39 / 284
第2章 悪役令嬢は巻き込まれたくない
14
しおりを挟む
(魔法だ!私、やられてしまったの!?)
そう思ったけど、どこも痛くないし、熱くない。
(んっ?)
眠らされてもいない。目を開けると、周りは大量の砂埃が舞って視界を遮っている。
「うっ、ごほっごほっ。」
思いっきり砂埃を吸ってしまって咳込んでいると、
「アリアナ、大丈夫かっ!?」
「アリアナ様っ!」
一日もたっていないのに、涙が出るほど懐かしい声が聞こえた。
「お兄様!ミリア!。」
声の方を振り向くと、頑丈な石壁に大穴が空いて外が見えていた。最初の大きな音と閃光は、このせいだったのだ。
そしてその大穴からジョージアが飛び込んできた。
「食らいなさいっ!。」
そう言って、両手を天に振りかざすと、ドンッと言う音と共に、空から稲光が狐目と髭面に襲い掛かる。
「ギャッ!」
二人はプスプス音を立てながら、倒れ込んだ。
(イ、イーサンは?)
見ると彼は無傷で立っている。こちらを眺め、なんだか愉快そうな顔をしている。
「へぇ・・・、学園の生徒にもマシな使い手が居るんだ。でも、これはどうかな?」
そう言って、先ほどの様にもう一度右手を上げた。
すると、ジョージアが作った稲妻の数倍の閃光が、兄やミリア達に向かって空から襲い掛かった。
「あ、危ない!」
だが、その稲妻は皆の周りで、球体の様な見えない何かで弾かれて散った。
(シールド!?)
後ろを見ると、ディーンが両手を広げて、皆の周りにシールドを張っていた。
「えっ?うそ。ディーン様!?」
(ディーンまで、私を助けに来てくれたんだ。)
シールドの中から、ジョージアが再び稲妻で攻撃した。だがそれをイーサンは片手で簡単に払いのけた。レティシアも氷の礫を吹き付けたが、イーサンの前で霧散してしまう。
(つ、強い!何、こいつ。イーサン、イーサンって・・・あっ。)
私は急に思い出した。ゲームの、あるストーリーを。
「ライナス・イーサン・ベルフォート・・・。」
イーサンはクスクス笑いながら、
「良いねぇ。でもまだまだ俺には届かないよ。さぁ、そろそろお開きにしようかな?」
そう言うと、左手で私を引っ張り上げた。
「は、離してっ!。」
そんなに腕力があるとは思えないのに、私がどんなに暴れてもイーサンは微動だにしない。彼は顔に笑みを浮かべたまま、右手の平を上に向けると、そこからウンカの様に黒い粒子が舞い上がるのが見えた。
(や、ヤバい!)
私は声を限りに叫んだ。
「みんな、逃げてぇ!闇魔術よっ!。」
イーサンが手の平を皆の方に向けると、舞い上がっていた黒い粒子は突然黒い大きな渦となり、皆を襲ったのだ。
ディーンのシールドがかろうじてそれを弾き飛ばしたが、イーサンの攻撃は止まない。ディーンの額から汗が流れ落ちる。
彼は優れた魔力を持っているはずなのだが、イーサンの闇魔術に少しずつシールドが押し返されつつあった。
慌ててシールドに兄のクラークも加わったが、イーサンは魔力を益々強めてきた。二人の顔が苦痛にゆがむ。
(ど、どうしよう?)
少しずつシールドの輪が小さくなっていく。私はイーサンを止めようと、腕を掴まれたまま体当たりするのに、彼はびくともしない。
(なんなのよ!こいつ。バケモンなの?)
絶望感に襲われた時だった。闇魔法の影響で真っ黒で見えなかった皆の中から、突然ひときわ強い光が現れた。
その光は最初小さかったけど、徐々に大きく輝きながら周りに広り、少しずつ闇を溶かしていった。明るいのに眩しくなく、暖かくて優しい光だ。
「リリー!。」
リリーの光魔術だ。
リリーはディーンとクラークの間で、祈る様に手を組んで目をつぶっていた。彼女の周りからほとばしる光はどんどん大きくなっていく。
そして闇より光の方が大きくなった時、イーサンの闇魔術は霧が晴れる様に消されていた。
「なるほど・・・、光魔術の使い手か・・・面倒だな。」
イーサンが無表情に、ぼそっと呟いた。
「アリアナ様!」
ミリアが私に叫んだ瞬間、イーサンの足元の地面が急に崩れ、彼は思わず私の手を放した。
崩れた地面はイーサンの足を飲み込んだまま、再び固まる。これはミリアの魔術!?
私は、チャンスとばかりに転げながらも皆の方へ走った。
「あ~あ、折角面白い物を見つけたと思ったのに。」
イーサンは上を見上げて溜息をついた。
「おい、もう逃げられないぞ。」
兄がイーサンに向かって叫ぶ。私達の周りにはいつの間にか、学園の先生や憲兵もやってきてぐるりと囲っていたのだ。
だが、イーサンは冷静だった。
「誰が逃げられないって?。」
そう言うと、彼の足を捕まえて居た地面が爆発音と共に弾け飛んだ。
「うわっ!」
飛んでくる土や石を避けて、土埃の中で目を開くと、イーサンが建物の屋根の上に立っていた。
「いつの間に・・・。」
憲兵達が騒ぎながら、建物を囲む。
イーサンは上から私の方にゆっくり顔を向け、にこりと笑った。こんな時なのに、無邪気な笑顔だった。
「また今度ゆっくり遊ぼう、アリアナ・コールリッジ公爵令嬢。」
そう言うと、テレビのノイズが走る様に彼は消えてしまった。
みんな、誰も居なくなった屋根の上を見つめて呆然としていた。
「移動魔術だ・・・。そんな高位の魔術が使えるなんて・・・。」
ディーンがそう声を漏らした。
そんな中、兄のクラークがハッと我に返り、
「ア、アリアナ。無事だったか!。」
私に駆け寄り抱きつくと人目もはばからずオイオイと泣き始めた。
「お、お兄様。痛いです。」
「アリアナ様!。」
「アリアナ様ぁ!。」
ミリア達やリリーも泣きながら私の方に駆け寄ってきた。
「み、皆様、苦しいです。」
私が皆にもみくちゃにされていた時、ディーンだけは、イーサンが消えた方向を真剣な表情で睨みつけたままだった。
そう思ったけど、どこも痛くないし、熱くない。
(んっ?)
眠らされてもいない。目を開けると、周りは大量の砂埃が舞って視界を遮っている。
「うっ、ごほっごほっ。」
思いっきり砂埃を吸ってしまって咳込んでいると、
「アリアナ、大丈夫かっ!?」
「アリアナ様っ!」
一日もたっていないのに、涙が出るほど懐かしい声が聞こえた。
「お兄様!ミリア!。」
声の方を振り向くと、頑丈な石壁に大穴が空いて外が見えていた。最初の大きな音と閃光は、このせいだったのだ。
そしてその大穴からジョージアが飛び込んできた。
「食らいなさいっ!。」
そう言って、両手を天に振りかざすと、ドンッと言う音と共に、空から稲光が狐目と髭面に襲い掛かる。
「ギャッ!」
二人はプスプス音を立てながら、倒れ込んだ。
(イ、イーサンは?)
見ると彼は無傷で立っている。こちらを眺め、なんだか愉快そうな顔をしている。
「へぇ・・・、学園の生徒にもマシな使い手が居るんだ。でも、これはどうかな?」
そう言って、先ほどの様にもう一度右手を上げた。
すると、ジョージアが作った稲妻の数倍の閃光が、兄やミリア達に向かって空から襲い掛かった。
「あ、危ない!」
だが、その稲妻は皆の周りで、球体の様な見えない何かで弾かれて散った。
(シールド!?)
後ろを見ると、ディーンが両手を広げて、皆の周りにシールドを張っていた。
「えっ?うそ。ディーン様!?」
(ディーンまで、私を助けに来てくれたんだ。)
シールドの中から、ジョージアが再び稲妻で攻撃した。だがそれをイーサンは片手で簡単に払いのけた。レティシアも氷の礫を吹き付けたが、イーサンの前で霧散してしまう。
(つ、強い!何、こいつ。イーサン、イーサンって・・・あっ。)
私は急に思い出した。ゲームの、あるストーリーを。
「ライナス・イーサン・ベルフォート・・・。」
イーサンはクスクス笑いながら、
「良いねぇ。でもまだまだ俺には届かないよ。さぁ、そろそろお開きにしようかな?」
そう言うと、左手で私を引っ張り上げた。
「は、離してっ!。」
そんなに腕力があるとは思えないのに、私がどんなに暴れてもイーサンは微動だにしない。彼は顔に笑みを浮かべたまま、右手の平を上に向けると、そこからウンカの様に黒い粒子が舞い上がるのが見えた。
(や、ヤバい!)
私は声を限りに叫んだ。
「みんな、逃げてぇ!闇魔術よっ!。」
イーサンが手の平を皆の方に向けると、舞い上がっていた黒い粒子は突然黒い大きな渦となり、皆を襲ったのだ。
ディーンのシールドがかろうじてそれを弾き飛ばしたが、イーサンの攻撃は止まない。ディーンの額から汗が流れ落ちる。
彼は優れた魔力を持っているはずなのだが、イーサンの闇魔術に少しずつシールドが押し返されつつあった。
慌ててシールドに兄のクラークも加わったが、イーサンは魔力を益々強めてきた。二人の顔が苦痛にゆがむ。
(ど、どうしよう?)
少しずつシールドの輪が小さくなっていく。私はイーサンを止めようと、腕を掴まれたまま体当たりするのに、彼はびくともしない。
(なんなのよ!こいつ。バケモンなの?)
絶望感に襲われた時だった。闇魔法の影響で真っ黒で見えなかった皆の中から、突然ひときわ強い光が現れた。
その光は最初小さかったけど、徐々に大きく輝きながら周りに広り、少しずつ闇を溶かしていった。明るいのに眩しくなく、暖かくて優しい光だ。
「リリー!。」
リリーの光魔術だ。
リリーはディーンとクラークの間で、祈る様に手を組んで目をつぶっていた。彼女の周りからほとばしる光はどんどん大きくなっていく。
そして闇より光の方が大きくなった時、イーサンの闇魔術は霧が晴れる様に消されていた。
「なるほど・・・、光魔術の使い手か・・・面倒だな。」
イーサンが無表情に、ぼそっと呟いた。
「アリアナ様!」
ミリアが私に叫んだ瞬間、イーサンの足元の地面が急に崩れ、彼は思わず私の手を放した。
崩れた地面はイーサンの足を飲み込んだまま、再び固まる。これはミリアの魔術!?
私は、チャンスとばかりに転げながらも皆の方へ走った。
「あ~あ、折角面白い物を見つけたと思ったのに。」
イーサンは上を見上げて溜息をついた。
「おい、もう逃げられないぞ。」
兄がイーサンに向かって叫ぶ。私達の周りにはいつの間にか、学園の先生や憲兵もやってきてぐるりと囲っていたのだ。
だが、イーサンは冷静だった。
「誰が逃げられないって?。」
そう言うと、彼の足を捕まえて居た地面が爆発音と共に弾け飛んだ。
「うわっ!」
飛んでくる土や石を避けて、土埃の中で目を開くと、イーサンが建物の屋根の上に立っていた。
「いつの間に・・・。」
憲兵達が騒ぎながら、建物を囲む。
イーサンは上から私の方にゆっくり顔を向け、にこりと笑った。こんな時なのに、無邪気な笑顔だった。
「また今度ゆっくり遊ぼう、アリアナ・コールリッジ公爵令嬢。」
そう言うと、テレビのノイズが走る様に彼は消えてしまった。
みんな、誰も居なくなった屋根の上を見つめて呆然としていた。
「移動魔術だ・・・。そんな高位の魔術が使えるなんて・・・。」
ディーンがそう声を漏らした。
そんな中、兄のクラークがハッと我に返り、
「ア、アリアナ。無事だったか!。」
私に駆け寄り抱きつくと人目もはばからずオイオイと泣き始めた。
「お、お兄様。痛いです。」
「アリアナ様!。」
「アリアナ様ぁ!。」
ミリア達やリリーも泣きながら私の方に駆け寄ってきた。
「み、皆様、苦しいです。」
私が皆にもみくちゃにされていた時、ディーンだけは、イーサンが消えた方向を真剣な表情で睨みつけたままだった。
28
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる