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魔法学園二年生
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しおりを挟む新学期、クラス分けが掲示板に貼り出された。
わたしとマデリーンはAクラスになり、シャーロットと三人で喜び合った。
「ああ!Aクラスなんて緊張するわ!」
マデリーンは朝からずっと緊張し通しだった。
教室に入り、椅子に座ってもまだ背筋を伸ばしている。
シャーロットは全く普段通りで、「それじゃ、また後でね!」と手を振り、
スカートを翻し走って行くと、窓際の一番前の席、首席の席に座った。
わたしは十二番なので、二列目の廊下側だ。
教室がざわざわっとしたかと思うと、オーロラが教室に現れた。
豊かな金髪の巻き毛、紫の瞳、白い肌…少し顎を上げ、無表情で歩いて
来る姿は、超絶した雰囲気があり、何処からともなく感嘆の声が上がった。
「いつ見ても、オーロラ様は美しいな…」
「流石、王子の婚約者だな…」
「公爵令嬢なんか超えて、女王の風格があるよ…」
「才色兼備、オーロラ様が学園一だな」
賛美される中、オーロラは無表情のまま、自分の席に向かう。
驚く事に、オーロラは順位を下げており、彼女が座ったのは9番の席だった。
わたしはなるべく、彼女の方を見ない様にした。
だが、学園中が、わたしが元、オーロラの家で雇われていた事を知っている。
「主人と使用人が同じクラスってさー…」
「良かったじゃん、仲良いんだろ」
「オーロラ様は使用人にも優しいだろうなー」
変な期待を掛けられ、生徒たちからチラチラと見られ、
わたしは困惑し、気付かないフリをした。
休み時間になり、オーロラがわたしの席に来た。
わたしが椅子から立ち上がると、彼女は薄く微笑を浮かべ、言った。
「エバ、あなたと同じクラスになれてうれしいわ、仲良くして下さいね」
「は、はい、オーロラ様…」
わたしが控えめに答えると、オーロラは頷き、席に戻って行った。
周囲の男子生徒は「流石、オーロラ様!」「使用人にもお優しい!」と
盛り上がっていた。
わたしだけだろう、彼女が何を考えているか分からず、怯えている者は。
◇
オーロラは基本、独りで居る。
その周囲を男子生徒たちが囲み、ちやほやしている図を良く見る。
彼らは恋愛対象というよりも、オーロラに心酔し、崇拝している様子だった。
そもそも、王子という婚約者がいるのだから、手を出そうという愚か者はいない。
そして、オーロラは男子生徒たちに囲まれる中、無表情で、問われた事に
言葉少なく答えるか、時折微笑を見せる程度だった。
それが男子生徒たちには、神秘的に見えている様だ。
「美しい…神々しい…」
「聖女様がいるなら、オーロラ様の様な方だろう」
午前の授業が終わり、オーロラは席を立った。
上流階級の生徒たちは、食堂よりも豪華なカフェで食事を取る者が多く、
オーロラもその一人だった。
わたしはシャーロットとマデリーンと一緒に教室を出て、食堂に向かった。
だが、途中、運悪くダニエルに待ち伏せされていた。
「おい!エバ!何で村に帰って来なかったんだよ!待ってたんだぜ!」
「寮に残りたかったのです」
「いきなり、Aクラスとか、おまえ、何かやったんじゃねーの?」
「!?」
あまりの言われように、わたしは愕然としたが、彼はそれを誤解し受け取った。
「やっぱりか!おまえ、昔から悪知恵働くヤツだったからなー!
なぁ、俺にも教えろよ!俺もAクラスにしてくれよ」
「変な事、言わないで下さい!わたしは不正なんてしていませんわ!」
わたしは言ったが、ダニエルは全く信じようとはしなかった。
「CクラスがAクラスに上がるなんて、何かしてなきゃ無理だろ、
誰も信じねーって!」
ダニエルの声は大きい、周囲の生徒たちがわたしたちを振り返って行く。
わたしはあまりに悔しく、恥ずかしいのもあり、怒りに震えた。
その分口が回らなくなったが、わたしには二人の頼りになる友がいた___
「聞いていれば失礼ですよ!あなた!」
「そうよ!エバは不正なんかしていないわ!薬学での事知らないの?」
「エバは凄い才能を持っているのよ!」
「教師も生徒も認めてるわ!成績が上がって当然でしょう!」
「碌に知りもしない癖に、変な言い掛かりを付け無いでよね!」
「いい加減、エバに絡むのは止めなさい!みっともない!」
二人はわたしを守る様に、わたしの両腕に自分の腕を絡ませると、
颯爽と歩き出した。
これにはダニエルも敵わなかった様で、その場で悪態を吐いていた。
「ああ、嫌だ!本当にしつこい男ね!」
マデリーンが毛虫でも見たかの様に顔を顰め、吐き捨てた。
「あんな幼馴染みを持って、エバに同情するわ…」
「ただの幼馴染みって訳でも無いんでしょう?」
シャーロットに言われ、わたしは嘆息した。
「あの方、勝手に、わたしを結婚相手に決めていますの…」
「エバは断ってるんでしょう?」
「はい、でも、話を聞かないのです、両親に了解を取られたらと思うと…」
「それは恐怖ね…」
「両親は断れないの?」
「分かりません…」
一度も会った事も無い人たちだ。
それに、手紙も届いた事が無い。
わたし自身、ボロが出無い様、手紙を書いていないのもあり、
全く知らない人たちなのだ。
「でも、ご両親は王宮の官僚になるのを勧めていたわよね?」
去年、マデリーンにそんな言い訳をし、選択授業を選ぶのを
手伝って貰った事を思い出した。嘘なんか吐くものではない。
「なら、断ってくれるわよ!元気出して!」
全く根拠にならなかったが、わたしは二人に合わせ、笑って見せた。
◇
放課後、オーロラに声を掛けられ、二人で図書室へ向かった。
その道中で、オーロラが小声で言ってきた。
「あんたと同じクラスなんて本当に最低よ!吐き気がするわ!
来年度は絶対にAクラスなんかなるんじゃないわよ!」
「はい…オーロラ様」
とても、元に戻して欲しいと言える状況では無いと感じ、
わたしは項垂れて答えた。
「仕方ないから、今年だけは、あんたに付き合ってあげるわよ。
わたしを見掛けたら、笑顔で挨拶して来なさい!
そして、何か気の利いた事を言ってわたしを褒めるのよ!
わたしのイメージを崩す様な事を言ったら、許さないから!いいわね!」
彼女にキツク言われ、わたしの喉はキュっと締まった。
「はい、オーロラ様…」
「その陰気臭い顔を止めなさいって言ってんのよ!」
ギロリと睨まれ、わたしは思わず足を止めた。
怯えた顔になっていたらしく、オーロラは急に笑みを浮かべ、
わたしの頬に手を添えた。
「可愛いエバ、あなたと友達になれてうれしいわ」
その目は笑っていないが、わたしは必死に笑みを見せた。
「わたしもです、オーロラ様…」
◇◇
わたしは彼女に言われた通り、オーロラが教室に入って来ると、
席を立ち、彼女の元へ走った。そして、笑顔を作り、礼儀正しく挨拶をする。
「オーロラ様!おはようございます」
「エバ、おはよう」
「オーロラ様、今日も素敵ですわ…」
「ありがとう、エバ」
端から見れば、仲の良い友達同士に見え、男子生徒たちは喜んだ。
「いいな~、麗しい令嬢の友情!」
「あの子も一応、男爵令嬢だろ?」
「ただの男爵令嬢じゃねーって!」
「公爵家で雇われてたんだから、やっぱ、品があるよなー」
オーロラが席に着くのが合図の様に、わたしは席へ戻った。
シャーロットとマデリーンは、最初は不思議がっていたが、
それも一週間、二週間と続けば、すっかり見慣れた様だった。
最初は、オーロラと同じ教室という事もあり、緊張していたが、
選択授業が始まると、それもかなり和らいだ。
このまま、彼女との関係は、それなりに上手く続く…と、わたしは思っていた。
わたしには、もう一つ気になっている事があった。
あれから、ウィリアムに会っていない、という事だ。
彼は「新学期、学園で」と言ってくれたが、
サマンサの屋敷で別れて以降、わたしはその姿を見てもいなかった。
元々、ウィリアムは一学年上で、王子でもあり、滅多に会う人では無い。
だから、わたしが意識しているから、そう感じるのかもしれない。
「きっと、気にし過ぎよね…」
自分で自分に言い聞かせ、励ましてみても、効果は得られず、
どうしようもなく、わたしの心は沈んだ。
もし、ウィリアム様に避けられていたら、どうしよう…
ウィリアム様は、あの時の事を気にしているのだろうか?
あの時の事を、どんな風に思っているのだろう?
そして、わたしの事を、どう思っているだろう?
もう、『友』とさえ、思って貰えないのだろうか?
そう考えると、不安と恐怖、絶望で、身が引き裂かれそうになる。
ウィリアム様に会いたい!!
だが、自分から会いに行く事など、出来る筈が無かった。
ウィリアムは、第三王子で、オーロラの婚約者なのだから___
わたしは寂しさと不安のあまり、学園パーティの時に逃げ込んだ、
薔薇園の奥へ行き、あの時と同じ様に、古い樹の幹に隠れた。
わたしは右手を握り込むと、「ふうっ」と、息を吹きかける。
ゆっくりと手を開くと、そこには小さな金色の蝶がとまっていた。
それは、翅を羽ばたかせると、空へと飛び立った。
ふわふわと、空に飛んで行く姿に、あの時のウィリアムとの思い出が蘇った。
ああ、あの頃に戻りたい___!!
二人で笑い合えた、あの時に___
金の蝶が空に消え、わたしは「すん」と鼻を啜った。
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