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26 /アンジェリーヌ
しおりを挟む「レオン様は一体、どうしちゃったの?
あんなにドロレス様を嫌ってたのに、態度が変わり過ぎて怖いわ…
もしかして、何かの罠かしら??」
レオンがドロレスを従えて行ってしまい、わたしとユーグは一緒に空き教室を出た。
レオンは亭主関白みたいね…
ドロレスは苦労しそう…じゃ、ないわよね??
「レオン様はアンジェリーヌを愛しているんじゃなかったの!??」
「レオン自身、そう思っていたみたいだが…
それが間違いだと気付いた切っ掛けは、おまえだ、エリザ」
ユーグが横目でわたしを見た。
わたし??
何かしたかしら??
「アンジェリーヌが泉に落ちた事があっただろう?
あの時、レオンも俺も、彼女の嘘に気付いた。
おまえに正面から突き飛ばされたと証言したが、正面からなら、見間違える筈はない」
確かに、そうね。
わたしは最初から嘘だと分かっていたから、気にも留めなかったけど。
「彼女の嘘は悪質だった、それで俺たちは考えを改める事にした。
アンジェリーヌは本当に、穢れの無い乙女だろうか?見せ掛けだったのではないか?
内には黒いものを秘めているのではないか?
彼女の言った事の何が真実で、何が嘘だったのか…
以降、レオンも俺も、彼女の言葉を鵜呑みには出来なくなったという訳だ」
わたしは思わず拍手をしそうになった。
素晴らしいわ!流石、お義兄様!と、レオン様も!
「二人共、いつも通りだったから、全然、気付かなかったわ!」
「アンジェリーヌに警戒されない様に、装っていたんだ。
アンジェリーヌの意図を掴むまではと思っていたが…
まさか、大国の王女だったとはな…」
ユーグは何か思案している様だった。
「お義兄様は、アンジェリーヌが好き?」
これまでユーグはレオンに遠慮していた。
レオンの気持ちを知っていたし、先に出会ったのがレオンだったから…
だが、レオンが降りた今、誰に遠慮する事もないのだ。
わたしにも…
「以前は、そんな風に思った事もある。
可愛いと思ったし、彼女には何処か放っておけない雰囲気があって、妙に気になった。
だが…」
ユーグが「ふっ」と笑った。
「おまえと再会して、彼女を見ている様で、見ていなかった事に気付いた。
俺は、彼女の中に、おまえを見ていたんだ。
アンジェリーヌは昔の、内気で恥ずかしがりやのおまえに似ていた、それで、気になったんだとね」
《エリザ》に重ねていた?
それなら、アンジェリーヌは《妹》って事かしら?
わたしは期待を持って、ユーグを見つめた。
「それからは友として見ていたけど、おまえを陥れようとした時からは、敵になった。
おまえの敵は、俺の敵だ。今は友とさえ思えないよ___」
ユーグは厳しい目をする。
わたしは胸の内で歓喜していた。
「良かった!アンジェリーヌを追い駆けて異国に行ってしまったら、どうしようかと思ってたの!」
「追い駆けたりはしない、寧ろ喜んで送り出すよ。
だけど、心配してくれてありがとう」
ユーグが笑う。
わたしはうれしくて、ユーグの腕を抱き締めた。
「ああ!でも、それなら、今日わたしがした事って、余計だったのね?」
レオンはアンジェリーヌと結婚する気は無かったのだ!
【溺愛のアンジェリーヌ】の通りになると思って、先走ってしまった。
「レオン様の気持ちを決めつけて、ドロレス様の不安を煽ってしまって…
わたしってば、馬鹿ね!」
「だが、そのお陰でレオンも素直になれたんだ、寧ろ良い事をしたんじゃないか?」
レオンが素直にって??
わたしは訝し気にユーグを見た。
「エリザ、おまえがドロレスの手伝いを初めて、彼女の雰囲気が変わっただろう?」
わたしは「ええ」と頷いた。
キツかった化粧を自然にして、髪型は上品なものにした。
栄養のバランスを考えた食事と適度な運動で、お肌も髪の艶も良くなっていた。
「今まで、レオンはドロレスに会わない様、必要以上に避けていたんだが、
今から二週間前だったか、共同棟の近くで偶然に見掛けて…見惚れていた」
『どうした、レオン、ぼうっとして』
『ユーグ、あれは誰だ?妙に既視感があるんだが…』
『既視感も何も、おまえの婚約者じゃないか』
『馬鹿を言うな!あれがドロレスだと?あの女には似ても似つかないではないか!
美人だし、可憐だし、それにあの溢れ出る気品を見ろ!』
『惚気られてもな…』
『万が一、あの女がドロレスだったなら、卒業までの間、おまえの僕になってやる。
違っていたら、おまえは卒業後、王宮で私の右腕になれ!』
ユーグを連れて、彼女に声を掛けに行ったものの、近くまで来て、それと気付き、
レオンは踵を返して逃げ帰ったという事だった。
「暫く、『嘘だ』、『あれがドロレスなんて俺は信じない!』とブツブツ言っていた」
わたしは思い切り笑わせて貰った。
「あー、おかしい!わたしも見たかったなー」
「今日は見られただろう?
最初こそ虚勢を張っていたが、あいつが内心、どれ程焦っていたか…」
あの態度の悪さは、ドロレスへの嫌悪感ではなく、虚勢だったのね?
まさか、そんな事になっているなんて思わなかったわ…
レオンはツンデレね!
「それで、レオン様はお義兄様の僕になってくれたの?」
「ああ、だが、あいつは僕としては無能だからな、自分でやった方が早く片付く、それに、文句も多い」
ユーグが「やれやれ」という調子で言い、わたしはまた笑った。
「お義兄様が有能過ぎるのよ!」
わたしはこの世界が、【溺愛のアンジェリーヌ】の筋書き通りに出来ていると思っていた。
だけど、そうでは無かった。
第三王子レオンはアンジェリーヌではなく、悪役令嬢のドロレスに心を移した。
ドロレスも極悪非道な悪役令嬢では無かった。
そして、アンジェリーヌも、ヒロインらしからぬ所がある…
僅かな変化で、展開も変わってしまったのだろうか?
「でも、この方がずっと良いわ!」
◆◆ アンジェリーヌ ◆◆
アンジェリーヌは、自身がグランピュロス王国の王女と認められて以降、
第三王子レオンからの求愛を、今か今かと待っていた。
【溺愛のアンジェリーヌ】では、アンジェリーヌの出自が分かった後、
レオンは「このままでは、アンジェリーヌは異国へ帰ってしまう」という危機から、彼女に胸の内を打ち明ける。
互いに同じ想いであった事を知り、レオンは計画を立てる。
それは、ドロレスの悪行を王室に訴え、婚約破棄の許可を得る事。
アンジェリーヌとの結婚を王室に進言し、共に異国へ行き、結婚する___というものだった。
婚約破棄されたドロレスは、アンジェリーヌを恨み、
学院創立パーティの際に、人を雇い、人混みに紛れてアンジェリーヌを刺そうとする。
レオンが気付き、暗殺は失敗に終わるが、後日首謀者がドロレスと判明し、
彼女は学院追放、王都追放、北地方の塔に幽閉になるのだ。
だが、いつまで経っても、レオンからの告白はない。
それ所か、最近ではすっかり疎遠になってしまっている。
食堂では普通だが、他の時間には全く会えなくなった。
放課後も、「忙しい」と直ぐに寮に帰ってしまい、碌に話も出来ない。
偶然を装い、廊下で遭遇しても、傍にはユーグがいて、直ぐにレオンを連れて行ってしまう。
「おかしいじゃない!どうして、皆、あたしの邪魔をするの!?」
忌々しく、アンジェリーヌは指の爪を噛んだ。
「いいわ、それなら、あたしが物語を進めてあげる!」
◆
アンジェリーヌはドロレスの取り巻きに近付き、取引を持ち掛けた。
「あなたたちが、これまであたしにした事を公表したら、あなたたちは退学になって、家も降爵になるわね」
取巻き二人は顔を青くした。
「これまでした事は謝ります!」
「どうか、お許し下さい!王女様!!」
今や平伏さんばかりの二人に、アンジェリーヌはニヤリと笑った。
「あら、あたしはあなたたちを責めてるんじゃないのよ?
だって、全部、ドロレス=カントルーブ公爵令嬢の指示でしょう?
あなたたちは、ドロレスに脅されて断れなかっただけよね?」
二人は顔を見合わせ、そして、頷いた。
ドロレスには指示されていないが、確かに、ドロレスの為にした事だ。
いや、本当は、自分たちの憂さを晴らすだけの行為だったが、そんな事は言わなければ分からない。
それに、ドロレスが学院を退学にでもなれば、報復される事もない___
「そ、その通りです!」
「全ては、ドロレス様の指示で致した事!」
「ドロレス様の為にした事です!」
アンジェリーヌは深い笑みを見せた。
「この事は、誰かが責任を取らないといけないの、大事ですもの。
あなたたち、証言してくれるわよね?」
「勿論です、王女様!なんなりと証言致します!」
ふふ、ドロレスが《王子妃》に相応しくないとなれば、
レオンも気兼ねなくあたしに告白出来るってものよ!
そして、あたしはレオンと手を取り合い、異国へ行く!
あたしは大国グランピュロス王国の王女だもの、どんな贅沢な暮らしが待っているかしら?
本当は、出自が知れた時に、即刻グランピュロス王国へ行きたかったのだが、
レオンやアンドリューからの求愛を受ける為に残ったのだった。
「全く、ヒロインのあたしに余計な手間を掛けさせるなんて!
筋書き通りに動いて欲しいものだわ!」
◆◆◆◆
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