10 / 15
10 ★
しおりを挟む姉にはランメルトの他に愛する者がいた___
わたしはその事で頭がいっぱいで、大司教と会った後で姉がどうしたか、
聞く事も忘れて帰って来てしまっていた。
こんな事を、ランメルトに聞ける筈がない___!
愛する者を陵辱されただけでなく、裏切られていたと知れば、とても耐えられないだろう。
だが、別の見方も出来る。
あの日、もし、姉との話の中で、ランメルトがそれを知ったとしたら?
ランメルトは怒りのあまり部屋を出た。
姉はランメルトを傷つけた事で悩み、大司教に話を聞いて貰った。
ランメルトはどうしても許せず、引き返して来て、途中で姉と遭遇し、衝動的に襲った___
不自然ではない。
ランメルトが変わってしまった事の理由にもなる。
「だけど、違う!ランメルト様ではないわ!!」
◇
「今日は大神殿に行ったそうだな」
夜になり、気が重いながらもいつも通りに寝室に向かった。
だが、寝室に入るなり、ランメルトが唐突にそれを切り出してきたので、
わたしはビクリとなった。
わたしは気付かれない様に、平静を装った。
「何でもご存じなのですね、わたしを見張らせているのですか?」
「ああ、そうだ、だから軽率な行動はしない方がいい」
まるで警告だ。
きっと、彼は裏切りを許さないだろう…
増々、ランメルトが怪しく思えてきて、自分が嫌になった。
「どうした、威勢が無くなったな、何か思い当たる節でもあるのか?」
「いいえ…今夜はどうされますか?」
わたしは彼に指示を促した。
ランメルトはじっと無表情でわたしを見ていたかと思うと、
「いつも通りだ」と素っ気なく言い、顔を背けた。
今夜は気が向かなかったが、わたしはいつも通りに夜着を脱ぎ、
ショーツを脱いでベッドに上がった。
顔を枕に伏せ、腰を上げる。
彼の手が尻たぶを掴み開いても、丹念に舐められ、吸われても、
わたしの意識は何処か遠くにあった。
ふっと、わたしの中を侵していた指が、動きを止めた。
「何かあるなら言え」
冷え冷えとした声にギクリとなった。
「何もありません…あ、うぅ!」
急に、強引に指を抜き差しされ、わたしは思わず呻いていた。
まるで責めているみたいだ。
「話さないなら、お預けだ」
ぞくりとする響きがあった。
わたしは理解出来ずに流したが、直ぐに思い知らされる事となった。
「あふ…!」
「あ、ん…っ!!」
ランメルトは散々にわたしを追い立てた。
だが、わたしが絶頂を迎えようとすると、行為を止めてしまう。
わたしは枕を噛み、必死で耐えた。
だが、わたしの体は意思に反し、みっともなく腰を揺らし、誘ってしまう。
「何故、大神殿に行った?何を懺悔した?私との行為を後悔しているのか?」
わたしの頭は快楽以外に考える隙間はなく、まともに答えられなかった。
「あ、うう、ん…」
「欲しくないなら止めてやる、答えろ、シャルリーヌ」
「!!」
行為の中、初めて名を呼ばれ、わたしの理性は崩壊した。
わたしは泣きながら訴えていた。
「あぁ、ん!お願い!欲しいの…!止めないでぇ!」
わたしを滅茶苦茶にして___!
「私の名を呼べ」
「ら、ら、ん…ランメルト様…あぁぁっ!!」
わたしは彼のくれる快楽に溺れ、気を失うまで、ランメルトの名を連呼していた。
意識を取り戻し、自分が如何に卑しい女になっていたかを思い出し、泣いた。
酷い…!!
こんな風に弄ぶなんて…!
わたしを辱めて…そんなに、わたしが憎いの?
わたしが、姉でない事が、そんなに嫌なの?
涙は止まらない所か、遂には号泣していた。
あまりに自分が惨めで、悲しかったのだ。
そうだというのに…
「悪かった」
たった一言、耳元で囁かれた言葉に、わたしの内に渦巻いていた黒いものは、
瞬く間に消えてしまった。
自分でも、愚かしいと思う。
だけど、どうしても、駄目なのだ。
彼を愛しているの___!
◇◇
姉が愛している者とは、誰だろう?
その人に陵辱されたのだろうか?
ううん、それなら、陵辱ではない___
幾ら考えても見えては来ない。
ランメルトよりも高貴な者となれば、王太子、王、他国の王子等々だろうか?
両想いだったのだろうか?
それとも、片想い?
大司教にそこまで聞かなかった事が悔やまれる。
もう一度大神殿を訪ねても良いが、
ランメルトはわたしが大神殿を訪ねる事を、良く思っていない様だ。
どうしてなのか、ランメルトはわたしが告解に行ったと思っている。
「また、怒らせたくはないし…」
あんな醜態は二度と晒したくない___
恥ずかしさに顔が火照り、身悶えしたくなる。
幸いだったのは、ランメルトがわたしを軽蔑しなかった事だ。
『悪かった』
どんなに責めたくても、あの一言が、わたしを蕩けさせてしまう…
「ああ、わたしって駄目ね…!」
一人で考えていても埒が明かず、わたしは姉を訪ねる事にした。
◇
「お姉様の調子はどう?」
両親はわたしが訪ねても、顔を出す事はなく、
わたしを迎えてくれるのは、弟のルシアンだけだった。
「いつもと変わらないよ、良くも悪くもならない…もう、駄目かもね」
ルシアンが小さな声で漏らし、胸が痛んだ。
わたしはルシアンの肩を抱き、逞しくなりつつあるその肩を擦った。
「どんな時も、希望を捨てては駄目よ…」
二人で姉の部屋に入ると、カーテンが閉められていて、薄暗かった。
「カーテンを開けるわね」と、わたしが窓辺に向かうと、ルシアンが止めた。
「カーテンは開けちゃ駄目!」
「え?」
カーテンを引いたわたしは、何事かと顔だけで振り返った。
ルシアンが唇を尖らせている。
悪戯をした時の顔だ___
「ルシアン?何か悪い事をしたの?」
窓に顔を戻すと、そこに立つ人の姿に気付いた。
癖のある茶髪、細身の体を包むのは、紺色の臣下服…
クレモンだ___!
「どうして、クレモンがあんな所に立っているの?
三日に一度、お姉様の見舞いに来ているのでしょう?
まさか、ずっと、会わせてあげていないの?」
あまりの仕打ちに、わたしはルシアンを責めていた。
だが、ルシアンは開き直った様で、逆に捲し立ててきた。
「会わせられる筈が無いよ!グレース姉さんをこんな風にしたヤツの部下だよ?
姉さんだって会いたくないに決まってるじゃないか!」
「ルシアン!お姉様がいるのよ!」
わたしは「しっ」と黙る様に指で指示したが、
ルシアンは「僕は悪くないからね!」と言い捨て、出て行ってしまった。
わたしは姉の痩せた手を握った。
「お姉様、煩くしてごめんなさい。
お姉様は嫌かしら、クレモンに会いたくない?」
クレモンはランメルトの側近なので、姉も知らない仲という訳ではない。
クレモンは真面目で控えめで、軽はずみな処は無いし、信頼出来る人に思えた。
「うう…ああ」
今まで「うふふ」と笑っていた姉が、突然、険しい表情で唸り声を上げ始めた。
「お姉様!?どうしたの?気分が悪いの?」
姉は激しく頭を振ると、わたしの袖をギュっと掴んだ。
「ク、レ…モン…!ごめ…なさ…
クレ、モン…ワタシ、穢された…の、あなた…死ぬしか…あああ!!」
姉が言葉を発したのは初めてだった。
わたしはしっかりと姉の腕を掴み、それを聞いた。
「クレモンに穢されたの?それとも、お姉様の愛する人は、クレモンなの?」
「クレ…モン!クレ、モン!!」
姉はその名を呼び、泣くばかりで、明確な返事は得られなかった。
だが、その必死の叫びに、わたしは姉がクレモンを愛しているのではないかと思えた。
「お姉様、ランメルト様は?ランメルト様の事を愛しているのでしょう?」
ランメルトの名を出しても、姉はベッドに伏せ、全く反応を見せない。
姉とクレモンはランメルトに内緒で、想いを通わせていたのだろうか?
酷いわ!!
そう思いながらも、二人を責める気にはなれなかった。
想いは自由にはならない。
好きになりたくなくても、好きになってしまうものだと知っている。
わたしも、ずっと、姉の後ろで、ランメルト様を想っていたから…
「グレース様!」
振り返ると、窓の直ぐ向こうに、クレモンが鬼気迫る表情で立っていた。
姉の異変に気付き、心配して来たのだろう。
わたしは急いでカーテンを引いた。
冷たい様だけど、今二人を会わせる訳にはいかない。
姉は興奮するかもしれないし、その前に、クレモンに確かめる必要がある。
74
あなたにおすすめの小説
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
愛さないと言うけれど、婚家の跡継ぎは産みます
基本二度寝
恋愛
「君と結婚はするよ。愛することは無理だけどね」
婚約者はミレーユに恋人の存在を告げた。
愛する女は彼女だけとのことらしい。
相手から、侯爵家から望まれた婚約だった。
真面目で誠実な侯爵当主が、息子の嫁にミレーユを是非にと望んだ。
だから、娘を溺愛する父も認めた婚約だった。
「父も知っている。寧ろ好きにしろって言われたからね。でも、ミレーユとの婚姻だけは好きにはできなかった。どうせなら愛する女を妻に持ちたかったのに」
彼はミレーユを愛していない。愛する気もない。
しかし、結婚はするという。
結婚さえすれば、これまで通り好きに生きていいと言われているらしい。
あの侯爵がこんなに息子に甘かったなんて。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
いっそあなたに憎まれたい
石河 翠
恋愛
主人公が愛した男には、すでに身分違いの平民の恋人がいた。
貴族の娘であり、正妻であるはずの彼女は、誰も来ない離れの窓から幸せそうな彼らを覗き見ることしかできない。
愛されることもなく、夫婦の営みすらない白い結婚。
三年が過ぎ、義両親からは石女(うまずめ)の烙印を押され、とうとう離縁されることになる。
そして彼女は結婚生活最後の日に、ひとりの神父と過ごすことを選ぶ。
誰にも言えなかった胸の内を、ひっそりと「彼」に明かすために。
これは婚約破棄もできず、悪役令嬢にもドアマットヒロインにもなれなかった、ひとりの愚かな女のお話。
この作品は小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は、汐の音様に描いていただきました。ありがとうございます。
夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜
あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる