクッキージャーを抱え、早足で廊下を行く。
わたしの左薬指には、銀色の竜の形の指輪が嵌められている。
この《婚約》は、誰も知らない。
わたしと《彼》との間だけで成立した、《神聖な契約》だ。

わたしたちは、お互いを攻略し合い、それが叶った暁には、結婚すると約束した。

「攻略するには、親密度を上げていかなくちゃ!」

わたしは毎日の様に、薬学教室へ通い、それを実行している。
効果の程は…今の所、まだ不明だ。
何といっても、《彼》は変わっているから…

「いいわ、何れ、わたしに、とろんとろんにしてやるんだから!」

今日の所は、このクッキーで、餌付けをするつもり☆

わたしが薬学教室の前に立つと、歓迎するかの様に、その扉は自然に開かれた。
ガランとした教室に、白衣姿が見える。
長い銀髪はいつも通り、一束にしているが、その紐が何故紫色なのかは、
わたしだけが知る秘密だ。

ぐつぐつと怪しい音がしている。
こちらに気付いている筈だが、《彼》は振り返らずに、鍋を掻き混ぜている。
熱心な様子から、仕事だろうと察した。

「先生、何の薬を作っているの?」

わたしが脇から覗き込むと、銀縁の奥の目が初めてわたしに注がれた。
優しい微笑みに、ドキリとしたなんて、秘密だ☆
《彼》はわたしの頭の中が読めるが、それは厳しく禁止している。
《大恋愛》には邪魔だし…
それに、《彼》に有利になっちゃうもの!

「あなたと同じですよ」

「クッキーには見えないわ」

《彼》は小さく笑うと、わたしの唇に、「ちゅっ」と口付けた。

「惚れ薬です」


一年後、わたしは《彼》と、結婚する___

そんな予感に包まれ、わたしはキスを返した


《完》

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