モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第6章 悪役令嬢は利用されたくない

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私は、思わずハッとした。

(おっ!?。このセリフって、もしかして・・・!。)

驚いた。

ゲームのトラヴィスのルートで、エメラインがヒロインに向かって言うセリフ、そのままだったのだ。ヒロインも確か、エメラインの拘束魔法によって動けなくされていた時だった。場所は教室では無かったけど・・・。

(おお!凄いじゃん。ヒロインのイベント経験してるよ、私!)

このピンチにそんな事を考えるのは、違う気もするが、どうにもテンションが上がってしまう。ちょっとウキウキしながら、ゲームの流れを思い出していた。

(えーっと確か、このイベントって、ヒロインは確か・・・。)

・・・あ・・・ヤバい。

エメラインは扇で口元を隠すと、再び私を見下ろすと、馬鹿にしたようにフンと息を吐いた。そして、

「貴方達、頼みましたよ。」

「はい、エメライン様。」

すると、取り巻き達が一斉に、私を持ち上げ、運び始める。エメラインが「おほほほほほ」と高笑いを始めた。

(思い出した、このパターンは!)

「貴方には、しばらく反省して頂くわ。」

その言葉の数分後に、私はこの古い寮の空き部屋に、放置されたのだ。





「さむっ。」

5月の夜は、まだまだ寒い。私は自分の身体を抱く様にして、身を縮めた。

「みんな、心配してるだろうな・・・。」

何せ、3時間目から行方不明なのだから。きっと兄のクラークなどは狂いそうになってるだろう。

前回の誘拐事件以来、兄は私に居場所を探知できる、魔法具を持たせてくれていた。けれど、エメラインが部屋に張ったシールドは、その効果を失わせているようだ。

(ゲームの中では、ヒロインとトラヴィスとの好感度が、ある程度上がった場合に、このイベントは発生するのよね。)

エメラインに、この廃寮に閉じ込められたヒロインは、なんとか脱出しようとするが、エメラインのシールドが強すぎて、苦労するのだ。

「そういえば、この時にヒロインは、新しい魔術を覚えるんだった!。」

シールドを解こうとして、ありったけの魔力を使ったヒロインは、力尽きて倒れてしまう。だけど、その時に、全ての魔術を、元の魔力に戻してしまう「 復元」の魔術が使えるようになるのだ。そして、この「 復元」の凄い所は、戻した魔力を、自分の魔力に還元できると言う所にある。この魔術で、ヒロインはほぼ無敵になり、この先のエメラインとのバトルでの勝利に繋がるのだ。

(つまり、エメラインは自分で自分の首を絞めてるってことか。まっそれは置いといて・・・。)

部屋のシールドが、ただの魔力に戻った所で、ヒロインの気配を追っていたトラヴィスが、彼女を見つける。そして、お互いを想う気持ちに気付いた二人が、なんやかんやと告白して、抱き合ったところでイベント終了!となるのだが・・・。


「いや、ムリムリムリ!。無いから、それ。」

魔力ゼロの悪役令嬢に、ヒロインと同じイベントを、ぶっこまないで欲しい。

(この世界って、ほんと無茶ぶり多くない?。イベントさえこなせれば、相手は誰でも良いのか?、全く・・・。)


でも、私は今の状況を、心配はしていなかった。何故なら、エメライン達以外で、私がここに閉じ込められている事を知っている人物が、確実に一人いる事を知っていたからだ。

(早く、助けに来てよね・・・。)

寒いし、正直トイレにも行きたい。

まさか、明日にしようとか思って無いだろうな!?と、心配になった時、部屋全体が一瞬、白く光ったと思うと、パキーンッと何かが弾け飛ぶような音がした。

(やっと来たか・・・。)

私はスカートのホコリを払いながら立ち上がった。そして、部屋の扉が開くギッと言う音と共に、入って来た人物を、じろりと睨んだ。

「おっそいです!。待ちくたびれました。それに、凍えるところでしたよ!。」

「ごっめーん、エメラインに捕まっちゃってさぁ。これでも、急いできたんだからね。」

悪びれもせず、けらけら笑う。そして、

「忙しい身なのよ。勘弁して。」

見事なウィンクを私に向けて、手を差し出してきた。

(・・・ビジュアルだけは最高だな、おい。)

私は溜息をついて。彼の手を取った。古い廃寮の中は、灯りなど無く真っ暗だ。所々壊れている個所もあるから、歩くだけでも危ない。だが、彼がスッと腕をあげると、その手の平に炎が現れ、周辺を照らした。

(こりゃ、便利だわ。)

閉じ込められていた、4階の端の部屋から、手を引いて貰いながら、外へと出た。学園の森の隅にある建物なので、辺りは鬱蒼として気味が悪い。

「そろそろ、この建物も何とかしなくちゃね。」

彼は、少し離れてから、廃寮を見上げた。

「素行の悪い生徒が、たまり場に使ったりしてるのよね。」

しれっと、そんな事を言う。

「そんな危険な場所に、夜まで放ったらかしですか?。もうちょっと早く来てくださいよ。」

どこの世界でも、不良のやる事は変わらない。もし、そいつらに見つかっていたらと思うとゾッとした。

「大丈夫よぉ。エメラインのシールドは、そんな簡単に解けないから。」

私ぐらいのレベルじゃ無いと、と彼はドヤ顔で胸を張る。私はなんだか、がっくりと力が抜ける様な気分に襲われた。

「あの・・・その口調、どうにかなりません?。見た目とギャップがあり過ぎて、脳がバグを起こしそうです。」

「えー!。別に良いじゃない。普段はちゃんとしてるんだから・・・。二人の時ぐらい。」

ねっ、と語尾にハートマークが付きそうな、甘えた調子で言われて、心底げんなりしてしまう。

「気を付けてください。他の人に聞かれたら、殿下の威信に関わります。」

「もう!。二人の時はトラヴィスで良いって言ってるのに。ほんと頭固いんだから。」

と、口を尖らせて、トラヴィス殿下は腰に手を当てた。

(その仕草もどうかと思う・・・。)

私は、額に手を当てて溜息をついた。
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