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第2章 悪役令嬢は巻き込まれたくない
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夏休みまで、あと2週間という日曜日の朝だった。
早く目覚めた私は、メイドにさっと身支度を整えて貰った後、一人で朝の散歩に出かけた。兄のクラークはまだ寝ていたし、学園な中なら安全だからだ。
校舎の裏庭の方へ向かって歩いて行くと、朝露が木々の葉に光って清々しかった。
少し離れたところから馬のいななきが聞こえるから、乗馬クラブはもう活動しているのかもしれない。
(う~ん、良い気持ち!。この学園って無駄に広いって思ってたけど、散歩する公園としては最高よね。)
所々にベンチやピクニックテーブルが配置されて居たり、美味しいカフェやちょっとしたスタンドもいくつかある。
森の様になっている場所もあって、私は休みの日にいろんな場所を探検するのを楽しみにしていた。
(裏庭の方はまだ行ったことが無かったのよねぇ。ちょっと木が深そうだし。)
でも手入れはちゃんとされているようだ。私は細い小道を、森の奥の方へ進んでいった。
そして少しひらけた所にある灌木の向こうに小さな四阿が見えた時だった。ぼそぼそ・・・と何か声が聞こえた気がした。
(ん?四阿に誰かいる?)
立ち止まって耳をすませてみる。
「・・・だから、お前は皇帝と血縁関係にあるってわけさ。・・・」
その言葉が聞こえた瞬間、私は灌木の陰にダイブした。
(な、な、な、なんでまた、こういう場面に出くわしてしまうのよっ?)
灌木の下に身を隠し、私は小さくなった。
学校の裏庭、普段人気の無い奥まったところに小さな四阿で、二人の男子生徒が話をしている。
BLなら最高のシチュエーションだ!だが、会話の内容から、そうでない事は明白だった。
(頼む!それ以上喋るなっての!私にそんな事、聞かせないでちょーだいっ!)
見つかるのが怖くて、動くことが出来ない。私の願いとは裏腹に、男子生徒の一人がさらに言葉を続けた。
「本来ならば、お前は皇位継承権を持ってるって訳だ。それなのにただの侯爵家の跡取りにされちまって悔しくないか?。それにお前の母親は虫けら同然に捨てられたんだぜ。酷いよなぁ、あんまりだよなぁ。俺だって、叔母にあたる人だからさぁ、ほんと気の毒に思ってんだよ。」
知らない声だ。でも嫌な声だった。
(あ~、こいつ好きになれない。声がウザい。ああ、でもこの話ってば、もしかして・・・。)
「そんな話を信じろっていうのか・・・?」
もう一人の声が聞こえた。そして私は確信した。
(やっぱりクリフ!)
思った通りだった。
クリフ・ウォーレン。
侯爵子息であるが、本当は前皇帝の血を引いている。そしてこの乙女ゲームでの2部での攻略対象。
(お家騒動のイベントが、裏ではもう始まっていたんだ。うかつだった。こんな人気の無い裏庭なんかに来るんじゃ無かった。)
「お前が信じないってんじゃあ、仕方ないけどさ。俺はお前の為を思って言ってるんだぜ。まぁ、お前も突然こんな話を聞かされて動揺してるだろうからさ、落ち着いたらもっと話そうぜ。じゃあな。」
ウザ声が去っていく足音が聞こえた。クリフは四阿にたたずんでいたようだが、しばらくして溜息と共に、彼も去っていく足音が聞こえた。
それでも私は、数分間動けなかった。
(えらい話を聞いてしまった・・・。)
私は灌木の陰で、頭を抱えてつっぷした。
寮に戻った私の顔と服が汚れていたので、メイドと兄に心配をかけてしまった。
「学園の庭で転んでしまいました。」
そう言うと、メイドのマリアは急いで着替えを用意し、ステラは暖かい紅茶の用意を始めた。
妹に甘い兄は、私の顔をホットタオルで拭いてくれている。
「ありがとうございます、お兄様。」
「ケガが無くて良かったよ。気を付けておくれ、アリアナ。」
「はい、すみません。」
紅茶で一息つきながら、私は先ほどの事を考えていた。
(本来なら、クリフとヒロインの出会いは2年で同じクラスになってからな訳で、1年の時は全くからみは無いはず。)
それは、この世界でもほとんど変わらない、今のところは。
(クリフを助けられるのは、ヒロインだけ・・・。でもそれも2年になってからで、しかも選択肢を間違えなかったらの話だ。)
クリフの攻略はとにかく難しかった。私はクリフのストーリーをなるべく詳しく思い出そうとした。
早く目覚めた私は、メイドにさっと身支度を整えて貰った後、一人で朝の散歩に出かけた。兄のクラークはまだ寝ていたし、学園な中なら安全だからだ。
校舎の裏庭の方へ向かって歩いて行くと、朝露が木々の葉に光って清々しかった。
少し離れたところから馬のいななきが聞こえるから、乗馬クラブはもう活動しているのかもしれない。
(う~ん、良い気持ち!。この学園って無駄に広いって思ってたけど、散歩する公園としては最高よね。)
所々にベンチやピクニックテーブルが配置されて居たり、美味しいカフェやちょっとしたスタンドもいくつかある。
森の様になっている場所もあって、私は休みの日にいろんな場所を探検するのを楽しみにしていた。
(裏庭の方はまだ行ったことが無かったのよねぇ。ちょっと木が深そうだし。)
でも手入れはちゃんとされているようだ。私は細い小道を、森の奥の方へ進んでいった。
そして少しひらけた所にある灌木の向こうに小さな四阿が見えた時だった。ぼそぼそ・・・と何か声が聞こえた気がした。
(ん?四阿に誰かいる?)
立ち止まって耳をすませてみる。
「・・・だから、お前は皇帝と血縁関係にあるってわけさ。・・・」
その言葉が聞こえた瞬間、私は灌木の陰にダイブした。
(な、な、な、なんでまた、こういう場面に出くわしてしまうのよっ?)
灌木の下に身を隠し、私は小さくなった。
学校の裏庭、普段人気の無い奥まったところに小さな四阿で、二人の男子生徒が話をしている。
BLなら最高のシチュエーションだ!だが、会話の内容から、そうでない事は明白だった。
(頼む!それ以上喋るなっての!私にそんな事、聞かせないでちょーだいっ!)
見つかるのが怖くて、動くことが出来ない。私の願いとは裏腹に、男子生徒の一人がさらに言葉を続けた。
「本来ならば、お前は皇位継承権を持ってるって訳だ。それなのにただの侯爵家の跡取りにされちまって悔しくないか?。それにお前の母親は虫けら同然に捨てられたんだぜ。酷いよなぁ、あんまりだよなぁ。俺だって、叔母にあたる人だからさぁ、ほんと気の毒に思ってんだよ。」
知らない声だ。でも嫌な声だった。
(あ~、こいつ好きになれない。声がウザい。ああ、でもこの話ってば、もしかして・・・。)
「そんな話を信じろっていうのか・・・?」
もう一人の声が聞こえた。そして私は確信した。
(やっぱりクリフ!)
思った通りだった。
クリフ・ウォーレン。
侯爵子息であるが、本当は前皇帝の血を引いている。そしてこの乙女ゲームでの2部での攻略対象。
(お家騒動のイベントが、裏ではもう始まっていたんだ。うかつだった。こんな人気の無い裏庭なんかに来るんじゃ無かった。)
「お前が信じないってんじゃあ、仕方ないけどさ。俺はお前の為を思って言ってるんだぜ。まぁ、お前も突然こんな話を聞かされて動揺してるだろうからさ、落ち着いたらもっと話そうぜ。じゃあな。」
ウザ声が去っていく足音が聞こえた。クリフは四阿にたたずんでいたようだが、しばらくして溜息と共に、彼も去っていく足音が聞こえた。
それでも私は、数分間動けなかった。
(えらい話を聞いてしまった・・・。)
私は灌木の陰で、頭を抱えてつっぷした。
寮に戻った私の顔と服が汚れていたので、メイドと兄に心配をかけてしまった。
「学園の庭で転んでしまいました。」
そう言うと、メイドのマリアは急いで着替えを用意し、ステラは暖かい紅茶の用意を始めた。
妹に甘い兄は、私の顔をホットタオルで拭いてくれている。
「ありがとうございます、お兄様。」
「ケガが無くて良かったよ。気を付けておくれ、アリアナ。」
「はい、すみません。」
紅茶で一息つきながら、私は先ほどの事を考えていた。
(本来なら、クリフとヒロインの出会いは2年で同じクラスになってからな訳で、1年の時は全くからみは無いはず。)
それは、この世界でもほとんど変わらない、今のところは。
(クリフを助けられるのは、ヒロインだけ・・・。でもそれも2年になってからで、しかも選択肢を間違えなかったらの話だ。)
クリフの攻略はとにかく難しかった。私はクリフのストーリーをなるべく詳しく思い出そうとした。
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