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第7章 悪役令嬢は目覚めたくない
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(な、何これ!?・・・そうか、もしかしたら精神魔術の・・・)
どうやら私にかけられた精神魔術も具現化したらしい。
手足に付けられた4本の鎖は一つの方向に向かっている。たどって行くと、少し離れた場所で束ねた鎖を持つ黒い影が揺らめいていた。
(げっ!きも!)
影を見た瞬間、ぞわっと悪寒が走る。そうか、これは・・・
(私を眠らせた精神魔術・・・)
それが具現化した形なのだろう。
気持ち悪さをこらえてジッと見つめると、その影はぐねぐねと蠢きながら、真っ黒い人型に変わった。しかしそれがどんな顔をしているのかは分からない。さらに集中してもその人型に変化は無かった。
(ふんっ。もし顔が見えたら、術師が誰か分かったかもしれないのにな・・・)
だけど奴の手にはの中に何か丸い球の様な物を持っているのが見えた。そして指には二つの指輪がはめられてる。そしてもう片方の手で、私が繋がれている4つの鎖を持っているのだ。
(犬の散歩じゃないっていうの!)
見るだけでムカムカしたが、これ以上動いたり私に何かする事はなさそうだ。
私は黒い人型から視線を逸らし、外を見るスクリーンに向ける。
(座りたいな)
身体を具現化したんだ。ついでに、ソファぐらい作ってもいいだろう。想い描くと、あっけない程簡単に座り心地の良さそうなソファが現れた。
そこに身体を沈めて足を組む。まるで自分専用のシアターみたいだ。
(ふうん、落ち着いてみれば意外と居心地が良いもんだね)
手足に付けられた鎖がじゃらじゃら鳴るのだけが鬱陶しかった。
スクリーンにはアリアナを心配そうに見るクラークの顔が大きく映っていた。
「疲れたかい?少し休んだらどうだい?」
「大丈夫ですわ・・・お兄様に魔力を流して頂きましたもの。だけど、あの子が封じられている以上、わたくしの精神では、魔力の供給無しでは身体を維持できませんの。一刻も早く精神魔術を解術しないと・・・」
落ち着いた口調だけど、思ってた以上にアリアナは疲労している様だ。
(そ、そんなぁ!)
それじゃ、アリアナが・・・。アリアナばっかり貧乏くじじゃないか!
自分の身体を具現化したものの、アリアナの身体に力を流す方法が分からない。しかも何かしようとすると、いちいち鎖がうるさく鳴った。
トラヴィスの顔に初めて気兼ねする様な表情が浮かんだ。
「解術すると、君はまた表に出られなくなるのでは?・・・それでも良いのか?」
「元々、長くは生きられなかった身ですから」
トラヴィスは大きなため息をついた。
「君の中の『彼女』は今どういう状態か分かるのか?」
トラヴィスの問いにアリアナは首を横に振った。
「分かりませんの。外に出ているほうが、分からない事が多い気がしますわ。でも、きっと彼女も私の目を通して今の私達を見ていると思います。ただ・・・精神魔術が彼女にどこまで影響を及ぼしているかは不明ですが」
ざわっと皆の空気が揺れた。
(だ、大丈夫だよ!鎖でつながれてるだけで、結構快適にやってるから!)
こっちの言葉が伝わらないのがもどかしい。
「もう一つ聞きたい。君は・・・彼女に身体を奪われて嫌では無かったのか?」
「嫌?」
トラヴィスの問いに、アリアナはふふっと声を出して笑った。そして、
「わたくし、生きてる事がもう辛くて嫌だったのですわ。でも、あの子の中で幸せでしたの。あの子の目を通して世界を見て、友人達と勉強したり、ピクニックに行ったり、他愛もない話をする事が・・・。私のしたかった事を全て経験させて貰いましたわ。それに、わたくしとあの子の精神が少しずつ溶け合ってるのがわかりますの。もしかしたら命が尽きる頃には、一つの精神になっているのかもしれませんわね」
まるでそれが楽しみだと言う風に、彼女の声音はとても明るかった。
(え・・・)
私は虚を突かれた気分になった。
(アリアナは怖く無いの?自分が・・・自分の意識が人と混じってしまうんだよ?)
私は以前、湧き出た感情が自分のものかアリアナのものか分からなくて、凄く怖い思いをしたのに。
もしかしてそんな事よりも、アリアナの生きてきた時間の方が過酷だったってことだろうか・・・。
「あまり時間はありませんわ。そろそろ本題に入りましょう。あの子を封じた術師ですが、残念ながら私は見てませんの。何しろ突然の事でしたから・・・。だけど、殿下には何か策があるのではなくて?」
アリアナがそう言ってトラヴィスを促した。
「策という程では無いが、確認したい事は色々ある。・・・それが解決に繋がればいいがね」
そう言って何故かパーシヴァルの方を向いた。
「パーシヴァル、頼む」
(ん?、なんでパーシヴァル?)
「はい、兄上」
パーシヴァルはいつもの人好きする顔でヘラリと笑うと、
「僕が得意なのは人間観察がだからね。悪いけど、ここに来てからの皆の様子を見させてもらった」
そう言って片目をつぶった。
どうやら私にかけられた精神魔術も具現化したらしい。
手足に付けられた4本の鎖は一つの方向に向かっている。たどって行くと、少し離れた場所で束ねた鎖を持つ黒い影が揺らめいていた。
(げっ!きも!)
影を見た瞬間、ぞわっと悪寒が走る。そうか、これは・・・
(私を眠らせた精神魔術・・・)
それが具現化した形なのだろう。
気持ち悪さをこらえてジッと見つめると、その影はぐねぐねと蠢きながら、真っ黒い人型に変わった。しかしそれがどんな顔をしているのかは分からない。さらに集中してもその人型に変化は無かった。
(ふんっ。もし顔が見えたら、術師が誰か分かったかもしれないのにな・・・)
だけど奴の手にはの中に何か丸い球の様な物を持っているのが見えた。そして指には二つの指輪がはめられてる。そしてもう片方の手で、私が繋がれている4つの鎖を持っているのだ。
(犬の散歩じゃないっていうの!)
見るだけでムカムカしたが、これ以上動いたり私に何かする事はなさそうだ。
私は黒い人型から視線を逸らし、外を見るスクリーンに向ける。
(座りたいな)
身体を具現化したんだ。ついでに、ソファぐらい作ってもいいだろう。想い描くと、あっけない程簡単に座り心地の良さそうなソファが現れた。
そこに身体を沈めて足を組む。まるで自分専用のシアターみたいだ。
(ふうん、落ち着いてみれば意外と居心地が良いもんだね)
手足に付けられた鎖がじゃらじゃら鳴るのだけが鬱陶しかった。
スクリーンにはアリアナを心配そうに見るクラークの顔が大きく映っていた。
「疲れたかい?少し休んだらどうだい?」
「大丈夫ですわ・・・お兄様に魔力を流して頂きましたもの。だけど、あの子が封じられている以上、わたくしの精神では、魔力の供給無しでは身体を維持できませんの。一刻も早く精神魔術を解術しないと・・・」
落ち着いた口調だけど、思ってた以上にアリアナは疲労している様だ。
(そ、そんなぁ!)
それじゃ、アリアナが・・・。アリアナばっかり貧乏くじじゃないか!
自分の身体を具現化したものの、アリアナの身体に力を流す方法が分からない。しかも何かしようとすると、いちいち鎖がうるさく鳴った。
トラヴィスの顔に初めて気兼ねする様な表情が浮かんだ。
「解術すると、君はまた表に出られなくなるのでは?・・・それでも良いのか?」
「元々、長くは生きられなかった身ですから」
トラヴィスは大きなため息をついた。
「君の中の『彼女』は今どういう状態か分かるのか?」
トラヴィスの問いにアリアナは首を横に振った。
「分かりませんの。外に出ているほうが、分からない事が多い気がしますわ。でも、きっと彼女も私の目を通して今の私達を見ていると思います。ただ・・・精神魔術が彼女にどこまで影響を及ぼしているかは不明ですが」
ざわっと皆の空気が揺れた。
(だ、大丈夫だよ!鎖でつながれてるだけで、結構快適にやってるから!)
こっちの言葉が伝わらないのがもどかしい。
「もう一つ聞きたい。君は・・・彼女に身体を奪われて嫌では無かったのか?」
「嫌?」
トラヴィスの問いに、アリアナはふふっと声を出して笑った。そして、
「わたくし、生きてる事がもう辛くて嫌だったのですわ。でも、あの子の中で幸せでしたの。あの子の目を通して世界を見て、友人達と勉強したり、ピクニックに行ったり、他愛もない話をする事が・・・。私のしたかった事を全て経験させて貰いましたわ。それに、わたくしとあの子の精神が少しずつ溶け合ってるのがわかりますの。もしかしたら命が尽きる頃には、一つの精神になっているのかもしれませんわね」
まるでそれが楽しみだと言う風に、彼女の声音はとても明るかった。
(え・・・)
私は虚を突かれた気分になった。
(アリアナは怖く無いの?自分が・・・自分の意識が人と混じってしまうんだよ?)
私は以前、湧き出た感情が自分のものかアリアナのものか分からなくて、凄く怖い思いをしたのに。
もしかしてそんな事よりも、アリアナの生きてきた時間の方が過酷だったってことだろうか・・・。
「あまり時間はありませんわ。そろそろ本題に入りましょう。あの子を封じた術師ですが、残念ながら私は見てませんの。何しろ突然の事でしたから・・・。だけど、殿下には何か策があるのではなくて?」
アリアナがそう言ってトラヴィスを促した。
「策という程では無いが、確認したい事は色々ある。・・・それが解決に繋がればいいがね」
そう言って何故かパーシヴァルの方を向いた。
「パーシヴァル、頼む」
(ん?、なんでパーシヴァル?)
「はい、兄上」
パーシヴァルはいつもの人好きする顔でヘラリと笑うと、
「僕が得意なのは人間観察がだからね。悪いけど、ここに来てからの皆の様子を見させてもらった」
そう言って片目をつぶった。
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