【完結】うっかり者の看板役者は冷たい龍に惚れる

仙桜可律

文字の大きさ
18 / 18

大団円

しおりを挟む
宿に戻ると客が来たらしい。
近くの店で待っていると伝言があった。
あわてて行くと、ミクだった。
三日ぶりにみる。
言いたいことがたくさんあったはずなのに出てこない。役者なんだからすらすら言えないとカッコ悪いのに。

ミクに抱きついて本物だと確認すると、幸せな気分になって何も言えなかった。

「シュラク、逃げて悪かった」
「いや俺の方こそ急ぎ過ぎた」

席に座ってお茶を飲んでいた。店内の注目を集めてミクは居心地が悪そうだった。目が合うけれど改めて話をするのはちょっと、と思っているのかもしれないと思った。

ミクが見つかったら気持ちが止まらなくなるかと思ったけど意外と落ち着いている部分もあった。ミクが目の前に居てくれるだけで、安心する。

顔が弛むと、ミクは赤くなった。
「何をしていたのかとか、どこにいたのか聞かないのか」

「いろいろ考えたし心配もしたけど、今こうやってミクが無事に戻ってきてくれて俺のとこに会いに来てくれて。これ以上に望んだらいけない気がする。離れてわかることもあるんだな」

お茶を何度か口に運び、視線を何度も上下して、決意したように息を吸って。
ミクは数分たってから

「私も、わかったことがある。友達が出来た。彼女たちは正直で強く可愛い。
そんな彼女たちでさえ恋人と気持ちのすれ違いを経験していた。
言葉や態度に表すことを惜しんでいてはいけないんだな。だから、その」

「ミク、ちょっと待って」

「いや、聞いてくれ。今じゃないとダメだと思う。

私も少しお前に素直になろうと思う。」

「ミクはいつも正直で素直だ。嘘は言わない。俺はそういうミクが好きだ」

ミクは、赤くなった。

「……ありがとう」

「今日は俺の部屋に泊まるよな」

「いやそれは断る」

ーーーーーーー
シュラクの劇団の公演をマリアとリナが見に行った。

「かっこよかったねえ」

「シュラクさんの黒髪も似合ってたね」

観劇から帰ってきてから二人がそんな様子なので彼氏達は少し飽きていたが、楽しそうに話す二人の顔を少し離れたところから眺めて酒を飲んでいた。

「ミクさんも綺麗だったし強かった。かっこよかった」


「アイツは裏方なんじゃないのか?」

「シュラクさんがミクちゃん相手じゃないとラブシーンしないってゴネたらしいよ?」

「なっ!そんなこと言ってんのか。子供か!」

「なかなか濃厚で勉強になりました。ヒューゴさんとも見に行きたいです」

「俺以外の男を誉めてるの見るのは嫌だから行かない」

プイッと顔をそらしたヒューゴをマリアがキラキラした目で見ている。 

(拗ねた犬みたいでかわいいわ!)

「シュラクさん、殺陣をかなり鍛えたそうです。カイさんやヒューゴさんを参考にしてミクさんが鍛えたそうですよ」

「それは少し興味あるな」

カイは基本的に嫁が喜んでいればそれでいいらしい。

千秋楽のあと、ミクとシュラクが別れの挨拶に来てくれた。

シュラクの黒髪は伸びてきた根本が赤色で、

より派手だった。
それもまた似合っている。

「本当にお世話になりました。」

「お前、身体変わったな」

カイがシュラクの腕や胸を触る

「かなり鍛えてやった」

ミクが得意気に言っている。
「短期間でよく仕上がってる」

「見た目だけだから、動きは無理だぞ」

「ミクが、『使える身体にしてから口説け』って言うからさ、頑張りました」

大男が頬を染めている。

「次は頭を鍛えるか」
回し蹴りで倒されている。

「かっこいいー!」

マリアとリナが頬を染めて拍手している。

倒れたシュラクも、キラキラした目で見ている。

「また東の大陸に遊びに来てくれ。温泉もたくさんあるから。」
ミクがシュラクを引っ張って、何度も手を振って帰っていった。


温泉……?

マリアとリナがキョトンとしている。

「カイさん、温泉ってなに?」

「ああ、でかい風呂……?自然に暑い湯が湧き出していて。えーっと、こっちの大陸にもあるはずだが、向こうでは古くからの宿や食べ物屋なんかが多くて。外の風呂もある」

「お風呂が人気なの?こっちでもプールとか大浴場はあるけど。」

「何て言ったらいいのかな。女性は肌が美しくなるとか、腰痛が治るとかそういう目的を持って楽しむ人が多い印象だ。こっちでは保養地とか避暑の別荘みたいな感覚かな」

「楽しそう!調べてみるね!」


ミクとシュラクにまた会える日を楽しみに、それぞれは最愛の人の手をとった。

【完】




































しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

魔王様は転生王女を溺愛したい

みおな
恋愛
 私はローズマリー・サフィロスとして、転生した。サフィロス王家の第2王女として。  私を愛してくださるお兄様たちやお姉様、申し訳ございません。私、魔王陛下の溺愛を受けているようです。 *****  タイトル、キャラの名前、年齢等改めて書き始めます。  よろしくお願いします。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

処理中です...