【完結】うっかり者の看板役者は冷たい龍に惚れる

仙桜可律

文字の大きさ
17 / 18

女子の夜

しおりを挟む
「うっ、うっ、メシ食って、いい感じになって。これから色々って思ってたのに、酔い潰されて逃げられたんだ、ミク……」

「そうか、それは辛いよな」

騎士団にくるシュラクの話を聞いてやって宥めるのがヒューゴの担当となった。

「お前、ほどほどにしておけよ」
カイが注意したがヒューゴはシュラクに甘い。
「なんか他人事と思えなくてな。それになんかあいつ、デカイ犬みたいで」

「シュラク、ここら辺に定住している龍の一族で店を開いてる奴のところにかおをだしているかもしれない。行ってみろ」

カイも少しは責任を感じているらしい。

ヒューゴとカイは昼食にマリアのパン屋に行った。

「あれ」

「え」

窓越しに職人たちの作業が見える。

「いた」

ミクが職人に混じってパンをこねている。
「これはマリアさんが匿ってるんだろうな」

「どうしたものか」

「いい大人なんだから当人同士で解決すればいいだろう。見ないふりをしてやろう」

「……そうかもしれないが、お前リナさんが家出したときに髪濡れたまま飛び出してフラフラだったよな」

カイが身を強張らす。

「でもまあ、ミクがどう思ってるかだ」

店に入るとヒューゴに気付いたマリアが笑顔で手を振る。
カイも一緒だとわかると、目に見えて動揺していた。 

(わかりやすい)

「シュラクが毎日騎士団に来てミクを探している。落ち着いたら会ってやったらどうだ」

「カイさん、ミクさんも混乱してるだけなので」

「無理にとは言わないが、遅かれ早かれ……いずれな?」

ミクが窓越しに頷いた。

その日の夜、ミクが夕飯を作ってくれた。

「マリアさん、本当にお世話になった。こんなことしかできないが」

「美味しそう~!あ、来たわ」

リナがやって来た。
「お邪魔しまーす」

「カイさんの奥方、迷惑をかけてすまなかった」

「リナって呼んでください。カイさんが、これみんなでって」

こっちで有名な赤い果物だった。

「さ、女の子だけで作戦会議しましょう!」

ーーーーーーー

「シュラクさんのこと好きなのね!」

リナもミクの可愛さに色々と聞いてしまう。
「がっしりして強そうだし顔が華やかですね」

「いや、あいつは強くない。私より弱い。あの筋肉は役者として見た目のために鍛えてるだけで。
カイさんやヒューゴさんの実戦でついたものと質が違う」

ミクは、ハッとした。
「すまない、私は以前、マッサージや骨の仕事をしていて。東洋のツボや血の路を習っていた。いろんな人の筋肉や骨格を観察してしまう癖が抜けなくて。
決してお二人のパートナーをじろじろと品定めしたわけではないんだが」

「ミクさん、すごい!」

マリアが興奮している。

「すごく良い肉体だとしても恋愛感情には結び付かない。そうだな、料理人が肉質の良し悪しを見てしまうようなもので、……ああ、この言い方も失礼だな」
「ミクさん、あの、ただの興味なのですが、ヒューゴさんの骨格ってプロから見てどうですの?」

「とても良いバランスで歪みもなく瞬発力に優れていると思う。実戦を見たことはないが」

きゃああ、とマリアが声をあげる。
「ね?リナちゃん!私がヒューゴさんの骨格エロいって言ってたの間違ってなかったのよ!」

(エロいとは言ってない)

ミクはブンブンと首をふる。

「ミクさん、カイさんは?細いけど」
「カイさんは骨が柔らかいし肉もしなやかだ。無駄のない戦い方をするので見た目よりスタミナがあると思う」

リナが頬を染めて、うんうん、と頷く。
「そうなの!見た目より、きゃっ」

(そんな夜の意味で言ってない)
ミクはブンブンと首をふる。

「ね、じゃあシュラクさんは?」

「あいつは……顔が良いだけの男だ」

そう言って、ポッと赤くなるので、リナとマリアは目配せした。

「顔が好みって大事!!」

「え?」

「好きだから顔がよく見えるのよ」

「でも、中身を知ってから惚れるほうが本当ではないのか?顔だけにひかれるなんてあまり良くない。男は強さが大事だと教育されてきた」

「うーん、強さっていろいろあるよね」

マリアは笑った。
「この人なら許しちゃうなっ、てのも惚れた弱味だし。好きが一番強いのかもよ」

好きは強い。

あまりミクは女の子と恋の話をすることがなかったので、二人との夜はとても大切な思い出となった。

「マリアちゃんなんて、ヒューゴさんに一目惚れして貴族やめたのよー」

「リナちゃんだってカイさんに自分から迫ったくせにー」

なるほど、二人とも強くたくましく、大好きな人がいて可愛い。
そして正直だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

「二年だけの公爵夫人~奪い合う愛と偽りの契約~」二年間の花嫁 パラレルワールド

柴田はつみ
恋愛
二年だけの契約結婚―― その相手は、幼い頃から密かに想い続けた公爵アラン。 だが、彼には将来を誓い合った相手がいる。 私はただの“かりそめの妻”にすぎず、期限が来れば静かに去る運命。 それでもいい。ただ、少しの間だけでも彼のそばにいたい――そう思っていた。 けれど、現実は甘くなかった。 社交界では意地悪な貴婦人たちが舞踏会やお茶会で私を嘲笑い、 アランを狙う身分の低い令嬢が巧妙な罠を仕掛けてくる。 さらに――アランが密かに想っていると噂される未亡人。 彼女はアランの親友の妻でありながら、彼を誘惑することをやめない。 優雅な微笑みの裏で仕掛けられる、巧みな誘惑作戦。 そしてもう一人。 血のつながらない義兄が、私を愛していると告げてきた。 その視線は、兄としてではなく、一人の男としての熱を帯びて――。 知らぬ間に始まった、アランと義兄による“奪い合い”。 だが誰も知らない。アランは、かつて街で私が貧しい子にパンを差し出す姿を見て、一目惚れしていたことを。 この結婚も、その出会いから始まった彼の策略だったことを。 愛と誤解、嫉妬と執着が交錯する二年間。 契約の終わりに待つのは別れか、それとも――。

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

皇后陛下の御心のままに

アマイ
恋愛
皇后の侍女を勤める貧乏公爵令嬢のエレインは、ある日皇后より密命を受けた。 アルセン・アンドレ公爵を籠絡せよ――と。 幼い頃アルセンの心無い言葉で傷つけられたエレインは、この機会に過去の溜飲を下げられるのではと奮起し彼に近づいたのだが――

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ

あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。 その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。 敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。 言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

処理中です...