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女子の夜
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「うっ、うっ、メシ食って、いい感じになって。これから色々って思ってたのに、酔い潰されて逃げられたんだ、ミク……」
「そうか、それは辛いよな」
騎士団にくるシュラクの話を聞いてやって宥めるのがヒューゴの担当となった。
「お前、ほどほどにしておけよ」
カイが注意したがヒューゴはシュラクに甘い。
「なんか他人事と思えなくてな。それになんかあいつ、デカイ犬みたいで」
「シュラク、ここら辺に定住している龍の一族で店を開いてる奴のところにかおをだしているかもしれない。行ってみろ」
カイも少しは責任を感じているらしい。
ヒューゴとカイは昼食にマリアのパン屋に行った。
「あれ」
「え」
窓越しに職人たちの作業が見える。
「いた」
ミクが職人に混じってパンをこねている。
「これはマリアさんが匿ってるんだろうな」
「どうしたものか」
「いい大人なんだから当人同士で解決すればいいだろう。見ないふりをしてやろう」
「……そうかもしれないが、お前リナさんが家出したときに髪濡れたまま飛び出してフラフラだったよな」
カイが身を強張らす。
「でもまあ、ミクがどう思ってるかだ」
店に入るとヒューゴに気付いたマリアが笑顔で手を振る。
カイも一緒だとわかると、目に見えて動揺していた。
(わかりやすい)
「シュラクが毎日騎士団に来てミクを探している。落ち着いたら会ってやったらどうだ」
「カイさん、ミクさんも混乱してるだけなので」
「無理にとは言わないが、遅かれ早かれ……いずれな?」
ミクが窓越しに頷いた。
その日の夜、ミクが夕飯を作ってくれた。
「マリアさん、本当にお世話になった。こんなことしかできないが」
「美味しそう~!あ、来たわ」
リナがやって来た。
「お邪魔しまーす」
「カイさんの奥方、迷惑をかけてすまなかった」
「リナって呼んでください。カイさんが、これみんなでって」
こっちで有名な赤い果物だった。
「さ、女の子だけで作戦会議しましょう!」
ーーーーーーー
「シュラクさんのこと好きなのね!」
リナもミクの可愛さに色々と聞いてしまう。
「がっしりして強そうだし顔が華やかですね」
「いや、あいつは強くない。私より弱い。あの筋肉は役者として見た目のために鍛えてるだけで。
カイさんやヒューゴさんの実戦でついたものと質が違う」
ミクは、ハッとした。
「すまない、私は以前、マッサージや骨の仕事をしていて。東洋のツボや血の路を習っていた。いろんな人の筋肉や骨格を観察してしまう癖が抜けなくて。
決してお二人のパートナーをじろじろと品定めしたわけではないんだが」
「ミクさん、すごい!」
マリアが興奮している。
「すごく良い肉体だとしても恋愛感情には結び付かない。そうだな、料理人が肉質の良し悪しを見てしまうようなもので、……ああ、この言い方も失礼だな」
「ミクさん、あの、ただの興味なのですが、ヒューゴさんの骨格ってプロから見てどうですの?」
「とても良いバランスで歪みもなく瞬発力に優れていると思う。実戦を見たことはないが」
きゃああ、とマリアが声をあげる。
「ね?リナちゃん!私がヒューゴさんの骨格エロいって言ってたの間違ってなかったのよ!」
(エロいとは言ってない)
ミクはブンブンと首をふる。
「ミクさん、カイさんは?細いけど」
「カイさんは骨が柔らかいし肉もしなやかだ。無駄のない戦い方をするので見た目よりスタミナがあると思う」
リナが頬を染めて、うんうん、と頷く。
「そうなの!見た目より、きゃっ」
(そんな夜の意味で言ってない)
ミクはブンブンと首をふる。
「ね、じゃあシュラクさんは?」
「あいつは……顔が良いだけの男だ」
そう言って、ポッと赤くなるので、リナとマリアは目配せした。
「顔が好みって大事!!」
「え?」
「好きだから顔がよく見えるのよ」
「でも、中身を知ってから惚れるほうが本当ではないのか?顔だけにひかれるなんてあまり良くない。男は強さが大事だと教育されてきた」
「うーん、強さっていろいろあるよね」
マリアは笑った。
「この人なら許しちゃうなっ、てのも惚れた弱味だし。好きが一番強いのかもよ」
好きは強い。
あまりミクは女の子と恋の話をすることがなかったので、二人との夜はとても大切な思い出となった。
「マリアちゃんなんて、ヒューゴさんに一目惚れして貴族やめたのよー」
「リナちゃんだってカイさんに自分から迫ったくせにー」
なるほど、二人とも強くたくましく、大好きな人がいて可愛い。
そして正直だ。
「そうか、それは辛いよな」
騎士団にくるシュラクの話を聞いてやって宥めるのがヒューゴの担当となった。
「お前、ほどほどにしておけよ」
カイが注意したがヒューゴはシュラクに甘い。
「なんか他人事と思えなくてな。それになんかあいつ、デカイ犬みたいで」
「シュラク、ここら辺に定住している龍の一族で店を開いてる奴のところにかおをだしているかもしれない。行ってみろ」
カイも少しは責任を感じているらしい。
ヒューゴとカイは昼食にマリアのパン屋に行った。
「あれ」
「え」
窓越しに職人たちの作業が見える。
「いた」
ミクが職人に混じってパンをこねている。
「これはマリアさんが匿ってるんだろうな」
「どうしたものか」
「いい大人なんだから当人同士で解決すればいいだろう。見ないふりをしてやろう」
「……そうかもしれないが、お前リナさんが家出したときに髪濡れたまま飛び出してフラフラだったよな」
カイが身を強張らす。
「でもまあ、ミクがどう思ってるかだ」
店に入るとヒューゴに気付いたマリアが笑顔で手を振る。
カイも一緒だとわかると、目に見えて動揺していた。
(わかりやすい)
「シュラクが毎日騎士団に来てミクを探している。落ち着いたら会ってやったらどうだ」
「カイさん、ミクさんも混乱してるだけなので」
「無理にとは言わないが、遅かれ早かれ……いずれな?」
ミクが窓越しに頷いた。
その日の夜、ミクが夕飯を作ってくれた。
「マリアさん、本当にお世話になった。こんなことしかできないが」
「美味しそう~!あ、来たわ」
リナがやって来た。
「お邪魔しまーす」
「カイさんの奥方、迷惑をかけてすまなかった」
「リナって呼んでください。カイさんが、これみんなでって」
こっちで有名な赤い果物だった。
「さ、女の子だけで作戦会議しましょう!」
ーーーーーーー
「シュラクさんのこと好きなのね!」
リナもミクの可愛さに色々と聞いてしまう。
「がっしりして強そうだし顔が華やかですね」
「いや、あいつは強くない。私より弱い。あの筋肉は役者として見た目のために鍛えてるだけで。
カイさんやヒューゴさんの実戦でついたものと質が違う」
ミクは、ハッとした。
「すまない、私は以前、マッサージや骨の仕事をしていて。東洋のツボや血の路を習っていた。いろんな人の筋肉や骨格を観察してしまう癖が抜けなくて。
決してお二人のパートナーをじろじろと品定めしたわけではないんだが」
「ミクさん、すごい!」
マリアが興奮している。
「すごく良い肉体だとしても恋愛感情には結び付かない。そうだな、料理人が肉質の良し悪しを見てしまうようなもので、……ああ、この言い方も失礼だな」
「ミクさん、あの、ただの興味なのですが、ヒューゴさんの骨格ってプロから見てどうですの?」
「とても良いバランスで歪みもなく瞬発力に優れていると思う。実戦を見たことはないが」
きゃああ、とマリアが声をあげる。
「ね?リナちゃん!私がヒューゴさんの骨格エロいって言ってたの間違ってなかったのよ!」
(エロいとは言ってない)
ミクはブンブンと首をふる。
「ミクさん、カイさんは?細いけど」
「カイさんは骨が柔らかいし肉もしなやかだ。無駄のない戦い方をするので見た目よりスタミナがあると思う」
リナが頬を染めて、うんうん、と頷く。
「そうなの!見た目より、きゃっ」
(そんな夜の意味で言ってない)
ミクはブンブンと首をふる。
「ね、じゃあシュラクさんは?」
「あいつは……顔が良いだけの男だ」
そう言って、ポッと赤くなるので、リナとマリアは目配せした。
「顔が好みって大事!!」
「え?」
「好きだから顔がよく見えるのよ」
「でも、中身を知ってから惚れるほうが本当ではないのか?顔だけにひかれるなんてあまり良くない。男は強さが大事だと教育されてきた」
「うーん、強さっていろいろあるよね」
マリアは笑った。
「この人なら許しちゃうなっ、てのも惚れた弱味だし。好きが一番強いのかもよ」
好きは強い。
あまりミクは女の子と恋の話をすることがなかったので、二人との夜はとても大切な思い出となった。
「マリアちゃんなんて、ヒューゴさんに一目惚れして貴族やめたのよー」
「リナちゃんだってカイさんに自分から迫ったくせにー」
なるほど、二人とも強くたくましく、大好きな人がいて可愛い。
そして正直だ。
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