26 / 284
第2章 悪役令嬢は巻き込まれたくない
1
しおりを挟む
「どうします?この娘。いっそバラしますか。」
「いや、良く見りゃこいつは相当な器量良しだぜ。裏でさばけば結構な値段で売れそうだ。」
「ガキじゃねーすか。」
「こういうツルペタのガキがお好みの方もいらっしゃるんだよ、世の中には。」
「ほーっ、酔狂なこって。」
(やーめーてーよっ!バラされんのも絶対嫌だけど、ガキがお好みの方って・・・絶対ロリコンじゃん!?)
例の公爵を思い出して身震いするわっ。
(しかも、こいつら何気に私の事ディスってる!悪かったわねっ、ツルペタで!)
直接言ってやりたいが、無理だった。何故なら私は後ろ手に縛られ、さるぐつわを嚙まされて床に転がされているからだ。
目をつぶっているので、奴らは気絶していると思っているだろう。ちくしょう!全部聞こえてるんだからね!
「おい、こいつを隣の部屋に放り込んどけ!縄は解いても良いが、鍵はしっかり閉めとけよっ。」
「へい。」
まるで荷物のように持ち上げられ、私はどうやら隣の部屋とやらに放り込まれた。
(痛った!もうちょっと優しく運びなさいよ!優しく!)
そう思ったけど、気絶のフリがばれると面倒なので、声には出せない。
手下らしき男は、私の手を縛っている縄をナイフで切ると、部屋を出ていった。そして、
ガチャリ
鍵をかけたのだろう、鈍い音が聞こえた。
(全くもう!猿ぐつわも解いていきなさいよっ!)
私はゆっくり目を開け、辺りの様子を確かめる。殺風景な石造りの部屋には何も無い。天井近くに小さな明かり取りの窓があるだけで、そこから月の光がぼんやりと差し込んでいた。
自力で猿ぐつわを解き、私は身体を起こした。
「痛っ。」
さっき床でぶつけた肩や腰に痛みが走る。
「ほんとレディーに対して、扱いがなってないのよ・・・。」
小さい声で毒づいてみる。
ああ、でもこれからどうしたら良いんだろう?
私はヒロインじゃない。私を助けるイベントは用意されていないのだ。
(どうして。こんな事になってしまったんだろう?どこで選択肢を間違えた?)
私は窓からの細い月明りを眺めながら、長い長い溜息をついた。
-20日前-
「アリアナ様、凄いですわ。学年一番だなんて。しかも全科目満点なんて、学園でも初めての事らしいですよ。」
「ありがとう、ミリー。でも運が良かっただけですよ。」
謙遜しつつも、小鼻が膨らみそうになるのを必死でこらえる。
(目立たないようにとは思ってたけど、やっぱりトップは気持ちいいわ。)
最初、成績順位を見た時はちょっと焦ったが、やっぱりこの私がテストで手を抜くなんて、ありえない。
(頭脳こそ、わがアイデンティティよ。)
ちなみに2位はディーン、3位がリリーで4位がミリア、5位がクリフである。
そしてジョージアは12位と良い所につけているが、レティシアは本人が心配していたように、78位とあまり良くなかった。
テストの結果が貼りだされて以来、私は湖に落ちた生徒というよりも、学年1位の生徒として、周りから認識されるようになったようだ。
しかも、名門コールリッジ公爵家の令嬢という事も周知されたようで、最近は違うクラスの生徒からも丁寧に挨拶されるようになった。
「アリアナ様はさすがよね~。でも、ミリーもリリーも凄かったじゃない!3位と4位なんだもん。学年で5番以内が3人もいるなんて、このグループ凄くない?!。」
ジョーは5個目のフルーツケーキを口に放り込んだ。
「う~ん、このケーキ、凄く美味しいですわ。アリアナ様。」
「ああ、それは、グローシアのお父様から頂いたものですわ。」
「あ~、あの方のですか・・・。」
ジョージアの複雑そうな顔に私は苦笑いするしかない。ミリアは眉間にしわを寄せ、レティシアとリリーも困ったように顔を見合わせた。
グローシア・ボルネス侯爵令嬢。
湖で私にオールを投げつけた女生徒のことだ。
彼女の生家のボルネス家は、実はかなり由緒正しい侯爵家である。
しかし、さすがに国一番の有力者であるコールリッジ公爵家の令嬢を湖に落とした上、風邪をひかせたとあっては只ではすまなかった。
(何せ、皇帝ですらコールリッジ家には強く言えない程だもんねぇ。)
学校から知らせを受けたボルネス侯爵は、自ら夫人も引き連れて、大量のお詫びの品を持ってアリアナの実家まで謝罪に来たそうなのだが・・・。
(ほんと、マジで焦ったわ・・・。)
なぜなら、「お父様は烈火の如くお怒りで、ボスネス侯爵と会おうともしなかったのよ」と、母が送ってくれた手紙に書いてあったからだ。
両親に溺愛されてるアリアナだ。下手すりゃ相手の首が飛びかねない。
私は急いで父に手紙を書いた。
相手に悪気はなかったと(いやあったけどね)湖に落ちたのは自分の過失であると(いや、相手のせいだけどね)。
私の寛大な処置は相手側からいたく感謝された。
侯爵と夫人は娘を連れて寮までやってきて、3人で地面に頭をこすりつけんばかりだったところを急いで止めたくらいだ。
そして今度はお礼の品だと言って、お菓子やら、お茶、異国の珍しい反物、壺やらを大量に置いていった。
寮のリビングはその品でいっぱいで、正直置く所が無くて私も兄も閉口しているのだ。
おかげでしばらく、おやつには困らなさそうだが・・・。
「あの方、まだアリアナ様に付きまとってますの?」
ミリアが真剣に嫌そうな顔をするので、私は自分が悪いわけでは無いのに、何となく後ろめたい気分になってしまう。
「付きまとうっていうか・・・、本人は陰で見守っているつもりのようです・・・。」
「アリアナ様には私達が居るんですもの!あの方の守りなんていりませんわっ!」
ミリアはムスッとした顔でお茶を飲んだ。グローシアからのお菓子には見向きもしない。
(ああ、なんか色々こじれてるなぁ・・・。)
私はそっとため息をついた。
「いや、良く見りゃこいつは相当な器量良しだぜ。裏でさばけば結構な値段で売れそうだ。」
「ガキじゃねーすか。」
「こういうツルペタのガキがお好みの方もいらっしゃるんだよ、世の中には。」
「ほーっ、酔狂なこって。」
(やーめーてーよっ!バラされんのも絶対嫌だけど、ガキがお好みの方って・・・絶対ロリコンじゃん!?)
例の公爵を思い出して身震いするわっ。
(しかも、こいつら何気に私の事ディスってる!悪かったわねっ、ツルペタで!)
直接言ってやりたいが、無理だった。何故なら私は後ろ手に縛られ、さるぐつわを嚙まされて床に転がされているからだ。
目をつぶっているので、奴らは気絶していると思っているだろう。ちくしょう!全部聞こえてるんだからね!
「おい、こいつを隣の部屋に放り込んどけ!縄は解いても良いが、鍵はしっかり閉めとけよっ。」
「へい。」
まるで荷物のように持ち上げられ、私はどうやら隣の部屋とやらに放り込まれた。
(痛った!もうちょっと優しく運びなさいよ!優しく!)
そう思ったけど、気絶のフリがばれると面倒なので、声には出せない。
手下らしき男は、私の手を縛っている縄をナイフで切ると、部屋を出ていった。そして、
ガチャリ
鍵をかけたのだろう、鈍い音が聞こえた。
(全くもう!猿ぐつわも解いていきなさいよっ!)
私はゆっくり目を開け、辺りの様子を確かめる。殺風景な石造りの部屋には何も無い。天井近くに小さな明かり取りの窓があるだけで、そこから月の光がぼんやりと差し込んでいた。
自力で猿ぐつわを解き、私は身体を起こした。
「痛っ。」
さっき床でぶつけた肩や腰に痛みが走る。
「ほんとレディーに対して、扱いがなってないのよ・・・。」
小さい声で毒づいてみる。
ああ、でもこれからどうしたら良いんだろう?
私はヒロインじゃない。私を助けるイベントは用意されていないのだ。
(どうして。こんな事になってしまったんだろう?どこで選択肢を間違えた?)
私は窓からの細い月明りを眺めながら、長い長い溜息をついた。
-20日前-
「アリアナ様、凄いですわ。学年一番だなんて。しかも全科目満点なんて、学園でも初めての事らしいですよ。」
「ありがとう、ミリー。でも運が良かっただけですよ。」
謙遜しつつも、小鼻が膨らみそうになるのを必死でこらえる。
(目立たないようにとは思ってたけど、やっぱりトップは気持ちいいわ。)
最初、成績順位を見た時はちょっと焦ったが、やっぱりこの私がテストで手を抜くなんて、ありえない。
(頭脳こそ、わがアイデンティティよ。)
ちなみに2位はディーン、3位がリリーで4位がミリア、5位がクリフである。
そしてジョージアは12位と良い所につけているが、レティシアは本人が心配していたように、78位とあまり良くなかった。
テストの結果が貼りだされて以来、私は湖に落ちた生徒というよりも、学年1位の生徒として、周りから認識されるようになったようだ。
しかも、名門コールリッジ公爵家の令嬢という事も周知されたようで、最近は違うクラスの生徒からも丁寧に挨拶されるようになった。
「アリアナ様はさすがよね~。でも、ミリーもリリーも凄かったじゃない!3位と4位なんだもん。学年で5番以内が3人もいるなんて、このグループ凄くない?!。」
ジョーは5個目のフルーツケーキを口に放り込んだ。
「う~ん、このケーキ、凄く美味しいですわ。アリアナ様。」
「ああ、それは、グローシアのお父様から頂いたものですわ。」
「あ~、あの方のですか・・・。」
ジョージアの複雑そうな顔に私は苦笑いするしかない。ミリアは眉間にしわを寄せ、レティシアとリリーも困ったように顔を見合わせた。
グローシア・ボルネス侯爵令嬢。
湖で私にオールを投げつけた女生徒のことだ。
彼女の生家のボルネス家は、実はかなり由緒正しい侯爵家である。
しかし、さすがに国一番の有力者であるコールリッジ公爵家の令嬢を湖に落とした上、風邪をひかせたとあっては只ではすまなかった。
(何せ、皇帝ですらコールリッジ家には強く言えない程だもんねぇ。)
学校から知らせを受けたボルネス侯爵は、自ら夫人も引き連れて、大量のお詫びの品を持ってアリアナの実家まで謝罪に来たそうなのだが・・・。
(ほんと、マジで焦ったわ・・・。)
なぜなら、「お父様は烈火の如くお怒りで、ボスネス侯爵と会おうともしなかったのよ」と、母が送ってくれた手紙に書いてあったからだ。
両親に溺愛されてるアリアナだ。下手すりゃ相手の首が飛びかねない。
私は急いで父に手紙を書いた。
相手に悪気はなかったと(いやあったけどね)湖に落ちたのは自分の過失であると(いや、相手のせいだけどね)。
私の寛大な処置は相手側からいたく感謝された。
侯爵と夫人は娘を連れて寮までやってきて、3人で地面に頭をこすりつけんばかりだったところを急いで止めたくらいだ。
そして今度はお礼の品だと言って、お菓子やら、お茶、異国の珍しい反物、壺やらを大量に置いていった。
寮のリビングはその品でいっぱいで、正直置く所が無くて私も兄も閉口しているのだ。
おかげでしばらく、おやつには困らなさそうだが・・・。
「あの方、まだアリアナ様に付きまとってますの?」
ミリアが真剣に嫌そうな顔をするので、私は自分が悪いわけでは無いのに、何となく後ろめたい気分になってしまう。
「付きまとうっていうか・・・、本人は陰で見守っているつもりのようです・・・。」
「アリアナ様には私達が居るんですもの!あの方の守りなんていりませんわっ!」
ミリアはムスッとした顔でお茶を飲んだ。グローシアからのお菓子には見向きもしない。
(ああ、なんか色々こじれてるなぁ・・・。)
私はそっとため息をついた。
27
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる