【完結】ちょっと読みたい本があるので後宮に行ってきます

仙桜可律

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雲の上の本

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昔、お母様は皇帝に仕えていた。
寝る前に何度も皇宮の話をねだっていた。
儀式のときの音楽や
舞の振り付けの決まり
お菓子や料理の専門の女官がいること
お妃さまたちの衣装比べ
若い貴族たちの恋の詩

キラキラした物語は四季それぞれに色を帯びて、私の中に一冊の書物のように重ねられていった。

皇宮には本がたくさんあるのだと記憶に刻まれた。

父は学者で、皇宮に招かれることもあった。
一緒についていって書庫へ行った。
おじいちゃんの門番と文官がいて、にこにこと入れてくれた。
「子供の喜ぶ本はないだろうけどなあ。ここにあるのは写本だから、触っても大丈夫だ。破るのはいかんぞ。読みたいものがあればもってこい。」

「いいの。表紙がキラキラして綺麗だから、見てるだけで楽しい」

そういった何回目かのときに、綺麗な青年と出会った。

書庫のうらに隠れていた。
怪しいので、門番に告げると慣れている。よくここに来る人らしい。

「貴方とても綺麗ね。神仙の類なの?」

書庫の窓枠に座って足をブラブラさせながら覗き込むと、壁にもたれたまま視線を上に上げた。

「お前の方が紅花姑娘みたいだが」

その日は赤い服に赤い花の髪飾りをつけていた。

女神の使いの少女仙女だなんて、嬉しい!と喜んだら

「人間の娘は下穿き丸見えでそんな格好しないからな」

と、ニヤリと笑われた。

顔は綺麗なのに意地悪な人だ。

それが美男で有名になる皇弟殿下、通称「蒼の宮」との出会いだった。

その頃も美少年で有名だったのだろうけど、そのまま独身で数々の浮き名を流す人になるとは思っていなかった。

「いい年齢なんだから落ち着くかと思えば、色気がすごいことになってると聞いて。
色気妖怪って呼ばれてるそうですね」

二十八歳、寝起き。
「思ってないだろ」

「ええ。噂ってあてにならないんだなって」


「俺も、あのお転婆がまさかここに来るとは思ってなかった」

お互いに、書庫で再会したときに

なんで?

と口をパクパクさせていた。

「ちょっと読みたい本があったので、後宮に来ました」

えへへ、と笑った。
「ば、馬鹿かお前」

「王太子に会うだけでもなかなか難しいのに、お前が目に留まるわけないだろう!何百人いると思ってるんだ」

「お前みたいなお転婆は、まっとうか鈍感か、どっちかの旦那捕まえて平凡に生きろ」


頭ごなしに言われました。

相変わらず顔は綺麗なのにうるさいおじさんになったなあ。もったいない


「おい声に出てんぞ」

「すいません」
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