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しおりを挟む初夜の日から、ランメルトは毎日の様に、わたしを求めた。
わたし…いや、彼は姉を抱いているのだ。
ランメルトはわたしが顔を上げるのを許さず、いつも後ろからわたしを抱く。
眠る時には後ろから抱きしめ、乳房に触れ、項や肩にキスをする。
そこで再び挿入される事もあるが、決して顔は見ないし、唇へのキスもしない。
わたしは彼の姉への愛の深さを思い知らされた。
わたしは彼の邪魔をしない様に、なるべく声を殺した。
だが、行為が終われば、わたしは虚しさに襲われた。
こうしていれば、いつかは、ランメルトの心も癒されるだろうか?
それとも、抱いているのが姉でない事に気付き、苛立つだろうか?
転落したのがわたしなら良かったのに…
そんな風に思うのを止められない。
わたしは気付かれない様、そっと涙を零した。
◇◇
「一週間に一度、デラージュ公爵家に帰る事を許す___」
その日の朝、目を覚ますや否や、ランメルトからそんな事を申し渡された。
わたしがそれを頭で理解するよりも早く、彼は寝室を出て行った。
姉の見舞いが出来る様、配慮をしてくれたのだろう。
「お姉様を心配なさっているのね…」
それでも、館を出て以来、姉には会っていなかったので、感謝しなくてはいけない。
わたしは日々のスケジュールを調整し、一日空けて貰い、実家に顔を出す事にした。
姉に会える事はうれしいが、両親がわたしを歓迎してくれるかどうかは疑問だった。
姉が事故に遭って以降、両親はその苛立ちをわたしに向けていたし、
殊更、結婚式の日は、酷い態度だった。
「少しは落ち着いてくれているといいけど…」
◇
「グレースの見舞いだと?フン!これまで一度も帰らず、今更どうしたと言うんだ、
グレースの事など疾の昔に忘れ去ったのかと思っていたぞ!
それとも、あいつに酷い目に遭わされ、逃げ帰って来たのか?」
期待は叶わず、父は未だランメルトとわたしに対し怒りを持っていた。
わたしは怒りに震える手をギュっと握った。
「お姉様の事はずっと気掛かりでした、ですが、王子妃教育があり、抜けられなかったんです。
わたしはお姉様程優秀ではないでしょう?
ランメルト様が一週間に一度、実家に帰れる様にして下さいました」
「フン!不出来なおまえが王子妃など、務まる筈がない!
くれぐれも言っておくが、我がデラージュ公爵家の名を貶める事はするな!
それで、シャルリーヌ、あいつはどうだ?」
《あいつ》というのは、ランメルトの事だろう。
ランメルトに対し、少しの敬いも見えない様子に、わたしは悲しくなった。
彼は王子で、わたしの夫だというのに…
父にとって、娘は姉一人なのだろうか?
「ランメルト様は今もお姉様の事を思い、苦しんでいらっしゃいます…」
「そんな事は聞いておらん!」
父がドン!と拳でテーブルを叩き、わたしはビクリとなった。
だが、次に父が言った事に比べれば、それは問題では無かった。
「おまえは毎夜、あいつに抱かれているのか?どんな風にだ、まともではあるまい?
おまえ一人では満足させられないだろう、愛妾は何人だ?」
あまりに無作法で、その陋劣さに吐き気がした。
「フン、顔色が悪くなったぞ、さぞ酷い目に遭わされているんだろう、シャルリーヌ」
父はわたしを心配している訳ではない。
父はまるでそれを望んでいるかの様に、醜悪な笑みを浮かべていた。
「いい加減になさって下さい、お父様!
ランメルト様に対し、あまりにも無礼ではありませんか!
わたしは酷い目になど遭っていません、ランメルト様はとてもお優しい方です。
暴力を奮う様な事は一度も…」
「嘘を吐け!!」
父は大声でわたしの言葉を遮ると、その手を振り上げ、わたしの頬を張り飛ばした。
「っ!!」
わたしは避ける事も出来ず、ソファから床に崩れ落ちた。
痛みもあったが、初めて暴力を受けた事で、わたしは頭が真っ白になっていた。
「あいつを庇うからだ!あいつはグレースの敵だ!
あいつを庇うなら、おまえはもう、私の娘ではない!!」
父は肩を怒らせパーラーを出て行った。
わたしはただ、手で頬を押さえ、その場に蹲っていた。
「シャルリーヌ姉さん!大丈夫!?」
弟のルシアンの声で、わたしは我に返った。
ルシアンはわたしを支え、ソファに座らせてくれた。
「ありがとう…」
「今のは不味いよ、姉さんは知らないんだろうけど…」
何の事かと目を上げると、ルシアンは何処か気まずそうな顔をしていた。
「ルシアン、何か知っているの?」
ルシアンは「父さんと母さんが話してるのを聞いたんだ」と、肩を竦めた。
「絶対に誰にも話しちゃ駄目だよ?
グレース姉さんの名誉に関わる事だからね、誓える?」
何か良く無い事であるのは確かだった。
だが、それでも知らないよりは良い気がした。
このまま、訳も分からず、父の悪意の的にされるのは嫌だ。
半ば食い気味に「誓うわ、教えて」と答えた。
「グレース姉さんが転落した時ね、医師が呼ばれたでしょう?
…姉さんには、陵辱された跡があったんだって」
陵辱!?
思ってもみない事に、わたしは唖然とし、声も出なかった。
「噛み痕とか、酷い事をされていたみたい…
父さんと母さんは、姉さんがショックから身を投げたと思ってるんだよ」
それで、お父様とお母様は、ランメルト様を責めていたの?
だけど…
「相手はランメルト様ではないわ!そんな酷い方ではないもの!」
「父さん曰く、グレース姉さんは賢いし恥を知っている、令嬢の中の令嬢だから、
婚約者以外には体を許さない。そもそも、そんな風になる隙は与えないって」
父と母の姉に対する信頼は大きく、盲目だ。
だが、わたしには疑問だった。
「お姉様はか弱い女性よ、幾ら気を付けていても避けられない時もあるわ…」
「僕もそう思うけどね、ほら、父さんも母さんも、グレース姉さんを完璧だと思ってるから。
だけど、相手がランメルト様だって思うのは、仕方ない事だと思うよ?」
「仕方ない?どうしてなの?」
「あれからずっと、三日に一度はランメルト様の代わりで、クレモンが見舞いに来てるけど、
ランメルト様は一度も来ていないんだよね。
普通だったら、自分で会いに来るでしょう?
今は自分の妃の実家だし、義姉なんだから、それ位は許されるでしょう?
きっと、ランメルト様にはグレース姉さんの顔を見られない理由があるんだよ。
罪悪感から、クレモンを寄越してるって考えたら自然じゃない?」
確かに、会いに行こうと思えば出来る気がした。
僅かに芽生えた疑惑に、わたしは強く頭を振った。
「ランメルト様じゃないわ!そんな酷い事、絶対にしないわ!」
「結婚まで一月だったでしょう、我慢出来なかったって事もあるよ。
グレース姉さんは堅いから、結婚までは許さないでしょう?
拒まれて、衝動的になったのかも…王子だし、拒絶された事なんて無いだろうし…」
ルシアンまで、ランメルトが姉を陵辱したと思っていると知り、
わたしは「違うわ!」と叫んでいた。
「兎に角、そういう事だから、父さんを煽る様な事は言わない方がいいよ。
僕だってさ、シャルリーヌ姉さんが何も知らない事に苛々してたんだよ。
本当だったら、シャルリーヌ姉さんはランメルト様に報復するべきなのに、
いつも庇うしさ…父さんも母さんも、きっと僕以上だよ…」
ルシアンは言うだけ言うと、パーラーを出て行った。
わたしは頭の中を整理するのに、暫く時間を必要とした。
姉が陵辱を受けたなど、考えもしなかった。
だけど、相手がランメルトだとは、どうしても思えなかった。
確かに、ランメルトが姉に会いに行かないのは不自然だ。
それに、三日に一度は側近を見舞いに寄越しているなんて…
姉を気に掛けている事は確かだが、あまりに頻繁過ぎではないか?
わたしはつい先日になって、一週間に一度、実家に帰る事が許されたというのに…
それに、ランメルトは憔悴し、人が変わってしまっている。
これまでは、愛する姉が正気を失い、婚約が破棄になった事が原因だと思っていた。
もし、ランメルト様だったら…
「違う!!ランメルト様ではないわ!!」
それを証明したい!
それが証明出来れば、父母、ルシアンも態度を改めるだろう。
「でも、一体、どうやって?」
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