念のために身に付けておいて良かったです

仙桜可律

文字の大きさ
5 / 28

シーカー家は没落寸前だった

しおりを挟む
シーカー子爵は悪人ではない。ただ、人が良すぎるのだった。
領地は執事に任せて王都で植物の研究をしていた。

ある日スリにあって、邸まで歩いていたところ修道院の前で倒れてしまった。
女の子が寄ってきて、瞼を上げたり手首や首の後ろを触ったりした。
そのあと大人を呼んでくれた。

疲労と空腹だろうということで、シスターは一室を貸してくれた。
女性ばかりのところに休ませてもらうのは気が引けた。
夕方に配達の業者が来るので、屋敷まで送るように頼みましょうと言ってくれた。
邸につけば報酬も払えるので、言葉に甘えた。
辻馬車では信用がなければ後払いは出来ない。ありがたかった。

その命の恩人である修道院に寄付をしたりバザーに協力しているうちに、アイリスと親しくなった。
シーカー子爵は独身で、32才の男性が12才のアイリスを養女にするというのに院長は初め危惧していた。

アイリスは平民で、親はいたけれど事情があって自らの意思で孤児院に来た子供だった。
幸せになってほしいと厳しく礼儀作法を叩き込んだ。
決して小児性愛者の愛人にするためではない。
もし、手順を踏んで求婚するのであれば年の差や身分はどうあれ賛成していただろう。

「院長、私は邪な考えからあの子を養女にほしいと言ってるのではないですよ」

「あの子は大人びているから、もしかして本当に恋愛感情を?」

「そうではなくてですね、私はあと十年ほど勤めたら、親戚の誰かを迎えて後継ぎにしようと思っていました。子爵位は誰の手に移っても未練はありません。

でも、アイリスにとってはどうでしょうか。私にとって価値のない弱小貴族でも、あの子にとっては子爵令嬢という肩書きで王都の学園に入学できます。
楽しみで仕方ない。とても良い種を見つけた気分です。日当たりと土壌を与えたいだけです」

独特の例えだったけれど院長は安心してこの人なら任せられると思った。数年間修道院に出入りしてても、誰一人シスターといい感じにすらならなかった人なので。

「お父様……?子爵? なんとお呼びすればいいのでしょう」

「兄でもいいんだけど、兄よりは父だよねえ。まあ何でもいいよ、アイリスの好きに呼べばいい」

「それでは、人前ではお父様、それ以外は先生と呼びたいです。

子爵は孤児院の畑を指導したり、植物について教えていた。
この修道院と孤児院のバザーで売られるポプリやハーブ入りのクッキーは人気だった。

「わかった。数年間よろしくねアイリス。」

王都に小さな邸があるけれど、子爵は職場の寮から通っているしアイリスも学園の寮に入る。休暇くらいしか一緒の邸に暮らさないだろう。

子爵は、アイリスに投資ではなく純粋に人助けのつもりだった。

しかし、助けられたのは子爵の方だ。
執事の仕事をアイリスが手伝い、領地の経理がおかしいと指摘した。
かなり、不審な点が見つかった。
執事は子爵よりアイリスを頼っている。
じわじわと領地の経営を立て直していた。

「うっうっ、うちの若様は人を見る目があるのに甲斐性がないばっかりに。アイリス様が奥様になってくださったら良いのに。むしろ若様はいらないので」

執事の本音を聞いて、子爵は落ち込む。使用人もみんなアイリス大好き。
「あのね、あんな賢くて気立てのいい子なら絶対良い男が認めてくれるから、この家から幸せな花嫁姿で旅立つのを願おうね」

執事の涙腺は壊れた。
よし、良いことを言ったぞと思ったが、
「若様が不憫で」
と更に泣かれた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

俺の妻になれと言われたので秒でお断りしてみた

ましろ
恋愛
「俺の妻になれ」 「嫌ですけど」 何かしら、今の台詞は。 思わず脊髄反射的にお断りしてしまいました。 ちなみに『俺』とは皇太子殿下で私は伯爵令嬢。立派に不敬罪なのかもしれません。 ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻R-15は保険です。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...