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ひとつ丙のひとばしら

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いつ終わるともわからぬ長雨が集落の様子をすっかり変えてしまった。
山からの泥で沢の水は濁り、街への橋が流された。村人の表情も暗く大人たちは寄合いを重ねた。
子供たちの声は消え、誰もが家の中で息を潜めていた。備蓄の食料も少なくなる。
ほんの少しの小雨の間に畑に行きぬかるみの中から育っていない芋を掘ったり、草の根を掴んでいた。誰もが奪い合うのも遠くない未来だと思っていた。

村外れの家に一人の娘がいた。
両親を失くしひとりで細々と暮らしていた。
村がこうなる前は皆が余った野菜をやったり付き合いもあった。
娘は壁の穴を見ていた。

土は食べられない。
祖父が昔の飢饉の時に壁の中の藁を食べて生き延びた人がいると聞かせてくれた。

この家の壁は板だから、食べられる部分も少ないだろう。
雨水を飲んで、あとはなるべく動かないでいようと目を閉じた。

揺さぶられて起きると、村の中でも代々の重鎮が三人も来ていた。

「隣の谷では氾濫が起きたそうだ。ここも危ない。

そこで、神に贄を捧げることにした。お前だ」

震えが止まらず、両腕を引き寄せた。

「すまないな。村のためだと思って」

首を横にふる。
ここで待っていても数日後に消える命かもしれない

「私で役にたてるかどうかわかりませんが」

三人が安堵したように息を吐いた。
贄として効果がどうであっても、一人でも食い扶持が減るのだ。

山の上の流れの源へ行くらしい。
この雨では途中で足を滑らせでもしたら危ない。

場所は神域だから、注連縄があるという。 

目印になる岩を教えてもらい、途中から一人で登った。

雨が体温を奪っていく。夜が明けてもいい頃なのに雲が分厚い。

教えてもらった岩を越えて、注連縄がみえた。
そう大きくはないが泉があり深そうだ。
ほっとして足元を見れば、泥で分かりにくいが木の根がごろごろとしている。
ぐらりと体が傾き、泉に落ちる……!
というところで意識が途切れた


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