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本編
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しおりを挟む会場に入ると、直ぐにハワードが気付いて寄って来た。
「オフェリー、今日の君も綺麗だよ」
記憶のまま、ハワードは優し気な笑みと共に、わたしの手に口付けを落とした。
本当に、理想的な王子様だ。わたしだけを見ていてくれたら、どれだけ良かっただろう…
「ハワード、ありがとう」
「一緒に居たのは誰だい?」
「弟のルシアンよ、初めて会うわよね、紹介したかったんだけど…」
一緒に会場に入ったものの、ハワードに声を掛けられた隙に、ルシアンは居なくなっていた。
「いいよ、これから顔を合わせる事も多くなるだろうし、彼は養子なんだよね?」
「ええ、王立貴族学院を卒業して帰って来たの、凄く優秀なのよ、今は父に仕事を習っているの」
「へぇ、それは伯爵も安心だね、オフェリー、一曲踊って貰えるかな?」
音楽が流れ始め、わたしはハワードのエスコートでダンスフロアに入った。
わたしの体感では久しぶりのダンスだったが、体は覚えていてくれ、難なく踊る事が出来た。
最後にハワードと踊ったのはいつだっただろう?父が亡くなって以降は喪に伏していたので、それ以前だが、あの頃は結婚式の準備を始めた頃で忙しく、一緒にパーティに出る処か、会う事も少なくなっていた。
もしかして、ハワードとアリアナが親しくなったのは、その頃かしら?
でも、前回のルシアンは、もっと前だと示唆していた…
折角の婚約者とのダンスに、そんな事を考えている自分に苦笑した。
「君は素敵だよ、オフェリー、この会場の中で一番綺麗でダンスが上手だ、エスコート出来る僕は幸せ者だよ」
ハワードが熱い眼差しで感情たっぷりに言う。以前であれば胸が高鳴り、うっとりとしていた所だが、今は大仰に聞こえた。
「そんな事は無いけど、褒めて下さってうれしいわ」
「何曲だって踊っていたいけど、君を疲れさせてはいけないね、何か飲むかい?」
「ええ、お願いするわ」
ハワードが飲み物を取りに行き、わたしは小さく息を吐いた。
ふと、ダンスフロアで踊っているルシアンに気付いた、相手はコレット=マロイ男爵令嬢だ。
こんなに早くから、二人は知り合っていたのね…
「オフェリー、お待たせ、アリアナと会ったよ」
戻って来たハワードはアリアナを連れていた。ハワードはわたしとアリアナに飲み物を渡す。
「ありがとう!ハワード様」先にお礼を言ったのはアリアナだった。アリアナの表情は輝いて見え、息が止まった。前回もそうだったかしら?
「オフェリー、どうしたんだい、ぼんやりして」
「いいえ、何でもないの、飲み物ありがとう、ハワード」
彼はわたしの好む果実水を持って来てくれたし、わたしの様子にも気付いてくれた。
「オフェリー、ハワード様をお借りしてもいい?踊りたいけど、相手が居なくて…
他の令嬢が相手ならオフェリーも心配でしょうけど、気心知れた私なら安心でしょ?
私が他の令嬢たちを寄せ付けない様にしてあげる!いきましょう、ハワード様♪」
「ああ、それじゃ行って来るよ、オフェリー」
アリアナが愛嬌たっぷりにウインクをして見せ、ハワードに手を差し出した。
彼女からは一欠けらの罪悪感も見えない、その事にヒヤリとした。
アリアナとは貴族学校で同じクラスだった、仲良くしていたし、卒業してからも交流していて、わたしは彼女を親友だとさえ思っていた。
だけど、彼女の方は違っていたのだろうか?
それとも、友達の婚約者を平気で奪いに行く様な女だったのだろうか?
一体、いつから、アリアナはハワードを好きになったのだろう?
アリアナにハワードを紹介したのは、婚約した直後のパーティでだった。その時から狙っていたのだろうか?
男爵令嬢のアリアナにとって、ハワードは格上で、夢の様な結婚相手だ。婚約者の友人として親しくなり、隙があれば奪いたくなっても仕方は無い…が、それはあくまでそれは気持ちであって、普通であれば、人の婚約者を奪おうとはしない。貴族令嬢として恥ずべき行為だ。
アリアナは男爵家では簡単な教育しか受けておらず、学校時代も成績は下の方だった。それに淑女教育を「締め付け」「古臭い」と嫌っていた。彼女に良識を期待するのは無理なのだろうか…
ハワードを取られない為には、わたしは帰っては駄目だ。
アリアナに二曲目を踊らせない様、ハワードを呼び戻さなくては…
そう思っているのに、わたしの足は根が生えたかの様に動かなかった。
曲が終わり、二人が戻って来た事に内心安堵した。
「オフェリー、ハワード様を貸してくれてありがとう!あなたの婚約者はとっても素敵よ!」
アリアナがウインクする、ハワードは褒められてまんざらでも無い様だ。
「あー、喉乾いちゃったー、飲み物貰って来るね、ハワード様は何がいい?」
「一緒に行くよ、オフェリーはどう?」
「ええ、一緒に行くわ」
二人にしてはいけない、わたしもハワードに好きでいて貰える様、努力しなくては…
夜会は思っていた以上に、わたしの精神を蝕んだ。
アリアナはハワードをベタ褒めし、わたしとの仲を羨ましがり、「二人は本当にお似合いね!運命の恋人たちって、オフェリーとハワード様の事を言うんだわ!」と囃し立て、「私がいたらお邪魔よね?ごめんなさい…」と同情を誘った。
『アリアナはわたしの大事な親友だもの、あなたを邪魔になんて思うものですか』
そう言わせたいの?
それとも、わたしが穿った見方をしている?
どんどん分からなくなり、わたしが引き攣った笑みをしていると、アリアナはハワードを縋る様に見た。
「私、お邪魔だったわね、帰った方がいいわよね…」
「邪魔なんかじゃないよ、オフェリーの友だちは僕の友だちさ、ねぇ、オフェリー」
わたしは「ええ」と一言返すのもやっとだった。
その後もアリアナは離れる様子もなく、帰る気配も無く、わたしたちの側にいて、頻りにハワードに話掛けていた。ハワードも愛想良く返事をするので、二人で盛り上がっている様に見えただろう。
「オフェリー、どうしたの?元気ないじゃない?帰った方がいいんじゃない?」
「アリアナの言う通りだよ、無理せずに帰った方がいい」
「顔色も悪いわ!直ぐに帰るべきよ!」
「ええ、そうね…ハワード様、馬車まで送って頂けますか?」
今夜わたしが唯一出来た、アリアナへの抵抗だった。
だが、それは全く意味を成さなかった。
「ああ、勿論だよ」とハワードはわたしを支えてくれたが、アリアナまで付いて来た。
「私も馬車まで付き合うわ!オフェリーが心配だもの!」
「アリアナは優しいね」
「優しいなんて!友達だもの、当然よ」
ハワードとアリアナは、体調の悪い(設定の)わたしを挟み、楽しそうに話していた。
馬車まで来て、わたしは二人に礼を言い、夜会に戻って貰った。
もう、そうするしか無いじゃない…
わたしは自分自身にガッカリしていた。
アリアナを排除する所か、主導権はずっとアリアナにあった気がする。
ハワードは兎も角、アリアナはあからさまなのに、前回のわたしはどうして一欠けらも疑問を抱かなかったのだろう?
馬車に乗り込み、隅に凭れ掛かると少し落ち着けた。
ガチャ
馬車の扉が開くのが分かったが、わたしは寝た振りをした。
そっとして置いて欲しい。ルシアンだって、わたしと話したくないでしょう…
「具合が悪いんですか?」
思いがけず声を掛けられ、ビクリとしてしまった。
「いえ、大丈夫よ、少し疲れただけなの」
平静を装い振り返ると、ハンカチを差し出された。
「ありがとう」と受け取ると、それは水で濡らしたのか、冷たかった。
目に当てると気持ちが良く、ルシアンの優しさと共に心に沁みた。
館に辿り着くまで、わたしは寝たふりをし、ルシアンも何も言っては来なかった。
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