【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音

文字の大きさ
3 / 6

しおりを挟む



レーニエが別宅にやって来て、ジュレ家を訪ねて来る日も、わたしは記憶していた。

本当に、レーニエに会えるだろうか?
怪我を負っていない、あの輝きを放つ、いつものレーニエに…

彼が現れる時間が近付く程に、わたしは緊張で張り詰めていった。

「お久しぶりです、ジュレ伯爵、伯爵夫人、今年もこちらで過ごす事になりました」
「まぁ!レーニエ様、立派になられて!」
「魔法学園では成績優秀だと伺っておりますよ」
「さぁ、どうぞ、娘たちもおりますから…」

部屋のドアと窓を少し開けて伺っていると、
玄関でレーニエと両親が話している声が、小さく聞こえてきた。
わたしの心臓は爆発しそうになっていた。
だけど、レーニエの顔を見たい…元気な姿を、そして、あの笑顔が見れるなら…
もう、死んだっていいわ…!

「リリアーヌ様、奥様が身支度をされ、パーラーへ来られるようにと…」

メイドがそれを伝えに来て、わたしは既に準備していたが、
少し時間を置き、部屋を出た。

パーラーへ入ると、ソファに座る彼の姿が見えた。
彼はわたしを見ると立ち上がり、笑顔で迎えてくれた。

「リリアーヌ!僕を覚えてくれている?」

その煌めく青い瞳、そして、やさしい笑顔…
ああ!彼だ!彼が戻って来てくれた!!
わたしは胸がいっぱいになった。

「はい、レーニエ様、ようこそ…ようこそ、おいで下さいました」
「はい、リリアーヌ、お土産だよ、今年も来れてうれしいよ!」

レーニエが小さな包みを、わたしに差し出す。
その中身は、見無くても分かった。
ユリの花の飾りが付いた、髪飾り…

震える両手で受け取り、ゆっくりと包みを開くと、想像通りの物があり、
わたしは息を飲んだ。

「可愛い…ありがとうございます、レーニエ様」
「貸して、着けてあげる」

彼は前の時と同様に、髪飾りをわたしの髪に着けてくれ、
「似合うよ」と微笑んだ。
優しく、柔らかいその笑みに、わたしは泣きそうになった。

ああ…!良かった!!神様、ありがとうございます!!

「リリアーヌ、大丈夫?具合が悪いんじゃない?」

レーニエがわたしの様子に気付き、わたしをソファに座らせてくれた。
これは、前の時とは違う…不審がられてしまっただろうか…

「君、顔色が悪いよ…」

彼の手が、そっと、わたしの額に触れ、わたしはビクリとしてしまった。
「ああ、ごめんね」と、彼の手は離れていったが、わたしは変に緊張していた。

「あの、ええ、少し…暑気で…」

「こっちでもそうなら、王都に来たらもっと大変だ、
リリアーヌも今年から魔法学園に通うだろう?
これからは、もっと会えるね___」

レーニエの言葉に、わたしは胸が詰まり、頷くので精一杯だった。

「何かあれば、いつでも僕を頼って、リリアーヌ」

前の時とは違う、何故だろう?
わたしは不思議に思いながらも、何度も頷いた。

そうしていると、妹のシャーリーがおめかしをし、パーラーに飛び込んで来た。

「レーニエ!いらっしゃい!!」
「シャーリー、大きくなったね、お土産があるよ」

前の時と同様に、彼はそれをシャーリーに渡す。
大きな包みの中は沢山のお菓子で、シャーリーは喜ぶのよね…

レーニエの隣に座り、その包みを開いたシャーリーは、はしゃいだ声を上げた。

「うわあ!!お菓子!レーニエ、ありがとう!!」

レーニエはうれしそうに笑っている。

わたしもシャーリーの様に、可愛く振るまえたら良かったのね…

前の時の事で、レーニエがわたしを友達以上には思っていない事は、
良く分かっていた。きっと、わたしは彼の好のみでは無いのだろう…
わたしは悲しく二人を眺め、徐にソファを立った。

「リリアーヌ?」
「すみません、少し部屋で休ませて貰います…」
「付いて行くよ」

レーニエはわたしが止める前にソファから立ち上がると、わたしの腕を支えてくれた。

「えー!?なんで、レーニエまで行っちゃうのよー!つまんないー!」
「レーニエ様、わたしは一人で大丈夫ですので…」
「駄目だよ。シャーリーは後で遊んであげるよ」

シャーリーはまだ喚いていたが、レーニエは構わずに、部屋まで付き添ってくれた。

「無理させてしまって、ごめんね、ゆっくり休むんだよ」
「はい、ありがとうございます…」

レーニエが部屋を出て行き、わたしはベッドに座った。

「ああ…信じられないわ!」

本当に、レーニエだ。

あの輝くような笑み、優しい口調…
変ってしまう前の彼に、どれ程、会いたかったか…

本当に時が戻るなんて…
何度、願った事だろう…

今度は絶対に、レーニエに怪我を負わせたりしない___!


◇◇


翌日、レーニエは、大きなユリの花束を持って現れた。
これも、勿論、前の時には無かった事だ。
わたしが、体調が悪いと言ったからだろう…
一つ一つの事が、『運命は変えられる』といっているみたいで、勇気付けられた。

「リリアーヌ、お見舞いだよ、具合はどう?」

レーニエは笑顔でそれを渡してくれた。
わたしは普通でいられる自信が無く、「すみません、まだ少し…」と言葉を濁した。

「それは良く無いね、医師に診て貰う?」
「いえ、そこまででは無いので…」
「悲しそうな顔をしているね、何かあったの?」

青色の瞳に覗き込まれ、わたしは思わず涙を零してしまった。

「すみません!少し、情緒不安定なんです…」

わたしは顔を伏せた。
彼は花束を取ると、テーブルに置く。

「何かあったのなら、話して欲しい…僕では助けになれない?」

わたしは両手に顔を伏せた。

「違うんです…ただ、夢見が悪くて…不安なんです」
「夢…そうか、僕には良く分からないけど…夏が終われば学校だし、環境が変るからかな?」
「そうかもしれません…だから、気になさらないで下さい」
「それじゃ、怖い夢を見ないおまじないをしてあげるよ」

レーニエは言うと、わたしの両手を取り、わたしの額に口付けた。

「!??」

「夢魔を吸い取ってあげたからね、これで大丈夫だよ」

悪戯っぽく笑う。
わたしは彼に釣られ、笑っていた。

ああ…彼が好きだ

わたしを好きでなくても、友達でも、彼を失う事は出来無いわ…


◇◇


わたしはそれから、なるべく普通に振る舞うように努めた。
とても気の休まる事は無かったが、レーニエに不審に思われない様にしなければいけない。

そして、運命の日がやって来た。

町のお祭りの日、シャーリーが「お祭りに行きたい!」と騒ぎ出した。

「いつも行ってたでしょう?レーニエ、一緒に行きましょうよ!」
「でも、リリアーヌはどう?行けそう?」

レーニエが心配してくれる。隣のシャーリーはあからさまに嫌な顔をした。
シャーリーはレーニエが好きで、わたしに来て欲しく無いのだ。
わたしが行かなければ、二人きりになれて、シャーリーは見世物を見たいと言い出さないかもしれない…
わたしの頭にそんな考えが過った。

「わたしは、遠慮します、二人で楽しんで来て下さい…」
「それなら、僕も残るよ、シャーリーは従者に連れて行って貰おう…」
「えー!嫌よぉ!あたしは、レーニエと行きたいんだもん!!
お姉様は大丈夫よ!メイドもいるわ!」

シャーリーに睨まれ、わたしは頷いた。

「ええ、わたしの事なら大丈夫ですので、シャーリーを連れて行ってあげて下さい」

わたしは、レーニエとシャーリーを送り出した。
ただ、従者には「見世物は危険なので、近寄らせないで下さい」とお願いしておいた。

二人を送り出したものの、時間が経つにつれ、わたしは不安になった。

もし、二人が見世物を見に行ってしまったら…
もし、シャーリーを庇って、レーニエが魔毒を受ける事になってしまったら…
また、同じ事になってしまう!

そんな事を考えると、じっとしてはおれず、わたしは館を抜け出し、
町へ向かって走った。町へは、わたしの足でも走れば十分程度で着く。

前の時と同じで、町は賑わっていた。
わたしは息を切らしながら、人混みの中を歩く。
見世物をやっていた場所を目指し…

その檻が見えて来て、わたしは足を速めた。

人混みを掻き分ける。

そこに見えたのは、前の時と同じ、奇妙な植物で、
そして、男の子たちが石を投げようとしていた。

「駄目!石を投げては駄目よ!!」

わたしは叫んでいた。
だが、雑踏の中では、その声は届かなかった。
男の子たちはそれを植物に向かって投げた。
そして、前の時と同じく、植物はその太い枝で彼らを薙ぎ払った。
男の子たちは一瞬で、煉瓦造りの壁に叩きつけられた。

「!??」

男の子たちが居た周辺は、騒然となった。

「キャーーー!!」
「いやーーー!!」
「うわあああ!!」
「おい!逃げろーーー!!」

周囲が逃げ惑う。植物は興奮状態で更に激しく暴れ出した。
わたしの目に、レーニエとシャーリーの姿が入る。
二人は暴れる植物から逃げようとしている、これなら大丈夫だと思えた。
だが、誰かが、レーニエにぶつかった。

「!?」

彼は押し出され、そして…

「駄目___!!」

わたしは人混みから抜け出すと、彼の前に走り出た。

「!??」

瞬間、視界を黒い物に塞がれた。
そして、次に、強烈な痛みに襲われた___

「リリアーヌ!!」

わたしは、その痛みに、声も出せず、気を失った。
最後に、レーニエの声を聞いた気がした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい

みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。 切ない話が書きたくて書きました。 転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。

悪役令嬢は、幼馴染の恋を応援する。

平樹美莉
恋愛
13歳のある日、物心ついた頃からの幼馴染である侯爵家嫡男のイヴァンから、自分の婚約者が好きであると告白されてしまったベルローズ。 ベルローズの婚約者は、第2王子のアレクサンドル。もちろん、男である。 「元々アレクサンドル様に対して恋愛感情なんてなかったし、イヴァンは大切な幼馴染。ライバルに男爵令嬢のソフィア様という方がいるみたいだけど、陰ながらイヴァンの秘めた恋心、応援してあげましょう!」 というベルローズ。 実はその裏側で、自分達の愛する人との未来のために、転生者である幼馴染イヴァンとライバルのヒロインソフィアが手を組んでいて……!? ※別サイトに投稿した作品(完結済)を改稿して投稿する予定です。話の流れは変えていませんが、視点や話を増やしたりしています。全12話ですが、さらに増えていくかもしれません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

やり直し令嬢は何もしない

黒姫
恋愛
逆行転生した令嬢が何もしない事で自分と妹を死の運命から救う話

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

私が根性を叩き直してやります!

真理亜
恋愛
一つの国が一人の毒婦の手によって滅亡の危機を迎えていた。そんな状況の中、隣国から嫁いで来た王女は国を立て直すために奔走する。毒婦によって愚王になり果てた夫をハリセンで叩きながら。 「私は陛下の教育係ですから」

【完結】逆行した聖女

ウミ
恋愛
 1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人

通木遼平
恋愛
 アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。  が、二人の心の内はそうでもなく……。 ※他サイトでも掲載しています

処理中です...