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しおりを挟む「《象徴となる物》でしたら、一種類の物を収穫するのですか?」
一種類を選び、それを収穫するのは分かるが、皆に配るのならば、数が必要だ。
森林には色々と木の実や果実が生っている。
それを採らないというのも勿体ない気がした。
「はい、一種類です」
それじゃ、気合を入れて探さなくてはね!!
大量に収穫出来る実か何かがあれば良いけど…
「ルネ様には、何かお目当てがあるのですか?」
「はい、実はあります、あなたに気に入って頂けたら良いのですが」
「楽しみですわ!」
わたしには好き嫌いは無い!
わたしは余裕の笑みを見せた。
「ルネ様はここを良くご存じなのですね?」
「はい、森林は幼い頃からの遊び場ですので、案内は任せて下さい」
土地を覚えるのはわたしも得意だが、ルネも得意なのだろう。
「頼もしいですわ!」
解放感もあり、わたしは明るく言っていた。
ルネが「ふふふ」と笑ったので、チラリと隣を見ると、うれしそうな表情が見え…
わたしまで口元が緩んでしまった。
「この先です、泉があります…」
茂みを掻き分け、木立の間を抜けると、そこに辿り着いた。
泉の周囲を囲む木々は、沢山の黒い実をつけていた。
ルネが腕を伸ばし、枝から実を一つ取り、わたしに渡してくれた。
卵程の大きさで、真っ黒くボコボコとしていて固い。
「ルクシュの実です、外側の殻は固いですが、中身は瑞々しく甘いですよ」
ルネはナイフを取り出し、わたしの手から実を取ると、
慣れた手つきで切り込みを入れ、殻を半分剥いだ。
外側とは違い、白色の瑞々しい球体が現れ、驚いた。
「綺麗…」
ルネが「食べてみて下さい」と、わたしに差し出す。
わたしは心惹かれ、それを口に入れていた。
思ったよりも柔らかく、そして、甘い___!
果物特有の良い匂いもし…何ともいえない甘美な味に、わたしはうっとりとしていた。
「とても、美味しいですわ…」
「気に入って頂けましたか?」
「はい!この様な美味しい果実は初めて頂きました!」
どうして、ここより大国であるオピュロン王国で食べた事が無かったのか、不思議だ。
「ルクシュは育てるのが難しく、土地を選ぶ木なんです。
水も綺麗なものでなければいけません。
そして、実は収穫後、5日と持ちません」
日持ちがしないのであれば、確かに他の国で売るのは難しいだろう。
「ヴァンボエム王国では、沢山収穫出来るのですか?」
「ええ、後二月程は食べられますよ」
「ジュースやジャムにも出来そうですね」
「そうですね、余った時や食べきれない時は、家で料理に使ったりするそうです」
土地に馴染んだ果実の様だ。
リーズにあげたら喜ぶかしら?
「木に登って取れば良いのですか?」
わたしは腕を振り回した。
見た所、そこまで大きな木では無いので、十分に登れそうだった。
量も十分にありそうだ。
わたしたちはそれぞれに、大きな籠を背負って来ている。
森林を出た処に荷車を置いているので、何度か往復する事になるだろう。
「外側は固いので、少々の衝撃があっても平気です、なので…」
ルネが腕を振ると、強い風が巻き起こった。
そして、それは小さな竜巻となって実を空に舞い上げた。
「!??」
わたしは思わずぽかんと口を開け、上空を見てしまった。
足元に、ボトボトと黒い実が落ちて来る。
「な、な、な、何事ですか今のは!??」
「魔法です、僕は少しなら魔法を使えますので」
ルネは当たり前の様に言い、微笑むが…
今の時代、魔力を持つ者は少数だ。
それ故、魔力を持つ者は、その力の大きさにも寄るが、尊敬され優遇される存在だ。
オピュロン王国では、一定の魔力を持つ者は魔術師団に入る事が義務付けられていて、
大きな権力を持っていると聞く。尤も、大魔術師と呼ばれるのは数名で、
魔術師団員も二十名位らしい。
今の時代では、道具の開発が進み、暮らしも便利になってきている。
魔術師が活躍する時代は過ぎ去ったと言える。
とはいえ、魔術師は希少だし、やはり、凄いわ…
思わずルネをガン見してしまっていた。
ルネが困った様に眉を下げ、苦笑する。
「本当に、少しなんですよ。
僕の場合、根本になる体力が低いので、直ぐに力切れになります。
ヴァンボエム王国の王族は魔力の強い一族なのですが、虚弱体質でもあり、
残念ながら、役に立たないのですよ…」
「そんな事はありませんわ!これだけの実を木から落とすには、
わたしなら木を揺らすか、体当たりするか…兎に角、時間も掛かるでしょうし、
木の方も迷惑でしょう。ここの木たちは、ルネ様に感謝すると思いますわ」
「あなたは、お優しい方ですね…」
ルネに言われ、わたしはカッと赤くなる。
「と、と、と、兎に角!実はわたしが拾いますので、その間、ルネ様は休んでいて下さい!
大丈夫です、わたしの一族は皆疲れ知らずですから!!」
だから、《獣》と言われるのだろう…
嫌な事まで思い出してしまった。
だが、ルネはにこやかに告げた。
「それでは、僕たちは、お互いを補い合える存在という事ですね」
お互いを補い合える…?
そんな風に考えた事は無かった。
いつも、相手は相手、自分は自分、そんな風に思っていた。
特にアンドレとは…
彼はわたしを必要にした事は無かったし、わたしを助け様とした事も無い。
それ処か、いつもわたしを陥れ様としていた位だ。
そして、わたしの方も、あんな男に頼るなど、自尊心が許さなかった!
だけど、ルネには…
頼る事を《恥》とは思わない…
小国の王太子、わたしよりも華奢で背も低い彼が…
わたしには何故か、頼もしく思える…
「謎だわ…」
わたしは頭を振ると、地面に落ちたルクシュの実を、凄い勢いで拾っていったのだった。
収穫したルクシュの実は、一旦城の倉庫に置き、翌朝、荷馬車に積み、城を出た。
何処で聞きつけたのか、広場に向かう通りの前には、人が出て来ていた。
荷馬車には、ルクシュを山盛りにした大きな籠が、十数個並んでいる。
それを見て、町の人は感嘆した。
「おい!ルクシュだぞ!」
「城のルクシュが食べれるとはね!有難いよ!」
「城のは特別美味しいらしいからね!」
「それにしても、凄い量だな!」
「こりゃ大したもんだ!」
「よく取ったもんだ!三日は掛かっただろうよ」
いえいえ、半日も掛かってはおりませんわ!おほほほ
わたしは荷馬車の御者席、ルネの隣でにんまりと笑った。
広場に着き、荷馬車から籠を幾つか下ろし、集まって来た人たちに実を渡していく。
「どうぞ」
「ありがとうございます!ルネ王子、ヴァレリー様」
何故か、皆、わたしの名を知っていて驚いた。
「いやー、美人だな!」
「あんた!王太子妃に失礼だよ!」
「ルネ王子、ヴァレリー様、ご結婚おめでとうございます!」
「異国の花嫁もいいもんだね!」
「皆、あんたを歓迎しているよ!」
「ルネ王子、良かったですね!」
「いや、お似合いだ!」
「羨ましいよ!結婚おめでとう!」
まだ結婚していないというのに、祝福の言葉を掛けられる。
だが、皆、わたしを歓迎してくれていて、安堵した。
ソフィ婆さんを見ていると、余所者にはもっと厳しいのかと思っていた。
そんな事を考えていると、わたしの前にしわがれた手がズイッと差し出された。
見るとソフィ婆さんで、わたしは思わず仰け反った。
「あたしにゃ、くれないのかい?」
「いいえ、ソフィ先生、いつもお世話になっております」
わたしはルクシュの実を、両手で差し出した。
ソフィ婆さんはそれを掴み取ると、じっと眺めた。
「こりゃ、立派な実だ!
城のルクシュを食べられるとはね、長生きした甲斐があったよ、有難うよ」
へ??
思い掛けない言葉に、わたしは思わず聞き返しそうになった。
「この実に免じて、二日は差し引いてやるよ、後十五日で二月二十五日だ」
ソフィがニヤリと笑う。
わたしも笑みを返した。
「ソフィ先生でもなければ、十五日で仕上げるのは無理ですわ、おほほほ」
勿論、謙遜だ。
相手を油断させておかなければね!!
「十五日で仕上げたら、あたしを《ソフィ婆さん》と呼ばせてやるよ!カッカッカ」
ふ!ふ!ふ!
言葉質を取ったわよ!!見ていなさい!ソフィ婆さん!!
途中、金貨を製造する工房の者が来て、わたしたちを写生していた。
金貨には、ルクシュの実だけでなく、ルネとわたしの肖像も彫られるという。
大掛かりで驚くが、町の人たちは沸いていた。
「金貨が出来るのが楽しみだ!」
「縁起物なんだよ、持っていれば、独身者には良縁があるってね!」
「既婚者は愛が深まると言われてるよ」
「関係なく、一枚は欲しいね!」
「美男美女だからな!」
「良いのを作ってくれよ!」
ルクシュの実は、二時間程度で配り終わった。
籠の中にはまだ残っていたが、行列は無くなっていた。
「行き渡ったでしょうか?」
「残りは、教会と修道院に運びましょう」
わたしたちは荷馬車に乗り、教会へと向かった。
教会の裏手には修道院もあった。
神父や修道女たちは広場には来ていなかった。
施す側だからだろうか?それとも、余らないだろうと、遠慮していたのだろうか?
わたしたちは神父と修道女に挨拶をし、祝福を受けた。
「お疲れでしょう、少し休んでいかれて下さい」と、神父が勧めてくれ、
わたしはその時になり、ルネの顔色が悪い事に気付いた。
「ルネ様、体調が悪いのではありませんか!?」
「少し、疲れました、心配を掛けてすみません」
ルネが苦笑する。
きっと、実を配っていた時から悪かったのだろう…わたしは愕然とした。
「それならば、無理をせずに、おっしゃって下さい!御者はわたしが致しましたのに!」
「ありがとう、町の人たちを心配させたくなくてね…皆喜んでいたから」
ルネの気遣いに、わたしは内心納得していた。
わたしも妃教育で厳しく躾られた。
無理をしなければいけない場面もあるだろう…
「ルネ様はご立派です、わたしが至りませんでした…」
わたしが上手くルネを支えてあげなくてはいけなかった。
わたしがルネを気遣っていなかったからだ___
自分の至らなさに気落ちしたが、ルネは銀髪の髪を揺らし、笑った。
「いいえ、あなたがいるから、僕は少々の無理が出来るのです。
いざとなれば、あなたが上手くやってくれると、頼りにしているのです」
わたしを頼りに…
わたしは、ルネ様の期待に応えたい___
「ルネ様…!」
わたしは強い想いで、ルネを見つめた。
ルネの灰色の目も、わたしを見つめる…
「どうぞ、紅茶です」
修道女にお茶を出され、わたしたちは「はっ」とした。
この場に、わたしたち以外の者が居た事を、忘れてしまっていた。
「頂きます!」
わたしたちは赤くなりつつ、紅茶を飲んだ。
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