【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!

白雨 音

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第一章

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一晩寝て起きると、雑草はすっかり枯れていた。
それを集めて燃やす。
土地を耕してみると、案外良い土だった。

「放っておいたのに、固くも無いし…これなら野菜も良く育ちそうだわ!」

わたしは一部を耕し、そこに相続した《種》を蒔いた。
机の引き出しの中にあった、手作り図鑑を元に、出来るだけ早く育つ野菜を選んだ。

「皆、飢えているもの!」

それから、アーチに程近い場所も耕し、種を蒔く。
これは鶏たちの餌用で、根を残していれば、どれだけ葉を毟っても、
翌日には葉を茂らせてくれる。栄養も豊富で、理想的な葉野菜だ。

「早く育ってね!」

水をやるついでに、鶏たちの様子を見に行った。
鶏たちは小屋から出され、囲いの中で動き周り、雑草の生える地面を突いていた。

「皆、おはよう!今朝の調子はどう?お水を替えてあげるわね!
どうぞ、美味しいお水よ!」

わたしがそれを注ぐと、鶏たちが集まって来た。
わたしは鶏たちに声を掛け、撫でてやった。
痩せていて、色つやも悪く気の毒だ。

「もっと太らなきゃ!ここの人たち全員よ!」

人も動物も、皆痩せていて、血色も悪い。
これでは、いつ誰が病に掛かってもおかしくはない。

「あら、卵だわ!」

草が盛り上がっている所に、卵が産み落とされていた。
少々小さくはあるが、痩せた鶏が産んだにしては上等だろう卵が、三つもあった。
産みたてだろう、温かい。

「あなたたち、凄いじゃない!美味しそうな卵だわ!」

鶏たちが得意そうに羽を広げ、「ココ、ココ」と鳴く。

「館に届けてあげなくちゃ!」

念の為に小屋の中も覗いでみた。
そこにも卵が三つ産み落とされていて、わたしはそれを抱えて館に向かった。

「セバスさん!鶏が卵を産んでいましたよ!」
「これは、わざわざありがとうございます、エレノア様…この卵ですか?」
「はい、産みたての様ですよ!」
「この館の鶏が、この様な立派な卵を産んだのは初めてです…」
「きっと、今日は調子が良かったんですよ!」
「エレノア様、一つはエレノア様がお持ち下さい」

セバスは一つを残し、卵を受け取った。

「でも、それでは、足りないでしょう?」

「いいえ、十分です。
大奥様も、ウィル様も、クレイブ様も、そうする様に言われるでしょう」

卵を取って来た報酬だろうか?
そんなの、気にしなくてもいいのに…
だが、正直、美味しそうな卵を前に、断る理由も無かった。
きっと、卵はまた産むし、いいわよね?

「ありがとうございます!感謝しますわ!」

わたしは卵を両手に包み、オースグリーン館へ帰った。


卵を貰ったので、朝食にパンケーキを焼く事にした。

「ミルクは無いから、水にするわ!
でも、ここのミルクは美味しくないから、きっと水の方がいいわね…」

小麦粉に、卵を落とし、砂糖、水を入れて混ぜる。
粉っぽさが消え、黄色掛かった粘り気のある生地が出来た。
それを、バターを溶かしたフライパンに流し、焼く…

「ああ!いい匂い!!」

お腹が空いてきた。
パンケーキを焼いている間に、ポットを火に掛け、紅茶の準備をした。
町で買った、一番良い茶葉だが、それでも、期待は出来そうになかった。
缶の蓋を開け、顔を近付けて茶葉の匂いを嗅いだ…
「うう…」、思わず顔を顰めてしまった。

所々焦げた薄いパンケーキを二枚、それから、昨日買ったソーセージを焼く。

「凄いわ!なんて、豪華な朝食なの!」

これは十分に、立派な朝食と言えるだろう!
初めて自分一人で朝食を作り上げたのだ、わたしはそれだけで興奮していた。
フォークとナイフを手に、パンケーキを切って口に入れる…

「ん!美味しい!!」

あの小麦粉を使ったというのに、変な風味はしなかった。
残念ながら、ソーセージはイマイチだったが、紅茶も問題は無く、美味しく感じられた。

「茶葉は変な臭いがしていたのに…どうして紅茶にすると、匂いが消えてるの?
もしかして、水かしら?」

だが、コルボーン卿の館と井戸は違うとはいえ、そう離れていないのだから、
それ程違いがあるとは思えなかった。
それとも、料理長のマックスの腕が悪いとか?

「まさか!」

マックスは良い人そうだった。
わざと不味い料理を出したりはしないだろう。

「あまり考えない方がいいわね…」

だが、週末、わたしはウィルの館に、晩餐に行かなくてはいけない…

「ああ!何故、行くなんて言ったのかしら!?」

わたしは館の料理を思い出し、頭を抱えた。
だが、後悔しても始まらないので、一旦忘れる事にし、片付けを済ませ、庭に出た。
落ち葉は片付き、雑草も燃やしたので、庭は見違える程綺麗になっていた。

「今日は剪定をしてあげるわね!」

木々たちを見回して宣言した。
木々たちが、うれしそうにカサカサと枝を揺らす。

わたしは昨日仕入れた梯子を木に掛け、上り、同じく仕入れた枝切ハサミで、
伸び放題になった枝を切って行く。

ガッガ!!バサバサ!ガッガ!!


「お早うございます!エレノア!」

調子が出てきた頃、ウィルがのんびりとやって来た。
こう頻繁に顔を出されると、『いつも部屋に閉じ籠り、仕事をしている』という話は、
嘘ではないのかと疑いたくなる。

「おはようございます、ウィル」

わたしは手を止めたが、梯子に上がったままで、挨拶をした。
ウィルは気にせずに、笑顔でわたしを見上げた。

「今朝は立派な卵を、ありがとうございました!母も大変感激していましたよ!
その、母は普段、朝食を食べないんですけどね、それに、食が細いんです。
でも、今朝は食べたんですよ!あなたの卵のお陰ですよ!エレノア!」

「それは喜ばしい事ですね、ですが、わたしが産んだ卵ではありませんわ、
あなたの鶏が産んだものです。お礼なら、あなたの鶏に言うべきですわ」

「ははは!それはそうなんですけどね、あなたが来るまで、
あの鶏たちは小さな卵しか産まなかったんですよ」

意味あり気な言葉と視線に、わたしは顔を顰めた。

「ただの偶然です!」

「分かりました、それでは、そういう事にしておきますね!」

何だか腑に落ちない言い回しだが、面倒臭くなり、適当に頷いておいた。

「それにしても、随分変わりましたね!見違える程、綺麗ですよ!」

ウィルが庭を見回して感嘆した。
それにはうれしくなり、わたしは内心でニマニマとしてしまった。

「ええ、まぁね」

「謙遜なさらないで下さい!
ああ!畑もあるじゃないですか!一体、いつの間に!?
あなたは働き者ですね!エレノア!感心します」

いえいえ、それ程でも~
わたしはすっかり機嫌を良くしていたのだが…

「エレノア、梯子を支えましょうか?」

ウィルに申し出られ、ギョッとした。
梯子を支えるですって!?スカートなのに!!
わたしは片手でスカートを押さえた。

「駄目よ!いえ、その…片づけを、お願いしてもいいですか?」

「はい!何でも手伝いますよ!」

「ありがとうございます、落ちている枝を拾って、集めておいて下さい。
薪に使えそうな物は葉を落として分けて…」

使えない物は、燃やす事にする。

「分かりました!」

ウィルはせっせと枝を拾い始めた。
わたしは安堵の息を吐き、枝に向かった。

「気持ちいいでしょう?後でお水もあげるわね!美味しいのよ!
あなたたちも、美味しい実を付けてね!」

返事をする様に、枝葉がカサカサと揺れた。


昼になり、下男のボブが、ウィルとわたしに昼食用のサンドイッチを運んで来てくれた。

「鶏が卵を産んでいました、今朝と同じ位の卵を、十個も…」

ボブから聞き、わたしとウィルは歓声を上げた。

「凄いわ!」
「それは凄い!」
「でも、急にどうしたのかと…」

ボブは戸惑っている。
これが普通の反応だろう、ウィルや夫人が変なのだ!

「エレノアのお陰だよ!」

笑顔で言うウィルに、わたしは顔を顰めて見せた。

「違います!でも、井戸のお水をあげたわ」

「ほら!そうでしょう!僕もそう思っていたんですよ!」

ウィルは得意気だが…

「井戸の水?」

「いいえ、そうではなくて…ああ、でも、オースグリーン館の井戸水ですからね!
きっと、特別ですよ!
それとも、あなたが汲んだものだからでしょうか?あなたが世話をしたから?」

ああ、駄目だわ、この人には、常識というものが無いんだもの…
言葉では『違う』と言っているけど、絶対に、わたしを神様か精霊だと思っているわ!
話に付いていけないボブは、ポカンとしている。

「ウィル、もう黙って下さい!ボブが困るでしょう!」

「困る?そうなの?何故かな?」

「いえ、俺はこれで…」

ボブは逃げる様に去って行った。
わたしは話を反らす事にし、ウィルをオースグリーン館へ誘った。

「ウィル、中で食べますか?良ければ、紅茶を淹れますわ」

ウィルは眼鏡の奥の目を輝かせ、笑顔を見せた。

「はい!是非とも頂きたいです!」


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