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閑話2 ディーンの戸惑い
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「ディーン、実はコールリッジ家から、令嬢との婚約の打診が来ているのだが・・・。」
遠慮がちに父が聞いてきたのは、私が8歳の時だった。
「先方の令嬢が、ディーンの事をたいそう気に入ったらしい。お前に異存が無ければこの話を勧めたいのだが・・・。」
父の口調は歯切れが悪い。何故なら、この婚約を断る事は不可能だからだ。
同じ公爵家とはいえ、コールリッジ家は皇帝に意見出来るほどの権力と財力を誇っている。それに比べて我がギャロウェイ家で誇れるのは血筋だけだ。
辺境近くの領では特筆できる産業も、発掘できる資源も無い。やせた土地が多く主要な産物はワインに使うコルクの木ぐらいだ。
「・・・わかりました。話を進めてください。」
私の表情はほとんど変わらなかったと思う。感情を表に出さないように、常にそう心がけているのだから。
そうでなければ、口さがない事を平気で言う、貴族社会ではやっていけない。
「すまないな・・・。」
父の言葉に私は無言で頷き、部屋を出た。
「コールリッジ家の令嬢か・・・。」
私は一人になって、深く溜息をついた。
アリアナ・コールリッジ公爵令嬢。
彼女と初めて出会ったのは、先日行われたトラヴィス皇太子の誕生日の事だった。私は第2皇子のパーシヴァルとは同じ年で、幼い頃から遊び相手としてよく城に呼んで貰っていた。だから当然、兄であるトラヴィス皇太子にも懇意にして貰っていたのだ。
パーティーでの彼女の印象は強烈だった。
最初見た時は、まるで妖精の様に可愛らしいと思った。だが、すぐそれが間違いである事が分かった。
彼女はパーティーの間中、他の子供達に威張り散らし、使用人達を顎でこき使っていた。挙句の果てに私の前にやってくると、高慢な態度で
「あなた、わたくしをエスコートしなさいっ!。」
そう言って勝手に腕を組み、パーティーが終わるまで離さなかった。
正直あれにはほとほと参った。他の人が近づこうものなら、大声で罵倒し、見かねたパーシヴァルが注意をすると、癇癪を起こした上、大泣きした。
娘に甘いコールリッジ公爵には、娘を虐めたのかと疑われるし、トラヴィス皇太子の誕生日に騒ぎを起こしたと言う事で、とても肩身の狭い思いをした。
父が婚約話を私に勧めにくいのも、そういう理由があっての事だ。
「あのアリアナ嬢と婚約・・・。」
私は何度目かの溜息をついた。
だが、彼女との婚約に全くメリットが無い訳ではない。名門コールリッジ家の姻戚関係になるのは、ギャロウェイ家にきっと益をもたらすだろう。
(私が我慢をすれば良いだけだ・・・。)
そう思って、自分を納得させていた。
(それに彼女も、大人になれば変わるかもしれない。)
アリアナ嬢とはそれから何度か会った。
何度あっても、彼女の態度は最初会った時のままだった。
傲慢な態度、我儘な言動、そしておまけに嫉妬深い・・・。私に近づくものは女性であろうと男性であろうと、さらに動物であろうと許せないようだった。
会う度に私はへとへとに疲れていった。
領同士が離れているのを幸いに、私はなるべく会わないように画策した。
それでもアリアナは何かと理由を見つけては、私をコールリッジ領へ呼び出したり、私が出席するパーティーや茶会にはごり押しで参加してきた。
正直、我慢するのも限界になってきていたのだが、権力差を考えると私には何も出来なかった。
(どうしよう・・・学園に入ったら、5年間同じ場所にいることに・・・。)
この国では、貴族は13歳になったら必ず学園に入学する事になっている。そして私とアリアナは同じ年なのだ。今までは離れた所に住んでいるから、まだ耐えられたのだが・・・。
(私はこれ以上、我慢できるだろうか・・・?。)
年を追うごとに不安がつのっていた。
そして、とうとう恐れていた日がやってきた。アンファエルン学園への入学である。
(学園では、アリアナはきっと1日中べったり離れないのでは・・・。)
うんざりした気分で、入学式にのぞんだのだが、予想に反してアリアナは姿を見せなかった。どうやら学園内にもいないらしい。
(?。)
不思議に思いつつも、ホッとした気分で寮に戻ると、コールリッジ家から速達が届いていた。
(えっ?。アリアナが事故!?)
手紙にはアリアナが学園に来る途中で事故に遭ったと書いてあった。どうやら怪我をしたらしく、学園への入学が遅れるようだ。
(怪我は酷いのだろうか?。)
少し心配だった。だが、良くない考えだとは思いつつ、アリアナに会うのが先延ばしにされた事に私は安堵していた。
遠慮がちに父が聞いてきたのは、私が8歳の時だった。
「先方の令嬢が、ディーンの事をたいそう気に入ったらしい。お前に異存が無ければこの話を勧めたいのだが・・・。」
父の口調は歯切れが悪い。何故なら、この婚約を断る事は不可能だからだ。
同じ公爵家とはいえ、コールリッジ家は皇帝に意見出来るほどの権力と財力を誇っている。それに比べて我がギャロウェイ家で誇れるのは血筋だけだ。
辺境近くの領では特筆できる産業も、発掘できる資源も無い。やせた土地が多く主要な産物はワインに使うコルクの木ぐらいだ。
「・・・わかりました。話を進めてください。」
私の表情はほとんど変わらなかったと思う。感情を表に出さないように、常にそう心がけているのだから。
そうでなければ、口さがない事を平気で言う、貴族社会ではやっていけない。
「すまないな・・・。」
父の言葉に私は無言で頷き、部屋を出た。
「コールリッジ家の令嬢か・・・。」
私は一人になって、深く溜息をついた。
アリアナ・コールリッジ公爵令嬢。
彼女と初めて出会ったのは、先日行われたトラヴィス皇太子の誕生日の事だった。私は第2皇子のパーシヴァルとは同じ年で、幼い頃から遊び相手としてよく城に呼んで貰っていた。だから当然、兄であるトラヴィス皇太子にも懇意にして貰っていたのだ。
パーティーでの彼女の印象は強烈だった。
最初見た時は、まるで妖精の様に可愛らしいと思った。だが、すぐそれが間違いである事が分かった。
彼女はパーティーの間中、他の子供達に威張り散らし、使用人達を顎でこき使っていた。挙句の果てに私の前にやってくると、高慢な態度で
「あなた、わたくしをエスコートしなさいっ!。」
そう言って勝手に腕を組み、パーティーが終わるまで離さなかった。
正直あれにはほとほと参った。他の人が近づこうものなら、大声で罵倒し、見かねたパーシヴァルが注意をすると、癇癪を起こした上、大泣きした。
娘に甘いコールリッジ公爵には、娘を虐めたのかと疑われるし、トラヴィス皇太子の誕生日に騒ぎを起こしたと言う事で、とても肩身の狭い思いをした。
父が婚約話を私に勧めにくいのも、そういう理由があっての事だ。
「あのアリアナ嬢と婚約・・・。」
私は何度目かの溜息をついた。
だが、彼女との婚約に全くメリットが無い訳ではない。名門コールリッジ家の姻戚関係になるのは、ギャロウェイ家にきっと益をもたらすだろう。
(私が我慢をすれば良いだけだ・・・。)
そう思って、自分を納得させていた。
(それに彼女も、大人になれば変わるかもしれない。)
アリアナ嬢とはそれから何度か会った。
何度あっても、彼女の態度は最初会った時のままだった。
傲慢な態度、我儘な言動、そしておまけに嫉妬深い・・・。私に近づくものは女性であろうと男性であろうと、さらに動物であろうと許せないようだった。
会う度に私はへとへとに疲れていった。
領同士が離れているのを幸いに、私はなるべく会わないように画策した。
それでもアリアナは何かと理由を見つけては、私をコールリッジ領へ呼び出したり、私が出席するパーティーや茶会にはごり押しで参加してきた。
正直、我慢するのも限界になってきていたのだが、権力差を考えると私には何も出来なかった。
(どうしよう・・・学園に入ったら、5年間同じ場所にいることに・・・。)
この国では、貴族は13歳になったら必ず学園に入学する事になっている。そして私とアリアナは同じ年なのだ。今までは離れた所に住んでいるから、まだ耐えられたのだが・・・。
(私はこれ以上、我慢できるだろうか・・・?。)
年を追うごとに不安がつのっていた。
そして、とうとう恐れていた日がやってきた。アンファエルン学園への入学である。
(学園では、アリアナはきっと1日中べったり離れないのでは・・・。)
うんざりした気分で、入学式にのぞんだのだが、予想に反してアリアナは姿を見せなかった。どうやら学園内にもいないらしい。
(?。)
不思議に思いつつも、ホッとした気分で寮に戻ると、コールリッジ家から速達が届いていた。
(えっ?。アリアナが事故!?)
手紙にはアリアナが学園に来る途中で事故に遭ったと書いてあった。どうやら怪我をしたらしく、学園への入学が遅れるようだ。
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