こんな私が恋に落ちるまでの物語

悠日里

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第二話 縁

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「青、ごめん!」

 朝、教室に着いてすぐの事だった。ごめんの理由はわからないけれど、何を絡んだ話なのかは、友達の雰囲気から十分じゅうぶんに察せられた。

「いいよ?」
「ちょ、おいっ。まだ何も話してないじゃんっ。って、何で笑ってるのっ」
「だって奈菜なな、嬉しそう」

 ちょっと違うかもしれないけれど、友達の奈菜の表情というか、醸し出す雰囲気が、ほっぺたが落ちそうみたいな感じに見えた。
 何を話してくれるのか、とても楽しみである。

「で、出ちゃってた? えへへ……実はさ。昨日の部活ん時、先輩が来てくれててさ、偶然先輩と二人きりになる時があったんだ……。私、チャンスだなぁ~って思って、思い切って告白してみてさ。そ、そんでおっけーもらえて……」
「えっすごい! 良かったね!」
「う、うん! ありがとう! 良かったっ。本当に嬉しいっ、幸せ! ……でもさ……今までみたいに業間とか、お昼とか、青と一緒に居られなくなっちゃうんだよね……だからごめん!」
「いやいや、そりゃあそうでしょ」
「へ?」

 奈菜とは初等部の時からの仲だ。同じ吹奏楽部で一学年上の先輩の事が好きだという話も、もちろん教えてもらっていて知っている。
 先輩の話をしている奈菜は、普段のボーイッシュな調子とは変わり、照れ屋で夢見がちな女の子になるからすごく可愛い。だからたまに私から先輩の話を振って楽しんだりもしているのだけれど、接点もないし、陰ながら応援する事しか出来なかったのが現状だった。

「お弁当、先輩と一緒に食べるの夢だって言ってたもんね。全然いいよっ、気にしないで。えっと、おめでとうって言えばいいのかな? それともいってらっしゃい?」
「青……。うんっ、ありがとう! 大好き!」
「先輩以下だけどね」
「あ、青~」
「いひひ。勇気出して良かったねっ」
「うん……!」

 奈菜に抱きしめられたのは二度目だ。一昨年のあの日は、呆然とする私の温度を取り戻してくれるように包んでくれたっけ。前は自分の事情だった上に後ろ向きな内容だったから、こうして奈菜が心の底から笑ってくれると安心する。私まで嬉しくなる。
 奈菜と喜びを分かち合える事が出来た私は、とても満たされた気持ちになったのだった。


 一限目が終わり業間に入った。
 二列隣の廊下側。その斜め前の席に座る奈菜が振り返って私を呼んだ。
 私は何だかわくわくした。好奇心に似たときめきを感じた。笑みだって自然にこぼれてしまう、今朝の奈菜のようだ。

 私は無駄に何度もうなずき、手を振って奈菜の行動を歓迎しながら見送ったのだった。
 それを三回し、いよいよお昼休みの時間が来た。奈菜が夢を叶える時間である。
 私はまるで孫の成長を喜ぶ祖母のようだった。目を細め、またまた手を振っていってらっしゃいをした。

 うちの中等部は給食がないから、お弁当を持参するか高等部と共用の学食(混んでいる)を利用するのだけれど、私は中学生の身。いつもお弁当だ。

「何あれ、ひっど。青、可哀想すぎん?」

 奈菜が通った教室のドアに視線を送りながらそう言ったのは、紗枝ちゃんだ。紗枝ちゃんは所謂いわゆるクラスの中心的なグループに居る一人で、裏表がなく、そして気が強い部分を持ち合わせていた。時々こういう優しさを媒介した棘を、グループ外の私たちに向けてきたりもする子なのである。

「ええっ。じゃあ紗枝ちゃんは彼氏が出来てもお昼、一緒に食べないんだ?」
「え……?」

「私は食べるけどなぁ」と、私が不思議がって首を傾げていると、紗枝ちゃんは「私も食べたいよ!」と白状した。
 そんな正直な紗枝ちゃんを、私は周りに居たクラスメイトたちと声を重ねて笑った。見る見るうちに頬を染める紗枝ちゃんを可愛く思ったのは、みんなも同じよう。憎めない子なんだよなぁ、紗枝ちゃんて。

 沸き起こった笑いも落ち着き、こちらに注がれた矢印が再びそれぞれの元へと帰ると、いつもの平穏な空気が流れた。私は業間の度に読んでいた小説と、鞄から取り出したお弁当バッグを持ち、席を離れた。すると、ちらほらと矢印が帰ってきたので、私は「図書館で食べちゃうか」と大きく独り言を残し、軽い足取りでその教室を後にする。

 うーん。まだ一日目だからなのだろうか。一人で過ごす事が苦ではない。
 まぁ前提に、奈菜が幸せな時間を過ごしているという事実があるから、私は心が穏やかで居られるのだろう。

 私は私で、楽しく過ごそうっと。

 喧騒が広がる廊下を歩き、私は昇降口で靴を履き替え、学院の図書館の前までやって来た。
 窓に視線を向けると人が行き来しているのが見えるので、利用者が居なくはないようだけれど、昼食時の図書館は中央広場と比べ穴場スポットになる。そして一歩中へと入れば、さらに静かなエントランスホールが私を迎えたのだった。

 私は自販機を背に窓側を進み、飲食の出来るテーブルにお弁当バッグと小説を置いて腰かけた。早速お弁当を広げようとしたけれど、天才天文学者が食事をとりながら読書をしていた話を思い出し、先に本を借りる事にした。

 来た道を戻り、内側の自動ドアを通って入館した私は、カウンターで本を返却した後、好きな作家さんの棚に向かった。運良く借りたかった本があったのでそれを取り、カウンター前に設置されている自動貸出機で手続きを済ます。ケースに入った利用者カードをスカートのポケットに仕舞い、借りたかった本と一緒にエントランスホールへと帰ってきた。

 まだ誰も居ない。やったぁ。

 椅子の座り心地は館内の方が断然いいけれど、窓辺で小説を片手にお弁当ランチだなんて、まるでカフェに居るような気分である。

 まずは喉を潤そう。私はお弁当バッグから取り出した水筒のふたを開け、ひと口飲もうと顔を上げた。
 窓の外に誰かが居た――。
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