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しおりを挟むその日の昼休憩、突然、食堂に警備の者たちが押し入って来た。
皆が驚いている中、ドロレスや取り巻きを取り押さえ、連れて行った。
「ドロレス様!?」
「姉さん!?」
エミリアンがギュっとわたしの袖を握った。
見ると、真っ青な顔をしている。
一体、何が起こっているの?
周囲が騒然となる中、わたしはユーグやレオンに助けを求めようとしたが、
それよりも先に、警備の一人がアンジェリーヌの前に立ち、恭しく礼をした。
「王女様、直ぐに学院長室に来て頂けますか?」
アンジェリーヌに驚いた様子はなく、「はい」と席を立った。
アンジェリーヌが警備の者と連れ立って出て行くと、レオンとユーグがスッと立ち上がった。
「お義兄様?」
「安心しろ、俺たちが付いている、ドロレスは絶対に助けるよ」
ユーグは薄く微笑み、レオンと共に食堂を出て行った。
そりゃ、ユーグは優秀で有能だし、レオンは王子だけど…
何も説明がなければ、安心なんて出来ないわよ!!
「エミリアン!行きましょう!」
「う、うん!」
「エリザ、行って!片付けは私がしておくから」
ジェシーが言ってくれ、わたしは「ありがとう!今度お礼するから!」と約束し、
エミリアンを連れて食堂を出た。
学院長室の前でレオンに追いついた。
レオンが「しっ」と指を立てた。
レオンは人払いをし、扉を少し開けて様子を伺っていた。
「レオン様、お義兄様は?」
わたしは「は、はぁ、はぁ」と荒い息をしながら、レオンの側に行った。
「別行動だ、それより、エミリアンは大丈夫か?」
「はぁ、はぁ…」
自分ではない息遣いに気付き、わたしは振り返った。
エミリアンが腰を折り、息をしていた。
「エミリアン!大丈夫!?」
エミリアンが病弱だった事を忘れていた!
エミリアンは苦しそうだが、「大丈夫、それより、姉さんは?」とドロレスを心配していた。
エミリアンにとっては、大切な姉だものね…
わたしはその頼りない背を擦りながら、漏れて来る声に耳を澄ました。
『大国グランピュロス王国の王女様に対し、許し難い行いの数々…
故、この事は王室に報告する。学院としても、退学は免れないと思っていなさい!』
『学院長!私たちはドロレス様に脅されていました!』
『格下の私たちは、ドロレス様に逆らえず、言う通りにするしかなかったんです!』
取巻きはドロレスに罪を擦り付ける気だ。
自分たちがしておいて!!
「行くぞ!」
レオンは承知していた様で、スクッと体を起こすと、その扉を開けたのだった。
!!だから、先に説明してよぉ!!!
「な、なんだ!レオン殿下!?」
学院長も皆も驚いている。
レオンは全く動じず、堂々と学院長の前に進み出た。
わたしとエミリアンも付いて行くしか無かった。
ドロレスがエミリアンに気付き、「はっ」と目を見開いた。
だが、この状況を恥じているのか、顔を反らし、視線を落とした。
エミリアンは今にも泣きそうな顔をしていて、わたしは「大丈夫」と、その手を握った。
「学院長、この件に関して、私は正確な情報を掴んでいます。
相手は大国グランピュロス王国の王女の事、嘘偽りがあってはいけません、
処分を下すのはお待ち頂きたい」
「正確な情報とは…」
「資料をお持ちしますので、暫しお待ち下さい」
レオンの毅然とした態度に、学院長は圧される形で、それを了承したのだった。
こういう時のレオンは、王子のオーラがあるのよねー。
わたしは半ば感心して眺めていた。
暫く重い空気が流れたが、ややあって、ユーグが一人の男を連れて入って来た事で、終わりを告げた。
「私が人を頼み調べさせたものです、そちらの告発書と擦り合わせたいので、読み上げて頂けますか?」
擦り合わせた結果、その多くの事が、ドロレスのいない間に行われていた事が判明した。
取巻きたちはドロレスに気付かれない様、事を運びたかったのだから、当然だった。
読み上げられる度に、取巻きたちは顔を青くし、震えていた。
「依って、ドロレスは関与していないと証明される___」
窮地に立たされ、二人は認めて謝るかと思ったが、逆だった。
「お待ち下さい!これは、全て、ドロレス様の指示だったんです!」
「そうです!ドロレス様は自分が疑われない様に、アリバイを作っていたんです!」
ドロレスは取り巻き二人に責められ、愕然としていた。
「ドロレス、おまえの口から申せ」
レオンに促され、ドロレスはキュっと唇を噛んだ。
「王女様にレオン殿下に近付かない様、忠告した事は認めます。
ですが、その他の事に関しましては、事実無根にございます。
この様な事は初耳です、私はどの様な事も指示していません。
二人は友です、友にその様な事を指示するなど、あり得ません」
ドロレスは毅然として言った。
取巻きたちは気まずそうな顔をしたが、それでも、処分をされるのは怖かった様だ。
「嘘です!どうか、信じて下さい!学院長様!」
「公爵家を振り翳されては、私たちにはどうする事も出来なかったんです!」
「あんな非道な事、私たちには考えも付きません!」
どちらが嘘吐きなのよ!!
わたしはギリギリと歯噛みした。
何とかぎゃふん!と言わせてやりたいと考えを巡らせていた時、ふと、それを思い出した。
「学院長!ドロレス様は労働には金銭を払う様になさっています、
わたしも手伝いをし、給金を頂いています」
皆が、「なんだ?」という目でわたしを注目する。
「ちょっとした事でも、毎回、内容を書き、申告しています。
面倒だなーって思うんですけど、彼女は几帳面で生真面目で、融通が利かないんですよ。
何か頼み事をすれば、給金を渡したでしょう。そして、申告した筈です!」
わたしは胸を張った。
暫し沈黙が流れたが、「そんな馬鹿な…」と学院長が零した。
ええ??筋が通っていると思ったんだけどなー??
微妙な空気の中、レオンがドロレスに聞いた。
「ドロレス、もし、悪事を頼むとして、おまえならば給金を払うか?」
「はい、ここまでの事でしたら、口止め料も上乗せしたのではないかと推測致します」
レオンが「ぷっ」と吹き出した。
「確かにそうだな、おまえたちは口止め料を貰ったのか?」
「はい!頂きました!」
「ならば、いつ、幾ら貰ったか、覚えているな?
二人で口裏を合わせないよう、別々に尋問するが?」
レオンの脅しに、二人は顔色を失くし、何故だかアンジェリーヌの方を見た。
もしかして、三人は手を組んでいたのかしら?
疑いの目で見たが、当然、アンジェリーヌは素知らぬ振りをした。
「分かりました、彼女たちがした事だったのね、でも、あたしは大事にはしたくありません。
自分の過ちを認め、反省する者を責めるなど、王女として出来ないわ!
この様な事は二度としないと誓って下さい、あたしだけではありません、学院生皆にです___」
アンジェリーヌが突然、慈悲を見せ、学院長も取り巻きたちも顔を輝かせた。
それなら、ここまでの時間は何だったのよ!!と憤慨したかったが、
ややこしくしたくなかったので、止めておいた。
結局、取巻き二人とドロレスが、アンジェリーヌに謝罪した事で、この件は不問となった。
学院長室を出た所で、思い余ったエミリアンが、「姉さん!良かった!」と泣き出した。
わたしもドロレスもキュン!としたわ!
「心配させてごめんなさい…」
熱く抱擁する二人にじんわりとしていると、アンジェリーヌがレオンに迫り始めた。
「レオン様、学院長の前では許しましたが、ドロレスは王子妃に相応しくないと思うんです…
あんな人があなたの妃になるなんて、心配だわ…」
なんですって!この雌猫!!
わたしは乱入しようとしたが、ユーグに後ろから手で口を塞がれた。
うぐぐー!!!
「君が心配をする必要はない、君は君の国の事だけを心配していれば良い」
レオンから、冷たい気が見えた。
「レオン様?どうして、そんなに冷たくするの?
あたしはあなたが好きなのに…!」
「君の想いには応えられない、私が愛を捧げるのはドロレス一人だ。
これまで態度をはっきりさせず、彼女を不安にさせた。
彼女が君に忠告する事になったのも、私の所為だ、すまなかった」
レオンはそれだけ言うと、アンジェリーヌから離れ、抱擁を終えて二人を見つめていたドロレスに手を差し出した。
ドロレスは頬を赤らめ、手を重ねた。
いい感じね!
アンジェリーヌはお気の毒様☆
思わずにまにまとしてしまい、アンジェリーヌに睨み付けられてしまった。
おお!怖い!!
アンジェリーヌはヒロインらしからぬ形相で、さっと踵を返して去って行った。
事はこれで収まった…筈だったのだが、
数日後、何処からか、学院中にドロレスに対する悪評が流れ始めた。
「グランピュロス王国の王女に嫌がらせをしていたそうよ!」
「まぁ!酷い方ね!あれで、第三王子の婚約者が務まるのかしら?」
「どうして、学院長は退学に出来ないの?」
「グランピュロス王国だって、黙ってはいないでしょう?」
「あんな女、学院…いや、我が国の恥だ!!」
「あんな女が王子妃になるなんて、許せない!!」
「よくのうのうと学院にいられるな!」
「鋼の心臓だな!」
以前から、「アンジェリーヌがドロレスから虐められている」という噂はあったので、信憑性が増したのだろう、
女子部でも男子部でも、言いたい放題だった。
それに対し、言い返してもあまり効果は無かったが、
レオンが一睨みすると、相手は口を閉じて散って行った。
取巻き二人は、ドロレスの側にいると巻き込まれると思ったらしく、近付かなくなり、
ドロレスは学院では独りで過ごす事が多くなった。
だが、取り巻きたちがした事や、彼女たちの性根を考えると、その方が良いとも思える。
それに、ドロレスにも味方はいる___
昼休憩の食堂では、レオンは自分の隣に、アンジェリーヌではなく、ドロレスを座らせる様になった。
最近の並びは、レオン、ドロレス、エミリアン、ジェシー、わたし、ユーグ、ディオールだ。
レオンはドロレスとエミリアンに気を遣い、ジェシーはわたしに気を遣った結果だ。
因みに、アンジェリーヌはというと、流石に諦めたのか、アンドリューと一緒にいる様になった。
狙いをレオンからアンドリューに移したのだろう。
「堂々としていれば、噂など直ぐに消える、深刻になるな、気を病むぞ」
「はい、私事でレオン様にご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません」
「迷惑ではない、おまえは私の婚約者だ、おまえの事は私の事でもある」
「レオン様…感謝致します」
「感謝など必要ない、おまえが喜んでいるなら、それでいい___」
レオンとドロレス、二人して頬を赤くしている。
レオンは怒った様な表情と物言いではあるが、照れているのは一目瞭然だ。
サンドイッチを食べながら、砂を吐くかと思ったわ…
「姉さん、元気そうで良かった…落ち込んでいると思ってたから」
エミリアンがうれしそうに言う。
エミリアンは二人の関係に気付いていない様だ。
気付かないでね!天使のままでいて!!
こうして、わたしたちが仲良く過ごしている内に、いつしか噂は耳に入らなくなっていた。
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