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上を向いて咲く野の花は光を一身に受ける
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バザー会場には素朴な焼き菓子の香りが広がっていた。
芝生にパラソルやテントが立てられて子供たちの作った切り紙の飾りが揺れている。
受付係も子供たちがしているので、たどたどしく案内する様子も微笑ましい。
来場者も和やかで良い雰囲気だった。
アランとミランダも、開放的な光景に心が落ち着くのを感じた。
(あのままだったらミランダ嬢を抱き寄せてしまいそうだった)
アランは安堵した。
ミランダも。
(私のことをどう思っていらっしゃるのか、すがり付いて問いただしていたかもしれないわ。みっともない姿を見せなくて済んだ)
お互いに夜会では円満な婚約者を保つように、少しずつ演技をしていたのかもしれない。
今日のイベントは開放的で、ほっとした。
「ここでしょうか」
手作りの貼紙を見つけて辿っていくと、紙製品を売っている一画があった。
栞も並んでいる。
レターセットにも切り紙やスタンプが押してあって、少しの歪みや掠れも愛らしい。
ブックカバーの紐も子供たちが編んだらしい。
栞には詩や歌の一節が書かれていた。
『上を向いて咲く花は光を一身に受ける』
それを手にとってミランダはしばらく考えこんでいた。
「懐かしいですね。俺の婆ちゃんが言ってました」
アランも知っていた。
「私の親戚のおばさまも言っていました。幼い頃は、上を向いて努力しなさいという意味かと思っていましたが、もしかしたら違うのかも」
ミランダは、栞とレターセットを買った。
まだ考えているようだったので、ベンチに誘った。
飲み物を買って戻ると、ミランダは遠くを見るような顔をしている。
考えているときの彼女の顔や雰囲気が好きだった。壊してはいけないような気がする。
ミランダが気づいて、手を振った。
はっとして、彼女のほうへ駆け寄る。
「どうかしましたか」
「すまない、なんでもないんだ」
買ってきたレモネードを渡す。
「何か考えてた?」
アランに聞かれて、ミランダは少し困った。
「考えるというほどのことではないのですが、さっきの栞の……
光を一身に受けるというのは愛されるという解釈なのかと思いました。野の花は素朴ですが注目を集めません。それでも上を向いて咲いていれば、愛されることもあるという意味かなと」
「年配の女性はそう考えていたのかもしれない。ミランダ嬢はすごいな」
古い時代には父や夫に従順であることが美徳とされていた。今は違う。ミランダの家系
は女性も学問をするし、妹は王子妃となっても研究をやめるつもりがない。
「もし、私が明るく上を向いて咲く妻になれたらアラン様は……光をくださいますか?」
レモネードを両手できつく持って、うつむいたままミランダは言った。
返答は、ない。
ミランダが不安になった時、アランが息を吐いた。
「すみません、忘れてください」
「ミランダ嬢、顔を上げてください。俺、すごくみっともない顔をしていると思います。見られたくないけど、今は頭が使い物にならないので、見て察してください」
ミランダが恐る恐る顔を上げると、口元を覆ったアランは真っ赤だった。
光をうける=愛される
という詩の解釈を聞いたあとの、ミランダからの『愛してくれますか』という問いかけに、脳内が沸騰したような感覚だった。
(愛して、くれますか?そんなのとっくに、愛するってもっともしかしたらいやいや、ミランダ嬢はそういう意味ではないけど愛していいなら)
ものすごいところまで想像が入道雲のように膨れ上がって、理性で押さえ込んだ。
「カッコつけてましたが、ミランダ嬢のことが好きです。もっとゆっくりあなたの気持ちを尊重するべきなのに、そんなことを言われたら」
赤い顔で、口を覆ったまま余裕のない口調で。
ミランダは目が離せなかった。
「がっついてしまいます」
妹の言っていたことを思い出した。
-恋する男性って可愛かったり色っぽかったり、面白いのよ。新しい研究対象を見つけた気分よ
あの子は王子さまになんて不敬なことを、と呆れたけれど。
わかったわ。
だってアラン様、立派な騎士様なのに、可愛らしくて色っぽくて。
そんな顔を見られるのが私だけだと思うと、背中が甘い痺れを感じる。
「私もアラン様が好きです。」
アランは顔全部を腕で隠してしまった。
「どんな敵よりミランダ嬢は俺の心臓を狙ってしまいます。勘弁してください」
しばらくして、落ち着いてからまた二人は見て回ることにした。
アランが手を出して、そこにミランダが手をのせた。夜会の、エスコートやダンスの時にも触れているけれど、もっと温かい繋ぎかただった。
芝生にパラソルやテントが立てられて子供たちの作った切り紙の飾りが揺れている。
受付係も子供たちがしているので、たどたどしく案内する様子も微笑ましい。
来場者も和やかで良い雰囲気だった。
アランとミランダも、開放的な光景に心が落ち着くのを感じた。
(あのままだったらミランダ嬢を抱き寄せてしまいそうだった)
アランは安堵した。
ミランダも。
(私のことをどう思っていらっしゃるのか、すがり付いて問いただしていたかもしれないわ。みっともない姿を見せなくて済んだ)
お互いに夜会では円満な婚約者を保つように、少しずつ演技をしていたのかもしれない。
今日のイベントは開放的で、ほっとした。
「ここでしょうか」
手作りの貼紙を見つけて辿っていくと、紙製品を売っている一画があった。
栞も並んでいる。
レターセットにも切り紙やスタンプが押してあって、少しの歪みや掠れも愛らしい。
ブックカバーの紐も子供たちが編んだらしい。
栞には詩や歌の一節が書かれていた。
『上を向いて咲く花は光を一身に受ける』
それを手にとってミランダはしばらく考えこんでいた。
「懐かしいですね。俺の婆ちゃんが言ってました」
アランも知っていた。
「私の親戚のおばさまも言っていました。幼い頃は、上を向いて努力しなさいという意味かと思っていましたが、もしかしたら違うのかも」
ミランダは、栞とレターセットを買った。
まだ考えているようだったので、ベンチに誘った。
飲み物を買って戻ると、ミランダは遠くを見るような顔をしている。
考えているときの彼女の顔や雰囲気が好きだった。壊してはいけないような気がする。
ミランダが気づいて、手を振った。
はっとして、彼女のほうへ駆け寄る。
「どうかしましたか」
「すまない、なんでもないんだ」
買ってきたレモネードを渡す。
「何か考えてた?」
アランに聞かれて、ミランダは少し困った。
「考えるというほどのことではないのですが、さっきの栞の……
光を一身に受けるというのは愛されるという解釈なのかと思いました。野の花は素朴ですが注目を集めません。それでも上を向いて咲いていれば、愛されることもあるという意味かなと」
「年配の女性はそう考えていたのかもしれない。ミランダ嬢はすごいな」
古い時代には父や夫に従順であることが美徳とされていた。今は違う。ミランダの家系
は女性も学問をするし、妹は王子妃となっても研究をやめるつもりがない。
「もし、私が明るく上を向いて咲く妻になれたらアラン様は……光をくださいますか?」
レモネードを両手できつく持って、うつむいたままミランダは言った。
返答は、ない。
ミランダが不安になった時、アランが息を吐いた。
「すみません、忘れてください」
「ミランダ嬢、顔を上げてください。俺、すごくみっともない顔をしていると思います。見られたくないけど、今は頭が使い物にならないので、見て察してください」
ミランダが恐る恐る顔を上げると、口元を覆ったアランは真っ赤だった。
光をうける=愛される
という詩の解釈を聞いたあとの、ミランダからの『愛してくれますか』という問いかけに、脳内が沸騰したような感覚だった。
(愛して、くれますか?そんなのとっくに、愛するってもっともしかしたらいやいや、ミランダ嬢はそういう意味ではないけど愛していいなら)
ものすごいところまで想像が入道雲のように膨れ上がって、理性で押さえ込んだ。
「カッコつけてましたが、ミランダ嬢のことが好きです。もっとゆっくりあなたの気持ちを尊重するべきなのに、そんなことを言われたら」
赤い顔で、口を覆ったまま余裕のない口調で。
ミランダは目が離せなかった。
「がっついてしまいます」
妹の言っていたことを思い出した。
-恋する男性って可愛かったり色っぽかったり、面白いのよ。新しい研究対象を見つけた気分よ
あの子は王子さまになんて不敬なことを、と呆れたけれど。
わかったわ。
だってアラン様、立派な騎士様なのに、可愛らしくて色っぽくて。
そんな顔を見られるのが私だけだと思うと、背中が甘い痺れを感じる。
「私もアラン様が好きです。」
アランは顔全部を腕で隠してしまった。
「どんな敵よりミランダ嬢は俺の心臓を狙ってしまいます。勘弁してください」
しばらくして、落ち着いてからまた二人は見て回ることにした。
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