モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第2章 悪役令嬢は巻き込まれたくない

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(冷たい・・・)

どうしてだろう、いつも暖かいベッドで寝ているはずなのに、どうしてこんなに寒いんだろう?

(ベッドから落ちたのかしら?)

起き上がろうとして、自分がまったく動けない事に気が付いた。

(・・・っ。)

瞬間、私は今までの事を思い出し、ぎりぎり声を出さずに済んだ。私は、後ろ手に縛られ猿ぐつわも嚙まされていた。

(うう、キツイ・・・でも、今は気を失ったフリをしていた方が良い・・・。)

多分、あの少年は私に眠らせるか意識を失わせる魔術をかけたのだろう。今がいつ頃か分からないけど、人を眠らせる魔術は術者の力量によって、眠りの深さや時間が変わるという。

(あいつ・・・、相当の使い手だ。)

目を開けられないので、ここが何処かは分からない。ただ、自分が石の床に寝転がされているのだけわかる。冷たい床に熱がどんどん奪われ、身体が冷え切ってしまった。唇が勝手に震えてくる・・・。

(うう・・・、このままじゃ風邪ひいちゃうわ。せめて何か被せてくれたらいいのに・・・)

さらわれている身としたら、贅沢な要望かもしれない。冬で無かったのだけがありがたい。

バタン!

ドアを開け閉めする音が聞こえ、誰かが歩く足音が聞こえた。

「おい、娘の様子はどうだ!?」

「まだ、眠ってるみたいですぜ。」

大人の男の声だ。口調が荒々しいから、貴族では無さそう。

「ちっ、イーサンの野郎、面倒な事押し付けやがって。」

「どうします?この娘。いっそバラしますか。」

「いや、良く見りゃこいつは相当な器量良しだぜ。裏でさばけば結構な値段で売れそうだ。」

「ガキじゃねーすか。」

「こういうツルペタのガキがお好みの方もいらっしゃるんだよ、世の中には。」

「ほーっ、酔狂なこって。」

「おい、こいつを隣の部屋に放り込んどけ!縄は解いても良いが、鍵はしっかり閉めとけよっ。」

「へい。」




そして今、私は途方に暮れながら、月明りの漏れる小さな窓を見上げているのだ。

「兄様、心配しているだろうなぁ・・・。」

溺愛している妹が、夜になっても戻ってこないのだ。気も狂わんばかりに動揺しているかもしれない。恐らく、学校中を探し回っているだろう。

「ここは、どこだろう?多分、城下の街中だとは思うんだけど・・・。」

何せ眠っている間に連れてこられたから、どこをどう来たのかも分からない。

探してくれているとは思うが、手掛かりがない以上、ここを見つけては貰うのは難しいだろう。

魔力も無い、腕力もない、武術だって使えない。そんな私に出来る事はなんだろう?

「頭使うしかないじゃない。なんとか助けが来るまで時間を稼ぐ。」

ロリコンなんかに売られてたまるか!

隣の部屋には、今は誰も居ないようだ。恐らく私を売り飛ばす手配でもしに行ったのだ。

私は立ち上がり、暗い部屋の中を見渡した。石造りの建物の中のようだが、何の家具も置いていない。その為か、それ程広くは無いのに、ガランとしていて冷え切っている。窓からの月明りが届かない端の方に、何かが潜んでいるような気さえして、私は怖さと寒さで身震いした。

(ええい、ひるむな!)

両手で頬をパチッと叩いて気合を入れ、まずは頭に付けてた小さな髪飾りを外した。

(何の役にも立たないかもしれないけど・・・。)

そう思いながらも、その髪飾りを高い窓の方に向かって放る。何回か失敗した後、髪飾りは外へと窓を通り抜けた。

次に、制服の胸のリボンを解いて部屋の隅に置いて置く。あまり期待は出来ないが、もし私がここから移動させられても、何かの手掛かりになるかもしれない。

溜息をついて、扉の横に転がっていた麻袋を折りたたんで座布団替わりにし、腰を下ろした。

(そう言えば、ヒロインがさらわれるイベントがあったっけ。2部の時だったけど。)

その時は、一番好感度が上がっている攻略相手が助けに来てくれるのだ。

(ヒロインは光の魔力を持っているから、確かその力を窓から打ち上げるのよね。それが手掛かりになって、ヒーローが助けに来る。・・・まぁ、私には使えない技だわ。)

悪役令嬢に好感度の上がってる相手なんていないしね。

(兄様ぐらいか・・・。)

なんとなく、やさぐれた気分で壁にもたれかかる。いつも座っている柔らかいソファーと違って、ゴツゴツした石壁はどこまでも冷たい。急に泣きたくなったけど、ぐっと堪えて目をつぶった。

どれくらいそうしていただろう。隣の部屋で、扉が開くような物音が聞こえた。続いて、人の足音と話し声も聞こえる。さっきの奴らが戻ってきたようだ。

(相手は、人を平気で殺したり、売ったりする奴らだ。下手な事は出来ない。でも・・・)

しばらく迷っていたが、意を決して立ち上がった。そして大きく息を吸った後、私は大声を出しながら扉を思いっきり叩いた。

「誰かいませんかっ!?ここは何処なのですっ?。」

ドンドンと音が響く中、隣の部屋から舌打ちが聞こえ、こちらに向かって来る足音が聞こえた。そして、

「うるせえっ!大人しくしてろっ。」

私は構わずドアを叩く。

「誰かぁ!助けてくださーい。ここから出してー!。」

「おいっ!開けなっ。」

もう一人の声が聞こえ、しばらくして扉の鍵を回すガチャリと言う音が聞こえた。

ギッという音を立てて乱暴に開かれた扉の前には、髭面の屈強そうな男が立っていて、私は思わず後ずさる。男の顔は怒りに歪んでいて、手を振り上げていた。

(あっ、殴られる・・・。)

そう思って、反射的に腕を顔の前に挙げた。

「おい、ギーヴ。顔に傷つけんじゃねーぞっ。」

テーブルの前に座ったもう一人の男そう言ったので、ギーヴと呼ばれた髭面は振り上げた手を下ろす。しかし、ホッとしたのも束の間、私は腕を掴まれ、乱暴に引っ張られた。

「痛っ。」

「大人しくしてな、お嬢ちゃん。ケガしたくなかったらな。」

そう言った男は、髭面とは正反対に、思っていたよりも優男だった。顔は青白く、細い狐目でこちらを見ている。

「こいつは、俺と違って単細胞だからな。手加減を知らないんだ。」

そう言って、にやにやと笑った。

「わたくしをどうするつもりですか?」

演技で無く声が震える。怖い・・・、物凄く怖い。

「心配しなくても、ちゃんと可愛がってくれる所に売ってやるからさ。可愛い顔に産んでくれた親に感謝するんだな。でなきゃ奴隷商人行きだったぜ。」

くっくっくと、喉の奥で愉快そうに笑う。人をいたぶるのが心底楽しいのだろう。

「おいくらですか?」

私は怖さを押し殺して聞いた。

「えっ?」

「いくらで、わたくしを売るのですか?」

「・・・そんなもん、聞いてどうする?」

狐顔が、いぶかしげに問いただす。

「教えてください。いくらで、わたくしを売るつもりなのですか?」

「おい、てめぇ。いい加減黙れ!。」

髭面が割って入ってこようとしたが、狐目が方手で制し、

「・・・まぁ、50万ルークってとこか。もうちょっと色気がありゃ、違う所でもっと高く売れるだろうけどな。」

そう言って、値踏みする様に私を見た。

「分かりました・・・。」

私は小さく一つ深呼吸する。

(よし、頑張れ!ここからが勝負なんだから。)

「では、私が私を10倍の値段で買います。500万ルークでいかがですか?」
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