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ランメルトはやはり、わたしを見なかった。
聖壇に向かい、二人並んだ時も、誓いの言葉を述べる時も、
指輪の交換をする時も、誓いのキスをする時も、
彼の菫色の瞳は暗く、何も映してはいなかった。
冷たく、ただ触れるだけのキスは、彼の心の表れだ。
ランメルトは悲しみの淵にいる。
もしかしたら、この先ずっと、晴れる事は無いのかもしれない。
愛する者を失えば、当然だわ…
ランメルトは退場の際にわたしに腕を差し出したが、それは礼儀上の所作で、
それ以上でも、以下でも無かった。
一緒に白い絨毯の道を歩きながら、彼が酷く遠く感じられた。
◇
結婚式の後には、王宮の大ホールで結婚披露のパーティが開かれた。
国の要人だけでなく、隣国からも大勢招かれていた。
わたしはランメルトの側で皆を迎えた。
ランメルトは僅かに微笑を浮かべ、儀礼的に応対していた。
ランメルトの態度を不審に思う者はいなかったが、わたしには彼が無理をしている事が分かった。
わたしはランメルトの分までと思い、愛想良く応対した。
楽団がワルツを奏で始めると、ランメルトはわたしの手を取り、ダンスホールに向かった。
わたしとランメルトの他には誰もいない…ファーストダンスだ。
ランメルトが流れる様に音楽に乗る、わたしはそれに合わせ、ステップを踏んだ。
ランメルトと踊るのは初めてだった。
これまで、何度夢に見ただろう…
だが、夢の中とは違い、ランメルトに表情は無かった。
操り人形の様に、ただ、踊る…
わたしも視線を僅かに下げ、決して彼を見つめたりはしなかった。
一曲踊り終えると、招待客たちもパートナーを連れて、ダンスホールに入って来た。
入れ替わりの様に、わたしたちはその場を後にした。
「あれが、金の王子、銀の王子妃か…」
「銀髪は見事だが、絶世の美女ではない、噂は噂だな」
「あら、花嫁は代わられたのよ、あの方は妹君よ」
「本来の花嫁はどうしたのだ?」
「正気を失ったらしいわ、おお怖い!」
「その様な血筋の者を王家に迎えても良いのか?王室は何を考えているんだ」
招待客たちの会話が耳に届き、わたしはランメルトに聞こえてしまったのではないかと、彼に目を向けた。
僅かに浮かんだ、その険しい表情に、わたしはギクリとした。
何かフォローをしなくてはと思ったが、何も浮かんでは来ず、
早足でその場を通り過ぎるランメルトの後を付いて行くので精一杯だった。
「ランメルト殿下、この度はご結婚おめでとうございます」
わたしの両親、弟のルシアンが挨拶に来たが、両親の顔は酷く冷たいものだった。
ランメルトも表情を消していた。
「デラージュ公爵、侯爵夫人、お越し下さりありがとうございます」
「殿下、グレースに対して、何か御言葉はございませんかな?」
父の声には怒りが籠っていた。
わたしは慌てて父を止めに入った。
「お父様!この様な席で止めて下さい」
「シャルリーヌ!おまえはもう、こいつに懐柔されたのか!
グレースがおまえをどれだけ気に掛けていたか…この、恥知らずが!!」
父が拳を振り上げ、わたしは息を飲んだ。
だが、それが振り下ろされるよりも早く、ランメルトが一歩前に出た。
「狂気の一族と呼ばれたいのであれば、好きにするがいい。
但し、拳を下ろす相手は私になさって下さい、彼女に罪は無い」
父は振り上げていた拳を震わせ、そのまま下ろした。
「あなたが殿下でなければ…殺していた」
父は低く吐き捨てると母とルシアンを連れ、立ち去った。
わたしは父の言葉が信じられず、真っ青になっていたが、「はっ」と我に返り、深々と頭を下げた。
「ランメルト様!父の非礼をお詫び致します、どうか、ご慈悲を___」
「控えろ、王子妃がその様な態度を取れば、周囲に疑惑を持たせるだけだ」
冷たく固い声に、わたしは増々青くなり、頭を上げた。
「申し訳ございません…」
「公爵の怒りは尤もだ、私は一度も会いに行かなかった」
ランメルトは真直ぐに前を見たままで言う。
「姉を見るのがお辛いのでしょう?」
ランメルトがビクリと肩を揺らした。
「姉も承知しています、姉はランメルト様の事を誰よりも分かっていますもの…」
「分かった風な事を…!」
ランメルトは途中で言葉を飲み込んだ。
感情的になった事を悔いている様で、大きな手で額を押さえた。
少しでも彼の気を軽くしてあげたかったというのに、
わたしが至らないばかりに、逆に怒らせてしまった…
「差し出がましい事を申しました、申し訳ありません…」
わたしは震える声で、何とか謝罪を告げた。
ランメルトからの返事は無い。
それ程に、わたしは彼を怒らせてしまったのだ…
◇
披露パーティを何とか終えると、新しく用意された部屋に向かった。
ランメルトの部屋と寝室を挟んだ隣の部屋だ。
侍女に手伝って貰い、ドレスを脱ぎ、体を拭いた。
そして、薄い夜着に着替えた。
寝室はランメルトと一緒に使う事になるが、彼がわたしを抱くとは考えなかった。
ランメルトは姉を愛しているし、あれからまだ一月も経っていないのだ、
そんな気にはならないだろう。
いや、この先、そんな気になる事は無いかもしれない。
「わたしは姉とは違うもの…」
同じ位、美人であれば、姉に瓜二つであれば、ランメルトはその気になっただろうか?
そんな風に考えると自分が惨めになった。
わたしは重い息を吐き、寝室に繋がる内扉を開けた。
窓辺に置かれたランプが、大きなベッドを浮かび上がらせている。
そこに座るランメルトに気付き、わたしは息を飲み、足を止めた。
ランメルトはズボンしか身に着けていない。
ランメルトの顔がわたしを振り返ったが、その目はやはり何も映していない様に見えた。
「子を作る事は、王子の責任だ、君にも責任を果たして貰う」
義務と言わんばかりの感情の無い声に、わたしは青くなり固まっていた。
「着ている物を脱ぎ、ベッドに上がれ___」
わたしは震える足でベッドに近付いた。
夜着を脱ごうとしたが、指先がガタガタと震えている。
そんなわたしに気付いたのか、ランメルトが重く息を吐いた。
「無理ならば今日はいい、だが、いつまでも避けられると思うな、
君は王子妃なのだからな」
「無理ではありません…」
わたしは小さく応え、視線を下に落とすと、夜着のボタンを外し、足元に落とした。
ランメルトの視線を感じ、恥ずかしく腕で胸を隠した。
ベッドに上がろうとすると、「それも脱げ」と言われ、わたしは体を屈め、頼りないショーツを下ろした。
恥ずかしさに眩暈がする。
「うつ伏せになり、腰を上げろ」
わたしは言われるままに膝を立て、恐々と腰を上げた。
ランメルトがわたしの後ろに回ったので、わたしは羞恥で震えた。
その上、彼はわたしの足を掴むと、大きく開かせた。
「!!」
全てを曝け出す姿に、眩暈がし、顔は発熱した様に熱くなった。
ランメルトは無言で、腰を支え、秘部に触れてきた。
「!!」
初めての感触に、わたしは息を飲み、体を固くした。
ランメルトの指は容赦なく、わたしの秘部を暴いていく。
侵入してくる感触と高まる羞恥心に、わたしは必死で目を閉じ、奥歯を噛んだ。
中を弄っていた指が引き抜かれ、わたしは息を吐いた。
だが、次に触れた柔らかいものに、目を見開いた。
「あぁ…っ!!」
思わず声が漏れてしまい、わたしは手で口を塞いだ。
ピチャ、ピチャ
クチュ、クチュ…
まさか…舐めているの?
わたしは信じられず、後ろを振り向いた。
「顔を上げるな!」
厳しい声で言われ、わたしは慌てて頭を戻した。
羞恥心は恐怖に変わる。
そして、失望へと色を変えた。
ランメルト様は、わたしをお姉様だと思いたいのね…
わたしと姉は体型こそ違うが、肌の色は同じで、その上、同じ銀髪をしている。
顔さえ見なければ、錯覚出来るというの?
わたしは、姉の代替品?
酷い___!
悔しく胸が締め付けられた。
だが、その波が通り過ぎると、諦めに覆われた。
分かっていた事でしょう?
ランメルトは姉を愛している。
それは、二人が婚約をした日から、変わっていない。
わたしは何を望んだの?
愛する者を失い、憔悴している彼を支える事だ。
姉の身代わりが出来るのは、恐らく、わたししかいない。
彼が、それを必要としているなら、わたしはそれを与えるだけだ。
少なくとも、わたしは必要とされている筈…
わたしは枕を抱き、顔を埋めた。
与えられる快楽に体は反応してしまうが、声は殺した。
指と舌で丹念に弄られ、わたしは高まる快感に耐えられず、弓なりになった。
「あ、あぁんっ!!」
ビクビクと痙攣し、力が抜ける。
ガクリと力尽きたが、彼は容赦なく腰を掴み、それをぐいと埋め込んだ。
「っ!!!」
強烈な痛みと違和感に全身が強張る。
涙が零れ、わたしは枕に顔を押し付けた。
震えながらそれに耐えていると、彼がゆっくりと動き出した。
待って!いや!怖い!!
「力を、抜け…っ」
苦しそうな息遣いに気付き、わたしは「はっ」とした。
途端に、愛おしいという感情が沸き上がってくる。
わたしは必死で、力を抜こうと呼吸をした。
いつしか、動きが滑らかになっていた。
彼の動きに合わせ、自然に腰が動く…
突き上げられる度に、喘ぎ声が漏れそうになり、枕を抱いた。
「ふぅ…ん…!」
奥を深く突かれ、わたしは絶頂を迎えていた。
熱いものが吐き出され、わたしは感じた事のない満足感に包まれ、崩れ落ちた。
「誰を愛してもいい、だが、私と以外子を作る事は許さない。
もし、そんな事になれば、君は全てを失う事になる___」
それは姉ではなく、わたしへの言葉、忠告だった。
あなた以外、誰を愛するというの?
例え、あなたが愛してくれなくても、わたしの愛は変わらない…
彼が後ろからわたしを抱き、項に唇を押し付けた。
わたしはその温もりに安堵し、目を閉じた。
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