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閑話1 ミリアの野望
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そして1週間も経つと、クラスの皆のアリアナ様を見る目はすっかり変わっていた。もちろん、良い方にだったことは言うまでもない。
そんな中、学校行事のピクニックのグループ分けが行われることになった。
放課後、生徒同士でグループ分けをしている中、さすがのアリアナ様もご自分がどのグループに入ったものかと戸惑っているようだった。
私はここだと思った。
(チャンスだわ!)
周りを見ると、アリアナ様に声をかけようかと迷っている方々が沢山見受けられた。私は先を越されないように急いだ。
「あ、あの・・・アリアナ様?」
私にしては珍しく声が震えた。緊張しているのだ、この私が。
「はい!?」
驚いたように振り向いた彼女は、不思議そうに私を見上げた。きれいな大きな瞳が、初めて私を見ている。そう思うと、喉から声を出すのも、難しい。
「あ・・・あの宜しければ、アリアナ様、私達と一緒のグループになりませんか?」
最初はびっくりしたような表情を浮かべ、私は一瞬断られるのでは無いかと不安になった。でもその後、アリアナ様はぱぁっと花が開くように明るい顔になり、笑みを浮かべた。あまりの可愛らしさに、こちらを伺っていた他の生徒達からも、声が漏れるのが聞こえた程だ。
「ありがとうございます。まだクラスに馴染めてなくて・・・どの組に入れて貰おうかと悩んでいたのです。」
想像していたよりもずっと気さくな言葉と、親しみやすい笑顔で答えてくれた事で、私の緊張は自然とほぐれた。そして彼女の鈴を転がすような声は、耳にとても心地よく響いた。
それから、私達はアリアナ様と親しくなることが出来た。最初はビクビクしていたレティシアも少し話をしただけで、すっかり打ち解けてしまったようだ。
いろんな話に興味を持ち、その度コロコロと表情を変えるアリアナ様はお可愛らしく、一緒にいるだけで楽しい。
それにアリアナ様と行動を共にしている私達への、他の生徒達からの羨望の眼差しは、正直気分が良かった。
そしてピクニックの日の事だった。私達はアリアナ様から驚く話を聞いたのだ。
「わたくしは魔力ゼロなのです。」
気負いもなく、ただ事実を述べただけという声音で。
慌てて慰めの言葉をかける私達を、彼女はさらに驚かせた。
「実はわたくし、勉学をしっかり修めてアンファエルン学園の教師になりたいと思っているのです。」
「魔術の教師は無理ですが、一般教育学や薬草学などの教師なら、魔術が無くても大丈夫でしょう?もしくは、皇国の政治、経済に関わる仕事でも良いですわ。わたくし、自分で身を立てられるようになりたいのです。」
私は自分の頬をたたかれた様な衝撃を受けた。
魔術に長けていると定評のあるバークレイ家の中でも、私は誰よりも魔力が強く、特別だと言われてきた。勉学においても他の人より優れている自信があった。でも子沢山でさほど裕福ではない伯爵家で、私が出来るのは少しでも有力な貴族に嫁ぐことだと思っていたのだ。
(いくら魔力が強くても、勉強ができても、女性である以上政治にはなかなか関わらせてもらえない。居たとしても身分の高いほんの一部の方だ。しかも貴族の女性が働くことは、はしたない事だとさえ思われている。)
ジョーはいつも、自分も男の様に働きたいっと言っていたが、夢物語だと思っていた。
それを、魔力の全く無い公爵令嬢が成し遂げようとしている。
彼女の言葉を聞いて、普段は周りの事にほとんど興味を示さないクリフ様が笑っていた。私もなんだか笑い出したい気持ちだった。まるで、私の四方を囲んでいた壁が取り払われたような解放感。そんな感覚だった。
(風が吹いた。)
ああ、そうか。
アリアナ様の瞳が美しいのは、その強い意志の力によるものだ。見た目の美しさではなく、その輝きに惹かれるのだ。
その後、アリアナ様は酷い目に遭われた。
まずは、暴れ馬に襲われそうになった。でもこれはアリアナ様ご自身で犯人を見つけられたらしい。さすがのご慧眼である。
でも次にリリーと一緒にボートに乗っている時、心無い女生徒に湖に落とされたのだ。気を失って、ディーン様に運ばれてきたアリアナ様の青ざめた顔を見た時、心が締め付けられるような気持になった。
アリアナ様は決して、身体的にはお強い方では無いのだ。誰かが彼女を守らなくては。
そしてその時誓ったのだ。
(私が、アリアナ様をお守りする。)
彼女はそれだけの価値がある方だ。
婚約者のディーン様に冷たくされていて、周りからも噂されているというのに、毅然とした態度で受け流している。
聡明で、学年1番という成績なのに、それを全く鼻にかける事もない。
魔力が無いのに卑屈になる事無く、男性におもねる事なく自分の力で生きていきたいという高い精神性。
そして何よりも私の心に響いたのは『何かを変えていこうという意思を感じる、あの瞳の力強さ』だ。
「きっと、この皇国での女性の有り方を、より良き方へ変えていこうとお考えなのだわ。」
「何か言った?ミリー。」
ジョーが怪訝そうにこちらを見る。いけない、声に出てたのね。これからアリアナ様のお見舞いに行くところだったわ。
「なんでもないわ。早くリリーを誘って、アリアナ様のお部屋に参りましょう。」
やっとベッドから出られたと聞いていた。アリアナ様にお会いするのが待ち遠しい。早く、アリアナ様と色んな話をしたい。
そう、私はもう一つ誓ったのだ。きっと将来、アリアナ様のもとで働き、助けていくと。
(アリアナ様の右腕となって、この皇国を変えて見せるわ。きっと出来る、だって私は強いもの。)
その時まで、アリアナ様をお守りする。この強い魔力をもって。
私の右手で火花のような音が鳴った。
ミリアの野望ー終ー
そんな中、学校行事のピクニックのグループ分けが行われることになった。
放課後、生徒同士でグループ分けをしている中、さすがのアリアナ様もご自分がどのグループに入ったものかと戸惑っているようだった。
私はここだと思った。
(チャンスだわ!)
周りを見ると、アリアナ様に声をかけようかと迷っている方々が沢山見受けられた。私は先を越されないように急いだ。
「あ、あの・・・アリアナ様?」
私にしては珍しく声が震えた。緊張しているのだ、この私が。
「はい!?」
驚いたように振り向いた彼女は、不思議そうに私を見上げた。きれいな大きな瞳が、初めて私を見ている。そう思うと、喉から声を出すのも、難しい。
「あ・・・あの宜しければ、アリアナ様、私達と一緒のグループになりませんか?」
最初はびっくりしたような表情を浮かべ、私は一瞬断られるのでは無いかと不安になった。でもその後、アリアナ様はぱぁっと花が開くように明るい顔になり、笑みを浮かべた。あまりの可愛らしさに、こちらを伺っていた他の生徒達からも、声が漏れるのが聞こえた程だ。
「ありがとうございます。まだクラスに馴染めてなくて・・・どの組に入れて貰おうかと悩んでいたのです。」
想像していたよりもずっと気さくな言葉と、親しみやすい笑顔で答えてくれた事で、私の緊張は自然とほぐれた。そして彼女の鈴を転がすような声は、耳にとても心地よく響いた。
それから、私達はアリアナ様と親しくなることが出来た。最初はビクビクしていたレティシアも少し話をしただけで、すっかり打ち解けてしまったようだ。
いろんな話に興味を持ち、その度コロコロと表情を変えるアリアナ様はお可愛らしく、一緒にいるだけで楽しい。
それにアリアナ様と行動を共にしている私達への、他の生徒達からの羨望の眼差しは、正直気分が良かった。
そしてピクニックの日の事だった。私達はアリアナ様から驚く話を聞いたのだ。
「わたくしは魔力ゼロなのです。」
気負いもなく、ただ事実を述べただけという声音で。
慌てて慰めの言葉をかける私達を、彼女はさらに驚かせた。
「実はわたくし、勉学をしっかり修めてアンファエルン学園の教師になりたいと思っているのです。」
「魔術の教師は無理ですが、一般教育学や薬草学などの教師なら、魔術が無くても大丈夫でしょう?もしくは、皇国の政治、経済に関わる仕事でも良いですわ。わたくし、自分で身を立てられるようになりたいのです。」
私は自分の頬をたたかれた様な衝撃を受けた。
魔術に長けていると定評のあるバークレイ家の中でも、私は誰よりも魔力が強く、特別だと言われてきた。勉学においても他の人より優れている自信があった。でも子沢山でさほど裕福ではない伯爵家で、私が出来るのは少しでも有力な貴族に嫁ぐことだと思っていたのだ。
(いくら魔力が強くても、勉強ができても、女性である以上政治にはなかなか関わらせてもらえない。居たとしても身分の高いほんの一部の方だ。しかも貴族の女性が働くことは、はしたない事だとさえ思われている。)
ジョーはいつも、自分も男の様に働きたいっと言っていたが、夢物語だと思っていた。
それを、魔力の全く無い公爵令嬢が成し遂げようとしている。
彼女の言葉を聞いて、普段は周りの事にほとんど興味を示さないクリフ様が笑っていた。私もなんだか笑い出したい気持ちだった。まるで、私の四方を囲んでいた壁が取り払われたような解放感。そんな感覚だった。
(風が吹いた。)
ああ、そうか。
アリアナ様の瞳が美しいのは、その強い意志の力によるものだ。見た目の美しさではなく、その輝きに惹かれるのだ。
その後、アリアナ様は酷い目に遭われた。
まずは、暴れ馬に襲われそうになった。でもこれはアリアナ様ご自身で犯人を見つけられたらしい。さすがのご慧眼である。
でも次にリリーと一緒にボートに乗っている時、心無い女生徒に湖に落とされたのだ。気を失って、ディーン様に運ばれてきたアリアナ様の青ざめた顔を見た時、心が締め付けられるような気持になった。
アリアナ様は決して、身体的にはお強い方では無いのだ。誰かが彼女を守らなくては。
そしてその時誓ったのだ。
(私が、アリアナ様をお守りする。)
彼女はそれだけの価値がある方だ。
婚約者のディーン様に冷たくされていて、周りからも噂されているというのに、毅然とした態度で受け流している。
聡明で、学年1番という成績なのに、それを全く鼻にかける事もない。
魔力が無いのに卑屈になる事無く、男性におもねる事なく自分の力で生きていきたいという高い精神性。
そして何よりも私の心に響いたのは『何かを変えていこうという意思を感じる、あの瞳の力強さ』だ。
「きっと、この皇国での女性の有り方を、より良き方へ変えていこうとお考えなのだわ。」
「何か言った?ミリー。」
ジョーが怪訝そうにこちらを見る。いけない、声に出てたのね。これからアリアナ様のお見舞いに行くところだったわ。
「なんでもないわ。早くリリーを誘って、アリアナ様のお部屋に参りましょう。」
やっとベッドから出られたと聞いていた。アリアナ様にお会いするのが待ち遠しい。早く、アリアナ様と色んな話をしたい。
そう、私はもう一つ誓ったのだ。きっと将来、アリアナ様のもとで働き、助けていくと。
(アリアナ様の右腕となって、この皇国を変えて見せるわ。きっと出来る、だって私は強いもの。)
その時まで、アリアナ様をお守りする。この強い魔力をもって。
私の右手で火花のような音が鳴った。
ミリアの野望ー終ー
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