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第12話 メアリーの本心

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 それから私たちは中庭の隅に設置されたガゼボまで移動をし、ロラン様が腰掛けたことを確認してから、私とメアリーは向かいの席にそれぞれゆっくりと腰掛けた。
 メアリーの表情は暗く俯いている。

「先日あなたがたの屋敷に訪問した際に、男爵夫妻に協力をいただくよう要請した。……と言うのも、メアリー嬢が『魅惑の香水』の所持、及び作製の疑惑があったからだ。だが確実な証拠も無いのにこちらから捜索はできないので、あくまでも保護者であるアンリ男爵のご判断に委ねる形になったが」
「魅惑の香水……ですか?」
「ああ。それは特にあなたと私に効くように調合されていた。あなたがロバーツ卿に想いを寄せていると、錯覚させるように」

 私がロバーツ卿に、想いを寄せているように……。
 確かにメアリーは、最近趣味で調香を行っているようだけれど、それはそこまで大それたものでは無かったはず。
 そもそも魅惑の香水とは、どういう物なのかしら。

「私はそんなことはしていません!」
「魅惑の香水自体に今のところ違法性は無いが、近頃それを利用して他人の記憶を操作しようとする輩が多数出没しているらしい。どうも一般的に入手できる材料で調香が可能らしいな。君はそのレシピノートを買ったのだろう」

 メアリーは虚を突かれるというような表情をし項垂れたけれど、寸秒後に勢いよく顔を上げて私を強く睨んだ。
 
「……なんでいつもお姉様ばかり! 第一私の方が美しいし、教養もあるしロラン様に相応しいわ!」

 思ってもみない言葉に息を呑んだ。

 メアリーの主張は純粋に彼女自身を過大評価していると思ったし、何よりもこの場でこのようなことを言葉にするのは場違いで聞くに耐えなかった。
 だから普段だったら自分の立場を弁えて控えるのだけれど、一言言わないと気が済まないという気持ちが怒涛の如く込み上げてくる。

「あなたのその主張は、言いがかりも良いところだわ。第一、自分勝手にロラン様を巻き込んでおいて、ロラン様に謝罪の一つもないの? ……頭を冷やして、自分自身の犯した過ちと向き合うといいわ。反省なさい」

 メアリーは身体を縮こませて、それ以上は何も言わなかった。

「……香水を使用すること自体は違法では無いので実刑は免れるだろうが、それでも謹慎処分は覚悟をしておいた方がいい」

 ロラン様が向けた視線の先の出入り口付近には、襟の詰めた制服に身を包んだ二人の男性が立っていた。
 ロラン様が小さく頷くとすぐさま動き、メアリーを二人がかりで取り囲むと両腕を抱え込んで連行してしまった。

 あまりの出来事に、口元を両手で押さえて見守ることしかできなかったわ……。
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