【完結】うっかり者の看板役者は冷たい龍に惚れる

仙桜可律

文字の大きさ
7 / 18

カイ困惑

しおりを挟む
「なんか、すっげー派手な男前がカイさんに面会来てるんですけど。心当たりあります?」

騎士団の事務職員から呼ばれた。
心当たり、ない。
が、もしリナに関係することで派手な男前なら会わないわけにいかない。
リナはマリア嬢のところに泊まったあと、娼館にいるらしい。
待合室に行けば、確かに派手な男がいた。
赤い髪、がっしりした身体。銀色の目は視線が引き付けられる。何より見られることに慣れている。
その堂々とした姿に、リナと関係のある男だと嫌だなと思った。椅子から立ち上がって礼をするのも、礼儀に則っている。

でかいな。

180cm以上はありそうだ。

用件を聞くと、人探しだという。女を探している。
多分惚れたんだろう。自分も東の大陸に行った時はリナを忘れようとして精神的にも疲れていた。ミクには世話になったし、一族は受けた恩をなるべく返す義理がある。

まあ、今はリナのことを優先するが、知り合いのいないところへ来る勇気は応援してやりたい。
この辺りにはあまり龍の一族は定住していないので、探してやれるかもしれない。

と思っていた。
具体的に特徴を聞くまでは。

メモを取りながら、内心震えた。

待て。

この男がキラキラした目で語っているのは。

俺だ。

あの日、舟ですれ違うのにぶつかりそうだったから立ち上がって傾けた。

それは優雅な舞などではなく、船底を蹴ったのだが。

扇は船頭に
いいかげんにしろよ?
という軽い脅しのために突き出した。
なんでそれが

絶世の美女が舟の上で舞を踊っていたのに一目惚れした

という、話になるんだ。
桜花が視界を遮っていたのか、髪を下ろしていたからか、こいつが酷く酔っていたのか。

それより、俺だと気付かれていないのなら黙っておこう。

その女は、お前の脳内にしか居ない。

だから、絶対に見つかるわけがない。
ここで俺みたいな奴が名乗っても可哀想だ。
気が済んだら諦めて帰るだろう。

そう思っていたのに、シュラクと名乗ったそいつが何度も接触してくる。

女装していた訳じゃない。
偵察に必要だったから着飾っていたが、断じて色仕掛けを狙ったわけではない。

たまたま、男娼と遊ぶのが好きな奴だったので請われて舟遊びに付き合ってやっただけだ。

そのお陰で任務は成功したが、危険もあった。

もう忘れたい時期のことだ。

「カイさん、やっと見つかりそうなんですよ!龍の女が!」


は?何言ってんだこいつ。

「ミクから手紙が来て、ほら、見てください!
その女は『成』っていう名前だそうです」

「どうせ偽名だろ」

「はい、ミクもそう言ってました。でも、龍の一族は本名の音を一つ残したりひっくり返すことが多いそうで。」


なんでこいつにそんなことまで教えるねん!?

『成』セイというのがその時のカイの偽名だった。

「で、龍の女がいるってきいて、探してたんです。『成』ナリって名前で誰か」

なんで、

「そしたら、居たんです! リナっていう子が!龍の番って噂されてました」

待て、それは

「だから、何とかして会いたいんですが、カイさんどうにかなりませんか」

「そいつは、お前の探してる女じゃない……」

絞り出すように、そう言った。
「カイさん!何か隠してるでしょ!」

顔のいい奴の圧力!

絶対に
ぜったいにリナに、会わせない。

「その娘は、3ヶ月先まで常連が予約を入れている」

「ええー!」

「俺だ」

は?という顔をしていた。
それでも男前で腹立つなコイツ、と思った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

皇后陛下の御心のままに

アマイ
恋愛
皇后の侍女を勤める貧乏公爵令嬢のエレインは、ある日皇后より密命を受けた。 アルセン・アンドレ公爵を籠絡せよ――と。 幼い頃アルセンの心無い言葉で傷つけられたエレインは、この機会に過去の溜飲を下げられるのではと奮起し彼に近づいたのだが――

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

魔王様は転生王女を溺愛したい

みおな
恋愛
 私はローズマリー・サフィロスとして、転生した。サフィロス王家の第2王女として。  私を愛してくださるお兄様たちやお姉様、申し訳ございません。私、魔王陛下の溺愛を受けているようです。 *****  タイトル、キャラの名前、年齢等改めて書き始めます。  よろしくお願いします。

虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ

あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。 その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。 敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。 言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

【完結】王城司書がチャラい作家と出会った話

仙桜可律
恋愛
王城図書館司書のシアは誰からも真面目な女性だと思われていた。自身でもそう思っていた。きっちりとした纏め髪、紺色に白いカフスのワンピース。グレーのスカーフを巻いている。 そんな彼女が見るからに軽い男性に口説かれて髪をほどかれている。 なんでこんなことに……? シアが意識するよりずっと前から狙われていたなんて。彼は流行りの劇作家だという。嘘を本当にしてしまいそうな口振りにシアは翻弄される。 一見チャラい彼は実は策士でした。 劇作家×真面目司書 酔菜亭『エデン』シリーズ

処理中です...