ものすごく不本意そうな顔をしながら兄弟子が溺愛してくる話

仙桜可律

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カインと師匠

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カインは王都の学園で魔術を学んだ。たまたま一時期、教鞭を取っていたワイアットに在学中から助手のような仕事をさせられていた。

わりと生徒から距離を置くタイプのワイアットが、なぜわざわざ自分に声をかけたのかわからない。魔力が特別多いわけではない。直接尋ねたこともある。

「ふむ。なんだろうな。なんとなく、調度良いと思ったんだ。」

「なんですか、それ」

「真面目だが人に厳しくない。そこそこ面倒見もいいしかといってお人好しでもない。人に話しかけるタイミングを見ることができるし、常識もある。奢るわけでもないし卑下するわけでもない。私の学生時代に君が傍にいてくれたら良かったと思う。
私の周りの人間は騒々しい奴が多かったから。振り回されていた。」

「それは……大変でしたね」

師匠から才能を見込まれて弟子になれと言われたほうが自慢できるかもしれない。実際に天才魔術師のワイアットにすり寄っていく生徒は少なくなかったから。

調度良い、なんて地味な理由だから少しがっかりしてしまった。
しかし卒業後も住み込みで家の仕事をしてくれないかと誘われて気がつけば数年。
調度良い、というのが師匠にとって褒め言葉だとわかってじわじわと嬉しくなってきた。
ワイアットの人間嫌いは徹底していて、欲をもって近づく人間には不機嫌を隠さない。それだけならまだいいが、魔力が漏れるので耐性の無い者は体調が悪くなる。

使用人も長く続かない。

主であるワイアットに気に入られたい、誉められたいという感情も欲の一種だから。
淡々と仕事をこなすカインはワイアットにとって貴重といえた。

魔力があって顔もそこそこ良い師匠は30歳を越えても若い令嬢から手紙をもらったりする。
人に懐かない猫のように、一部の女性の心をくすぐるらしい。

若い令嬢の率直な誘いや媚びを浴びると、師匠は体が強張るくらい頭痛と吐き気がするらしい。

それでますます女嫌いと有名になった。

ミラなら。
素朴で欲とは無縁な印象なので、もしかしたら師匠も嫌悪感を持たないかもしれない。

それはそれで、少しイラッとした。
ワイアットがいい人だと思って感謝しているミラに、わざわざ教えないが子供っぽくすべての面倒ごとをカインに押し付けて。
それでいてミラに好かれるなんて虫が良すぎないか。
絶対に阻止しようと思った。とりあえず恩人枠は師匠より先に俺が勝ち取ることにする。

本当は単純にあのぽやぽやした危なっかしい娘を初めに甘やかすのは自分が良い。都には誘惑が多いから、教えないと。

カインは王都のお菓子屋やカフェ、雑貨店のデータを見直してルートをいくつか考えた。

侍女は
(それデートですよ、カインさん。浮かれてますよね貴方完全に)

と思ったけれど言わずにそっと茶を運んだ。
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