念のために身に付けておいて良かったです

仙桜可律

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宰相の次男は父親に頭を下げる

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宰相であるベック・ハービスの帰宅は遅い。
それにも関わらず玄関で執事と共に待っている次男を見て、何かあるなとは思った。
「お疲れさまでした。父上、少しよろしいですか」
「内容による」
「宰相である父上にお願いがあります。父上の権力を私的に利用しないところを尊敬しております。もし一度でも私的に使えば有象無象の媚を売る輩が寄ってくると。その姿勢を見習って私もひたすらに努力してきましたが、一度だけ父上にお願いしたいことが。公私混同を父上が嫌うというのもわかった上でお願いが」

着替えをする間も後ろについて回ってずっと話しかけてくる。
あれ、反抗期終わったのかこいつ。
食堂に着席しても、後ろで立っている。
「ボルク、落ち着かないからお前も座れ。茶でも頼むといい。それから手短に」
お茶が運ばれて来てからはボルクは黙っていた。
軽めの夜食と少しのワインを飲む。それが常だった。
「どうした?さっきまでの勢いは」

「私の同級生のアイリス・シーカー嬢のことなのですが」

緊張した様子でそう言ってまた黙るので、何事かと思った。
結婚?いやいや。そんな進展はないはず。しかし年頃の男女は急に思いを通わせることもある。まさか責任を取るような事態にはなってないと思いたいが、この緊張の度合いから反対されると決めつけているんだろう。
相手のお嬢さんがどうこう以前に、物事には順序というものがある。厳しい態度を崩すわけにはいかぬ。
「アイリス嬢はとても優秀で人として尊敬できる方です。父上も出会えば彼女の素晴らしさをわかってくださると思います」
「学園でも私と議論できる存在は彼女しかいないほどで、知識欲も素晴らしいのですが柔軟な発想が彼女独自の魅力なのです」

これは結婚相手として認めてくれ、ではなく就職の斡旋をしてくれ、という方向か。

くだらない。
「今のところ聞く価値が無さそうとしか思えないのだが」

わざと機嫌が悪そうに言うとボルクは青くなった。
あれ?こんなに表情が分りやすい子だったかな。子供の頃から冷笑しかしない可愛げのなさが可愛かったのに。
優等生の長男と違って面白かったのに。

「交渉の基本は教えたはずだが。まあいい。率直に言ってみろ」

ぐっと唇を噛んでから、頭を下げた
「父上、お願いです。
アイリス・シーカー嬢が王宮の採用試験を受けたかどうかだけでいいので教えてください」

「本人に聞けば教えてくれるのではないのか?それくらい」

「私も王宮で働くと彼女が知ってもし嫌な顔でもされたらと思うと聞けませんでした。彼女が来年でも数年後でも王宮で働きたいと言ったら力になりたいと思っています。平民出身にはまだ風当たりが強いでしょうから。」

進展どころか友人としても大丈夫か息子よ。

「公私混同を父上が嫌うのはわかります。ただ、受けたかどうかだけ教えてくださればあとは自分で動きます」

「王宮の採用試験に関してだけでいいんだな」

「はい」

また顔に出ている。

ふむ。

「アイリス・シーカーは試験を受けていない」

「ありがとうございます!」

「ボルク、お前は彼女がどうであれ文官になるのをやめるとか言い出さないだろうな。」

ふと嫌な予感がして念を押した。
「もちろんです。私は文官としてそれなりの地位に早く上らなければ」

軽い足取りで出ていった。


アイリス嬢が優秀だなんてわざわざ教えられなくても把握している。

王宮試験など受けていない。


私が既に直接採用したから。

息子には言わないでおこう。
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