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しおりを挟む何処も薄暗く辛気臭い城だが、わたし、母、リーズに与えられた部屋は、
明るい壁紙で比較的感じの良い内装になっていた。
花嫁の為に用意してくれていたらしいが、
母と妹まで付いて来るとは、当然だが、誰にも想像は出来なかった。
「申し訳ございません、アベラール夫人とリーズ様のお部屋は、
改めてご用意させて頂きます。暫くはこちらを共同でお使い下さい」
臣下が申し訳無さそうに言ったが、こちらとしては、牢屋でなければ万々歳だ。
母もリーズも愛想良く答えた。
「まぁ!お気遣い有難うございますぅ、こちらで十分ですわ~」
「ええ、広いし、綺麗よ!でも、自分の部屋はあっても良いわよ!」
「は、はい、それでは、ごゆっくりお過ごし下さい…」
臣下は礼をし、部屋を出て行った。
部屋は二間続きで、隣は恐らくメイド用の部屋だろう。
小さな部屋でベッドも小さい。
「大きなベッドに二人、もう一人は小さなベッドを使うので良いでしょ?」
リーズが大きな目を更に大きくし、キラキラとさせて仕切り出す。
「いいわよ、お母様には大きなベッドを使わせてあげて」
「そうね!」
「それで、リーズはどっちが良いの?」
「大きいベッドよ!」
花嫁の部屋で、花嫁がメイドの部屋に追いやられるとはね…
だが、これも長女の務めだ。
それに、ベッドの事など、今のわたしたちには、大した問題では無かった。
「部屋の事はどうでも良いわ!それより、この状況をどうしたら良いの!?」
わたしは長い両手を大きく広げた。
「どうって?お姉様がルネと結婚するんでしょう?」
簡単に言われ、わたしはガクリと肩を落とした。
「王様って、お優しい方ね~」
「お菓子もめっちゃ美味しいのよ!こんな小国なのに!」
「自然豊かで良い国よね~」
「探検したくなるわ!」
二人がこの国を気に入った事は分かった。
だけど、結婚するのは、わたしよ!!
むっと口を曲げ睨むと、リーズは可愛い肩を竦めた。
「いいじゃない、どうせ結婚する予定だったんだし、
相手がアンドレからルネに変わったと思えば?元々、政略結婚でしょ、同じよ!」
そんな簡単に…わたしは政略結婚の駒じゃないわ!
わたしは叫びたかったが、それをぐっと飲み込む。
泣き喚いた処で、何も変わらない。
花嫁に求められたのは《わたし》だ。
百年周期の花嫁となったのも、追放先の国の王太子と年齢が合ってしまったのも…
わたしの運が悪かった所為だ。
幾ら、母や妹が呑気で幸せそうで、羨ましくても…
わたしは深く深呼吸をした。
「オピュロン王国は、《友好の証》として、ヴァンボエム王国に花嫁を送ったそうよ」
「まぁ!素敵な贈り物ね~」とうっとりとした母は無視しよう。
「変でしょう?わたしは《滅びの星》を持っていると言われ、追放されたのよ?
わたしが住む処、国が亡びる、だとしたら、これは《友好の証》なんかじゃない、
そうでしょう?」
「そうだったわ!あんまりバカバカしかったから、忘れてたけど、お姉様は危険人物よ!」
誰が危険人物よ!
「でも、《滅びの星》は嘘でしょ?嘘なら問題無いよ!」
「嘘だって、証明は出来ないわ、本当だったらどうする?」
「この国亡んじゃうの!?」
「それはいいけど、わたしたち、この国からも追い出されるって事よ」
漸く、母とリーズは神妙な顔になった。
「今は皆知らないから、歓迎してくれてるけど、遅かれ早かれ、噂は聞こえてくるわ。
あの礼拝堂には沢山人が居たもの…」
こういう噂は隠そうとしても伝わるものだ。
最悪、ルネとの結婚式当日に、同じ事になるかもしれない。
「それは困るわ~折角、気に入ってたのに~」
「それじゃ、いつ追放されても良い様に、備えなきゃ!」
「追放だけで済めば良いけど、悪くしたら、処刑にされるかもしれないわ。
だって、この国を亡ぼそうとしたんだもの」
そんなつもりは無いけど、そういう罪状を付けられ兼ねないのだ。
追放になった時の経緯を考えれば、あり得ない事では無い。
「大変よ!どうするの!?今直ぐ、ここを脱走した方がいい!?」
「今直ぐじゃなくてもいいけど、手は打っておくべきね…
リーズは抜け道を探して、秘密の通路か何か…任せるわ。
わたしはこのままルネの婚約者として振る舞うわ」
「了解!お姉様、アンドレの時みたいに、彼に嫌われちゃダメよ!」
「嫌われたくて嫌われた訳じゃないわよ、合わなかったのよ、仕方ないの」
アンドレが嫌ったのは、わたしの《竜の血》が大きい。
アンドレは王族至上主義で、差別的だった。
そうだわ!と、わたしはそれに気付いた。
ルネはわたしたち一族を知らないから、あんな事を言ったんだわ…
わたしが《竜の血を引く者》と知れば、アンドレの様に毛嫌いするわ…きっと…
「仕方なくない!お姉様は可愛げが無いのよ!」
リーズの声で我に返った。
「何で、お姉様は、いつも馬鹿みたいに高慢ちきに振る舞うの?
そんなんじゃ、ルネだって逃げちゃうよ!」
「わたしは妃として振る舞う様に教育を受けたの。
《妻》である前に、《妃》でなくてはいけないのよ、王太子と結婚する事は、そういう事なの」
妃教育でそう厳しく言われてきた。
『民に侮られてはいけません!』
『妃は国の象徴、女神でなくては!』
『女神に感情など必要ありませんよ!』
わたしは、百年周期の花嫁として、自分の義務と責任を果たそうとしてきた。
「そんなお妃様なんて嘘よ!あたしが国民なら嫌だもん!」
リーズが叫ぶ様に言い、わたしはカッとした。
思わず手を振り上げてしまったのを、母がその腕で止めた。
「ヴァレリーの言う事は正しいわ、オピュロン王国の求める妃になろうと、努力したのね…
今まで、良く頑張りました」
母がわたしを抱きしめる。
わたしは思わず、母を抱きしめ返していた。
「あなたは立派よ、ヴァレリー、私たち一族の誇りだわ」
母に言われ、わたしは泣いてしまった。
勿論、声を殺してだ。
「お姉様…ごめんなさい」
リーズも言い、わたしを抱きしめてくれた。
リーズはわたしに大きなベッドを譲ってくれ、自分は小さなベッドに行った。
勿論、「明日はあたしが大きなベッドよ!」と言っていたけど。
こんな風に、母と一緒に寝るのは小さな子供の時以来だ。
少し恥ずかしく、少しうれしくもあった。
「お妃様になるって、大変な事だったのね…あなたは良く頑張ったわ、ヴァレリー。
それなのに、母親である私は、何も気づいてあげられなかったのね…
私って、駄目な母親ね…」
「違うの、わたしが気付かれたくなかったの…」
百年周期の花嫁になる事を、
母だけじゃない、亡くなった父も、リーズも喜んでくれていた。
重荷だなんてとても言えなかったし、アンドレや妃教育の教師たち、
王宮の者たちから、『獣』と呼ばれ、人間扱いされていなかったなんて…
ガッカリされる、悲しませると思い、とても言えなった…
気付かれたくなくて、強がっていた…
「あなたが嫌なら、《妃》になんてならなくていい!」
「でも、わたしがルネと結婚しないと…ここには居られないわ」
「そうなったら、それまでよ、三人で《竜の谷》へ行きましょう!
二月も歩けば着くわよ!旅行も出来て一石二鳥よ~」
母が明るく言い、わたしは笑った。
最終的に、《竜の谷》へ行く事になるかもしれない…
だけど、今は、どうするべきか分からない…
母とリーズを悲しませたくない。
ここに居られたら、母もリーズも良い暮らしが出来る…
追放者だと露見するまでは、ルネの婚約者を続けるのが無難ね…
◇◇
「ヴァンボエム王国の伝統に則り、花婿となる者、花嫁になる者には、
ヴァンボエム式の敷物を織って貰う___」
風習というのは、夫婦になる者同士が協力し、敷物を織る事らしい。
羊が多いのか、綿花を育てているか…若しくは両方かしら?
王から命じられ、わたしとルネは、王城の北の塔へと向かった。
北の塔の一階、中央には大きな織機が一台置かれていて、
周囲には色の着いた毛糸が山の様に置かれていた。
羊の方だったわね…
レース編みはした事があるが、織物は初めてで、わたしはただただ、それを眺めていた。
「ヴァレリー、織物は初めてですか?」
「はい…ルネ様は?」
「僕も初めてです」
ルネはニコリと笑う。
あまりの呑気さに、一瞬、その首を絞めてやりたくなったが、
「教えて下さる方が来られます」と続けたので手を下ろした。
「敷物の図案ですが、僕が考えた物を見て頂けますか?」
図案??
ルネに大きな紙を何枚か見せられた。
升目が塗り込まれたもので、色々と書き込みもしてあった。
レース編みと似た様なものだが…
「ルネ様がお考えに?これを書かれたのですか?」
織物は初めてなのに、図案は書けるのね…
「はい、気に入ったものがあると良いのですが」
正直、図案など何でも良かったが…
わたしは薄暗く陰気な城を少しでも明るくしようと、明るめの色合いの図案を選んだ。
「わたしはこちらがよろしいかと」
「花の模様ですね、あなたらしい」
「わたしらしい?それは…どの様な意味ですか?」
会ったばかりというのに、わたしの何が分かるのだろう?
思わず訝し気に見返すと、ルネはニコリと笑った。
「はい、大変に女性らしく、可愛らしいと思います」
は??
わたしは更にルネをガン見したのだった。
わたしが、『女性らしく可愛らしい』なんて…ルネの感性はどうかしている。
そんな事、アンドレが聞けば、腹を抱えて笑うだろう___
ああ、そうか…ルネはわたしが《竜の血を引く者》と知らないんだったわ。
でも、それを抜きにしても、わたしはルネより体格も良いし、背も高いわ…
やはり、変わった感性を持っているのだろう。
「…ルネ様、先程から感じる、あの殺気を帯びた視線の者は何者でしょう?」
わたしは話題を反らした。
視線の事は本当で、この塔へ向かう頃から、ずっと視線を感じていた。
チラリと、窓の方を見ると、サッと隠れた者がいた。覗いていた様だ。
「ああ、あの者ならば、僕の側近のエミールです、寂しいのでしょう」
寂しい?
寂しいからと、こそこそ覗き見している様な者が側近で良いのだろうか?
いや、これはきっと、わたしを油断させる為に言った事ね…
わたしを怪しんでいるのだろうか?
見張られていると思うと、気を引き締めなくてはいけない。
それで、ぐっと背を反らしたのがいけなかった…
「ヴァレリー、緊張されていますか?」
ある意味、緊張ではあるけど…
「大丈夫ですよ、僕が付いています」
ルネがゆったりと微笑むので、わたしはポカンと口を開けてしまった。
こんな事を言われたのは初めてだわ…
アンドレからは勿論の事、他の誰からも…
どんな窮地に立たされても、わたしの頼りは自分だけだった。
本気で言ってるのかしら??
でも、とても信じられない…
男気があるのか、やはり、頭が少しおかしいのか…
悩んだものの、わたしは妃教育で教わった通りに返した。
「ありがとうございます、頼りにしておりますわ、ルネ様」
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