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28 アンジェリーヌ/
しおりを挟む◆◆ アンジェリーヌ ◆◆
アンジェリーヌの目論見は悉く外れてしまった。
ドロレスを陥れ、王子妃には相応しくないと分からせるつもりが、レオンの口から出たのは…
「君の想いには応えられない、私が愛を捧げるのはドロレス一人だ。
これまで態度をはっきりさせず、彼女を不安にさせた。
彼女が君に忠告する事になったのも、私の所為だ、すまなかった」
ドロレスに対する愛の言葉だった。
アンジェリーヌは信じられなかった。
ヒロインは自分で、愛されるのは自分だと思っていたからだ。
だが、レオンは自分の目の前で、ドロレスの手を取り、一度も振り返る事なく去って行った。
アンジェリーヌは屈辱に震え、その夜は一睡も出来なかった。
「どうしてよ!レオンもユーグもエミリアンも、どうして勝手な事をするの!?
皆、あたしに愛を誓う筈だったのに!!」
レオンはいつの頃からか、自分に同情しなくなり、
ユーグは距離を取り、近付こうとしても交わしてしまう。
エミリアンに至っては、友達にすらなっていない___
「いいわよ!まだアンドリューがいるもの!」
アンドリューは公爵子息でユーグよりも格上だし、
格闘技が得意で、四人の内、一番肉体美に長けている。
短絡的な所も、操り易いという意味では悪くはない。
それに、一番気前が良い___
決めると一旦は落ち着いたが、それでも、胸の奥で苛々がくすぶっていた。
「あの女だわ…《エリザ》よ!」
アンジェリーヌの頭に一人の娘の顔が浮かんだ。
「エリザがあたしの計画を邪魔したんだ!あいつ、あたしと同じ、転生者だったのよ!」
彼女は小説の《エリザ》とは違い過ぎる。
小説の《エリザ》は気が弱く、陰の薄い、モブでしかなかったというのに、
今の彼女は、大きな顔をし、皆の中心にいる___!
「あいつ、【溺愛のアンジェリーヌ】の展開を知っていて、先回りしてたんだ!」
そう考えれば、これまでの事にも納得がいった。
「あの女だけは、絶対に許さない!自分だけ幸せになんてさせないわ!」
◆◆
「ディオール=ボワレー伯爵令嬢」
アンジェリーヌが声を掛けると、彼女は振り返った。
そして、声を掛けて来たのがアンジェリーヌだと知り、驚き頭を下げた。
「王女様、私に何か御用でしょうか」
「そんなに改まらないで、あたしはグランピュロス王国の王女ですが、この学院では一生徒に過ぎませんもの」
そう言いながらも、アンジェリーヌはまんざらでもない表情だった。
「あなたが心配で、つい、声を掛けてしまいましたの」
「心配?」
「義兄妹って、厄介ね、血が繋がっていないから、結婚も出来る。
勿論、ユーグにその気はないけど、エリザは本気みたいよ?
ほら、あれを見てよ、ユーグは自分のものだと言わんばかりの態度でしょう?」
ディオールはアンジェリーヌの指差す方を見た。
そこにはユーグとエリザの姿があり、エリザははしゃいでいる様だった。
途端、ディオールの内に、嫉妬の炎が燃え上がった。
アンジェリーヌはそれを察し、ニヤリと笑った。
「エリザがいたら、ユーグは誰とも結婚出来ないでしょうね。
もしかしたら、恩を着せられてエリザと強引に結婚させられるかも、可哀想ね…」
◆◆◆◆ ◇◇◇◇
ドロレスへの非難の声も収まり、平穏な日々が戻りつつあった。
その日、わたしは以前、通りの店で買った箱を鞄に入れ、寮を出た。
そこには、いつも通り、ユーグとディオールが待っていた。
『二人で先に行っても良い』と言っているのだが、一度として先に行った事は無かった。
うれしいような…ディオールに悪い様な…複雑だわ。
元は、ディオールに、アンジェリーヌへの恋に破れ傷心するユーグを、救って貰いたいと思っていた。
だが、ユーグはアンジェリーヌに恋をしておらず、慰める必要もなくなった。
後は、《義妹》からの気持ちを、ユーグが気付かなければ、丸く収まるのよね…?
【溺愛のアンジェリーヌ】では、ユーグはエリザからの恋心を重荷に感じていた。
思い悩み、何とか自分を諦めさせようと、距離を置いたり、ディオールと付き合ったりした。
そんな風にはさせたくないのよね…
だから、やっぱり、ユーグとディオールが結ばれるのが、一番良いのだ___
そう思いながらも、やはり、積極的に恋のキューピッドをする気にはなれなかった。
恋心は厄介なのよ…
「エリザ、どうした、元気がないな?」
ユーグに訝しげに見られ、わたしは笑って誤魔化した。
「元気!元気!あ!あそこにいるの、レオン様とドロレス様じゃない?」
わたしは前方を指差した。
金色の髪の男子生徒と、豊かな黒髪の女子生徒が並んで歩いている。
周囲は遠巻きにし、二人だけの空間が出来ていて、一目で二人だと分かった。
最近は、レオンがドロレスを寮まで迎えに行き、一緒に登校しているのだ。
「驚かせようよ!」と、足早に後ろから二人に近付いたのだが…
「私たちが上手くいっていないと、おまえが悪く言われるだろう!
仕方がないから、一緒にいてやる!」
「お心遣い、感謝致します、レオン様。
でも、ご迷惑でしたらどうぞ、私の事は…」
「この程度の事、私には造作もない、それより、その…おまえは私が一緒だと、都合が悪いか?」
「いいえ、これまでレオン様とはあまり話した事がありませんでしたので、
いつも何処か遠い存在に感じていました。
こうして一緒にいて、お話して下さり、その度にレオン様の事を知れて、うれしいです」
「そ、そうか、うれしいか…その、私もだぞ」
「はい?」
「だ、だから、私もおまえの事を知れて…うれしい」
ぐほっ!!空気が甘い!甘すぎる!!
入り込めない雰囲気に、その気も失せてしまった。
「どうした、エリザ、驚かせるんじゃないのか?」
お義兄様!空気を読んで下さい!!
わたしは「レオン!」と声を掛けようとしたユーグの腕を掴み、止めさせた。
「お義兄様!バカップルに近付いたら、馬に蹴られるわよ!!」
「馬に?馬はいないぞ?」
「例え話です!それより、お義兄様___」
わたしがそれを言おうとした時だ、ユーグの隣から、ディオールが顔を出した。
「エリザは面白いわね、ユーグ様、今日の放課後、少しお時間を頂けますか?」
「すまないが、忙しくてね、何かあるなら今話して欲しい」
「そうですか…ユーグ様にこちらをお渡ししたくて…」
そう言って、ディオールが鞄から取り出したのは、赤いリボンが掛けられた包みだった。
「今日はユーグ様のお誕生日だと伺いました、お誕生日の贈り物です」
流石のユーグも驚いていた。
「誕生日か…ありがとう、頂くよ」
ユーグはそれを受け取り、鞄に仕舞った。
ディオールはその場で開けて欲しかった様で、何か物言いたげにしていたが、諦めた様だ。
「エリザ、何か言い掛けていなかったか?」
「ううん!大した事ないの、忘れちゃったわ!」
わたしは慌てて誤魔化した。
ディオールに先を越されちゃった…
ディオールと同じで、ユーグと放課後に会う約束を取り付けたかった。
理由も同じで、今日がユーグの誕生日だからだ。
ディオールの後でプレゼントを渡すなんて、タイミングが悪過ぎる。
でも、ユーグと二人きりで会う時間はないし…
考えてみても、良い案は浮かばなかった。
いいわ!こういう時は、兎に角、行動あるのみよ!!
わたしはその日、一日中、休憩時間の度に、共同棟へ突撃し、ウロウロと歩き周った。
だけど、ユーグに会える事なく、昼休憩になってしまった。
昼休憩では隣の席だが、ユーグを挟んで反対側にはディオールが座っている。
出来れば、ディオールのいない所で会いたいのよね…
親同士が決めた相手ではあるが、ディオールがユーグを想っている事は明白だった。
【溺愛のアンジェリーヌ】でもそうだったし…
ディオールからしてみれば、わたしは《恋敵》だろう。
勿論、わたしからしてみても、だけど…
ユーグには幸せになって貰いたい。
それなのに、ユーグが誰かのものになるのを、喜べない。
辛くて、悲しくて…
絶対に嫌だ!とわたしの胸の奥が叫んでいる。
「わたしって、嫌な子だ…」
いや、厄介なのは、《恋心》だ___
幼い頃から、優しいユーグが大好きだった。
わたしをお姫様の様に扱ってくれ、愛を注いでくれた。
わたしはいつしか、ユーグに恋をしてしまった。
ユーグが家を出てからは、酷くなり、いつもユーグを求め、恋焦がれていたし、
出会うであろう、令嬢たちの事を考え、嫉妬に身を焦がした。
前世を思い出してからは、冷静になろうと努めてきた。
エミリアンを好きになろうとした。
実際、前世での推しだったし、エミリアンの事は大好きだ、あんなに可愛い子はいない!
だけど、どれだけ一緒にいても、ユーグへの気持ちには代えられなかった。
わたしは、ユーグしか好きになれない様に出来ているのかしら?
わたしは、《エリザ》だもの…
でも、レオンはドロレスを好きになったのよね?
変える事は出来る!《エリザ》から解放される時は来る!
だけど、解放されたくない…
ユーグが好きだもの…
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