【完結】結婚しても片想い

白雨 音

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姉にはランメルトの他に愛する者がいた___

わたしはその事で頭がいっぱいで、大司教と会った後で姉がどうしたか、
聞く事も忘れて帰って来てしまっていた。

こんな事を、ランメルトに聞ける筈がない___!

愛する者を陵辱されただけでなく、裏切られていたと知れば、とても耐えられないだろう。

だが、別の見方も出来る。

あの日、もし、姉との話の中で、ランメルトがそれを知ったとしたら?
ランメルトは怒りのあまり部屋を出た。
姉はランメルトを傷つけた事で悩み、大司教に話を聞いて貰った。
ランメルトはどうしても許せず、引き返して来て、途中で姉と遭遇し、衝動的に襲った___

不自然ではない。
ランメルトが変わってしまった事の理由にもなる。

「だけど、違う!ランメルト様ではないわ!!」





「今日は大神殿に行ったそうだな」

夜になり、気が重いながらもいつも通りに寝室に向かった。
だが、寝室に入るなり、ランメルトが唐突にそれを切り出してきたので、
わたしはビクリとなった。
わたしは気付かれない様に、平静を装った。

「何でもご存じなのですね、わたしを見張らせているのですか?」

「ああ、そうだ、だから軽率な行動はしない方がいい」

まるで警告だ。
きっと、彼は裏切りを許さないだろう…
増々、ランメルトが怪しく思えてきて、自分が嫌になった。

「どうした、威勢が無くなったな、何か思い当たる節でもあるのか?」

「いいえ…今夜はどうされますか?」

わたしは彼に指示を促した。
ランメルトはじっと無表情でわたしを見ていたかと思うと、
「いつも通りだ」と素っ気なく言い、顔を背けた。

今夜は気が向かなかったが、わたしはいつも通りに夜着を脱ぎ、
ショーツを脱いでベッドに上がった。
顔を枕に伏せ、腰を上げる。
彼の手が尻たぶを掴み開いても、丹念に舐められ、吸われても、
わたしの意識は何処か遠くにあった。

ふっと、わたしの中を侵していた指が、動きを止めた。

「何かあるなら言え」

冷え冷えとした声にギクリとなった。

「何もありません…あ、うぅ!」

急に、強引に指を抜き差しされ、わたしは思わず呻いていた。
まるで責めているみたいだ。

「話さないなら、お預けだ」

ぞくりとする響きがあった。
わたしは理解出来ずに流したが、直ぐに思い知らされる事となった。

「あふ…!」

「あ、ん…っ!!」

ランメルトは散々にわたしを追い立てた。
だが、わたしが絶頂を迎えようとすると、行為を止めてしまう。
わたしは枕を噛み、必死で耐えた。
だが、わたしの体は意思に反し、みっともなく腰を揺らし、誘ってしまう。

「何故、大神殿に行った?何を懺悔した?私との行為を後悔しているのか?」

わたしの頭は快楽以外に考える隙間はなく、まともに答えられなかった。

「あ、うう、ん…」

「欲しくないなら止めてやる、答えろ、シャルリーヌ」

「!!」

行為の中、初めて名を呼ばれ、わたしの理性は崩壊した。
わたしは泣きながら訴えていた。

「あぁ、ん!お願い!欲しいの…!止めないでぇ!」

わたしを滅茶苦茶にして___!

「私の名を呼べ」

「ら、ら、ん…ランメルト様…あぁぁっ!!」

わたしは彼のくれる快楽に溺れ、気を失うまで、ランメルトの名を連呼していた。
意識を取り戻し、自分が如何に卑しい女になっていたかを思い出し、泣いた。

酷い…!!
こんな風に弄ぶなんて…!
わたしを辱めて…そんなに、わたしが憎いの?
わたしが、姉でない事が、そんなに嫌なの?

涙は止まらない所か、遂には号泣していた。
あまりに自分が惨めで、悲しかったのだ。
そうだというのに…

「悪かった」

たった一言、耳元で囁かれた言葉に、わたしの内に渦巻いていた黒いものは、
瞬く間に消えてしまった。

自分でも、愚かしいと思う。

だけど、どうしても、駄目なのだ。

彼を愛しているの___!


◇◇


姉が愛している者とは、誰だろう?

その人に陵辱されたのだろうか?
ううん、それなら、陵辱ではない___

幾ら考えても見えては来ない。
ランメルトよりも高貴な者となれば、王太子、王、他国の王子等々だろうか?

両想いだったのだろうか?
それとも、片想い?

大司教にそこまで聞かなかった事が悔やまれる。
もう一度大神殿を訪ねても良いが、
ランメルトはわたしが大神殿を訪ねる事を、良く思っていない様だ。

どうしてなのか、ランメルトはわたしが告解に行ったと思っている。

「また、怒らせたくはないし…」

あんな醜態は二度と晒したくない___

恥ずかしさに顔が火照り、身悶えしたくなる。
幸いだったのは、ランメルトがわたしを軽蔑しなかった事だ。

『悪かった』

どんなに責めたくても、あの一言が、わたしを蕩けさせてしまう…

「ああ、わたしって駄目ね…!」

一人で考えていても埒が明かず、わたしは姉を訪ねる事にした。





「お姉様の調子はどう?」

両親はわたしが訪ねても、顔を出す事はなく、
わたしを迎えてくれるのは、弟のルシアンだけだった。

「いつもと変わらないよ、良くも悪くもならない…もう、駄目かもね」

ルシアンが小さな声で漏らし、胸が痛んだ。
わたしはルシアンの肩を抱き、逞しくなりつつあるその肩を擦った。

「どんな時も、希望を捨てては駄目よ…」


二人で姉の部屋に入ると、カーテンが閉められていて、薄暗かった。
「カーテンを開けるわね」と、わたしが窓辺に向かうと、ルシアンが止めた。

「カーテンは開けちゃ駄目!」

「え?」

カーテンを引いたわたしは、何事かと顔だけで振り返った。
ルシアンが唇を尖らせている。
悪戯をした時の顔だ___

「ルシアン?何か悪い事をしたの?」

窓に顔を戻すと、そこに立つ人の姿に気付いた。
癖のある茶髪、細身の体を包むのは、紺色の臣下服…

クレモンだ___!

「どうして、クレモンがあんな所に立っているの?
三日に一度、お姉様の見舞いに来ているのでしょう?
まさか、ずっと、会わせてあげていないの?」

あまりの仕打ちに、わたしはルシアンを責めていた。
だが、ルシアンは開き直った様で、逆に捲し立ててきた。

「会わせられる筈が無いよ!グレース姉さんをこんな風にしたヤツの部下だよ?
姉さんだって会いたくないに決まってるじゃないか!」

「ルシアン!お姉様がいるのよ!」

わたしは「しっ」と黙る様に指で指示したが、
ルシアンは「僕は悪くないからね!」と言い捨て、出て行ってしまった。

わたしは姉の痩せた手を握った。

「お姉様、煩くしてごめんなさい。
お姉様は嫌かしら、クレモンに会いたくない?」

クレモンはランメルトの側近なので、姉も知らない仲という訳ではない。
クレモンは真面目で控えめで、軽はずみな処は無いし、信頼出来る人に思えた。

「うう…ああ」

今まで「うふふ」と笑っていた姉が、突然、険しい表情で唸り声を上げ始めた。

「お姉様!?どうしたの?気分が悪いの?」

姉は激しく頭を振ると、わたしの袖をギュっと掴んだ。

「ク、レ…モン…!ごめ…なさ…
クレ、モン…ワタシ、穢された…の、あなた…死ぬしか…あああ!!」

姉が言葉を発したのは初めてだった。
わたしはしっかりと姉の腕を掴み、それを聞いた。

「クレモンに穢されたの?それとも、お姉様の愛する人は、クレモンなの?」

「クレ…モン!クレ、モン!!」

姉はその名を呼び、泣くばかりで、明確な返事は得られなかった。
だが、その必死の叫びに、わたしは姉がクレモンを愛しているのではないかと思えた。

「お姉様、ランメルト様は?ランメルト様の事を愛しているのでしょう?」

ランメルトの名を出しても、姉はベッドに伏せ、全く反応を見せない。
姉とクレモンはランメルトに内緒で、想いを通わせていたのだろうか?

酷いわ!!

そう思いながらも、二人を責める気にはなれなかった。
想いは自由にはならない。
好きになりたくなくても、好きになってしまうものだと知っている。

わたしも、ずっと、姉の後ろで、ランメルト様を想っていたから…

「グレース様!」

振り返ると、窓の直ぐ向こうに、クレモンが鬼気迫る表情で立っていた。
姉の異変に気付き、心配して来たのだろう。
わたしは急いでカーテンを引いた。

冷たい様だけど、今二人を会わせる訳にはいかない。
姉は興奮するかもしれないし、その前に、クレモンに確かめる必要がある。

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