モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
157 / 284
第6章 悪役令嬢は利用されたくない

34

しおりを挟む
そんな中、額の汗を拭いながらトラヴィスがイーサンの方へ一歩進み出てた。

「イーサン殿。部下達が済まない事をした。代わりに私が謝罪する。申し訳ない。」

皇太子らしい綺麗な所作で頭を下げる。

でも、

(げっ・・・)

トラヴィスの顔を見て、私は砂を吐きそうな気分になった。謝っているくせに彼の頬は上気して赤くなり、目はキラキラと輝いている。『イーサン様最強!素敵!カッコよすぎ!』と言う、心の声が聞こえてきそうだった。

(ねーさんったら『推し』の強さを間近で見たからって、テンション上がりすぎ!)

そんなトラヴィスの様子を全スルーしたイーサンは、あごでエメラインを示しながら、

「女の捕縛を解除する。早くそこの聖女とやらに聖魔術をかけさせろ。」

(な・・・!リリーに対して失礼な)

「わ、私はまだ候補で聖女ではありません、でも精一杯・・・」

「ごたくは良い。早くしろ。」

「は、はい・・・。」

青ざめた顔でリリーはエメラインの傍で腰を下ろし、祈る様に手を組んだ。

(リリー可哀そうに・・・。イーサンが怖いんだね。)

けれど、とりあえずはリリーに浄化を試して貰わなくてはいけない。

硬直していたエメラインの身体だったが、捕縛が解除されたのだろう、今は力が抜けた様にぐったり横たわっている。エメラインの目からはさっきまでの凶暴な光が抜け落ちていて、抵抗する気は無さそうだ。

リリーはそんな彼女に向けて、聖魔術を作動した。エメラインの身体が柔らかく美しい白く輝く光に包まれる。するとエメラインの頭から黒い煙の様な物が立ち上ってきた。

(ノエルの時と同じだ。)

黒い煙はゆらゆらとたなびく。だけど、ノエルの時の様に消えてはいかなかった。

「う、ううう・・・」

エメラインの口から苦し気な声が漏れる。そして突然エメラインの身体を包んでいたリリーの聖魔術の光が、弾け飛ぶようにかき消された。

「ああ!」

リリーが突き飛ばされたように、後ろへ倒れ込む。

「リリー!」

リリーを助け起こすと、彼女の手足は擦り傷だらけになっていた。

「・・・大丈夫です、アリアナ様。」

「大丈夫じゃないです。ごめんなさい。私が頼んだから・・・。」

ここまで強い拒絶反応が出るなんて思ってなかった。どうしよう!リリーに怪我をさせてしまった。
リリーは私を安心させるためか、笑顔を向けてくれているけど、私の方は泣きそうである。

「でもアリアナ様が言った通り、これでエメライン王女が精神魔術下にある事が確認されましたね。しかも王女や私よりも強い魔力で。」

「はい、やっぱり術者は魔力増幅されてるって事ですよね。」

私はトラヴィスの方を見た。彼も難しい顔で頷いた。そして、

「こうなると浄化は難しいな。リリー嬢に魔力増幅を行う手もあるが、どれほどの強さの魔力でかけられたのか分からない上、宝玉レベルで魔力を強める魔道具は今手元に無いのだ・・・。」

「大丈夫です。エメライン王女を救う手はまだあります。」

私はイーサンの方を見た。彼は口の端で笑いながら、

「お前、俺にただ働きをさせるつもりか?。言っとくがその女を助ける義理は、俺には全くない。」

「でも、あんたの闇魔術だったら精神魔術を無効化できるよね?。それとも魔力量に自信ない?」

「煽ったって無駄だ。俺は面倒な事はしない。」

(頑固かよ?こいつ。)

だいたい、面倒と言いながら、私には散々絡んできてるじゃない!?皇太子の暗殺について、わざわざ教えてくれたり、エメライン王女の攻撃から助けてくれたり。


面倒の基準が分からんな。


でも、だとするとイーサンは面倒であっても、トラヴィスと私が死ぬ事は防ぎたいって訳だ。だとしたら・・・、

「エメライン王女の精神魔術が解除されないかぎり、彼女は再度、私を狙う可能性があるよね。それに、もしかしたら、恋情の裏返しでトラヴィス殿下に矛先が変わるかもしれない。出来れば彼女を魔術から解放して、危険の目を摘んできたいのだけど、あなたはどう思う?。」

「へぇ・・・、チビのくせに策士だな、お前は。だったら別に、今すぐこの女を殺してやっても良いんだが?」
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...