7 / 12
上を向いて咲く野の花は光を一身に受ける
しおりを挟む
バザー会場には素朴な焼き菓子の香りが広がっていた。
芝生にパラソルやテントが立てられて子供たちの作った切り紙の飾りが揺れている。
受付係も子供たちがしているので、たどたどしく案内する様子も微笑ましい。
来場者も和やかで良い雰囲気だった。
アランとミランダも、開放的な光景に心が落ち着くのを感じた。
(あのままだったらミランダ嬢を抱き寄せてしまいそうだった)
アランは安堵した。
ミランダも。
(私のことをどう思っていらっしゃるのか、すがり付いて問いただしていたかもしれないわ。みっともない姿を見せなくて済んだ)
お互いに夜会では円満な婚約者を保つように、少しずつ演技をしていたのかもしれない。
今日のイベントは開放的で、ほっとした。
「ここでしょうか」
手作りの貼紙を見つけて辿っていくと、紙製品を売っている一画があった。
栞も並んでいる。
レターセットにも切り紙やスタンプが押してあって、少しの歪みや掠れも愛らしい。
ブックカバーの紐も子供たちが編んだらしい。
栞には詩や歌の一節が書かれていた。
『上を向いて咲く花は光を一身に受ける』
それを手にとってミランダはしばらく考えこんでいた。
「懐かしいですね。俺の婆ちゃんが言ってました」
アランも知っていた。
「私の親戚のおばさまも言っていました。幼い頃は、上を向いて努力しなさいという意味かと思っていましたが、もしかしたら違うのかも」
ミランダは、栞とレターセットを買った。
まだ考えているようだったので、ベンチに誘った。
飲み物を買って戻ると、ミランダは遠くを見るような顔をしている。
考えているときの彼女の顔や雰囲気が好きだった。壊してはいけないような気がする。
ミランダが気づいて、手を振った。
はっとして、彼女のほうへ駆け寄る。
「どうかしましたか」
「すまない、なんでもないんだ」
買ってきたレモネードを渡す。
「何か考えてた?」
アランに聞かれて、ミランダは少し困った。
「考えるというほどのことではないのですが、さっきの栞の……
光を一身に受けるというのは愛されるという解釈なのかと思いました。野の花は素朴ですが注目を集めません。それでも上を向いて咲いていれば、愛されることもあるという意味かなと」
「年配の女性はそう考えていたのかもしれない。ミランダ嬢はすごいな」
古い時代には父や夫に従順であることが美徳とされていた。今は違う。ミランダの家系
は女性も学問をするし、妹は王子妃となっても研究をやめるつもりがない。
「もし、私が明るく上を向いて咲く妻になれたらアラン様は……光をくださいますか?」
レモネードを両手できつく持って、うつむいたままミランダは言った。
返答は、ない。
ミランダが不安になった時、アランが息を吐いた。
「すみません、忘れてください」
「ミランダ嬢、顔を上げてください。俺、すごくみっともない顔をしていると思います。見られたくないけど、今は頭が使い物にならないので、見て察してください」
ミランダが恐る恐る顔を上げると、口元を覆ったアランは真っ赤だった。
光をうける=愛される
という詩の解釈を聞いたあとの、ミランダからの『愛してくれますか』という問いかけに、脳内が沸騰したような感覚だった。
(愛して、くれますか?そんなのとっくに、愛するってもっともしかしたらいやいや、ミランダ嬢はそういう意味ではないけど愛していいなら)
ものすごいところまで想像が入道雲のように膨れ上がって、理性で押さえ込んだ。
「カッコつけてましたが、ミランダ嬢のことが好きです。もっとゆっくりあなたの気持ちを尊重するべきなのに、そんなことを言われたら」
赤い顔で、口を覆ったまま余裕のない口調で。
ミランダは目が離せなかった。
「がっついてしまいます」
妹の言っていたことを思い出した。
-恋する男性って可愛かったり色っぽかったり、面白いのよ。新しい研究対象を見つけた気分よ
あの子は王子さまになんて不敬なことを、と呆れたけれど。
わかったわ。
だってアラン様、立派な騎士様なのに、可愛らしくて色っぽくて。
そんな顔を見られるのが私だけだと思うと、背中が甘い痺れを感じる。
「私もアラン様が好きです。」
アランは顔全部を腕で隠してしまった。
「どんな敵よりミランダ嬢は俺の心臓を狙ってしまいます。勘弁してください」
しばらくして、落ち着いてからまた二人は見て回ることにした。
アランが手を出して、そこにミランダが手をのせた。夜会の、エスコートやダンスの時にも触れているけれど、もっと温かい繋ぎかただった。
芝生にパラソルやテントが立てられて子供たちの作った切り紙の飾りが揺れている。
受付係も子供たちがしているので、たどたどしく案内する様子も微笑ましい。
来場者も和やかで良い雰囲気だった。
アランとミランダも、開放的な光景に心が落ち着くのを感じた。
(あのままだったらミランダ嬢を抱き寄せてしまいそうだった)
アランは安堵した。
ミランダも。
(私のことをどう思っていらっしゃるのか、すがり付いて問いただしていたかもしれないわ。みっともない姿を見せなくて済んだ)
お互いに夜会では円満な婚約者を保つように、少しずつ演技をしていたのかもしれない。
今日のイベントは開放的で、ほっとした。
「ここでしょうか」
手作りの貼紙を見つけて辿っていくと、紙製品を売っている一画があった。
栞も並んでいる。
レターセットにも切り紙やスタンプが押してあって、少しの歪みや掠れも愛らしい。
ブックカバーの紐も子供たちが編んだらしい。
栞には詩や歌の一節が書かれていた。
『上を向いて咲く花は光を一身に受ける』
それを手にとってミランダはしばらく考えこんでいた。
「懐かしいですね。俺の婆ちゃんが言ってました」
アランも知っていた。
「私の親戚のおばさまも言っていました。幼い頃は、上を向いて努力しなさいという意味かと思っていましたが、もしかしたら違うのかも」
ミランダは、栞とレターセットを買った。
まだ考えているようだったので、ベンチに誘った。
飲み物を買って戻ると、ミランダは遠くを見るような顔をしている。
考えているときの彼女の顔や雰囲気が好きだった。壊してはいけないような気がする。
ミランダが気づいて、手を振った。
はっとして、彼女のほうへ駆け寄る。
「どうかしましたか」
「すまない、なんでもないんだ」
買ってきたレモネードを渡す。
「何か考えてた?」
アランに聞かれて、ミランダは少し困った。
「考えるというほどのことではないのですが、さっきの栞の……
光を一身に受けるというのは愛されるという解釈なのかと思いました。野の花は素朴ですが注目を集めません。それでも上を向いて咲いていれば、愛されることもあるという意味かなと」
「年配の女性はそう考えていたのかもしれない。ミランダ嬢はすごいな」
古い時代には父や夫に従順であることが美徳とされていた。今は違う。ミランダの家系
は女性も学問をするし、妹は王子妃となっても研究をやめるつもりがない。
「もし、私が明るく上を向いて咲く妻になれたらアラン様は……光をくださいますか?」
レモネードを両手できつく持って、うつむいたままミランダは言った。
返答は、ない。
ミランダが不安になった時、アランが息を吐いた。
「すみません、忘れてください」
「ミランダ嬢、顔を上げてください。俺、すごくみっともない顔をしていると思います。見られたくないけど、今は頭が使い物にならないので、見て察してください」
ミランダが恐る恐る顔を上げると、口元を覆ったアランは真っ赤だった。
光をうける=愛される
という詩の解釈を聞いたあとの、ミランダからの『愛してくれますか』という問いかけに、脳内が沸騰したような感覚だった。
(愛して、くれますか?そんなのとっくに、愛するってもっともしかしたらいやいや、ミランダ嬢はそういう意味ではないけど愛していいなら)
ものすごいところまで想像が入道雲のように膨れ上がって、理性で押さえ込んだ。
「カッコつけてましたが、ミランダ嬢のことが好きです。もっとゆっくりあなたの気持ちを尊重するべきなのに、そんなことを言われたら」
赤い顔で、口を覆ったまま余裕のない口調で。
ミランダは目が離せなかった。
「がっついてしまいます」
妹の言っていたことを思い出した。
-恋する男性って可愛かったり色っぽかったり、面白いのよ。新しい研究対象を見つけた気分よ
あの子は王子さまになんて不敬なことを、と呆れたけれど。
わかったわ。
だってアラン様、立派な騎士様なのに、可愛らしくて色っぽくて。
そんな顔を見られるのが私だけだと思うと、背中が甘い痺れを感じる。
「私もアラン様が好きです。」
アランは顔全部を腕で隠してしまった。
「どんな敵よりミランダ嬢は俺の心臓を狙ってしまいます。勘弁してください」
しばらくして、落ち着いてからまた二人は見て回ることにした。
アランが手を出して、そこにミランダが手をのせた。夜会の、エスコートやダンスの時にも触れているけれど、もっと温かい繋ぎかただった。
206
あなたにおすすめの小説
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
【完結】何回も告白されて断っていますが、(周りが応援?) 私婚約者がいますの。
BBやっこ
恋愛
ある日、学園のカフェでのんびりお茶と本を読みながら過ごしていると。
男性が近づいてきました。突然、私にプロポーズしてくる知らない男。
いえ、知った顔ではありました。学園の制服を着ています。
私はドレスですが、同級生の平民でした。
困ります。
あなたに嘘を一つ、つきました
小蝶
恋愛
ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…
最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ
夫が大変和やかに俺の事嫌い?と聞いてきた件について〜成金一族の娘が公爵家に嫁いで愛される話
はくまいキャベツ
恋愛
父親の事業が成功し、一気に貴族の仲間入りとなったローズマリー。
父親は地位を更に確固たるものにするため、長女のローズマリーを歴史ある貴族と政略結婚させようとしていた。
成金一族と揶揄されながらも社交界に出向き、公爵家の次男、マイケルと出会ったが、本物の貴族の血というものを見せつけられ、ローズマリーは怯んでしまう。
しかも相手も値踏みする様な目で見てきて苦手意識を持ったが、ローズマリーの思いも虚しくその家に嫁ぐ事となった。
それでも妻としての役目は果たそうと無難な日々を過ごしていたある日、「君、もしかして俺の事嫌い?」と、まるで食べ物の好き嫌いを聞く様に夫に尋ねられた。
(……なぜ、分かったの)
格差婚に悩む、素直になれない妻と、何を考えているのか掴みにくい不思議な夫が育む恋愛ストーリー。
私に婚約者がいたらしい
来栖りんご
恋愛
学園に通っている公爵家令嬢のアリスは親友であるソフィアと話をしていた。ソフィアが言うには私に婚約者がいると言う。しかし私には婚約者がいる覚えがないのだが…。遂に婚約者と屋敷での生活が始まったが私に回復魔法が使えることが発覚し、トラブルに巻き込まれていく。
婚約破棄ですか、すでに解消されたはずですが
ふじよし
恋愛
パトリツィアはティリシス王国ラインマイヤー公爵の令嬢だ。
隣国ルセアノ皇国との国交回復を祝う夜会の直前、パトリツィアは第一王子ヘルムート・ビシュケンスに婚約破棄を宣言される。そのかたわらに立つ見知らぬ少女を自らの結婚相手に選んだらしい。
けれど、破棄もなにもパトリツィアとヘルムートの婚約はすでに解消されていた。
※現在、小説家になろうにも掲載中です
私が彼から離れた七つの理由・完結
まほりろ
恋愛
私とコニーの両親は仲良しで、コニーとは赤ちゃんの時から縁。
初めて読んだ絵本も、初めて乗った馬も、初めてお絵描きを習った先生も、初めてピアノを習った先生も、一緒。
コニーは一番のお友達で、大人になっても一緒だと思っていた。
だけど学園に入学してからコニーの様子がおかしくて……。
※初恋、失恋、ライバル、片思い、切ない、自分磨きの旅、地味→美少女、上位互換ゲット、ざまぁ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうで2022年11月19日昼日間ランキング総合7位まで上がった作品です!
【完結】美しい家庭教師を女主人にはしません、私は短剣をその女に向けたわ。
BBやっこ
恋愛
私は結婚している。子供は息子と娘がいる。
夫は、軍の上層部で高級取りだ。こう羅列すると幸せの自慢のようだ。実際、恋愛結婚で情熱的に始まった結婚生活。幸せだった。もう過去形。
家では、子供たちが家庭教師から勉強を習っている。夫はその若い美しい家庭教師に心を奪われている。
私は、もうここでは無価値になっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる