38 / 284
第2章 悪役令嬢は巻き込まれたくない
13
しおりを挟む
狐目と髭面が呆気に取られたように口を開いたまま黙った。
(さぁ、どうくる?)
金目当てで人を売るような奴らだ、大金には目が無い筈。
「お前、何言ってんだ?」
髭面は理解出来てなさそうだ。狐目はそんな彼を無視して、
「お嬢ちゃん、自分が何を言ってるか分かってるのかい?。お前の親から身代金を取れって事か?。そんな危ない橋は渡りたくないね。」
「違います。これはビジネスです。私が私を500万ルークで買うと言ってるのです。」
「・・・お前、身なりからして貴族の子らしいが、どこの家だ?。」
(どうしよう、吉とでるか凶とでるか・・・。)
「コールリッジ公爵家ですわ。」
思い切って正直に言った。背中を冷や汗が流れ落ちる。ならず者の中には貴族を毛嫌いしているものも多い。相手の神経を逆なでしないとも限らない。
ダンッ!
狐目が急にテーブルを拳で叩いたので、髭面は飛び上がった。そして私は悲鳴をあげそうになった所を、すんでの所でこらえた。
「あ、兄貴どうしたんで?。」
「イーサンの野郎!とんだ厄介事を持ち込みやがったっ!」
吐き捨てるようにそう言うと、狐目は私を凶暴な目で睨んだ。
(怖い、怖い、怖い・・・)
でも顔には出さない。
狐目は椅子をまっすぐ座り直し、
「ちっ!で、どうするつもりだ?お前を逃がしてやったところで、俺達にどうやって金を渡す?。」
(の、のってきた!?)
「宝石をいくつか持っています。無事に帰して頂ければ、指定の場所に届けます。」
「そんな話を信用しろというのか?。」
「して頂くしかないですわ。」
お互いにらみ合ったまま、場に緊張が走る。
(目を逸らしたら負ける。)
「兄貴、やっぱりバラしちまった方が・・・。」
「てめぇは黙ってろっ!」
狐目が声を荒げた。
「コールリッジに手を出してみろ!、バレたらこの界隈ごと消されるぞ!」
「コール・・・、なんですかい?兄貴。」
髭面は皇国一の貴族の名を知らないらしい、ただただ困惑していた。
恐らく狐目は考えている。私を殺すにしろ、売るにしろ、バレたら只では済まないであろうことを。父は、公爵家の名に懸けて娘に残酷な事をした犯人を探し出すだろう。魔法省や警察省、公安、あらゆる組織を動かすだけの力が父にはある。
私はとどめにもう一つはったりをかけた。
「貴方達に魔術で印をつけました。」
狐目がびくりっと身体を震わす。
「目には見えない印です。私に何かあれば、父は貴方達をどこからでも探し出すでしょう。どうです?。できれば、平和に解決しませんか?。」
ほとんどの貴族は魔力を持っているというのがこの世界の常識だ。狐目の顔に初めて怯えたような表情が一瞬浮かんだ。そして、
「・・・おい、この娘を隣部屋に放り込んどけ。・・・食料と毛布も渡してやんな。」
「あ、兄貴!?」
「いいから言われたとおりにしろっ!」
髭面は渋々、私をさっきの部屋に連れて行くと、放り投げるようにパンと毛布をよこした。
また扉の鍵がかけられ、私は一人になった。どうやら彼らは出かけたようだ。恐らく、コールリッジ家の令嬢が行方不明であるかどうかを確かめに行ったのであろう。
「時間は稼いだ。お願い、誰か私を見つけて頂戴よ。」
私は汚らしい毛布を床に落とし、その上に座って固いパンをかじった。
どれくらい、時間がたっただろうか?。少し夜が白々と明け始めた頃だった。
再び隣の部屋の扉が開く音と、複数の足音が聞こえた。そしてそれは真っすぐ私が居る部屋へと近づき、鍵が外されドアが乱暴に開けられた。
「あっ。」
そこには、デイビットと話していた例の少年が立っていた。
「やぁ、まだ殺されていなかったんだ。」
彼はそう言ってニコリと笑う。
(まさか、こいつを呼びに行ったなんて。)
なんとなくこの少年は、狐目と髭面よりも油断がならないと感じていた。
「おい、イーサン!どういうつもりだ。とんでも無い厄介事を持ってきやがって!。」
彼の後ろに居た狐目が少年の胸ぐらを掴みかかった。
「こいつ、俺らに印を付けたって言うんだ。くそっ!公爵家に目を付けられたら、お前だって破滅だぜ!。とりあえず、お前がこいつを家に戻して、宝石とやらを貰ってこい!。」
イーサンと呼ばれた少年は、冷静だった。ゆっくりと狐目男の腕を外し、私を横目で見る。
「そんなの嘘ですよ。あんた達には何の印も付いてない。」
「何っ!?」
(えっ!?)
な、なんでバレた?
「ふ~ん、随分頭が回る事だね。甘やかされた頭の悪い令嬢だって聞いたんだけどなぁ・・・。まぁ、いいや。面倒だったから、あんた達に頼んだんだけど。ちょっと面白そうだから俺が連れて行くよ。」
そう言って、右腕を上げて手の平を私の方に向けようとた。
(こ、こいつまた魔法を使う?!。ヤバい!。)
私は無駄だと分かりつつ、咄嗟に頭を抱えてしゃがみこんだ。
ガガガーンッ!
物凄い音と振動、目を閉じていても眩しいほどの強烈な光を感じた。
(さぁ、どうくる?)
金目当てで人を売るような奴らだ、大金には目が無い筈。
「お前、何言ってんだ?」
髭面は理解出来てなさそうだ。狐目はそんな彼を無視して、
「お嬢ちゃん、自分が何を言ってるか分かってるのかい?。お前の親から身代金を取れって事か?。そんな危ない橋は渡りたくないね。」
「違います。これはビジネスです。私が私を500万ルークで買うと言ってるのです。」
「・・・お前、身なりからして貴族の子らしいが、どこの家だ?。」
(どうしよう、吉とでるか凶とでるか・・・。)
「コールリッジ公爵家ですわ。」
思い切って正直に言った。背中を冷や汗が流れ落ちる。ならず者の中には貴族を毛嫌いしているものも多い。相手の神経を逆なでしないとも限らない。
ダンッ!
狐目が急にテーブルを拳で叩いたので、髭面は飛び上がった。そして私は悲鳴をあげそうになった所を、すんでの所でこらえた。
「あ、兄貴どうしたんで?。」
「イーサンの野郎!とんだ厄介事を持ち込みやがったっ!」
吐き捨てるようにそう言うと、狐目は私を凶暴な目で睨んだ。
(怖い、怖い、怖い・・・)
でも顔には出さない。
狐目は椅子をまっすぐ座り直し、
「ちっ!で、どうするつもりだ?お前を逃がしてやったところで、俺達にどうやって金を渡す?。」
(の、のってきた!?)
「宝石をいくつか持っています。無事に帰して頂ければ、指定の場所に届けます。」
「そんな話を信用しろというのか?。」
「して頂くしかないですわ。」
お互いにらみ合ったまま、場に緊張が走る。
(目を逸らしたら負ける。)
「兄貴、やっぱりバラしちまった方が・・・。」
「てめぇは黙ってろっ!」
狐目が声を荒げた。
「コールリッジに手を出してみろ!、バレたらこの界隈ごと消されるぞ!」
「コール・・・、なんですかい?兄貴。」
髭面は皇国一の貴族の名を知らないらしい、ただただ困惑していた。
恐らく狐目は考えている。私を殺すにしろ、売るにしろ、バレたら只では済まないであろうことを。父は、公爵家の名に懸けて娘に残酷な事をした犯人を探し出すだろう。魔法省や警察省、公安、あらゆる組織を動かすだけの力が父にはある。
私はとどめにもう一つはったりをかけた。
「貴方達に魔術で印をつけました。」
狐目がびくりっと身体を震わす。
「目には見えない印です。私に何かあれば、父は貴方達をどこからでも探し出すでしょう。どうです?。できれば、平和に解決しませんか?。」
ほとんどの貴族は魔力を持っているというのがこの世界の常識だ。狐目の顔に初めて怯えたような表情が一瞬浮かんだ。そして、
「・・・おい、この娘を隣部屋に放り込んどけ。・・・食料と毛布も渡してやんな。」
「あ、兄貴!?」
「いいから言われたとおりにしろっ!」
髭面は渋々、私をさっきの部屋に連れて行くと、放り投げるようにパンと毛布をよこした。
また扉の鍵がかけられ、私は一人になった。どうやら彼らは出かけたようだ。恐らく、コールリッジ家の令嬢が行方不明であるかどうかを確かめに行ったのであろう。
「時間は稼いだ。お願い、誰か私を見つけて頂戴よ。」
私は汚らしい毛布を床に落とし、その上に座って固いパンをかじった。
どれくらい、時間がたっただろうか?。少し夜が白々と明け始めた頃だった。
再び隣の部屋の扉が開く音と、複数の足音が聞こえた。そしてそれは真っすぐ私が居る部屋へと近づき、鍵が外されドアが乱暴に開けられた。
「あっ。」
そこには、デイビットと話していた例の少年が立っていた。
「やぁ、まだ殺されていなかったんだ。」
彼はそう言ってニコリと笑う。
(まさか、こいつを呼びに行ったなんて。)
なんとなくこの少年は、狐目と髭面よりも油断がならないと感じていた。
「おい、イーサン!どういうつもりだ。とんでも無い厄介事を持ってきやがって!。」
彼の後ろに居た狐目が少年の胸ぐらを掴みかかった。
「こいつ、俺らに印を付けたって言うんだ。くそっ!公爵家に目を付けられたら、お前だって破滅だぜ!。とりあえず、お前がこいつを家に戻して、宝石とやらを貰ってこい!。」
イーサンと呼ばれた少年は、冷静だった。ゆっくりと狐目男の腕を外し、私を横目で見る。
「そんなの嘘ですよ。あんた達には何の印も付いてない。」
「何っ!?」
(えっ!?)
な、なんでバレた?
「ふ~ん、随分頭が回る事だね。甘やかされた頭の悪い令嬢だって聞いたんだけどなぁ・・・。まぁ、いいや。面倒だったから、あんた達に頼んだんだけど。ちょっと面白そうだから俺が連れて行くよ。」
そう言って、右腕を上げて手の平を私の方に向けようとた。
(こ、こいつまた魔法を使う?!。ヤバい!。)
私は無駄だと分かりつつ、咄嗟に頭を抱えてしゃがみこんだ。
ガガガーンッ!
物凄い音と振動、目を閉じていても眩しいほどの強烈な光を感じた。
28
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる