モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第2章 悪役令嬢は巻き込まれたくない

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(魔法だ!私、やられてしまったの!?)

そう思ったけど、どこも痛くないし、熱くない。

(んっ?)

眠らされてもいない。目を開けると、周りは大量の砂埃が舞って視界を遮っている。

「うっ、ごほっごほっ。」

思いっきり砂埃を吸ってしまって咳込んでいると、

「アリアナ、大丈夫かっ!?」

「アリアナ様っ!」

一日もたっていないのに、涙が出るほど懐かしい声が聞こえた。

「お兄様!ミリア!。」

声の方を振り向くと、頑丈な石壁に大穴が空いて外が見えていた。最初の大きな音と閃光は、このせいだったのだ。

そしてその大穴からジョージアが飛び込んできた。

「食らいなさいっ!。」

そう言って、両手を天に振りかざすと、ドンッと言う音と共に、空から稲光が狐目と髭面に襲い掛かる。

「ギャッ!」

二人はプスプス音を立てながら、倒れ込んだ。

(イ、イーサンは?)

見ると彼は無傷で立っている。こちらを眺め、なんだか愉快そうな顔をしている。

「へぇ・・・、学園の生徒にもマシな使い手が居るんだ。でも、これはどうかな?」

そう言って、先ほどの様にもう一度右手を上げた。

すると、ジョージアが作った稲妻の数倍の閃光が、兄やミリア達に向かって空から襲い掛かった。

「あ、危ない!」

だが、その稲妻は皆の周りで、球体の様な見えない何かで弾かれて散った。

(シールド!?)

後ろを見ると、ディーンが両手を広げて、皆の周りにシールドを張っていた。

「えっ?うそ。ディーン様!?」

(ディーンまで、私を助けに来てくれたんだ。)

シールドの中から、ジョージアが再び稲妻で攻撃した。だがそれをイーサンは片手で簡単に払いのけた。レティシアも氷の礫を吹き付けたが、イーサンの前で霧散してしまう。

(つ、強い!何、こいつ。イーサン、イーサンって・・・あっ。)

私は急に思い出した。ゲームの、あるストーリーを。

「ライナス・イーサン・ベルフォート・・・。」

イーサンはクスクス笑いながら、

「良いねぇ。でもまだまだ俺には届かないよ。さぁ、そろそろお開きにしようかな?」

そう言うと、左手で私を引っ張り上げた。

「は、離してっ!。」

そんなに腕力があるとは思えないのに、私がどんなに暴れてもイーサンは微動だにしない。彼は顔に笑みを浮かべたまま、右手の平を上に向けると、そこからウンカの様に黒い粒子が舞い上がるのが見えた。

(や、ヤバい!)

私は声を限りに叫んだ。

「みんな、逃げてぇ!闇魔術よっ!。」

イーサンが手の平を皆の方に向けると、舞い上がっていた黒い粒子は突然黒い大きな渦となり、皆を襲ったのだ。

ディーンのシールドがかろうじてそれを弾き飛ばしたが、イーサンの攻撃は止まない。ディーンの額から汗が流れ落ちる。

彼は優れた魔力を持っているはずなのだが、イーサンの闇魔術に少しずつシールドが押し返されつつあった。

慌ててシールドに兄のクラークも加わったが、イーサンは魔力を益々強めてきた。二人の顔が苦痛にゆがむ。

(ど、どうしよう?)

少しずつシールドの輪が小さくなっていく。私はイーサンを止めようと、腕を掴まれたまま体当たりするのに、彼はびくともしない。

(なんなのよ!こいつ。バケモンなの?)

絶望感に襲われた時だった。闇魔法の影響で真っ黒で見えなかった皆の中から、突然ひときわ強い光が現れた。

その光は最初小さかったけど、徐々に大きく輝きながら周りに広り、少しずつ闇を溶かしていった。明るいのに眩しくなく、暖かくて優しい光だ。

「リリー!。」

リリーの光魔術だ。

リリーはディーンとクラークの間で、祈る様に手を組んで目をつぶっていた。彼女の周りからほとばしる光はどんどん大きくなっていく。

そして闇より光の方が大きくなった時、イーサンの闇魔術は霧が晴れる様に消されていた。

「なるほど・・・、光魔術の使い手か・・・面倒だな。」

イーサンが無表情に、ぼそっと呟いた。

「アリアナ様!」

ミリアが私に叫んだ瞬間、イーサンの足元の地面が急に崩れ、彼は思わず私の手を放した。

崩れた地面はイーサンの足を飲み込んだまま、再び固まる。これはミリアの魔術!?

私は、チャンスとばかりに転げながらも皆の方へ走った。

「あ~あ、折角面白い物を見つけたと思ったのに。」

イーサンは上を見上げて溜息をついた。

「おい、もう逃げられないぞ。」

兄がイーサンに向かって叫ぶ。私達の周りにはいつの間にか、学園の先生や憲兵もやってきてぐるりと囲っていたのだ。

だが、イーサンは冷静だった。

「誰が逃げられないって?。」

そう言うと、彼の足を捕まえて居た地面が爆発音と共に弾け飛んだ。

「うわっ!」

飛んでくる土や石を避けて、土埃の中で目を開くと、イーサンが建物の屋根の上に立っていた。

「いつの間に・・・。」

憲兵達が騒ぎながら、建物を囲む。

イーサンは上から私の方にゆっくり顔を向け、にこりと笑った。こんな時なのに、無邪気な笑顔だった。

「また今度ゆっくり遊ぼう、アリアナ・コールリッジ公爵令嬢。」

そう言うと、テレビのノイズが走る様に彼は消えてしまった。

みんな、誰も居なくなった屋根の上を見つめて呆然としていた。

「移動魔術だ・・・。そんな高位の魔術が使えるなんて・・・。」

ディーンがそう声を漏らした。

そんな中、兄のクラークがハッと我に返り、

「ア、アリアナ。無事だったか!。」

私に駆け寄り抱きつくと人目もはばからずオイオイと泣き始めた。

「お、お兄様。痛いです。」

「アリアナ様!。」

「アリアナ様ぁ!。」

ミリア達やリリーも泣きながら私の方に駆け寄ってきた。

「み、皆様、苦しいです。」

私が皆にもみくちゃにされていた時、ディーンだけは、イーサンが消えた方向を真剣な表情で睨みつけたままだった。
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